目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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113.原作にはない行動を

 堕姫ちゃんと対峙して、あれからどれくらいの時間が経ったのかわからない。

 怪しまれないように頚を狙いつつも、放たれる血鬼術による帯の斬撃をいなし、刀の刃こぼれにも気をつけながら戦う中、不意に、遠くの方から何かが爆発する音が聞こえてきた。

 

「喧しいわね塵虫が。何の音よ。何してるの?どこ?荻本屋の方ね。それに雛鶴……。アンタたち、何人で来たの?四人?」

 

 その音に気づいたらしい堕姫ちゃんが、不機嫌な声音で質問をしてくる。

 大人しく教えてくれたら、痛みを感じないよう楽にしてやると言いたいのだろうか?少しばかり息が詰まる殺気と、鋭い視線を向けながら、こちらの返答を待っている。

 

「言わないって言ったらどうするの?」

 

「正直に言った方が楽になれる、とだけ言っておくわ。弱い奴や不細工なら、命だけは(・・・・)助けてやったけど、強くて綺麗なアンタを、私は逃すつもりないから。でも、そうね。教えてくれたら痛い思いをするような喰い方はしないであげる。痛みを感じながら死にたくはないでしょう?」

 

「ふぅん?それは魅力的なお誘いではあるけど、遠慮しておこうかな。ほら、仲間を売っても売らなくても、私は殺される運命しか存在していないみたいだし。だったら、痛みを感じようとも、仲間を裏切ることはしない方法を選ぶよ。」

 

「そう。物分かりがいいと思っていたけど、結局は馬鹿の仲間ってことね。あっちでもこっちでもガタガタし始めたし、癪に障るからお前を殺す。ああ、でもそのあと全部喰ってあげるから、何の心配もする必要ないわよ。にしても、せっかく、痛がらないようにしてあげようとしたのに、その機会を逃すなんて、残念なことをするわね、アンタ。」

 

「残念かどうかは私が決める。」

 

 それならと、私は堕姫ちゃんが望んでいない言葉を返す。こちらの言葉を聞いて、彼女の殺気が膨れ上がったのは気のせいではないだろう。

 だけどそんなの関係ない。鬼殺隊と鬼が巡り合ったのなら、やることはただ一つ。

 互いに殺すか殺されるかの生存競争をするのみだ。

 

 ……放たれる鋭い帯の斬撃。かなりのスピードがあるそれは、私を切り刻まんと襲い来る。

 とはいえ、私の目にはその動きがハッキリ見えているからね。喰らうことはまずない。

 それはそれとして、だ。

 

 この戦闘……どれだけ持久戦を続けたらいいのだろうか。本来ならば、堕姫ちゃんの頚を真っ先に斬り飛ばすのが先決だ。しかし、彼女……というよりは、上弦の陸か。

 この鬼は、そこら辺を彷徨いている鬼とは違い、二人で一つの鬼となっている。

 その為、目の前にいる堕姫ちゃんの頚を斬ったところで、その命を奪うことができない。

 むしろ、二人で一つの上弦の陸が、本来の形に戻ってしまい、上弦二体VS.まだ体力も力も理想に沿っていない未熟な鬼狩りの図となり、私が命を落としてしまう可能性が大いに出てきてしまう。

 

 炭治郎が本来いるべき場所にいる以上、原作の物語を引っ掻き回すことはしても、命を落としてしまうという展開だけは、何としても避けなくてはならない。

 日の呼吸と、透き通る世界を使えば、対処することができるかもしれないけど、長続きはしないだろう。

 

 ─────……どうやってここを切り抜ける?

 

 帯の攻撃をいなし、ダメージを負わないようにして戦いながら考える。

 もう少し力をつけておけば、ここまで悩むことはないのだが、今更後悔したところで、時が止まってくれるはずもなく、徐々に体力は削られていく。

 

 ─────…… それなら、これからは思い切って行動を起こしてごらん。君も知らない物語が始まったのだから、もう悩む必要はない。自分のやりたいように動いても、きっとバチは当たらないはずだから。

 

 ─────…… もし、宇髄が探している鬼が上弦であったなら、その時は必ず宇髄の力を頼るんだ!君一人で背負うことだけはするな!

 

 不意に、脳裏に過ぎったお館様と煉獄さんの言葉。刹那的ではあるけど、どこか長く感じる断片に、私は目を丸くする。

 

 “日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹”

 

 同時に、すぐそこまで近づいていた帯の斬撃を躱したのち、本気と手加減の狭間に当たる実力で堕姫ちゃんの頚へと斬撃を放つ。

 

「疲れてきたの?かなり遅くなってるわよ。欠伸が出るわ。」

 

 それに気づいた堕姫ちゃんから放たれる攻撃。すぐにそれを刀で防いだ私は、空中で受け身を取り、地面へと着地する。

 

「…………。」

 

 お館様の、これからは思い切って、自分の判断に従ってみたらどうかという言葉と、煉獄さんから言われた一人では抱えず、同行している宇髄さんの力を頼れという言葉が脳裏を占める中、私は、少しだけ思案する。

 

 一応、どうやって切り抜けるべきかの答えは出た。頼れる二人の大人の言葉が教えてくれた。

 でも、本当にこれであっているのかわからない。もし、間違っていたら?この行動が、新たな被害を出す引き金となってしまったら?それにより、死ななくていい人が死んでしまったら?

 あらゆる不安要素がぐるぐる回り、次の行動に移れない。

 

 この間も堕姫ちゃんが攻撃の手を緩めてくれるはずもなく、すぐに距離を詰められて、一撃一撃が重い攻撃を仕掛けてくる。

 それをなんとか防ぎ切るが、このままではきっと押し負けるだろう。

 

「カァァア!!」

 

「「!?」」

 

 あと一歩が踏み出せず、防戦一方になる中で、辺りに響くはカラスの鳴き声。

 それにより一瞬、堕姫ちゃんの攻撃が緩み、抜け出す隙がその場にできる。

 急いで日輪刀を振りかざし、堕姫ちゃんの帯を斬り裂けば、彼女はこちらから距離を取るように後方へと飛び退いた。

 

「天王寺!?」

 

「優緋!!オ前ハ何ヲ考エテイル!!」

 

「いだ!?」

 

 それを見計らい、頭上で鳴き声を発したカラス……私の鎹鴉である天王寺に声をかけると、思い切り頭を嘴で突かれた。

 あまりの痛みに声を漏らすと、木箱の中から威嚇するような声が聞こえてくる。

 

「ココニイルノハオ前ダケジャナイ!!『力』ガアル人間ガ他ニモイル!!クダラナイコトナンザ考エテイナイデ、ソイツノ『力』ヲ頼レバイイダロ!!ドウスルベキカ、スデニワカッテルンダッタラサッサト行動ヲ取レ!!頼レル奴ノ『力』ヲ借リロ!!」

 

「…………わかった……!!」

 

 私の頭をつついた天王寺に怒ってる炭治郎たちの声。それを木箱を軽く叩くことで制した私は、天王寺の言葉に頷く。

 ……全くもって彼の言う通りだ。答えが出ているのであれば、自分の思う方向へと足を運こんで、私の物語を紡げばいい。

 もし、それにより軌道がまずい方向へと傾いたのであれば、軌道を修正すればいい。

 悩むことなんてなかった。思うようにしてしまっていいんだ。

 

 これはもう炭治郎の物語じゃない。私と言うイレギュラーの物語。

 それなら……もう、好きにしてしまえばいいじゃないか。

 

「天王寺!!虹丸の位置と、彼の位置はわかるか!?わかるならそこに案内してくれ!!どうせ他に鬼殺隊がいることはもうバレてるんだ!!だったら、総動員して鬼を叩く!!」

 

「カァァア!!任セロ!!

 

 天王寺の激昂を聞き、先程までの不安を振り払う。もちろん、この選択が正しいかどうかなんてわからない。

 だけど、鬼滅の刃という漫画の主人公として描かれていた炭治郎だって、どんな未来が訪れるのかなんてわからないままに走り続けた。

 私は読者だったから、彼の物語の行く末を知っていた。彼が辿る出会いと別れを知っていた。

 でも、本来ならばどんな未来が訪れるかなんて、人生を辿る中でわかるはずがない。

 

 どうして根本的なところを忘れていたのだろうかと、思わず嘲笑してしまう。

 本来ならこれが当たり前なんだ。どんな未来が待ち受けているのかなんてわからないまま、未来を辿るしかない。

 

 時には目の前に現れた選択肢に悩み、どれか一つの道を選んで行くのが人間だ。

 もちろん、その選択により、犠牲になるものだって出てくるし、後悔することだってたくさんある。

 それでも先に進むというのが、人生を歩み生きるというものだ。

 

 ─────……この選択をして、被害が増大する可能性は確かにある。でも、いい方向へと転ぶ可能性だってある。

 

 もし、失敗してしまいそうだったら……

 

 ─────……その時は、()()()()()()()()()()

 

 だって私には、()()()()()いっ()()()()()()()()()!!

 

 

 


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