目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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29.珠世と愈史郎と優緋

「すみません。用事に思った以上に時間がかかってしまいました。弟と妹は……」

 

「おう。嬢ちゃんの弟たちはぐっすりだったぞ。よくこんな場所で呑気に寝れるなと思ったくらいにはな。ほら、嬢ちゃんが頼んでた山かけうどん。ちょうどいい温度になるように、作る時間を考えておいたから美味いはずだぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

 無惨との邂逅や珠世さんたちとの接触を終え、うどん屋に戻ってみると、屋台のおっちゃんが湯気が立つ温かい山かけうどんを出してくれた。

 それに感謝を述べながら、うどんを啜る。

 お腹が空いていたからとても美味しい。

 

「……むー?」

 

「ん? ああ、炭治郎。起こしちゃったか。ごめんな。」

 

 すると、寝ぼけ眼の炭治郎が私の方を向き、目を擦りながら寄ってきた。

 こぼしたらいけないから自分が座る椅子の上に一旦うどんが入った器を置き、寄ってきた炭治郎の頭を優しく撫でれば、甘えるようにすり寄ってくる。

 

 本当、この世界の炭治郎はかなり甘えんぼだ。

 若干幼児退行してないか?と思うくらい。

 

「ちょっと待っててな。姉ちゃん、うどん食べてるから。ああ、いつか二人も一緒に食べような。ここのうどん、すっごく美味しいからさ。きっとダシとか、そこら辺のうどん屋とは違うんだろう。」

 

「お、嬢ちゃん、わかる口だな。作り方は教えられないが、この道何十年と頑張って自分なりのダシを作ったんだ。だから誰よりも美味いうどんを作ってる自信があるぞ。今度時間があったらそばも食いに来い。これまで食ったことがないくらい美味いのを食わせてやっからよ。」

 

「はは。ありがとうございます。その時はまたお邪魔しますね。今度は、腹を空かせたこの子たちも連れて。」

 

「ああ。待ってるぞ。」

 

 和やかな会話をしながら、うどんをしっかり食べ終え、ダシまで全部飲み干す。

 うん、向こうで食べてた市販のうどんなんか比べ物にならないくらい美味しかった。

 炭治郎たちが人間に戻ったあと、もしここに来るようなことがあればみんなで食べよう。

 

「ご馳走様でした。とても美味しいうどんをありがとうございます。」

 

「いいってことよ。また来てくれ。大半はここらをうろついてるからな。」

 

「はい。」

 

 笑顔でうどん屋のおっちゃんと別れ、未だに眠っている禰豆子を申し訳ないが起こす。

 

「……んー?」

 

「起こしてごめんな、禰豆子。そろそろ移動するよ。」

 

「んー……。」

 

「む!!」

 

「こらこら炭治郎……。」

 

 すると寝ぼけ眼の禰豆子がゆっくりと起きては私に抱っこをせがむようなポーズをした。

 それに若干拗ねたのか、炭治郎がしがみ付いてくる。

 苦笑いをしながら炭治郎の頭を撫でるが離れない。

 

「参ったな……。」

 

 どうするかなこの甘えんぼ弟妹……。

 溜息を吐きながら考えてみても答えが出てこない。

 甘やかすって炭治郎と約束したし、余計に甘えたくなっているのかもな……。

 

「とりあえず移動するから、荷物は持たせてくれ〜……。」

 

 ……結局、少しだけ押し問答したあと、手を繋ぐことで収まった。

 炭治郎にちょっと我慢してくれって説得するのにちょっと時間かかっちゃったな。

 

「おう?」

 

「「…………。」」

 

 なんで考えていると、炭治郎と禰豆子が私の手を強く引っ張った。

 驚いて二人に目を向けてみると、一点を警戒するように見つめている。

 その視線を辿ってみると、そこには愈史郎の姿が。

 

「遅いぞ。」

 

「ああ……悪い悪い。あそこのおっちゃんと戻ったらちゃんとうどん食べるって約束してたからさ。それを守るのは当然さ。だから待ってなくてもよかったんだが……匂い辿れるし。」

 

 愈史郎に謝罪をしながら、うどん屋のおっちゃんとの先約を守っていたことを伝え、先に行ってても構わなかったことを口にする。

 

「目くらましの術をかけている場所にいるんだ。匂いも辿れるものか。」

 

 が、愈史郎はすぐに術のせいで匂いは辿れないと吐き捨てて、それより……と小さく呟き、炭治郎と禰豆子を指差す。

 

「鬼じゃないかその二人は。女に至っては醜女だ。」

 

「うーーー!!」

 

「こらこらこらこら。落ち着け炭治郎。落ち着けって。」

 

 紡がれた言葉は原作通りの発言。

 醜女発言に至っては、ご丁寧に禰豆子を指差して言ってきた。

 意味を理解した炭治郎が殴りかかりそうになったのでとりあえず止める。

 

「あんたの発言は一意見としてはあり得るだろう。個人個人によって、美醜の感じ方はそれぞれだからな。だが、それを口にするのはお門違いだ。……これは例え話だが、もし、あんたの大切な女性が、周りから醜女って言われたらどうする?」

 

 そして、炭治郎を落ち着かせながら、例え話として一つの質問を口にすれば、愈史郎の額に血管が浮く。

 

「貴様!! 珠世様を侮辱するのか!?」

 

 噛み付くように怒鳴りつけ、今にも殴りかかってきそうな愈史郎。

 

「それだよそれ。」

 

「!!」

 

 私は冷静さを欠くことなく、今の愈史郎の状態を指摘する。

 すると愈史郎は目を丸くして固まった。

 

「今の炭治郎はそういう状態。私たちにとっては禰豆子はとても可愛い女の子なんだ。大切にしているそんな子に向けて侮辱的発言をされた。だから炭治郎は怒ってる。私も、落ち着いて指摘してるように見えて、それなりに苛立ってる。まぁ、つまりは、自分だけの価値観で悪口を言うのは程々にしてほしい。自分から見たら醜くても、周りから見たら違う意見だってあるってことを認識してくれ。せめて、胸中で思うだけにして、口にするのは堪えてほしい。あんただって大切の人をバカにされたり侮辱されたりしたらイラつくし、傷つくだろう?」

 

「…………。」

 

「……この一意見も、一応心に留めておいてくれるか?」

 

「……すまなかった。」

 

「わかってくれたらいいよ。こっちも例えとはいえ、悪かったな。」

 

「……ああ。」

 

 うん。

 やっぱり愈史郎は話せばちゃんと聞き分けてくれるな。

 仲良しこよしとまではならなくても、蟠りだけは作らないようにしたいし、衝突もしたくないから、よかったよかった。

 

「ほら、炭治郎。彼はちゃんと謝罪してくれたぞ。お前も落ち着け。な?」

 

「……む!」

 

 よし。

 

「長話をしちゃったな。ただでさえ遅れてるんだ。目的地に向かうとしよう。」

 

「ああ。」

 

 短い会話を少しだけして、あとは無言になって足を運ぶ。

 目的地はもちろん、珠世さんの元だ。

 

 

 

 ……歩くこと数十分。

 愈史郎の案内により、大きめの建物に到着する。

 

「珠世様。戻りました。」

 

「おかえりなさい。」

 

 彼の案内に従うように玄関を通り抜け、足を進めれば、気を失っている女性と、そんな彼女の側に寄り添う珠世さんの姿があった。

 

「お邪魔します。……その女性……街で鬼にされてしまった男性と共にいた方ですね。」

 

「はい。相当驚かれていたのか、疲弊し切って気を失っていたので連れて帰りました。」

 

「そうでしたか……。怪我人はいませんでしたか?」

 

「ええ。あなたがこの方のご主人をすぐに押さえてくださったので、誰一人として怪我人はいませんでしたよ。」

 

「それはよかった。」

 

 珠世さんに話しかければ、彼女は怪我人は一人もいなかったことや、あの男性の奥さんである女性は疲労やショックにより意識を失ってしまったが、無事であることを教えてくれた。

 

 思わず安堵の息を吐く。

 

「ところで、あの方は?」

 

「彼女のご主人でしたら、気の毒ではありますが、拘束して地下牢の方に……。今はまだ理性がないため、人を襲う可能性がありますから。」

 

「そうですか……まぁ、仕方ないですね。この子たちも最初は私を襲ってきましたし……。必死に呼びかけたら、奇跡的に落ち着いた感じですから。」

 

 続きは中で話しましょうと言うように、気を失っている女性から離れた珠世さん。

 彼女についていく形で歩いていくと、居住していると思われる和室に通される。

 

「そういえば名乗っていませんでしたね。私は珠世と申します。その子は愈史郎。仲良くしてやってくださいね。」

 

 彼女の言葉を聞くと同時に、愈史郎に目を向けてみると、彼はどことなく拗ねているような……不満そうな表情をしている。

 

「……そうですね。可能であればそうさせていただきます。まだ会ったばかりですからね、彼とは。仲良くなれるかどうかは、これから先によると思いますし。ああ、ですがご安心を。蟠りだけは作らないよう、彼とは関わらせてもらいます。」

 

 だから私は、断るわけでもなく、了承するわけでもなく、どちらとも取ることができるようにと曖昧な言葉で返答を返した。

 

「ところで珠世さん。質問したいのですが……」

 

「なんでしょう?」

 

 それに続けるように、私は珠世さんに質問したいことを告げる。

 原作では珠世さんと愈史郎の情報を炭治郎は次々と聞いていくが、ある程度の話は知っているため一気に飛ばすことにした。

 

「鬼になってしまった人を人に戻すことは可能ですか? 可能であるならば、教えていただきたいです。もちろん、私にできることがあれば、いくらでもお手伝いしますから。」

 

 

 

 


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