目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
あれから真菰は、毎日山の中にやってくる私の前に現れては、私の問題点となっている無駄な動きと悪い癖について真摯に教えてくれた。
それをどうすれば改善できるかも。
錆兎とは大違いだな、なんて軽く愚痴ったら、彼女は小さく笑っては、彼は鱗滝さんによく似てるからと呟いた。
それにより彼女との会話を繋げることができると思った私は、鱗滝さんと知り合いなんだと呟く。
まぁ、錆兎と真菰のことをいろいろ知ってるから、本来ならば問いかける必要はないと思ってはいたけど、話題を続けるためならば知ってることも取り上げる。
鱗滝さんと知り合いなんだという私の言葉について、真菰は笑顔を見せた。
私たちはみんな、鱗滝さんが大好きだから……ただそれだけを静かに紡いで。
真菰はいろいろ話してくれた。
自身と錆兎の関係や、自分たちと鱗滝さんの関係を。
錆兎と真菰はどちらも孤児だったこと。
そこを鱗滝さんが拾ってくれたこと。
孤児だった自分たちを、鱗滝さんが育ててくれたことなどを。
まぁ、自身の出生や真摯に対応してくれる理由やら、原作通り話してはくれなかったけど。
「子供たちは他にもまだいるんだよ。いつも優緋を見守ってる。あ、中には優緋が好きだって言ってる子もいたよ。緊張して話せなくなりそうだから、遠くから見るだけで我慢してるんだって。」
「……真菰。それは普通、本人に伝えたら駄目なことだと思うんだが?」
「大丈夫。話せないから代わりに伝えてほしいって言われたから。」
「……そうなのか。」
……ここにいる子供たちがなんなのか知ってる身としては苦笑いをしたくなった。
魂だけになってしまっている子供たちの中にいる異性に好かれるってどんな状況だ。
まぁ、別にいいけどさ。
……原作通り、真菰はどこかふわふわしている子だ。
まるで空を揺蕩う白雲のよう。
あーあ……生きてる君と話したかったよ。
性格はかなり真逆だけど、仲良くなれたかもしれないのに。
「どうしたの?」
「んー? ああ、ちょっとした考え事だよ。気にしないで。」
そんなもしもは存在しなかった。
IFの世界なら、ひょっとしたらと思っていたけど、結局二人の命は、あの手鬼に奪われてしまっていた。
まぁ……二人がここに還ってきていたから、私は水の呼吸の型を完成しつつあるんだけど……でも、やっぱり複雑だ。
けど、そんな感情は悟られないようにしながら、考え事をしていただけだと不思議そうに私を見つめてくる真菰の頭を優しく撫でた。
真菰はビックリしたように目を丸くしていたけど、すぐに気持ち良さげに笑みを浮かべて撫で受けてくれた。
少しだけ妹みを感じたのは言うまでもない。
……あれから私は、自身の体力作りや、ヒノカミ神楽の練度上げ、水の呼吸の練度上げなどを繰り返し行なっていた。
それと同時進行するように、錆兎との一日二回の手合わせもして、彼と互角かそれ以下という結果を残しながら。
「やっぱり錆兎強っ……」
「当然だ。」
おそらく狐面の下ではドヤさといった効果音がつきそうなくらいのドヤ顔をしているんだろうな……と思いたくなるようなこの反応は、かなり印象的だったな。
私の性格が関係してるのか、錆兎とは男子中学生や男子高校生のノリのいい男友達で、ちょっとした好敵手になりつつある。
まぁ、私が月のものでダウンした翌日に会いにいくと、彼はオロオロしていたけどね。
狐面の隙間から少し見えていた錆兎の赤面姿は、きっと忘れることはないと思う。
……いろいろなことがあった半年。
狭霧山にきて二年経った今日。
そろそろ課題をクリアしようと判断した私は、日課となっている錆兎との手合わせのために、あの岩がある場所に向かった。
そこにいた錆兎は、普段とは違う雰囲気を纏っており、異常なまでの存在感を放っていた。
「よ、錆兎。今日こそは決着つけようよ。」
「ああ。俺もそのつもりで来た。……あれから半年間……隙もだいぶ無くなったんじゃないか?」
「だとしたら嬉しいね。今日こそは勝てるかも。」
「言ってろ。今回は、俺も本気だからな。本気で優緋に斬りかかる。男だの女だの関係ない。一人の剣士として、本気でお前を負かしに向かう。」
「普段からかなりの技量で攻めてくんのに、あれで本気じゃないとか勘弁してよ……。まぁ、私も本気でやるけどさ。」
互いに何気ない会話を行い、一定の距離を取るように離れて、互いに鞘から刀を引き抜く。
本気のやりあい。
本気の試合。
負けたら最後、大怪我は免れない一勝。
本気の真っ向勝負は至って単純だ。
より強く、より速い方が勝者となる。
勝負は一瞬。
たった一回の振り下ろしで決まる。
「………………。」
「………………。」
互いに真剣を構えて、無言で相手の出方を伺う。
そして、同時に地面を踏み込んでは、私と錆兎は真剣を振り下ろした。
刃の切っ先を喰らったのは……錆兎がつけていた狐の面だった。
「………。」
「………。」
はらりと錆兎の狐面が割れ、彼の隠された素顔を晒す。
彼が表情に浮かべていたのは、穏やかな安堵の笑みと、どことなく強い落胆だった。
原作では錆兎が表情に浮かべていたのは、泣きそうで、だけど嬉しげな、安心したような笑顔だったはずなんだけど……って……。
「よく見たら錆兎!! おまっ私のこと本気で斬ろうとしてないか!? それそのまま振り下ろすと確実に袈裟斬りになるよな!?」
「はは。バレたか。……少しだけ惜しいと思ったんだ。お前がいなくなることが……。」
「怖っ!! なんで殺す気満々なんだよ怖っ!!」
「さぁ、なんでだろうな?」
意味深に笑ってる錆兎に対して引きつった笑みを浮かべる。
これもまたここに存在している魂に好かれた代償だったのかもしれない。
「優緋。」
「?」
錆兎の行動に恐怖を感じてドン引きしていると、真菰から穏やかな声音で名前を呼ばれる。
振り向いてみれば彼女は穏やかな笑みを浮かべて私を見つめていた。
「勝ってね、優緋。
「大丈夫だ。お前ならきっと、
真菰と錆兎の声が辺りに響き、二人の姿が濃霧に覆われる。
濃霧がわずかに薄れた時、二人の姿は消えていた。
「あ……。」
不意に、手元の違和感を覚えた私は、視線をそちらへと向ける。
そこには、岩を真っ二つに斬り壊している、私の刀が存在していた。