目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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12.“最終選別”への旅立ち

 錆兎に私の刀が早く届いた理由。

 それは、原作の炭治郎と同じく“隙の糸”がわかるようになったからだ。

 

 誰かと戦っている時、私が匂いに気づくことができれば糸がわかるようになる。

 糸は私の刃から、相手の隙に繋がっており、見えた瞬間ピンと張って、私を刃ごと強く引き寄せる。

 その勢いに乗せて、適した呼吸の型を叩き込めば、隙に斬り込み、勝ちを得ることができる。

 

 ……漫画やアニメを観て、そんなのあるはずないだろう……現実じゃ絶対に不可能だ。

 やっぱり二次元の世界はいろいろすごいな……なんて考えていたことがあったけど、この世界ではそれが、結構当たり前のようにある。

 本当に私はこの世界の住人になってしまったんだな、って、ちょっとだけ物思いにふけた。

 

「お前なら果たすと思っていた。鬼を狩るために生まれたかのような、凄まじい才覚を持ち合わせていたからな。だが、心のどこかでは果たさないでくれと思っていた。もう、子供が死ぬのを見たくなかったために。だから、この一年間、ずっと岩を斬った様子がなく、儂の家に戻ってきては、穏やかに過ごすお前の姿に安心していた自分もいた。……が、やはりお前は果たしてしまうのだな。」

 

 しかし、その意識は不意に聞こえてきた鱗滝さんの声により、引き戻されることとなった。

 声の方を向いてみると、彼はゆっくりと歩いてきている。

 

「……やはり、才覚に恵まれた子供というものは、その才覚の果てに得る結果を、その手に納めてしまうのだな。……よく頑張った、優緋。お前はすごい子だ。“最終選別”……必ず生きて戻れ。儂も弟たちも、此処でお前を待っている。」

 

 私の目の前まで歩み寄ってきた鱗滝さんが、どことなく寂しげで悲しげで、しかし、少しの安堵と期待を込めた声音で話しかけてきた。

 

「……最初からそのつもりです。だって炭治郎と禰豆子にはもう私だけですからね。あの子たちを置いて、逝ってしまった家族のもとになんて逝けません。だから必ず戻ってきますよ。大切な弟妹たちのためにも。もちろん、鱗滝さんのためにも。」

 

 そんな鱗滝さんに必ず戻るという約束を静かな声音で取り付ける。

 大切な弟妹のためにも、剣士として育ててくれた鱗滝さんのためにも、霧の中で私に水の呼吸の助言をくれた錆兎や真菰たちのためにも。

 

 鱗滝さんは小さく頷いては自宅の方へと帰宅する。

 私も彼に続くかたちで鱗滝さんの自宅に戻った。

 

 ……あれから、鱗滝さんは美味しい鍋をご馳走してくれた。

 課題をこなし、明日、最終選別に向かう私に対する祝いと、体力づくりのためらしい。

 あまりにも美味しくて、何度もお代わりをした。

 お腹がいっぱいになるくらい。

 

 いずれは炭治郎と禰豆子の二人とも一緒に食べたいと呟いたら、二人が今抱えている問題が落ち着いたら、その時は一緒に食べようと言ってくれた。

 

 鍋をお腹いっぱいに食べた私は、この二年間、ずっと伸ばしっぱなしだった髪を切った。

 あまりにも長すぎると、行動に支障が出ると思ったから。

 でも、ある程度の長さは残しておいた。

 常に持ち歩いている髪紐で、高い位置で髪を結って、女版緑壱さんの完成だ……なんて、軽く遊ぶためにも。

 まぁ、ちょっとだけ無惨に対する嫌がらせも含めているけどな。

 

 緑壱さんの耳飾りを、炭治郎ではなく私が受け継いでいたから、ちょうどいいと思ったんだ。

 トラウマを再発するくらいには、嫌がらせをしないと気が済まない。

 その絶望に飲まれているうちに、あのイケメン鬼をぶっ飛ばす。

 

 ……まぁ、それはそれとして、少しくらいは話せないかな、なんて思ったりもしてるけど。

 

 髪を切りそろえ、髪紐で髪を結い終えると、鱗滝さんがお面をくれた。

 厄除の面……悪いことから身を守ってくれるという、あの狐のお面だ。

 額には太陽のようなイラストが描かれている。

 

 鱗滝さんに日輪の絵について聞いてみたら、私の額にある痣を元にしたそうだ。

 何で痣?って思って慌てて額を見てみると、確かにそこにはうっすらと痣が浮かんでいた。

 そう言えば、なぜか私は炭十郎……父さんと同じで、額に薄い痣があった。

 生まれつきだったのか、次第に浮かぶようになったのかはわからない。

 でも、わかることもある。

 

 やっぱり、私は日の呼吸の後継者なんだ。

 先祖代々からヒノカミ神楽として存在していた、始まりの呼吸を使える子供。

 それなら水の呼吸の習得に時間がかかるのも頷ける。

 

 ……いずれは、もっと色濃く痣を出せるようにしよう。

 せめて無限列車編……煉獄さんが命を落としてしまうあの話を、ないものと変えるためにも。

 

 お面の日輪の秘密を理解した私は、鱗滝さんに感謝を述べながら、渡された厄除の面を受け取った。

 

 

 

 ……翌日。

 とうとう私は藤襲山へと足を運ぶ。

 鬼殺隊になるために、最終選別を乗り越えるために。

 

「では、炭治郎と禰豆子をお願いします。」

 

「ああ。」

 

 鱗滝さんからもらった厄除の面を頭に乗せて、鱗滝さんが昔使っていたという青の刀身の日輪刀を腰に携える。

 鱗滝さんが作ってくれたらしい、彼と同じ羽織を羽織って、家から外に出た。

 

「行ってきます、鱗滝さん。」

 

「……必ず戻ってくるんだぞ。」

 

「もちろん。では、私はこれで。」

 

 炭治郎のように、錆兎と真菰によろしくなんて言葉は使わない。

 あの子たちの真実は、読者だった私もよく知っているから。

 

「………行ってくるよ、錆兎。真菰。二人が教えてくれたこと、しっかりと使って勝ってくるから。最終選別が終わった時にでも、また会いに行くよ。」

 

 その代わり自分自身で二人に行ってくるという言葉を紡ぐ。

 鱗滝さんには聞こえないように、小さな声で呟くように。

 

『行ってらっしゃい、優緋。』

 

『待ってるぞ、お前のことを。』

 

 風に乗って、二人の声が聞こえたような気がした。

 でも、狭霧山に目を向けてみても、二人の姿は見当たらない。

 だけど、背中を押すような力強い言葉ではあったから、私は小さく笑みを浮かべて、少しだけ狭霧山を見つめたあと、背を向けて向かうべき場所へと走り出した。

 

 

 

 


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