目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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28.やってきたのは大都市浅草。邂逅、鬼の王。

「次ハ東京府浅草ァ!! 鬼ガ潜ンデイルトノ噂アリ!!カァアア!!」

 

「次々行くのか……。ところで東京府浅草ってどっち? どれくらいかかる?」

 

「二日カラ三日ァ!! 方角コッチ!! カァアア!!」

 

「……普通に話せないのか?」

 

「イヤ、様式美ッテヤツダ優緋。」

 

「喋れるんかい!!」

 

「カァアア!!」

 

 

 

 はい、くだらないやりとりをしつつも歩き回り、沼鬼と邂逅した日の翌々日。

 かなり明るく賑わっている浅草に到着した竈門 優緋ですっと。

 

「なんつーか、レトロ風ではあるけど随分と懐かしい景色だな。」

 

「んー?」

 

「むー?」

 

「こっちの話だよ。それより炭治郎。禰豆子。何度も行ったことある町に比べて、この街はかなり人が多いし、高い建物も大量にある。気分が悪くなったりしてないか? 世の中には人酔いって言う症状があると聞くが……。」

 

「んー。」

 

「むー。」

 

「そうか、大丈夫ならよかった。」

 

 右側にいる禰豆子と左側にいる炭治郎は、どうやら人酔いはしていないようだ。

 それはよかった。

 意識がこっちに転移するまで、人が多い都会に住んでいた分、炭治郎のようにこの大量の人に揉まれる感覚も慣れていたから、私は問題なかったんだけど、二人はずっと小さな町しか知らなかったから心配だったんだよな。

 

「じゃあ、鬼の情報を集めますかね……。まぁ、それより先に腹ごしらえしたいけど……。」

 

 ……あ、うどんのいい匂いがしてきた。

 あっちか。

 

「ちょっとだけあっち行くか。」

 

「ん!!」

 

「むん!!」

 

 二人に移動することを伝えれば、すぐに手を握り返してくる。

 それを確認した私は、二人の手を引きながら、ゆっくりとうどんの匂いがする方へと足を運んだ。

 

 

 

 ………しばらくして。

 原作通り、私たちが足を運んだ方角では、移動屋台のうどん屋がポツンとあった。

 

「すみません。山かけうどんを一つくれますか?」

 

「……一つでいいのか? 嬢ちゃん、二人ほど連れてるが。」

 

「ええ。二人はお腹空いていないみたいで……眠たそうではありますけどね……。でも、今は休める場所に向かうわけにもいかないですから。」

 

「なるほどなぁ……。まいどあり。すぐに作るから待ってな。水でも飲んでいてくれ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 炭治郎と禰豆子の二人を先にベンチに座らせて、水が入った湯飲みを三人分受け取り、私も二人の側に行く。

 

「あ……もう眠ってら……。」

 

 そこを見てみると、すでに二人はすやすやと眠りに落ちていた。

 互いに互いの肩や頭に自身の頭を預けて、穏やかな寝息を立てている。

 

「仲良しだねぇ。」

 

 まぁ、知ってたけど。

 なんてことを思いながら、湯呑みに入った水を口に運ぶ。

 が、遠く離れてはいるけれど、嗅覚がとらえた不快な匂いに気づき、すぐに湯飲みをその場に置く。

 

「悪い、炭治郎。禰豆子。少しだけ姉ちゃん、ここから離れるよ。二人はゆっくり休んでいてくれ。」

 

 自身が着ていた桜の絵柄が特徴である紅色の羽織を二人にそっとかけて立ち上がる。

 

「おじさん。申し訳ないのですが、少し席を外すので弟と妹を見ていてくれないでしょうか? 気持ち良さそうに眠ってるから、起こし辛くて。」

 

「構わねぇが、うどんはどうすんだ?」

 

「戻ってきたらちゃんと食べます。せっかく作ってもらうのに、食べないまま帰るのは失礼なので。」

 

「そうか。わかった。嬢ちゃんの弟と妹は任せてくれ。気をつけんだぞ。この街は人が多い分、変な輩とかも結構いるからな。」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 うどん屋のおっちゃんと少しだけ会話して、炭治郎と禰豆子の二人を彼に預ける。

 ……鍛錬してない分、炭治郎の鼻は原作ほどは利かないはずだから、私が着ていた羽織である程度はごまかせるだろう。

 

 そう思いながら私は中央街の方へと走り出す。

 さてさて……鬼の王とちょっくら会ってきますかね。

 

 

 ……少しだけ走れば街の開けた場所に出る。

 かなりの人がいる中、辺りを見渡せば、あの匂いが強くするそれなりに長身の洋装の青年が視界に映った。

 ゆっくり歩いているから、走らなくても問題なさそうだ。

 

 走ることなく近寄った私は、目の前に現れたラスボスに近寄っては、その背中をとんと軽く叩く。

 するとそいつは足を止めて、私の方を振り向いてきた。

 

 猫のような紅梅色の瞳と、自分自身の赤みが混ざる瞳がかちあう。

 その姿に小さく笑みを浮かべた。

 探したぞ、孤独な鬼いさん……そんなことを思いながら、自身の腰にある日輪刀の柄に手を乗せる。

 

「おとうさん。だぁれ?」

 

「ん?」

 

 が、不意にあどけない声が聞こえてきたため、すぐに手を日輪刀から離した。

 

「おっと、子連れだったのか。」

 

 知ってたけど。

 って言葉は内心だけにして、私は青年……あらためこの物語のラスボスである鬼の王・鬼舞辻無惨へと目を向けた。

 

「……私に何か用ですか? まるで知り合いかのように肩を叩いてきたような気がしましたが。」

 

 そりゃ私が一方的に知ってるからな。

 ……あと、せきとしボイスなんだな、やっぱ。

 なんでラスボス系のキャラって、謎の色気を宿す雰囲気と声になるのか。

 というか、よく人間と夫婦ごっこできるなこいつ。

 私だったらちょっと無理……。

 

 ドン引きしそうになる中、鬼と人間の混ざり合った匂いに少しだけ表情を歪める。

 人間と鬼がこうまで近くにいるとかなり変な匂いになるんだな。

 鬼の匂い強めだけど。

 

「あら、どうしたの?」

 

「おかあさん。」

 

「…………」

 

 匂いが増えた。

 ……はずなんだけど人間の匂いが増えたはずなのに鬼の匂いが強いってことはあれか?

 周りの匂いに比べたら明らかに異質だからだろうか?

 

「お知り合い?」

 

「……いいや、困ったことに……少しも知らない子ですね。人違いではないでしょうか?」

 

 上手い具合に知り合いかどうかを考えてるような間を開け、話しかけてきた女性に答える無惨。

 知らないって言っていながらも、ちゃっかり日輪刀や隊服を見てこっちが鬼殺隊であることを確認していたのは流石と言える。

 炭治郎の時もこうやって確認していたのか。

 自分が追体験するだけで、ちょっとした動きだけでも新鮮さを感じる。

 

 なんて考えてる暇がないんだった。

 今一瞬だが無惨が手を動かしたのが見えた。

 

「うぐっ!!」

 

「………。」

 

 私はすぐに動く。

 無惨の手により血を体内へと注がれた青年が誰かわかったから。

 

「がぁあぁああ!!」

 

「よっと。はいはい、大人しくしようなっと。」

 

 鋼鐵塚さんにしたように、鬼化した青年をその場にすっ転ばせた私は、頭につけていた布を外し、猿轡のようにして青年の口を塞いでは、彼の上に全体重を乗せて動きを封じる。

 

「あ、あなた!?」

 

「なんだなんだ!?」

 

「酔っ払いか!? 喧嘩か!?」

 

 いや、酔っ払いのわけないだろ鬼だよ鬼。

 まぁ、そんなこと言ってもわからないんだろうけどさ。

 

「ああ、奥さん。今のこの人、なんらかの原因で狂乱状態だから近寄らないでくれ。大丈夫。怪我はさせないから。」

 

 こちらに駆け寄ろうとした女性……この青年と一緒に歩いていた彼女に制止の声をかけながら、私は無惨に目を向ける。

 この騒ぎに紛れて鬼の王は、隠蓑にしている夫婦ごっこの相手に危険だからと声をかけつつ、その場から立ち去ろうとしている。

 

「確かに、あんたとは初対面だが、最終的な目的はあんただよ、鬼舞辻無惨。」

 

「!」

 

 騒がしい中言葉を紡げば、無惨はすぐにこちらを見てきた。

 同時に顔を青くする。

 ただでさえ青白い顔がますます青くなって真っ青だ。

 まぁそうか。

 耳飾りをつけるのが私なら、って、わざと縁壱さんスタイルの髪型をしてるもんな。

 どうやら効果は覿面だったらしい。

 確かな恐怖と、疑問の匂いが感じ取れた。

 

「まぁ、そんなのは今はどうでもいい。どうせこの人は抑え込まなきゃいけないからな。一旦はあんたに刃を向けるのはやめとくよ。心の拠り所を奪われた側だから、最後は刃をむけるけど。逃げるならばどうぞご勝手に。最終的には追い詰めるから。」

 

 そんな無惨に対して、私は声を張り上げることなく静かに言葉を紡ぐ。

 この喧騒の中であっても、一応耳には届いていたらしい。

 

「…………行きましょう、麗さん。」

 

「え、ええ……。」

 

 無言で無惨はこちらを見ていた。

 が、すぐに彼は踵を返して、一緒にいた女性とその場を立ち去る。

 

「グァアウッ!!」

 

「はいはいお兄さんは大人しくしてね?」

 

 未だに暴れる青年を取り押さえることに意識を戻し、なんとか動きを封じ込める。

 

「貴様ら何をしている!!」

 

「酔っ払いか!? 離れろ!!」

 

 すると、複数人の男性の声が聞こえてきた。

 この時代の警察の人たちだ。

 誰かが呼びに行ったか、巡回中の警察がこの騒ぎを聞きつけたのだろう。

 

「ああ、警察の方々ですか。」

 

「君!! 離れなさい!!」

 

「そうしたいのは山々なんですが、結構この人暴れてましてね。私という重石がないと多分手当たり次第に攻撃してしまう。急に狂乱状態になったので原因は不明だし、今は一人より周りの大人数の避難をお願いできますか? 警察なら住民たちの安全確保を優先してください。」

 

「し、しかし!!」

 

「いいから。周りの方をお願いします。まだこの人は誰も怪我をさせていない。この人に罪を犯させるわけにはいかない。だから、私のことは構わないので、周りをお願いします。」

 

 それならと、私は冷静なまま、警察の人たちに声をかけた。

 自分が重石になって動きを封じておくから、まずは周りの安全の確保をしてほしいと。

 もちろん、側から見たらただの小娘である私も、この人らにとっては安全を確保しなければならない者側の存在だから、一人の警察が食い下がるが、それを遮るように自分は大丈夫だから、まずは大人数の方を頼むと告げる。

 

「………わかった!!」

 

 退くつもりはないと判断したのか、その警察はすぐに周りにいる人たちをこの場から少しでも離すための行動に変えてくれた。

 話がわかる人でよかったよ。

 

「……あなたは、鬼となった者にも人という言葉を使ってくださるのですね。そして、決して罪を犯さぬようにと必死に止めて助けようとしている。」

 

 わずかな安堵を抱きながら、青年を抑え続けていると、独特な匂いとともに穏やかな女性の声が聞こえてきた。

 声の方に目を向けてみると、そこにはキーパーソンの二人である珠世と愈史郎の姿が……。

 よくみると周りの景色がかなり変わっている。

 ああ、“惑血・視覚夢幻の香”が使われたのか。

 

「まぁ、対象にもよるけど、大抵は人として扱ってるよ。快楽的にいろいろやらかしている鬼に対しては、慈悲を向けるつもりはないけど、この人はそうじゃない。立派な被害者だ。そんな被害者をどうして鬼と扱えるんだ?」

 

 そう思いながら、私は自身の意見を吐き出すように紡ぐ。

 被害者と加害者の区別だけは、しっかりとしないとね。

 

「……それならば、私もあなたを手助けしましょう。身勝手な理由で被害者になってしまった方々を助けるためにも。」

 

「……一応は、鬼であっても?」

 

「はい。私は確かに鬼です。しかし、医者でもあります。あの男……鬼舞辻無惨を抹殺したいと思い続けている。」

 

 新たな出会いと最大の敵との邂逅。

 物語はまた一つ進んでいく。

 激化する終結へと流れていくように。

 

 

 


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