目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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16.最終選別、終息。

 手鬼を倒して早くも七日が経った。

 この間、私はずっと夜は鬼退治をして、日中は水の呼吸とヒノカミ神楽の練度を上げるという生活をしていた。

 おかげでヒノカミ神楽を使用しても、感じる疲労は少なくなったし、水の呼吸もそれなりに威力を出すようになった。

 

 まぁ、だからといって痣が発現したわけでもなければ、疲れなくなったわけでもない。

 前に比べたら多少はマシなだけであって、完全に物にできたわけじゃない。

 やっぱり時間がかかるな……なんて軽く落胆しながらも、私は藤襲山の中腹にまで戻ってきた。

 

 そこにはすでに、善逸、カナヲ、玄弥の三人が集まっていた。

 

(……念のために忠告していたけど、やっぱり、あの少年剣士はアウトだったか。)

 

 私を含めて集まっているのは四人。

 忠告は結局意味をなすことはなく、かばった剣士は離脱した。

 もしかしたら、なんて考えたりもしていたけど、どうやら甘かったようだ。

 

(余計に心配になってきたな……。多少のズレは生じていても、結局命を落とす奴は命を落として消えている。)

 

 このままじゃ、せめて柱やお館様くらいは救済したいという私の望みを遂行できないかもしれない。

 どうやれば大きく覆せるんだ?

 やっぱり、早い段階で私が痣を発現しなきゃいけないのか……?

 

(……だとしたら、水の呼吸の練度上げはほどほどにして、ヒノカミ神楽の練度を中心的に上げないと……。でも、水の呼吸の練度上げも怠るわけにはいかないわけで。)

 

 ああ……頭が痛くなる。

 やっぱり私に確かな才覚は存在していない。

 多少なりとも原作の知識があるからこそ、今こうして過ごせているだけであって、すぐに何もかもものにできるほど器用なことができない。

 思わず舌打ちをしたくなる。

 なんとしても、無限列車直後に発生する猗窩座VS煉獄杏寿郎が発生する前に、技術をつけなければならないっていうのに、こんな亀の歩みじゃ間に合わないじゃないか。

 

「お帰りなさいませ。」

 

「おめでとうございます。ご無事で何よりです。」

 

 軽くイライラしながら考え込んでいると、幼い声が辺りに響く。

 目線を上げれば、産屋敷輝利哉と産屋敷かなたの姿があった。

 その姿を視界に入れた私は、静かにその場で深呼吸をする。

 少しでも芽生えたイライラを抑えるために。

 だって、イラついたまま話を聞いていても、内容は頭に入らないからな。

 そりゃあね……私は原作知識を持ち合わせているし、何度もこのシーンは読み返していたから内容はわかるけど、もし、違うことを告げられたとしたら? もちろん、物語の流れ的にそれはないだろうと言う確信はあるけど、万が一ということもある。

 まぁ、常識的にもおかしいしな。

 大切な話をイライラしながら聞いているってのも。

 

「死ぬわ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。ここで生き残っても結局死ぬわ俺。」

 

「……………。」

 

 ……善逸がすっげぇうるさい。

 こいつがネガティブなのは知ってるけど、直ぐ近くでぶつぶつ文句垂れてるのは流石にイラっとするわ。

 話しかけないように我慢するけどさ……。

 

「で? 俺はこれからどうすりゃいい。刀は?」

 

「……………。」

 

 そんで玄弥はやっぱり好戦的すぎる。

 私以上にイラついているように見えるんだけど気のせいか?

 

「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます。」

 

「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸……今現在の皆様は、一番下の癸でございます。」

 

 なんて考えていると、輝利哉とかなたの二人は、刀より先に隊服の支給、および階級の刻印を行うことを口にする。

 玄弥のイライラゲージが上がったのか、イライラしてる匂いが強くなった。

 

「刀は?」

 

 そのイライラをぶつけるように、再び刀に関しての質問を口にした玄弥。

 

「本日中に玉鋼を選んでいただき、刀が出来上がるまで十日から十五日となります。」

 

「……チッ」

 

 そんな玄弥の苛立ちなど気にする様子を見せることなく、かなたが刀は少し先になることを口にする。

 玄弥は舌打ちをして黙り込んだ。

 イライラゲージは未だに上昇中の様子。

 

「さらに、今からは鎹鴉をつけさせていただきます。」

 

 かなたが二回ほど手を鳴らすと、どこからともなく鴉の鳴き声が辺りに響き渡る。

 上空を見上げれば、三羽の鴉と一羽の雀がこちらに向かっていた。

 

(うるさい奴来ちゃったなぁ……)

 

 苦笑いをしたくなったのは仕方がない。

 だってこいつが賑やかなのは、漫画やアニメでよく知っている。

 炭治郎にしていたように、私も思い切り突かれてしまうんだろうか……。

 そんなことされたら炭治郎たちが絶対怒ると思うんだけど……。

 

「え? 鴉? これ、雀じゃね?」

 

「チュンチュン!」

 

 ……うん、不意打ちでそれ言うのやめろ善逸。

 危うく吹きかけたじゃないか。

 

「ギャアッ!!」

 

「!!」

 

 なんて考えていたら、短い鴉の悲鳴が一瞬聞こえてきた。

 直ぐに顔を上げてみると、玄弥が鴉を殴り飛ばしている姿が。

 

「どうでもいいんだよ鴉なんて!!」

 

 苛立ちを隠す様子もなく、かなたにズンズンと歩み寄る玄弥。

 私はすかさずかなたと玄弥の間に体を滑り込ませ、片手を軽く前に出す。

 

「!!?」

 

「え、あの子いつの間に!?」

 

 手のひらで玄弥の拳を受け止めると、玄弥は驚いたように目を丸くする。

 善逸の驚いている声も聞こえてきたが、今はそんなのどうでもいい。

 

「おっと。流石にそれはないと思うぞ少年。……っつっても、年が数年上程度の奴に少年呼ばわりされんのもあまりいい気分はしないか。」

 

 いつもの調子で言葉を紡ぎながらも、私は受け止めた玄弥の拳を強く握りしめる。

 この手の骨を折ることができるほどの力はないが、十分な痛みは走るはず……。

 

「っ!!!」

 

 ああ、ビンゴだった。

 玄弥が表情を一瞬痛みに歪める。

 その様子に小さく笑みを浮かべた私は、そのまま玄弥の腕を捻り上げた。

 もちろん、関節を外してしまうほど強くはひねってないけどな。

 

「い゛っっっっっ!!!?

 

 痛いことには変わらないが……。

 

「うわわわっ……い、痛そう……っ」

 

 ……善逸うるせぇ。

 

「女子供を殴ろうとするのは見過ごせないな? どんな教育を受けて今まで育ってきたんだよ、あんた。ていうか、鬼狩りってのは、人を守るための組織なのに、鬼狩りになろうとしてる奴が女の子を殴るとかあり得ない行動だと思わないか?」

 

「いっでぇ!!」

 

「ああ痛いだろうな。だが、これくらいしなきゃ頭が冷えないだろ? ……この女の子の話、聞いていたよな。刀は今日玉鋼を選んで十日から十五日くらいで来るって。なんたって刀は、鬼狩りの生命線に直結する。早い段階でできた刀をもらったとしても、頸が硬い鬼相手には諸刃の剣にしかならない。」

 

 善逸の声にうるさいと思いながらも、捻り上げていた玄弥の手をパッと離してやれば、彼は痛みに表情を歪めながら、私が掴んでいた腕を庇うように片手を添える。

 

「何を焦ってるのか知らないが、焦りに任せて突っ走れば、間違いなく早死にするぞ。もう少し冷静な判断をしろ。死んだらそこまで、やるべきことやなすべきことを済ませることができないまま、あの世に直行する気か?」

 

 そんな玄弥に対して、私は語りかけるように言葉を紡ぐ。

 こんなこと、原作を知ってるからこそ出てきた言葉だが、まぁ、私が師匠に教えてもらったんだろうと判断はしてもらえるはず。

 嘘も別に言ってないから、善逸の聴覚にも引っかからないはず。

 

「……………。」

 

「多少は落ち着いたか?」

 

「…………ああ。少し焦りすぎた。」

 

「それならよし。ほら、彼女に言うことあるんじゃないか? 未遂とはいえ、相当なことをやらかそうとしていたよな?」

 

「……悪かったよ、八つ当たりしようとして。」

 

「いいえ、大丈夫です。見ての通り、怪我はありませんから。」

 

(す……すごい……!! あの子、一瞬でこの場を収めちゃったよ……!!)

 

 善逸から気になる視線を向けられているような気がしてならないが、まぁ、気にする必要はないと判断しよう。

 それより今は、話を進めなくてはならない。

 

「少しばかり賑やかにしすぎた。話の途中なのに、悪かったね。続きを頼めるかい?」

 

「はい、お話が終わったのであれば、こちらの話を進めさせていただきます。」

 

 空気を悪くしてしまったことを輝利哉に謝りながら、話の続きを促せば、輝利哉は小さく頷いたあと、その場から少しだけ横にずれる。

 彼の背後には、複数の玉鋼が置かれていた。

 

「では、あちらから刀を作る玉鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は、御自身で選ぶのです。」

 

 静かに紡がれた言葉に従うように、私は……いや、私たちは、玉鋼がある台の元まで足を運ぶ。

 最後まで善逸はぶつくさと文句を言っていたけど、私は気にすることなく、自身の直感のままに玉鋼を選ぶのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……某所某屋敷

 

 綺麗に整えられた日本庭園を眺めることができる縁側に、一人の青年が座っている。

 彼の手元には一羽の鴉。

 藤襲山で優緋たちの側につくことになった鴉とは違い、首元には布を巻いている。

 

「そうか。五人(・・)も生き残ったのかい。 優秀だね。また、私の剣士(子供たち)が増えた……。どんな剣士になるのかな。」

 

 鴉を手に乗せ、穏やかな声で撫でる青年は、口元に柔らかい笑みを浮かべた。

 新たな剣士(子供たち)の誕生を祝うように。

 

 

 

 


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