目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
炎柱邸出発からしばらくした頃。
私は今、宇髄さんと一緒に蝶屋敷への道を歩いている。
「宇髄さん。」
「なんだ?」
「これ、蝶屋敷への道のりですよね?何かしに行くんですか?」
もしや、原作の通り、蝶屋敷の女の子たちを巻き込むつもりなんだろうか……と考える。
そりゃあまぁ、私だけ連れて行って調査がうまく行くとは限らないし、手札は多いに越したことはないけど、原作と違って、止める役がいないんだよな……。
私が止めればいいんだろうけど、なんて言って止めたらいい?
隊士じゃない子は巻き込まない方がいいってシンプルに言えばいいのか?
「竈門……じゃあ竈門妹と竈門兄も反応するかもしれねぇな……。優緋って呼んで構わないか?」
「え?ああ、はい。構いませんよ。」
「うっし。じゃあこれからは優緋って呼ぶとして……。さっきの質問だが、優緋が強いのは知ってる。派手に噂話が回ってるからな。それに、お前に助けられた一般隊士も、どれだけ派手にすごいやつかってのをよく話してることがあるんだ。だから、お前の実力は認めてるし、仮に柱の誰かが死んだら、次はお前が柱になるだろうとも思ってる。それだけ実力があるからな。鬼を連れてなかったら、派手に取り合いが起こっていただろうよ。」
「は……はは……それは喜んでいいのか悪いのか……」
「まぁ、今はそんなのどうでもいいな……。優緋の実力は確かなもんだ。だから、潜入捜査をしてもらいたかったんだよ。遊郭に潜入してる俺の嫁たちを探しながら、鬼も探ってもらいたかった。だが、煉獄から派手に警告されちまったからな。もし、お前を遊郭に遊女見習いとして潜入させたなんてバレたら、どうなるかわかったもんじゃない。地味に殺気飛ばしてきやがったし……」
「おっふ……」
「だから、お前の代わりになる潜入捜査役を蝶屋敷から連れて行く。そのために向かってんだ。」
「なるほど……よくわかりました……。」
まさかの事実に苦笑いをしたくなる。煉獄さんからしたピリピリした匂いは、宇髄さんに向けられた殺気の匂いだったんだな……。
それなら確かに、潜入役が必要だわ……。
まぁ、だからと言って、アオイちゃんたちを巻き込むつもりはないんだけど……。
「よし、ついたな。ちょっと待ってろ。」
なんて考えていると、宇髄さんが一人で蝶屋敷の中へと行ってしまった。言葉かける前に行っちゃったな……なんて考えてながら、蝶屋敷の塀に背中を預けて待つ。
物語通りならば、カナヲとかに邪魔されると思うんだけど……。
「離してください!!私っ……この子はっ……!!」
「ひぃいいぃ……!」
「うるせぇな黙っとけ。」
「やめてくださぁい!!」
「はなしてください〜〜!!」
「カッカナヲ!!」
……やっぱりそうなりますよねー…………。
ここは原作通りなんだな……と思いながら、蝶屋敷の敷地内へと目を向ける。
そこには、アオイとなほを抱えている人攫いにしか見えない宇髄さんの姿があった。
背後にはきよ、すみ、カナヲの三人がおり、きよとすみの二人は、宇髄さんに抗議するように叫んでる。
しかし、宇髄さんは、そんな二人の抗議など気にしていないようで、そのまま歩いている。
「カナヲ!」
「カナヲさま─────っ」
さながらドラマのワンシーンのようだ……なんて呑気なことを考えながら、その様子を見つめていると、カナヲが宇髄さんの方へと走り寄り、なほの衣服とアオイの手を握りしめる。
「カナヲ……」
「「カナヲさま……」」
軽く泣いているのか、女の子たちの声が震えている。それに比例するかのように、カナヲはなほとアオイを引っ張るように、後ろの方へと体重をかけている。
「地味に引っ張るんじゃねぇよ。お前はさっき指令がきてるだろうが。」
「………。」
「……何とか言えっての!!地味な奴だな!!」
「キャ─────ッ」
「とっ突撃─────!!」
「突撃─────!!」
「ちょっ…てめーら!!いい加減にしやがれ!!」
「んっふ……!!」
思わず吹き出してしまう。原作でもこのシーンは面白かったけど、それが動くと余計に笑えてしまう。
だって向こうじゃ無限列車の話まではアニメ化……まぁ、正確には無限列車編は映画だったけど。とにかく、映像作品になったのはここまでだ。
まぁ、私は観に行けなかったんだけど。観に行こうとしてたら、竈門優緋になっていたわけだし。
二期のアニメがあったらここも映像になっていたんだろうな……。それも結局観れなかったが。でも、当事者の一人として、ここに立ち会えたわけだからちょっと嬉しかった。
喜んでる暇もないんだけどな。だって、これから遊郭編に進むんだし。気を引き締めないとダメだ。
「宇髄さん。何か女の子たちに絡まれてますね。」
「優緋……てめー笑ってないで何とかしろ……」
おっと。どうやら笑っていたことがバレちゃったみたいだ。ジト目で睨まれた。
「すみません。あまりにもおもしろ……じゃなくて、微笑ましかったのでつい。」
「おい、地味に面白いって言いかけただろ。」
「優緋さん─────っ笑ってないで助けてください!!」
「人攫いです!!人攫いが出たんです!!」
宇髄さんからはツッコまれ、きよとすみの二人からは、人攫いが出たから助けてくれと懇願される。
再び漏れそうになった笑い声。でも、何とかそれは堪えて、宇髄さんに近寄る。
「アオイたちを離してあげてください。これからつく任務に、女手が必要なのはわかりますが、無理矢理は良くないですよ。」
「仕方ねーだろ。継子は柱の許可いるから連れて行けねぇんだよ。胡蝶に行き先言ってみろ。俺がボコられるだろ。お前の場合は条件付きで煉獄に許可もらえたけどな。」
さっさと行くぞと踵を返す宇髄さん。アオイとなほから助けてくれと懇願するような目を向けられた。
やれやれ、と軽く肩を竦める。私の交渉で何とかなるといいけど。
「まぁ待ってください。小脇に抱えてるなほは鬼殺隊の隊員じゃないですよ。隊服、着てないでしょう?」
「あん?」
とりあえず、まずは簡単に交渉できそうななほの名前を出す。隊服を着ていない……その指摘を聞いた宇髄さんは、一度なほに視線を落とし、しばらく彼女を見つめる。
そして、そっと地面に下ろし始めた。隊服を着てないことがわかったから、力にならないと判断したんだろう。
さて……最後にアオイだが……。
「優緋。行くぞ。対して役に立ちそうもねぇが、こっちの方はこんなんでも一応隊員だしな。」
なほを解放した宇髄さんから、再び出発の声をかけられる。このままじゃ、アオイが連れて行かれそうだな。どう対処するべきだ?
確か、アオイは怖いっていう単純な理由から、前線に出れない子だったはず……。まぁ、とんでもない力を持った化け物と戦うわけだから、当然の理由だよな。
うーん……どうやって説得するか………あ……。
「……待ってください、宇髄さん。」
「今度は何だよ。こっちは時間押してんだぞ。」
「いや……しのぶさんにアオイがあそこに行ったとバレたらまずいのでは……と思いまして。ほら、鬼殺隊の隊員はみんな鎹鴉を連れてますし、彼女の鎹鴉が、しのぶさんに告げ口をしたとしたら?口封じとして彼女の鎹鴉を買収できたとしても、共に動く主が怪我をしたり、危篤状態に陥った場合とかは報告義務がありますし、あとあとバレて、ボコられたら……宇髄さんでも無事では済まなさそうなんですけど。だってしのぶさんの家族ですよ?彼女。」
「……………。」
思案して出てきた言葉を口にすれば、宇髄さんが無言になり、肩に担いでるアオイに目を向ける。
宇髄さんから何かに葛藤してる匂いがした。多分、女手が必要な任務だから連れて行きたいって感情と、黙って連れて行ったことが鎹鴉を通じてバレ、その後に訪れるであろう展開を避けたい感情の狭間にあるんだろう。
これなら、何とか説得できそうだな。ちょうど、善逸と伊之助の匂いも近づいてきてるし。
「そこで提案なんですが……ちょうど帰還した鬼狩りが二名いますし、彼らを連れて行くというのはどうでしょう?私と、彼らの二人なら、怒られることもないと思いますけど。」
首を傾げながら言葉を口にすると同時に、二人の鬼殺隊が姿を現す。善逸と伊之助の二人組だ。
「何かよくわかんねーが、俺は力が有り余ってるぜ!任務ならついて行ってやってもいいぞ!」
「俺は伊之助みたいに体力有り余ってるかと言われたら微妙なところだけど!!ゆ、ゆゆゆ、優緋ちゃんが行くならつ、ついて行くから!!」
「…………。」
現れた善逸と伊之助の二人に、宇髄さんが軽く殺気にも似た思い気配をぶつける。
それを食らった善逸は涙目になりながら、伊之助は威嚇するように身構える。
「……仕方ねぇ。その提案に乗るとするか。胡蝶と一悶着すんのは、避けたいんでね。」
しばしの沈黙。しかし、すぐにそれは破られ、宇髄さんはアオイを地面に下ろす。
「じゃあ行くぞ、優緋。そこの二人も、俺に逆らうんじゃねぇぞ。」
「わかりました。」
「俺……選択間違えてないよね……?」
「やってやろうじゃねーか!!」
何とか、アオイたちを巻き込む展開だけは避けることができたな……と軽く安堵しながら、蝶屋敷から離れて行く宇髄さんの背中を追う。
そういや……原作では炭治郎たち女装させられてたけど、これ……どんな展開になるんだ……?