目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

114 / 117
114.合流、音柱!

 堕姫ちゃんの追撃に対応しながら、私は先程いた場所から離れていく。こちらを殺すと言ってきた分、彼女が私を追うことをやめないことは間違いないだろうから、なんとかなるとは思う。

 ただ、しばらくの間持久戦に持ち込んでいた分、多少なりともこちらの体力は削られてしまっている。

 なんとか、宇髄さんの元まで移動しなくては……そう思いながら、遊郭の道を走り抜ける。

 

「ああもう!!ちょこまかちょこまかと!!どこまで逃げても無駄だって言ってんでしょ!?さっさと諦めたらどうなの!?」

 

「残念ながら、私は諦めが悪くてね。悪足掻きはいくらでもできる質なんだ。こっちが諦めるのを諦めてくれ。」

 

「この!!ムカつくわねぇ!!」

 

「はは、ムカつくとは結構なことで。そのまま苛立ちで動きにキレがなくなってくれると助かるからどんどんイラついてくれ。その方が楽だから。」

 

 軽口を叩きながら攻撃をいなしながらの移動を続ける。正直、結構疲れてきているんだが、苛立ちのまま注意散漫になってくれた方が、宇髄さんたちに近づいてることがバレなくて済むんだよな。

 それなら、いくらでも軽口を叩きながら、多少煽りながら、さっさと合流させてもらうとしよう。

 

 ─────……宇髄さんとの距離は、かなり近づいている。遊郭特有の香や、夜遊びを楽しんでいる人々、他にも、血の匂いだったり、酒の匂いとかが混ざっていたせいで、少なからず鼻が利き難かったんだが、中心部から離れたからか、かなり薄れてきた。同時に宇髄さんと善逸、それと伊之助の匂いが近くなってきているし、わかりやすくなっている。

 

 これなら、もう少ししたら合流できるかもしれない……天王寺の位置を確認しつつ考える。それにより足元が掬われるなんてことにはならないように、堕姫ちゃんの攻撃には注意して。

 

 

 

     ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽

 

 

 ─────……なんなのこいつ?さっきから防戦一方じゃない。でも、何、この感じ。アタシ相手に、本気を出していない?

 

 たまに空にいる鴉を気にしながら、自身の帯による攻撃をいなしつつ、遊郭の中央の方から離れていく鬼狩りの姿を見て、堕姫は懸念の表情をする。

 最初は、防戦ばかりになっていたため、疲労が溜まっているのかと思っていた。

 だが、あれからどれくらい時間が経っても、目の前にいる赤みがかった髪と瞳を持つ見目のいい鬼狩りは、膝をつくこともなければ、息切れを起こすこともない。

 どちらかと言うと……いや、どちらかと言えば……などという表現は、当てはまらない。

 なぜならその鬼狩りは、明らかにまだまだ体力に余裕を持たせている。飛ぶのに疲れてよろめく羽虫と言う表現はできず、むしろ、余所見をしている時があるというのに、全く隙を感じさせないのだ。

 

 ─────……一般隊士じゃないことは接触した時点で気づいていた。明らかに目の前の鬼狩りは、そんじょそこらの鬼狩りとは違うもの。それこそ、アタシが狙っている柱にも匹敵するほどの力を持っている。

 

 “だからこそ早く始末して、自身の糧としたいのに……!!”長引く状況に、堕姫は苛立ちを見せる。

 だが、目の前で余裕釈然としている鬼狩りは、何かを企むような笑みを浮かべたまま、向き合って戦うことをせず、繰り出される鬼の攻撃をいなしては、そのままどこかへ走り続けている。

 

 ─────……何がしたいのよこの鬼狩りは!!

 

「いい加減大人しくしろッッッ!!」

 

 自身の胸にふつふつと湧き上がる怒りに任せて、これまで放ってきたものとは比べ物にならない力で帯を振るう。

 

「おっと。」

 

 鬼狩りはすぐにそれをいなすために刀を振るったが、わずかながらに堕姫の力の方が上回ったのか、鋭利な帯が、その体を傷つけた。先程まで全くなかった損傷。だが、今の鬼狩りには複数の裂傷があり、そこから赤が飛び散り、背負っている木箱の肩紐も、片方が綺麗に切断されている。

 ようやく感じることができた手応え。堕姫は口元に笑みを浮かべる。

 

「あら、どうしたの?さっきまで怪我なんてなかったのに、複数の切り傷ができてるじゃない。痛いでしょう?わずかな切り傷でも、人間ってすぐに痛みを感じるって聞いたわよ。」

 

 パタリパタリと地面に赤いシミが生まれる。出血量からして、かなり深めに切り傷ができたようだ。

 

「こっちはまだまだ余力があるわ。だから、すぐにでも切り刻んであげることだってできるのよ。でも、柱でもない鬼狩りがここまで粘れたご褒美として、最後にもう一度だけ選ばせてあげる。痛みを感じることなく死ぬか、細かく切断される痛みを感じながら死ぬか。どっちみち死ぬんだから、楽な方がいいでしょ?ねぇ?」

 

 先程とは打って変わり、不敵な笑みを浮かべながら、鬼狩りに話しかける堕姫。彼女に話しかけられた鬼狩りは、自身の足元に生まれる赤いシミや、ピリピリとした裂傷の痛みを無言で見つめる。

 ついさっきまで、無傷で戦えていたのに。余裕そうな姿で言葉を紡いでいたのに。今の鬼狩りは、ひたすらに無言だった。

 

「ほら、言いなさい。楽に死にたいですって。痛みを感じないようにしてくださいって。私が知ってる情報は全て話すので、苦しませないでくださいって。最期だもの。それくらいのお願いは聞いてあげてもいいわよ。」

 

 それを恐怖や絶望からのものだと考えた堕姫は、哀れな人間を救い出す存在のように、優しく、しかし、高慢さを隠すことなく、鬼狩りへと話しかける。

 これでようやく、邪魔なものはいなくなり、自身はさらなる力を身につけることができると笑いながら。

 

「………やれやれ。やっぱり、上弦相手に一人で挑んだら、無傷の勝利なんて取れないか。まぁ、予想できたから、別に驚くほどじゃないけど、ね。できることなら、上弦の下の方の鬼を一人で滅殺することができるくらいの力が欲しかったんだけど……高望みし過ぎるなって戒めだったりすんのかね。」

 

 だが、次の瞬間、堕姫は体を突き抜けるような寒気に襲われた。恐怖や絶望から顔を歪めるかと思っていたのに。命乞いをすると思っていたのに。目の前の鬼狩りは、表情を歪めるどころか、口元に笑みを浮かべながら、赤い瞳を堕姫に真っ直ぐと向けてきたのだ。

 

 ─────……何で笑ってるの?何で平然としてるの?確かにアタシの攻撃は当たっていたのよ?痛みだってあるはずでしょ!?

 

 この状況下でありながらも、笑みを絶やすことなく浮かべる鬼狩りの姿に、堕姫は思わず固まってしまう。

 なぜ平然と過ごすことができるのか……なぜ、この状況下で怯える様子を見せないのか……薄寒いものを感じ、すかさず堕姫は背後へと飛び退いた。

 同時に彼女がいた場所には、一閃の軌跡がギラリと光る。

 

「……合流できたから斬ろうと思ったんだけど、ちょっと遅かったか。逃げられちゃった。」

 

 それを見た鬼狩りがポツリと呟くように言葉を紡ぎ、残念と口にする。

 同時に、鬼狩りのすぐ側には、音もなく誰かが着地した。

 

 

     ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽

 

 

「よう、優緋。よく粘ったな。」

 

 離れてしまった堕姫ちゃんを見て、残念残念と思っていると聞き慣れた声が鼓膜を揺らす。静かに声がする方へと目を向ければ、結われている銀色の髪がサラサラと揺らす、大きな背中が視界に入った。

 

「まぁ、見ての通り、無傷とまでは行かなかったし、頚も斬れなかったんですけどね。」

 

「馬鹿か、お前は。そもそもがこれまでがおかしかったんだよ。何で鬼殺隊に入って一年も経ってないひよっこが無傷で下弦とか潰してんだ。本来なら今の状態が普通だっつーの。まぁ、だが、軽口聞けるくらいにゃ、まだ元気があるみたいだな。頚が斬れなかったのなら、また狙えばいい。っつーことで、援護しろよ。煉獄と一緒にいた時もそうしてたんだろ?」

 

「ええ、まぁ、そうですね。煉獄さんと一緒に上弦の参相手に立ち回っていた時も援護に回ってました。煉獄さんみたいな威力が出せるような剣士ではないので。」

 

「あれと同じような立ち回りや威力を女が出せるわけないだろ。男の俺だってキツいんだからよ。」

 

「それもそうですね。比べたら駄目な対象でした。」

 

「まぁ、だからと言って、俺だって派手に負けちゃいねーがな。」

 

「張り合うんかい。」

 

 その背中は紛れもなく宇髄さんのものだった。私を背にして立ち上がる姿に、奥さんが三人もいる人はやっぱり違うな、カッコいいなんてくだらないことを考えながらも、現れた彼と言葉を交わす。

 

「……そう。アンタの狙いはこれだったわけ?柱と合流するつもりだったのね。逆に案内してくれて助かったわ。これでまた、あの方に褒めて戴けるもの!!」

 

 ガタガタと揺れたりカリカリと言った音が聞こえたり、唸るような声が聞こえたりする鬼弟妹を隠した木箱をその場に下ろしながら、宇髄さんと軽口を叩いていると、どことなく喜びやら苛立ちやらが含まれている声が聞こえてきた。

 嗅覚で感じ取ることができたのは、喉の奥が痺れてしまいそうなほどの禍々しい匂い。なるほど。どうやら、向こうの形態変化が起こったようだ。

 

「まぁ、鬼狩りと鬼が接触したら当たり前のことではあるけど、あちらはこっちを殺す気のようで。」

 

「そりゃそうだろ。まぁ、俺らも、派手に滅殺するわけだが。立てるな、優緋?」

 

「もちろん。足手纏いにだけはならないようにしますよ。」

 

「はは。こんだけ相手に粘ったんだ。見た感じ、そこそこ深い切り傷になってるみたいだが、重症って程のもんでもないな。軽口も叩けるくらいにゃ、体力にも余裕があるみたいだし、その様子なら十分いける。だが、女が顔にそう易々と傷を作るもんじゃねーぞ?」

 

「あはは。気をつけます。」

 

「そうしろ。女にとって、顔は大事なものの一つなんだからよ。まぁ、そうだな、顔についたその傷が残ったりしたんなら、いつでも来ていいぜ。一人増えるくらい、問題はないしな。」

 

「それ、傷跡が残っちゃったらお嫁さんにしてくれるってことですか?」

 

「ああ。ここに連れてきた俺の責任だからな。それくらいの責任取りくらいするってもんよ。」

 

「なるほど。まぁ、頭の片隅くらいには入れておきますね。傷跡が残らないように、ちゃんと治療もしますけど。」

 

「なんか地味に俺がフラれた感じに聞こえるんだが気のせいか?」

 

 ちょっとだけ不満そうな宇髄さんの声と、その感情を示すわずかな匂いに小さく笑う。

 だって、少しだけ面白かったからね。

 

「……炭治郎。禰豆子。確かに姉ちゃん、ちょっと怪我しちゃってるけど、大丈夫。大怪我ってわけじゃないからさ。だから、今はまだ動くな。きっと、動かなきゃならない時が、来るだろうからな。お叱りなら、あとでちゃんと受けるよ。」

 

 しかし、すぐに頭を切り替えて、私は宇髄さんの隣に並び、堕姫ちゃんのことを見据える。

 

「あの鬼は……どうやら、そこまで強くはない……か。外れだな。」

 

「でも、なんか匂い的に禍々しい何かがありますけど。」

 

「なら、攻撃してみればわかんだろ。行くぞ。さっさと済ませる。」

 

「……わかりました。まぁ、何かあっても、宇髄さんがいるなら頼もしいですよね。」

 

「あったりめーよ。俺を誰だと思ってんだ。」

 

「お祭り大好きな祭の神様。そして、頼もしい力を持ち合わせている音柱様でしたね。」

 

「よくわかってんじゃねーか。」

 

 頼もしい笑みを浮かべる宇髄さんの隣に並び、堕姫ちゃんから目を話すことなく日輪刀を構える。

 さて、宇髄さんと合流したわけだし、サクッと次のラウンドへと行きますかね。

 

 

 




 補足
 宇髄さんなら堕姫の頚を優緋と合流した時点で斬れて、妓夫太郎が出てくるのでは?と思っている方がいらっしゃると思うので、少しばかり補足します。
 この時、優緋が頚を狙っていたため、原作のようにそこまで距離が離れておらず、攻撃できなかった感じです。
 優緋が武器を振ったタイミングは、宇髄さんが合流する直前だったので、彼は武器を振れなかった……みたいな。
 ただ、堕姫ちゃん第二形態、次で即斬されると思います……汗

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。