目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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111.日輪の炎は堕ちた妖艶なる姫君を待つ

 屋根を飛び移りながらの移動を済ませ、『ときと屋』の屋根の上に座り込む。

 鯉夏さんの居場所は既に把握済み。だって、彼女が客を迎えに行く時、花魁道中を近くで眺めることができる場所に陣取って、匂いをしっかりと覚えておいたからね。

 彼女はとても優しい匂いがした。この花街で生活している誰よりも優しい、落ち着くような匂いだった。

 いろんな人が行き交う場所だから、嗅ぎ分けるのに苦労したよ。まぁ、見つけることができたわけだし、そこはもうどうでもいいか。

 

「日が暮れ始めたな。となると、そろそろ堕姫ちゃんがやって来る頃かな?」

 

 まぁ、だからと言って、すぐに鯉夏さんの部屋に入るつもりはないけどね。だって、鯉夏さんの前に堕姫ちゃんが現れる前に部屋に入ったら、堕姫ちゃんに気づかれちゃいそうだし、何より、炭治郎とは違って、私は鯉夏さんに会ってないから、何て声をかけたらいいのやら。

 あなたを助けにやって来ましたとか言うの?うわ、想像しただけで寒気がした。

 それはイケメンでイケボな王子様系男子の特権だっての。私が口にすべき言葉じゃない。

 

 そんなことを考えながら、私は『ときと屋』の屋根の上で静かに目を閉じて耳を塞ぐ。

 視覚と聴覚をシャットダウンして、嗅覚だけに集中する為に。

 すると、『京極屋』の方からこちらに近づいて来ている匂いが一つあった。甘いけど、どこか刺激の強い匂いが混ざってるこの匂いは、間違いなく堕姫ちゃんのものだ。

 鯉夏さんの部屋に来るまで、あと3分……2分……1分…………今!

 

 鯉夏さんの部屋に現れた気配。同時に鯉夏さんに襲いかかる血鬼術。それが鯉夏さんに触れる前に、私は鯉夏さんの部屋に、窓から侵入し、同時に彼女に伸びていた帯を、日輪刀で斬り裂いた。

 

「な!?」

 

「え……!?」

 

 斬り裂かれた帯がひらひらと舞い落ちる中、刀を手にしたまま私は、堕姫ちゃんと鯉夏さんの間に立ち、鬼の中ではかなり綺麗で、可愛らしい姿をしているお姫様へと目を向ける。

 うん、鬼の匂いのせいであまりいい印象は抱けないけど、それを抜きにしたら、本当に羨ましいほどの美人だな。妓夫太郎さんが誇りに思う気持ちもよくわかる。

 まぁ、対する妓夫太郎さんも、とても妹思いで優しくて、堕姫ちゃん……いや、梅ちゃんにとって誇らしいお兄さんなんだけどね。

 もし、あんな悲劇に見舞われることなく、もっとマシな人と出会えていたのなら……きっと、別の幸せも掴めただろうに。

 

 鬼滅の刃の中では、被害者側と言っでも過言じゃない人生を歩んできた堕姫ちゃんと、堕姫ちゃんの側にいる優しいお兄さんである妓夫太郎さんに対して、少しだけ複雑な思いを胸に抱く。

 別の出会い方があったなら、仲良くなれたかも知れないのに。

 

「鬼殺隊隊士、ただいま参上ってね。食事の邪魔をして悪いとは思うが、こっちも仕事でね。悪いが、諦めてもらおうか?」

 

 そんなことを思いながら、私は鯉夏さんを襲撃した堕姫ちゃんの前に立ち塞がる。背後からは驚きと安堵の匂いがする。前方からは驚きと殺意、それと歓喜に近い匂いがする。

 

「鬼狩りの子……他にも来てたのね。そう。何人いるの?一人は黄色い頭の醜いガキでしょう。柱は来てる?もうすぐ来る?アンタは柱じゃないみたいだけど、随分強いみたいね。柱にはわずかに及ばないか、柱と同等といったところね。それに、綺麗じゃない。いいわねぇ。美しくて強い……私の糧にぴったりよ。私ね?汚い年寄りと不細工は食べない主義なの。だってまずいから。」

 

「貴女のような綺麗な姿をした鬼のお眼鏡にかなったようで何よりですってね。まぁ、食べられる気もないんだけど。……って言うか、見た目でも結構味の違いってあるんだ……。」

 

「ふぅん?それなりに礼儀を弁えてるじゃない。ますます好感が持てるわ。気分がいいから教えてあげる。不細工を喰わないのは私の主義よ。だって、不細工なんか喰ったら、私まで不細工になりそうだし。年寄りは確かにまずいわね。肉も骨も干からびているから醜悪で汚い。だから喰わないの。わかったかしら?」

 

「……まぁ、私は鬼じゃないから、共感が持てるかどうかと言われたら難しいところだけど、感覚的にはなんとなく。」

 

 ちゃっかり堕姫ちゃんと話しちゃったよやったね……じゃないって。何か平然と話してるけど、彼女からの殺気はかなり感じ取れる。念のために天王寺には指で宇髄さんたちを探し出し次第連れてくるように指示を出しておいたけど……。

 ……さて……彼らが来るまで、どれくらい持久戦で耐えることができるかな……。

 多分、今の私なら、彼女の頚を斬ることくらいはできると思うんだけど、彼女、それだけじゃ死なないからなぁ……。だって妓夫太郎さんいるし。

 頚を早めに斬り落としたところで、妓夫太郎さんが出てきて、二対一という不利な状況に陥るだけ。

 特に、妓夫太郎さんが使う血鬼術……あれは死に至る猛毒の鎌だったはずだし、自在に動かせる代物だ。

 一対一なら何とかなるだろうけど、二対一となると、流石の私でも分が悪い。

 “透き通る世界”を使えば何とかなるか?と一瞬考えるけど、すぐにNOと言う答えが頭を過ぎる。

 なんせ、まだ私のあれは不完全だ。前よりかは維持できるけど、体力は相変わらずごっそり持っていかれてしまう。

 持久戦となれば、なるべく温存しないといけない。宇髄さんが合流した時にフルで使う方が、被害も最小限に抑えることができるはずだしね。

 

 ─────……となると、やっぱり堕姫ちゃんの頚はまだ狙わない方が良さそうだな。

 

 炭治郎と禰豆子も一緒に戦闘に導入することも考えたけど、これは切り札にしといた方がいい。

 いくら半分私のせいで血の匂いに耐性を持っていようとも、無惨の血を多く得ている彼女らと対峙させて暴走しないとは限らないしな。

 それに、禰豆子の血鬼術は、もしもの時の保険として取っておきたい。

 いくら私と宇髄さんが二人で妓夫太郎さんたちと対峙し、私がサポートに回るとしても、自在に動く血鎌を全て防ぐことができるとは思えない。

 もう少し私が力をつけることができたなら、全部防ぐことができたかもしれないけど、残念ながら、炎の呼吸を使っても、日の呼吸を使っても、今のレベルじゃ難しいんだよなぁ……。

 だから、いざと言う時の回復として、禰豆子の力は取っておきたい。

 

 次に炭治郎だけど……この子の場合は、まだ上弦相手に立ち回れる状態じゃない。いや、だいぶ立ち回れるようにはなってると思うけど、それでもまだ不安定だ。

 もし、堕姫ちゃんの頚を斬って、妓夫太郎さんが姿を見せて、二対二に縺れ込むことができたとしても、拮抗ののち、こっちが不利になる可能性の方が高い。

 善逸と伊之助の二人と一緒に、堕姫ちゃんと戦うなら、戦況はかなり変わると思うけど。

 

 ─────……結局出てくる答えは一緒か。

 

 今私がやるべきことは、少しでも被害を最小限に抑えながら、宇髄さんたちの到着を持つことのみ。

 ……煉獄さんにも言われちゃったしね。一人で何もかもやろうとするなって。

 だから……その指示に従うとしようか。

 

 

 

 




 半分私のせいで血の匂いに耐性がある……の理由は、柱合会議のお話に概要があります。

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