目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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27.決着、沼鬼!

「……なぜ、人間の分際で鬼を連れている?」

 

「そりゃ、私の大切な宝物である弟と妹が甘えたからに決まってんじゃん。私がいなくなったら不安でギャン泣きしちゃうんだよ、この子ら。弟と妹の悲しむ姿を見て放っておける姉なんて、この世にはいないと思うけどね?」

 

 落ち着いた方の性格をしている沼鬼の質問に笑みを浮かべながら答える。

 二人は私に一旦目を向けて笑顔を見せたあと、私が守るために側に控えさせておいた和己さんと、気を失っている少女に近寄り、禰豆子は二人の頭と頬に優しく触れ、炭治郎はじっと二人を見つめたあと、静かにその頭を撫でた。

 

「この子ら、人間を傷つける鬼を許せないたちでね。本当はあまり戦わせたくないんだが、戦闘に参加することを望むんだ。姉である私の真似をしたいのかもな? 小さい頃から、この子らにはそんな癖がある。」

 

 そう紡ぎながらも、私は鱗滝さんに言われた言葉を思い出す。

 それは、炭治郎と禰豆子にかけられた暗示。

 

『気休めにしかならんかもしれんが、炭治郎と禰豆子が眠っている間に、儂は二人に暗示をかけた。“人間は皆お前の家族だ”。“人間を守れ。鬼は敵だ”。“人を傷つける鬼を許すな”と。』

 

 ……やっぱり、二人にはこの暗示がかけられていた。

 少しの気休め、いざという時の抑止力として。

 もちろん、最初はその必要があるのかと言いたくなった。

 二人は誰も傷つけていないから、必要ないんじゃないかと思った。

 だけど鱗滝さんは、とても真剣な様子だったから、言い返すことはしなかった。

 

 そんな暗示をかけざるを得ない状態なのは、一番私がよく知っている。

 それに、私も怖かった。

 もし、二人が本当に人を傷つけたら……私というイレギュラーのせいで、そんな変化が起こってしまったらと。

 

 それがないと挫けそうなのは……怖いのは一番私だから……二人がそれで少しでも自身の本能を抑制できるのであればと、考えなければやっていられない。

 

「三対一じゃなくなったな。形勢不利かと思っていたが、ちゃんと対等だ。そんじゃあ、始めようか? 喰われた女の子たちの敵討ちを。」

 

 静かに言葉を紡いだ瞬間、炭治郎と禰豆子の二人は、頭を出してるスカした性格の方の鬼を狙って行動に移す。

 地面にいるから同時に足を振り上げて、そのままかかと落としを加えようとした。

 が、沼鬼はすぐに地面に引っ込む。

 二人の攻撃は空振りだ。

 

「炭治郎。禰豆子。深追いは危険だからこっちへ!」

 

「ん!!」

 

「むー!!」

 

 それを確認した私は、すぐに二人に声をかけて、自分の方へと引き寄せる。

 二人は私の指示を素直に聞いて、軽い足取りで走り寄ってきた。

 

 その際、二人の進行方向を塞ぐように沼鬼二体が地面から襲い掛かったが、二人はすぐに跳躍で躱し、私の元まで走り寄る。

 

「よし、二人とも良い子だな。」

 

「んー!」

 

「むー!」

 

 駆け寄ってきた二人の頭を笑顔で撫でてやれば、嬉しげな笑顔を向けてくる。

 そんな二人を可愛いと思いながらも、私は炭治郎と禰豆子に指示を出す。

 足元が沼へと変わるまで、少しの時間しかない。

 

「炭治郎。禰豆子。私は鬼の本元をまずは斬ってくる。その間、二人には和己さんと女の子の二人の護衛を頼みたいんだが、やってくれるか?」

 

「ん!」

 

「むー………」

 

 私の指示を聞いた禰豆子が笑顔で了承するように頷く。

 が、炭治郎は逆に不服そうだった。

 私が一人で大掛かりなことをやろうとしていることに気づいているのかもしれない。

 

「……大丈夫だよ。私はちゃんと怪我なく戻ってくるから。だから、炭治郎もここに残って、鬼からみんなを守ってほしい。」

 

「………むぅ……。」

 

 穏やかな声音で説得を試みると、炭治郎は渋々といった雰囲気で私の頼みを引き受けてくれた。

 

「帰ってきたらしっかりと甘やかしてあげるから、頑張ってくれ、長男。」

 

「む……!」

 

 炭治郎との会話を終える。

 同時に私は足元にできた沼に落下する。

 まぁ、正確には自ら飛び込んだんだけど。

 ……炭治郎と禰豆子は一瞬こっちを守ろうとしてきたが、笑うだけで静止させ、一人暗い沼の中を漂う。

 

 沼に入った瞬間視界に入ったのは、色鮮やかな着物や持ち物。

 これだけが唯一の色取りだ。

 同時に怒りが湧いてくる。

 見ただけでかなりの量の女の子たちを喰っているのがわかる。

 いくら鬼が人を食わねばならないとはいえ、怒りを覚えない方がおかしいくらい……罪のない人たちは犠牲になったから。

 

「ククク!! 苦しいか小娘!! この沼の中には殆ど空気もない!! さらに、この沼の闇は体に纏わり付いて重いだろう!! ハハハ!!」

 

 暗がりの中聞こえてきたのは荒々しい性格の方の沼鬼の声と、耳障りな歯軋りの音。

 ふむ、尽く食事の邪魔をした私にヘイトが向いたのか、二人してかかってきたらしい。

 なんで三対三だからそれぞれを相手にするって考えに至らなかったのか……。

 まぁ、質問したところで答えてはくれないんだろうけど。

 

「地上のようには動けんのだざまをみろ!! 浅はかにも自ら飛び込んできた愚か者め!!」

 

(うっせぇなぁ……。)

 

 沼の中で勝利を確信して得意げに言葉を紡ぐ沼鬼に呆れにも似た感情を抱きながらも、私は刀を握りしめる。

 確かに、沼の中は空気が薄いけど、狭霧山の空気の薄さに比べたら何倍もマシだ。

 

 さて……陸ノ型を使うとしようか。

 原作でも炭治郎が言っていた通り、こういう不安定な場所だからこそ、この型は力を発揮する。

 

 沼鬼たちがかなり素早く動く中、私は体にねじりを加え、そのまま刀を構える。

 攻撃のチャンスは一度だけ。

 相手が攻撃のために近づいてきた瞬間!!

 

 意識を集中させていれば、隙の糸の匂いを感じ取れる。

 そのタイミングを見計らって、私はねじった体の勢いを利用して刀を思い切り振りかぶる。

 

 “水の呼吸 陸ノ型! ねじれ渦!!”

 

 渦巻く鋭く大きい刃は、周りを巻き込み切り裂いていく。

 効果は覿面。

 二体の分身は渦に巻き込まれ、そのままバラバラになり頸も斬れた。

 

(じゃあな、変態鬼の分身。)

 

 それを見届けた私は、自身の呼吸が苦しくなる前に地上の方へと上昇する。

 外に飛び出れば、連携を取りながら沼鬼と交戦する炭治郎たちの姿が見えてきた。

 原作では禰豆子だけが戦っていたから、あの子は怪我を負ってしまうけど、この世界では鬼化したのは禰豆子だけじゃなく炭治郎も一緒だったためか、どちらも無傷のようだった。

 

 少しだけ安心しながらも、私は地面を蹴り上げる。

 そして炭治郎と禰豆子の動きに慣れ始めている様子の沼鬼が攻撃する動きに合わせて、その腕を斬り落とした。

 

「弟と妹に怪我させる姉もいないってね。残念だが、ここで決着をつけるとしようか?」

 

「!!!?」

 

 笑みを浮かべながら言葉を紡げば、目の前の沼鬼はゾッとしたような表情を漏らした。

 命を奪おうとしてる人間が笑っているのが恐ろしいのかもしれない。

 

「お前たちからは腐った油のような匂いがする。かなりの悪臭になってるよ。まぁ、それだけ女を喰っていたんだろうが、理由までは問わないさ。どうせ救いようのないクズ的な考えなんだろうし? だからこの話はしまいだ。」

 

 最後に見るのが笑みってどんな恐怖だ? まぁ、それくらい絶望感あったほうが……恐怖があった方が、報復にはなるだろう。

 だって、女の子たちはそれ以上に恐怖し、痛い思いをしたんだから。

 ああ、こいつも痛い目に遭わせた方がいいか?

 回復しないように何度も切り刻んで、バカになるくらいに痛みを与えるべき?

 

 ……いや、それはしたらダメか。

 炭治郎と禰豆子がいる。

 二人にそんな姿見せるわけにはいかない。

 だって、私は二人にとって、大好きな姉ちゃんなんだから。

 意識には、少々異物が混ざってるけどね。

 

「本題はこっちだ。剣技を教えてくれた師匠から教えてもらったんだが、鬼を作れるのって、“鬼舞辻無惨”って鬼なんだろ? そいつについて教えてくんないかなぁ? どうしてもそいつに聞きたいことがあるんだわ。だから少しでも情報、話してくんね?」

 

 穏やかさは消すことなく……しかし、どことなく自分自身でも冷たさを感じる声音で語りかける。

 結果は知ってる。

 でも、訊かざるを得なかった。

 少しでも変わっていればと願いながら。

 

「言えない……言えない……!! 言えない言えない言えない!!」

 

「そうか……。じゃあお前にはもう用はないよ。地獄でせいぜい罪を償うんだな。」

 

 ……ああ、やっぱりこれも変わらないのか、とため息を吐きたくなる中、再び襲いかかってこられるのも面倒だからと、その場で日輪刀を一閃する。

 沼鬼は悲鳴を上げることなく、その頸を刎ねられた。

 

「……情報集めも楽じゃない。」

 

 簪のコレクションがあった羽織を刀で切り取り、炭治郎と禰豆子に目を向ける。

 二人はどことなくうとうとしていた。

 眠ってるところを起こしちゃったし、戦闘に加えたから体力を消耗してしまったんだろう。

 

「炭治郎。禰豆子。よく頑張ったな。偉いぞ。」

 

「んー。」

 

「むー。」

 

「はは。眠たげだな。いいよ。ゆっくり眠って。また何かあったら起こすかもしれないけど、な。」

 

「「んー………。」」

 

 頭を撫でながら、ゆっくりと休むように伝えれば、二人はいそいそと体を小さくし始める。

 背中にある背負い箱の蓋を開けて地面に置けば、すぐにその中へと入っていった。

 ……狭いところを好む猫のようだと思ったのは言うまでもない。

 

「和己さん。怪我はありませんか? 女の子も無傷でしょうか?」

 

「………ああ。」

 

 それを確認して箱を閉め、再び背負い上げた私は、力なく地面に座り込んでいる和己さんに声をかける。

 ……精神的にやられていて、苦しそうな様子だ。

 

「……大丈夫か……なんて聞くつもりはありません。大切な人を失って、苦しい思いをしているのは十分わかります。私も、同じですから。」

 

「!!」

 

 掴みかかられないように、言葉を選んで静かに紡げば、彼は勢いよく顔を上げた。

 表情には悲しみが浮かんでいる。

 

「私も、二年前に家族を鬼に殺されました。今一緒にいるこの子たちは、不思議な巡り合わせのおかげで、共に行動をとれていますが、その巡り合わせがなかったら、今ごろ私は一人だったと思います。……あまり、こんなことは言いたくありませんが、失われたものは二度と戻ってきません。ならばこそ、遺された私たちは前を向いていかなくてはならない。嘆きたくなることや悪夢を見ることがあろうとも。きっと、先に逝ってしまった人たちは、大切な人が少しでも長生きして、自分の分まで幸せになってほしいと願っているはずですから。」

 

「……………。」

 

 私の言葉を聞いた和己さんがとうとう両眼から大粒の涙を流し始めた。

 私は、そんな彼の頭を優しく撫でながら、手にしていた布切れ……簪がまとめてある沼鬼の羽織の切れ端を手渡す。

 

「私はそろそろ行きます。まだ解決していないことがたくさんありますからね。だからこれを。この中に、里子さんの持ち物があるといいのですが……。」

 

「!! ああ……ありがとう……!! 里子さんの仇を、里子さんの持ち物を……多くの人たちの仇を討ってくれて!!」

 

 私から手渡された布切れを手にした和己さんが叫ぶように言ってくる。

 私は小さく笑いながら、和己さんに背中を向けて歩き出す。

 

(……生きるためとは言え、どんだけ多くの人を殺し、痛めつけて苦しめるのやら。もうちょっと別の方法はなかったのかね。)

 

 呆れにも似た感情を抱きながら、いずれ邂逅することになる鬼の王を脳裏に浮かべる。

 自分中心的な性格じゃなかったら、多少は変わったんじゃないのかとも思うが……まぁ、それだけ切羽詰まっていたんだろうな。

 だからと言って仕方ないからと許せるものではないけれど。

 

「ほんと……寂しい奴だよね、鬼舞辻ってさ……。」

 

 

 

 


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