目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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23.最終日の手合わせ

 翌日。

 手合わせを行う最終日。

 

 しっかりと休息も取り、朝食もしっかり食べた。

 体調は良好。

 万全な状態で錆兎と最後の手合わせができる。

 

「よ。」

 

「おはよう、優緋。」

 

「待ってたぞ。」

 

 もうすっかりと行き慣れてしまった岩のある広場。

 そこに足を運んでみれば、真菰と錆兎の二人はすでにそこにいた。

 

 いや……まぁ、二人はずっとここに根付いてる魂みたいなもんだもんな。

 私より早いのは当然か。

 

 てことは、このしめ縄がついていた岩は、神岩とか、魂が宿る霊石みたいなもんだったのかも……?

 まぁ、別に何でもいいか。

 

 ……いやよくないな。

 下手したら怨霊化しないそれ?

 ……あ、でも錆兎と真菰は怨霊じゃないな。

 ……錆兎が若干こっちを自分と同じ存在にしようとしてくることがあるけど。

 うーん……結局何だったんだろうな、この岩……。

 

「そんじゃま、始めますか。」

 

「ああ。」

 

 自分が斬った岩の正体とは……?なんて考えながらも、私は静かに刀を構える。

 すると錆兎も真剣を静かに構えた。

 

 それを確認した私は、一度目を閉じて精神を統一する。

 この数日で痣が出ないかと思ったりもしたけど、結局は出なかったな……。

 でも、ヒノカミ神楽を使いこなす一歩手前にまでは足を踏み入れることができた。

 今はそれだけでも十分だ。

 痣の発現は、のちに全集中・常中の訓練をこっそり行いながら待つとしよう。

 

 多少集中力を上げ、静かに目を開ける。

 ヒノカミ神楽……どこまで使えるようになったのか、これできっとわかるはずだ。

 

「錆兎。優緋。始めてもいい?」

 

「「ああ。構わない。」」

 

「わかった。それじゃあ………始め!!」

 

 静寂の睨み合いを行う中、真菰の号令がその場に響き渡る。

 私と錆兎は昨日同様に、同時に地面を蹴り上げて、相手を負かすために、手にしていた真剣を振りかぶる。

 一閃の軌跡を描きながら。

 

 

 

 ……あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。

 休憩を挟みながらではあるけれど、私と錆兎は無我夢中で手合わせに没頭していた。

 

 この数日間の成果はしっかりと出ていた。

 苦手な型を何度も練習して、足運びにも気をつけて、手首の向きなども調節して、無駄な動きを少しでも減らすように頑張った甲斐があった。

 結構な時間帯、ヒノカミ神楽を連発しているけれど、私はちっとも疲れることがなかった。

 

 もちろん、休憩を挟む必要はある。

 微々たる疲労も、累積すれば大きなものとなり、一気に襲いかかってくるからな。

 

 まぁ、そうであっても、努力は決して無駄になることはなかったらしい。

 

「そこまで!! もう日暮れが近づいているよ!」

 

「え……?」

 

「……もうそんな時間だったのか?」

 

 鍛錬の成果が出ていること……それを改めて認識して錆兎と打ち合っていると、真菰の声が辺りに響き渡った。

 私と錆兎は互いに集中していたせいで、時間が経っていることに気づけなかったようだ。

 

 鍔迫り合いの体勢のまま、錆兎と一緒になって真菰に目を向けてみると、彼女は小さく頷いて、空を静かに指差した。

 

 鍔迫り合いをやめ、刀を鞘に収めて上を見る。

 そこには確かに、茜色の空が広がっていた。

 

「……てっきり、まだお茶時かと思ってた。」

 

「俺もだ。」

 

 どうやら錆兎と同じ意見だったらしい。

 声音から互いに驚いていることがよくわかる。

 

「……手合わせの結果はどうだった?」

 

「えっとね。今日、二人が行っていた手合わせの回数は二十一戦。そのうち、錆兎は五勝十六敗で、優緋は十六勝五敗。ヒノカミ神楽を使っていた優緋の圧勝だね。」

 

「くそっ……。」

 

「あはは。まぁ、威力が威力だったから、結構短時間で錆兎の刀吹っ飛ばしたもんな、私。」

 

「……水の呼吸とヒノカミ神楽を使った時のこの差なんなんだ。」

 

「うーん……やっぱり適してるか適してないか?」

 

 あっけらかんとして言っているが、正直自分自身もかなり驚いていたりする。

 

「そういえば、優緋が昨日の夜ヒノカミ神楽をこっそり舞ってるのを遠巻きに見ていたけど、初めて見せてもらった時に比べたらすごく滑らかに舞っていたし、すごく綺麗だったよ。」

 

「え……見てたのか真菰……。」

 

「うん。」

 

 ……うーん……綺麗に見えたってことは、それだけヒノカミ神楽が上達したってことか?

 

「……少しでもそう思ってくれたなら、練習した甲斐があったかもな。」

 

 だとすると嬉しいことだと思う。

 だって、それは煉獄さんを助けるための一歩を踏み出せたということなのだから。

 まぁ、まだまだ足りない部分はあると思うけど。

 

「……この数日間、いろいろとありがとう、二人とも。二人のおかげで、人を助けるための力を強化することができた。多分、私一人じゃできなかったことだ。助かったよ。」

 

 でも、一歩進むことができたことは何よりも嬉しいことだ。

 なかなかヒノカミ神楽を伸ばせなくて、それで不安が重くのしかかっていたから。

 ……体力の減少を最小限に抑えることができた。

 これで、また一歩進むことができる。

 

「……確か、日輪刀は十日から十五日で届くと言ってたな。で、明日で最終戦別終了日から十五日目で、明日には刀が届く話だったか。」

 

「……そうだね。明日から私は本格的に鬼狩りだ。だから、ここにはもう戻ってこないと思う。」

 

 少しの安堵に息を吐いていると、錆兎がポツリと呟くように、明日届くであろう日輪刀について聞いてきた。

 私はすぐに肯定する。

 鬼狩りになったら、ここにはきっと戻ってこないということも。

 

「そっか……。寂しくなるな。」

 

 私の返答を聞いた真菰が、落ち込んだような声音で呟く。

 そんな真菰に対して、私は小さく微笑みかけ、自分より背が低く、だけど年齢は上であろう彼女の頭を優しく撫でた。

 

「落ち着いたらまた来るよ。いつになったら落ち着くかはわからないけどさ。」

 

 そして、ある程度したらまた戻ってくることを彼女に告げる。

 私が生きている限り、きっと二人には会えるから。

 

「優緋。」

 

 そんな中、錆兎が私の名前を呼んできた。

 顔を上げて首を傾げると、彼は静かにこちらに近寄り、頭につけている太陽の絵が印象的な狐面に触れてきた。

 

「錆兎?」

 

「……ちょっとしたまじないだ。」

 

「え?」

 

 紡がれた言葉に疑問の声を上げると、錆兎は口元に笑みを浮かべては、私の狐面に軽く口つけた。

 

「………は!?」

 

「わー……錆兎が接吻してる。狐面にだけど。」

 

 急なことに驚く私と、まさかの行動に苦笑いを溢す真菰。

 対する錆兎は小さく笑ったまま、私の頭を優しく撫でてきた。

 ちょ……長子だから小さい時にしか撫でてもらえてなくてちょっと照れてしまった……!!

 

「お前が無事に鬼狩りとして生活する中で、必ず生き残れるように。もし、鬼狩りとして戦い、力及ばず敗れてしまった時、ここに還ってこられるように。頑張れよ、優緋。」

 

 少しばかり照れてしまった私のことなど気にすることなく、錆兎はまじないの意味を伝えてくる。

 

「最後のは少しだけ恐怖を感じたんだけど?」

 

「気のせいだ。」

 

「気のせいじゃないと思う。」

 

 まじないに含まれた二つの意味のうち、一つに恐怖を感じたと抗議をするが、錆兎はどこ吹く風だった。

 最後まで幽霊錆兎は、私を諦めてくれないらしい。

 

「……またな、錆兎。真菰。」

 

「ああ。また会おう。」

 

「いつか優緋が元気に戻ってくるまで、私たちは遠く離れたここから見守ってるよ。無理はしないでね、絶対に。」

 

 少しだけ苦笑いをしたくなりつつも、私は友人であり、好敵手である錆兎と、友人である真菰に挨拶をして狭霧山を下りる。

 さぁ、ひとときの日常は終了した。

 

 新たな物語に進もうか。

 

 

 

 


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