目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
煉(→)(←)主のような構図があるので、ご注意ください。
「今のところ異常はありませんね。」
「うむ!このまま何事もなく一夜が過ぎると良いのだが!」
「そうですね。このまま穏やかな夜であってほしいです。」
時は夕刻。
日々の鍛錬を終え、私は煉獄さんと一緒に、炎柱の警備担当地区を巡回していた。
今はまだ夜も更けておらず、警備担当地区にある町は、多くの人が行き交っている。
「いつか余裕ができたら、町を歩いて回りたいです。私はこちらの方の町にあまり詳しくないので、どのような店があるのか知っておけば、いつか炭治郎や禰豆子に、新しい着物とかも買ってあげられるし、お腹いっぱいにご飯も食べさせてあげられるので。」
「そうか!竈門少年と竈門少女のためにか!ならば、その時は俺が案内してあげよう!警備担当地区ゆえ、町のことはある程度把握している!」
「本当ですか?ありがとうございます。じゃあ、その時はお言葉に甘えさせていただきますね。」
「うむ!いくらでも頼ってくれて大丈夫だ!」
そんな人々を眺めながら、ポツリと呟いた少しの願望。忙しい中で、平和ではないこの世界で、そんな暇があるわけないことは知っているけど、やっぱりこれだけ賑わっている町にいると、どうしてもちょっと考えてしまう。
すると、煉獄さんから、いつか余裕ができたら共に町を案内すると告げられた。
年甲斐もなく……いや、本当はこれが正しいのだろうか?その言葉に、胸が弾む。
いつになるかはわからないけど、その時は案内してもらおう。そう思って笑顔を返せば、頭を優しく撫でられた。
「そうだ!ちょうどいい機会だ!少しだけ優緋に言いたいことがある!」
「言いたいこと?」
優しくて大きな落ち着く手……心地良いそれを受け止めていると、言いたいことがあると告げられる。
「上手く言葉にするのは難しいが、あまり俺を頼ろうとしない印象を抱いてしまう。一人で何かを抱え込み、悩んで、思い詰め……周りにいる俺や、他の者たちをその目に移さず、ただ、ひたすら一人で前を走り続けていると感じてしまうことがある。何を抱えているのかまではわからない。だが、それは触れてほしくない一線だということもなんとなくだがわかる。ゆえに無理に話せとも言わない。だが、一人で抱え込み過ぎるのは良くない!そのままでは、いつかその重荷に押し潰されてしまうぞ!君はまだ若い。二十歳にもなっていない少女なんだ。周りの大人を、せめて、俺だけでもいいから頼ってはくれないだろうか?せめて、俺の前だけでも構わないから、肩の力を抜いてくれ。」
「!」
何かやらかしてしまったのだろうか……と少しだけ不安になった。しかし、実際に告げられた言葉は、何かをやらかしてしまったがゆえの注意ではなく、私を心配する声だった。
思わず目を見開く。まさか、そんな指摘をされるとは思わなかった。ちゃんと隠していたはずなのに……。
「……どうして、私が何かを抱えてると思ったんですか?」
素朴な疑問。ある意味で肯定していることになるであろう問いかけを、目の前の剣士に返す。
いつものように、笑えてないかもしれないけど、真っ直ぐと彼を見据えながら。
「なんとなくだ!」
「…………は?」
しかし、その疑問はまさかの形で霧散することとなった。
え?何?この人、なんとなくで私が何か抱えてるって思ったわけ?
「な、なんとなく……?」
ウソだろ……と引きつった笑みが出てしまう。
つまり、ただの勘からの発言……?
「俺は優緋や竈門少年のように、匂いで感情を読み取ることも、黄色い少年のように、音で感情を読み取ることもできない!だが!人という生き物は、わずかな感情の変化で表情や体運びに違いが出てくることがある!この三ヶ月間君と過ごしてきたからな!それくらいはなんとなく程度で感じ取ることはできるぞ!君は時に年に不相応と感じてしまうほど違う雰囲気を纏い、どこか上の空になっていることがあるからな!なんとなく察してしまったんだ!」
堂々と胸を張り、わずかな雰囲気の違いと勘で、私が何かを抱えており、それを一人で背負おうとしていることに気がついたことを肯定する煉獄さんに対し、ポカンと間抜けな表情をしてしまう。
しかし、じわじわと何かが内側から湧き上がってきて、それが出ないように口を押さえて抑制する。
でも、湧き上がってくるそれは止まってくれる様子はなく、程なくして口から溢れ出した。
「あっははは!!なんですかそれ!!」
何かもっと決定的なものがあったのかと思ったけど、なんとなくの勘で言い当てられるとは思わなかった。
いや、なんとなくの勘だけじゃないか。感情のわずかな変化とも言っていたし。
顔に出さない自信はあったんだけど、どうやら、煉獄さんには……柱にはわかってしまうくらいには、変化があったのか。
まだまだだなぁ、私も。もうちょっと上手く隠さないと、いつか大きなボロを出してしまいそうだ。
そんなことを考えながらも、私は未だにおさまらない笑い声を、おさめようとする。
しばらくは落ち着かないかもしれないけど。
明るい声音と明るい表情、無邪気という言葉が当てはまるような、眩い笑顔を見せる優緋。
その表情を見た煉獄は、目を丸くして固まった。
それは初めて見る表情だった。
いつもの優緋が見せるものは、穏やかに、緩やかに、微笑むような、そんな笑いばかりだった。
自身の弟と妹に対しても、慈愛に満ちた優しい笑みを向け、甘やかしている姿ばかりを見せていただけだったため、思わず見惚れてしまったのである。
「はぁ……久々にこんなに笑った。」
煉獄が目をパチクリとしてる中、笑いがおさまったらしい優緋がぽつりと呟く。そして、煉獄の方へと目を向けて、キョトンとした表情を見せた。
「煉獄さん?どうかれました?」
どうやら、煉獄が無言になっていたことが気になったようだ。コテンと首を傾げる優緋の姿に、彼はすぐにハッとする。
「いや、なんでもない!ただ、優緋が珍しく花が咲いたように笑ったからな!少しだけ見惚れてしまっただけだ!」
「……え?」
「ん?………!」
互いに顔が赤くなる。何かしらの意図があったわけではないことを口にしたいが、恥ずかしさからか、黙り込んでしまう。
「…………えーっと……」
「…………。」
どことなく気まずい空気になり、どうするべきか考える二人。だが、気の利いた言葉が口から出ることはなく、無言の時間だけが流れていく。
周りからなにやらほっこりと見守られているような気もしたため、無言になった二人は、そそくさとその場から足早に立ち去る。
「その……だな……。」
「…………。」
─────……一体どうしたら……?
内心で同じような呟きをして、再び無言になる。まるで、言葉を全て忘れてしまったかのように、口にしたい言葉が出てこない。
「………あの、煉獄さん。」
「なんだ。」
長めの静寂。しかし、それはようやく破られることになった。
煉獄から指摘されたこと、それに対しての答えを口にしないとと、一時的に停止していた思考をなんとか動かし、優緋は静かに言葉を紡ぐ。
「……心配してくれてありがとうございます。確かに、私はいろいろと抱えているし、煉獄さんや、多くの人に対して隠し事もしてます。」
「そうか。話してくれるだろうか?」
「……すみません。心の準備ができてません。そもそも、明かしていいことなのかどうかもわからない。」
先程熱も落ち着き、ようやく言葉を紡いだ優緋は、懸念するように眉を顰め、自身が抱えているものは、やすやす明かしてもいいものかわからないことを告げる。
それ程までに深刻なものであるならば、なおさら話してほしいところだが、彼女の様子から、今はまだ明かすつもりがないことだけは理解できる。
それなら自分はどうするべきか……煉獄は、思案するように腕を組んだ。
「でも……」
「?」
だが、彼の思案はすぐに霧散する。再び小さく、しかし、しっかりとした声音で、自身の気持ちを口にしたのだ。
「いつか、押し潰されそうになった時……その時は、きっと煉獄さんに声をかけます。しばらくは自分で背負っていくつもりですが……。だから、その時は……どうか、甘えさせてくださいね。」
穏やかな笑みを浮かべながら、しかし、どこか苦笑いしているような、そんな笑みを浮かべながら言葉を紡いだ優緋。
煉獄はその笑みを見つめたあと、力強く頷く。
「君がそう言うのであれば、頑張れるところまで頑張ってみるといい!だが、先程も言ったように、君は一人じゃないんだ。周りには俺も、君の兄妹も、柱だっている!確かに、まだ、君に思うところがある柱はいるだろう。だが、君の実力はすでに周りに認められている!他の柱もきっと助けてくれるはずだ!だから、安心してその時は頼るといい。」
自信満々に胸を張り、ハッキリとそう告げる煉獄。
優緋は、その言葉に再び明るい笑顔を見せた。どことなくスッキリしたような、眩いばかりのその笑顔は、まるで、向日葵の花のようだった。