目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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14.手鬼との邂逅。優緋の怒り。

 狭霧山の中にある真っ二つに破壊された岩……優緋が修行の末、課題のクリア条件として壊した岩の側に、二つの人影がある。

 

 片方は花柄の着物を着ている少女。

 片方は狐の面で顔を隠している少年。

 

 優緋に水の呼吸の訓練をつけていた二人組、錆兎と真菰だ。

 

「錆兎。」

 

 静寂が辺りに降りる中、真菰が静かに言葉を紡ぐ。

 二つに斬られた、岩の上に座る錆兎を見上げて。

 

「優緋、勝てるかな?」

 

 問いかけられた言葉に、錆兎は空を見上げながら無言になる。

 脳裏に描くのは赤い瞳をしており、赤みがかった長い髪を揺らしながら、不敵な笑みを浮かべて真剣を構えていた優緋の姿。

 

 他にも、手合わせをしていない間、一人力強く神楽を舞っていた彼女の姿や、水の呼吸を身につけるために、何度も型と呼吸を行っていた彼女の真剣な様子を浮かべる。

 

「……そうだな。優緋なら勝てる。あいつは、俺なんかよりもずっと強かった。羨ましくなるくらいの力を持ち合わせていたのだから。」

 

 狐面の下で静かに笑みを浮かべた錆兎は、自信満々に優緋なら勝てると断言する。

 自分よりも力を身につけていた、羨ましくなるほどの才を持ち合わせている彼女ならば、自分たちがなしえなかったことをやり遂げる……そう信じれたのだ。

 

「……もし、今も俺たちが生きていたら……優緋と一緒に、実力をもっと高めることができたかもしれないな。」

 

「……うん、そうだね。きっと、私たちはもっと強くなれていた。」

 

「ああ。本当に惜しいな。死んだ身であるのが。」

 

「生きていたら、優緋を振り向かせることも、できたかもしれないから?」

 

「………。」

 

「錆兎……すっごく不服そうにするのやめてよ。」

 

「……一番それが惜しいと思った自分に少し呆れたんだよ。」

 

 霧が深い山の中に、少年少女の静かな会話がこだまする。

 それを耳にできた者は、誰一人としていないけど。

 

 

 

 ……藤襲山

 

「狐娘。今は、明治何年だ?」

 

 対峙することになった巨大な異形、手鬼。

 しばらくニタニタと笑っていたかと思えば、手鬼は静かに問いかけてきた。

 

「明治? あんた何言ってんだ? 今はもう大正だけど?」

 

 私はすぐに質問に答える。

 明治なんて時代は、とうの前に去りましたよっと。

 

「大正……?」

 

 私の返答を聞いた手鬼が、小さく呟くように私の言葉を繰り返す。

 そうだと静かに頷けば、手鬼は少しだけ固まった。

 

 しかし、すぐにワナワナと震え始めては、複数ある手に力拳を作る。

 

「アァアアア!! 年号がァ!! 年号が変わっている!! まただ!! また!! 俺がこんな所に閉じ込められている間に!! アァアアァ!! 許さん!! 許さんんん!! 鱗滝め!! 鱗滝め!! 鱗滝め!! 鱗滝めぇええ!!」

 

 あ、これくるな……と妙に察してしまいながらも、私は手鬼を見つめていた。

 思った通り、手鬼はその場で発狂しては、自身の腕を掻き毟り、恨み言のように鱗滝さんの名前を連呼する。

 

「鱗滝さんを知ってんのか、あんた。」

 

「知ってるさァ!! 俺を捕まえたのは鱗滝だからなァ!!」

 

 まぁ、理由は知ってるけど、なんて思いながらも、手鬼に鱗滝さんを知っているのかと問い掛ければ、手鬼は食いつくように言い返してきた。

 

「忘れもしない!! 四十七年前!! アイツがまだ鬼狩りをしていた頃だ!! 江戸時代…慶応の頃だった!!」

 

 殺意と憎しみの匂いが強くなる。

 腐ったような匂いと合わさって吐き気がしそうだ。

 

「嘘だ!! そんなに長く生きてる鬼はここにはいないはずだ!! ここには!! 人間を二、三人喰った鬼しか入れてないんだ!! 選別で斬られるのと!! 鬼は共喰いをするから!! それで…!!」

 

「でも俺はずっと生き残ってる。藤の花の牢獄で、五十人は喰ったなぁ、ガキ共を。」

 

 未だにここにいる剣士の少年が長い年月、この牢獄の中で生きている鬼はいないと言った。

 だけど手鬼は言い返す。

 俺は確かに生きていると。

 五十人は子供を喰らい、今もなおここにいると。

 

 手鬼の言葉を聞き、私は脳裏に髪を切りそろえていた際に聞いた話を思い浮かべた。

 

『優緋。覚えておけ。基本的に鬼の強さは人を喰った数だ。』

 

『人を喰った数……? つまり、たくさん喰べれば喰べるほど、鬼はその力を強くすると……?』

 

『そうだ。力は増し、肉体を変化させ、妖しき術を使う者も出てくる。お前ももっと鼻が利くようになれば、鬼が何人喰ったかわかるようになるだろう。』

 

 うん、我ながらなかなかの演技力ではなかろうか?と一瞬頭を過ったアホな考えはすぐに払拭する。

 

「十二…十三。で、お前で十四だ。」

 

「あ? なんの話だよそれ。」

 

「俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ。アイツの弟子はみんな殺してやるって決めてるんだ。」

 

 クスクスと腹立つ笑いを浮かべる手鬼に呆れの眼差しを向ける。

 

「何? おたく、私のこと喰う前提で話してんの? それはちょいとばかし心外なんだけど。」

 

 だってそうだろう。

 こいつ、私を殺す前提で話してんだもん。

 まだ勝負がわかってないってのに、もうすでに勝った気でいる。

 流石にそれはムカついたので、思わず言い返してしまった。

 

「前提じゃない、決まってるのさ。そうだなァ……。印象に残ってるやつを教えてやろう。そいつらのことを聞けば、お前だってわかるはずさァ。」

 

 考えるように目線を一度上に向ける手鬼。

 

「おい、あんた走れるか? 走れるならさっさと離脱しな。だが、この牢獄は鬼の巣窟だ。精々油断はしないように。」

 

 その隙を見て、私は自分が蹴り飛ばした少年に近寄り、すぐに離脱するようにと指示を出す。

 少年は私の言葉にハッとしては、何度か頷いたあと、この場から走り去る。

 

「俺の印象に残ってるのは二人だな。あの二人……。一人は珍しい毛色のガキだったな。一番強かった。宍色の髪をしてた。口に傷がある。もう一人は花柄の着物で女のガキだった。小さいし力もなかったがすばしっこかった。」

 

「……へぇ……随分と特徴的なことで。」

 

 それを確認して手鬼に視線を戻してみれば、奴は自分の中に印象強く残っている二人の少年少女の特徴を口にする。

 すでに知っていることだったため、大して驚いたりはしなかった。

 

「だが、なんでその二人が鱗滝さんの弟子であるってわかったんだ? 私のこともすぐにあの人の弟子であると見抜いているようだった。“また来たな。俺の可愛い狐”……だったか? あの言葉は、すでに私がそうであると認識しているような印象だった。」

 

 冷静な切り返しを言葉とともに手鬼に返す。

 すると手鬼は、ニタリと気味の悪い笑みを浮かべた。

 

「目印なんだよ。その狐の面がな。鱗滝が彫った面の木目を俺は覚えてる。アイツがつけてた天狗の面と同じ彫り方。“厄除の面”とか言ったか? それをつけてるせいでみんな喰われた。みんな俺の腹の中だ。鱗滝が殺したようなもんだ。フフッフフフフッ!! これを言った時、女のガキは泣いて怒ってたなァ。フフフフッ!! その後すぐ動きがガタガタになったからな。フフフフフフフッ!! 手足を引き千切って、それから……」

 

 紡がれた言葉を遮るように、私は一気に複数の腕を打ち潮で斬り落とす。

 

「!!?」

 

「無駄話ご苦労さん。でかい的は当たりやすいな。」

 

 急に腕を斬り落とされた手鬼は、目を見開いて固まった。

 だが、私はそんなの気にすることなく、刀を構え直した。

 

「鬼狩りが最後まで話を聞くと思った? 話してるうちに攻撃くらい普通にするのに。ああ、頸をあえて狙わなかったのは、嫌がらせのつもりでとりあえず腕を斬り落とそうとしたからだ。姉弟子たちの死に様を嬉々として話していたのがムカついてね。」

 

 不敵に笑いながら言葉を紡げば、自分が悠々と長話をしすぎたと気づいたらしい手鬼が、すぐに手を生やして攻撃してくる。

 

 “水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き”

 

 水の呼吸の中で、最速と言える突きによる迎撃・牽制用の型を放てば、再び手鬼の手はダメージを負う。

 すぐに回復するために力を回すため、その隙を見抜けばいくらでも体力を削げる。

 

 “水の呼吸 玖ノ型 水流飛沫・乱”

 

 続けて使用したのは玖ノ型。

 本来ならば、足場が悪い時に使う技で、縦横無尽に動きながら斬り込む技ではあるが、あえて使用する。

 まぁ、なかなか不規則な動きをするからなこれ。

 この山みたいに木を利用すれば、かなりの広範囲を攻撃することができる。

 

「よっと。どう? 嬉々として鱗滝さんの弟子はみんな死ぬって大口叩いていたにもかかわらず、何度も腕を斬り落とされる気持ちは。」

 

「っ…………!!」

 

 ……冷静に見えて、結構私は怒っていたりする。

 少しでも子供を守れたら、という願いを込めて“厄除の面”を彫ってくれた鱗滝さんの気持ちを踏みにじるような言葉を紡いでいた手鬼に対して。

 もちろん、この怒りには真菰の侮辱に対する怒りも、今はもう亡き兄弟子たちを馬鹿にしたことに対する怒りも含まれている。

 いくら、こいつの過去があんなんだとしても、それだけは絶対に許さない。

 

「ほら、見せてみなよ、私たち鱗滝さんの弟子を殺したって言う、お前の本気をさ。」

 

 その全てを、私が真正面からぶっ壊してあげるから。

 

 

 


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