目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
今日は水の呼吸を主に使った手合わせをする。
まぁ、午後からはヒノカミ神楽を含めた鍛錬に切り替わるけど、午前中のうちは、水の呼吸に専念してみようと昨日錆兎に言われたため、私はそれに従った。
「型は悪くない。が、少しだけ踏み込みが甘い。」
「うわ!? とと、危な。転ぶとこだった。」
「踏み込みが甘いからこっちに押されるんだ。女だからこそ、男以上に踏み込みや体全体へと力を回さなければすぐに押し返されるぞ。」
「体全体を使えって?」
「ああ。そうすれば、鬼相手にも多少は有利に立ち回れるはずだ。」
「優緋は、私みたいに小柄じゃない……どっちかっていうと、かなり長身の女の子だから、素早く動いて相手を撹乱するより、体全体をうまく使って、足の踏み込みなんかも強くすれば、きっと、多少の強い鬼相手にも水の呼吸で立ち回れると思うな。」
「……なるほどな。」
この手合わせで多少なりともわかったこと。
それは、錆兎と真菰の教え方のうまさだ。
最初、水の呼吸を身につけるまでの錆兎の教え方は鱗滝さんスタイルの目で見て盗め、どうしたらいいかは自分で考えろって感じだったけど、強化に関しては結構的確な指摘を口にしてくる。
真菰も真菰で、最初はちょっと大雑把にヒントを口にする形だったけど、今では的確に指摘をしてくれる。
「こうかな。」
「少しだけ衝撃は強くなったが、まだまだだな。」
「でしょうね。全然よろめいてないもんな、錆兎。」
「錆兎の体勢を崩せるくらいになったら、もっともっと水の呼吸は強くなるね。」
「ああ。期間までできるかはわからないけど、とりあえずやれるだけやってみるか。」
「その意気だ。まぁ、俺も簡単によろめいたりはしないがな。」
「わかってるよ、それくらい。」
たまにちょっとだけ会話を織り交ぜながら、狭霧山に刃がぶつかり合う音を響かせる。
……そういえば、結局錆兎と錆兎の刀が実体持ってる理由ってなんなんだろ?
原作では岩が斬れるまで錆兎と炭治郎は打ち合っていたし、ボコスカ殴られていたけど……。
岩が関係あんのかな?って思ったりしていたけど、なんか違うっぽい?
だって、錆兎の背後にある岩……私が真っ二つにした岩はそのまま真っ二つだし……。
「手合わせ中によそ見とはいい度胸だな。」
「あ……ってうわぁ!?」
なんて考え事をしていたら、錆兎の刃がギリギリを掠めた。
咄嗟に回避してなかったら明らかに死んでた!!
「もう……よそ見しちゃだめだよ……。錆兎、ちょくちょく狙ってるんだよ……?」
狙ってるって何を!?
あ、私の命か!!
「勘弁してくれよ……。」
「死人に好かれたのが悪い。」
「もはや祟り神じゃんか。」
「あはは……。」
真菰、苦笑いしないでくれ。
泣きたくなってくるから。
……夕方。
一旦昼食を鱗滝さんの自宅で食べて、鍛錬中は留守番してもらっている炭治郎と禰豆子と軽く遊んで、再び狭霧山の岩のある場所へと出向いた私は、再び錆兎と剣を交える。
今度は水の呼吸ではなくヒノカミ神楽の方での鍛錬。
水の呼吸を磨いている錆兎に対して、なんとかそれで応戦する。
「相変わらず、そっちの方は威力が高いな。」
「まぁね。結構体力を持っていかれてる分、威力は申し分ないと思う。」
「体力が持っていかれる理由……なんとなくだけどわかっていたりする?」
「ああ。多分、呼吸が上手く使えていないのと、無駄な動きがそこかしこに含まれてるんだろうさ。だって、父さんはこれを使ってもなんともなかったんだから。」
水の呼吸による鍛錬と同じように、錆兎と真菰の二人とわずかな会話を交えながら、私はヒノカミ神楽を使用する。
……無惨を倒す際、ヒノカミ神楽……日の呼吸を使っていた緑壱さんは、日の呼吸に含まれている全ての型を無駄な動き一つなく繋げたことで、彼を瀕死にまで追い込んだ。
漫画でしか記されていなかったから、実際、どれだけ綺麗な動きで繋げていたのかわからない。
だから、どこに無駄があるのか、手探りで探す必要がある。
それができなければ、この物語を終わらせることができない。
……よくよく考えると随分と厄介な立場だな、これ。
炭治郎が紡いだ物語を、どうやって私が終わらせたらいいのやら。
思わずため息が出る。
知識があっても所詮はこの程度、私は炭治郎にはなれない。
でも、炭治郎になれないとしても、なんとか物語を終結に導かなければならない。
「また考え事か?」
「あ……悪い。まぁ、それだけ私にもいろいろと悩んでんのさ。どうやったらこっちを好いてきてる幽霊を諦めさせることができるのかとかね?」
「おい。」
錆兎からジト目で睨まれる。
なんだろう、目は口ほどに物を言うってことか?
絶対諦める気はないからな、って言葉が聞こえてきた。
「そんなことより……」
「そんなことで済ませるな。」
「……やっぱり、もう一つの呼吸を使ってる私の無駄なところは、わからない感じか?」
「……そう……だな。」
「うん……。ごめんね。やっぱり初めて見る呼吸だから、どこが変なのか……。」
「気づいたことは?」
「………なんとなくではあるが、一部動きが滑らかじゃないところがあるような気はする。」
「あ、それは私も思ったかも。」
「……なるほどな。」
錆兎に対するからかいをさらっと切り上げつつも、錆兎と真菰に私の動きの無駄について問うてみる。
が、やっぱり二人ともわからないようで、溜め息を吐いてしまった。
まぁ、水の呼吸しか見たことないもんな、この二人は。
だから日の呼吸なんてものの無駄な動きとかはわからない。
けど、気になることは言われた。
発言からして、どうやらスムーズに動いてない部分があったようだ。
「一旦鍛錬じゃなくて、型だけをやってみるよ。実はこれ、家に伝わっていた奴で、“ヒノカミ神楽”って言われていたんだ。家は代々火の仕事をしてるから、怪我や災いが起きないように、年の初めは“ヒノカミ様”って神様に舞を捧げてお祈りをする風習が根付いていてね。」
少しだけ目を閉じると、どうしてかこの体は、この体に刻まれている記憶を見せてくれる。
走馬灯として、炭治郎が見ていた記憶、そのカケラの全てを。
私が今見たのは、小さい私と炭治郎が二人して父さんである炭十郎の真似をして、木の枝を持ってヒノカミ神楽を舞っている姿。
近くでは小さな禰豆子がヒノカミ神楽に使われている太鼓の音を、でんでん太鼓を鳴らしながら真似ている。
私たちの視線の先には父親の姿。
病弱なために痩せこけた顔をしていたけれど、常に穏やかに笑う、私たちの大黒柱。
『優緋。炭治郎。呼吸だ。息を整えてヒノカミ様になりきるんだ。』
そこまで見て記憶は別のものへと移行する。
それは、まだ生まれたばかりの炭治郎が、母さんにおんぶされていた頃……寒い雪の降る夜の記憶。
『優緋。ほら、お父さんの神楽よ。うちは火の仕事をするから、怪我や災いが起きないように、年の始めは“ヒノカミ様”に舞を捧げてお祈りするのよ。』
母さんに説明をされながら、私はずっと父さんを見つめていた。
太鼓の音と鈴の音が響く中、七支刀と思われる小さな祭具を手に持って、舞い続けるその姿を。
『父さんは、体が弱いのにどうしてあんな雪の中で長い舞を舞えるの? 肺が凍っちゃいそうなくらい寒いのに。』
『息の仕方があるんだよ。どれだけ動いても疲れない息の仕方。正しい呼吸ができるようになれば、優緋も炭治郎もずっと舞えるようになるよ。寒さなんて平気になる。……優緋。この神楽と耳飾りだけは必ず途切れさせず継承して欲しい。
最後に見たのは、神楽と耳飾りだけは子孫に継がせて欲しいという父さんのお願いと、重要キーワードとなる言葉。
そして、変わらない彼の穏やかな笑みだった。
「……だから神楽として舞う姿を二人に見てもらったら、変な点が見つかるかもしれない。無駄な動きがどこにあるかまではわからないかもしれないけど、どこに違和感があるかとか、滑らかになってない部分があるかとかはわかるかもしれない。」
自分と父さんのどこに差異があるのか、それを確かめるために意図的に炭治郎の走馬灯と同じ記憶を見たが、遠巻きに見ていただけの私では、その違いが少しわからなかった。
だから、錆兎と真菰にこの呼吸を神楽として舞う間、二人に見てもらって、どこがおかしいか、滑らかじゃないかを指摘して貰えばいいかもしれないと思い、二人に観客を頼む。
「それなら確かに、多少は何かわかるかもな。」
「わかったよ、優緋。優緋の神楽、楽しみだなぁ。」
二人は快くそれを承諾してくれた。
私は小さく笑みを浮かべる。
ありがとう、短い感謝の言葉も紡いで。