目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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33.珠世と愈史郎との別れ。新たな旅立ち。

 矢琶羽と朱沙丸との戦闘を終え、再び珠世さんの家……といっても、外観はボロボロだから地下室の方だけど、私たちはそちらに移動した。

 

「少々お待ちください。炭治郎さんと禰豆子さんの体調検査と、最初の血液採取を行いますから。」

 

「わかりました。こちらで待っておきますね。」

 

 すると珠世さんは、一旦炭治郎と禰豆子の二人を検査することを伝えて来た。

 私はすぐにそれを承諾し、二人を珠世さんに預ける。

 炭治郎と禰豆子は、少しだけしょんぼりした様子で私の方を見つめて来たが、小さく笑いかけてやれば、すぐに珠世さんについていった。

 

 ……少しだけ獣のような唸り声が聞こえる。

 おそらく、奥の方に鬼に変えられた男性が閉じ込められているのだろう。

 

 そんなことを考えながら少しだけ目を閉じる。

 完全に眠ったりはしないけど、少しだけ視界に入る光を遮って、数分でもいいから休息を取りたかった。

 いくら呼吸の連発により体力があまり削られることがないと言えど、わずかながらの疲労は発生する。

 放置していると、いずれはそれが蓄積されて、どっと疲れてしまうだろう。

 塵も積もれば山となる……まさにその通りだと思う。

 最終選別を越えた時も、いつの間にか大きな疲労に襲われて、気を失うように眠っていたしな。

 

 それなら、炭治郎と禰豆子を珠世さんに預けている間くらい、休む程度は許されるはずだ。

 

 そう思いながら私は、そろそろ始めようと考えていた、全集中の呼吸・常中の訓練の一環として、全集中の呼吸を意識しながら少しだけ休む。

 

 まぁ、そこそこきついけど、ヒノカミ神楽を七時間くらい舞い続けるくらいには進化してるから、特に気にするほどじゃない。

 わずかな常中であれば、回復の方が優先されて、疲労は取り除かれる。

 

 と、不意に軽い衝撃を感じ取ることができた。

 

「ん?」

 

「むん!」

 

「ん!」

 

 目を開けてみるとそこには炭治郎と禰豆子の姿。

 どうやら珠世さんの診察が終わっていたらしい。

 

「おかえり、炭治郎。禰豆子。その様子だと問題はなさそうだな。」

 

 抱きついてきた炭治郎と禰豆子の頭を優しく撫でながら話しかければ、二人は無邪気な笑顔を見せたあと、くるりと踵を返して珠世さんと愈史郎のもとへと走っていく。

 そして、禰豆子は珠世さんを優しく抱きしめて、炭治郎は愈史郎の頭を撫で始めた。

 

「愈史郎さん。すごい表情になってますよ?」

 

「こいつらが馴れ馴れしくしてくるからだ!! お前の弟と妹だろ!? なんとかしろ!! 特に珠世様にひっついている妹をなんとかしろ!! もちろん弟の方もだからな!?」

 

「はいはい。」

 

 少しだけ面白くて笑っていると、愈史郎が炭治郎と禰豆子をなんとかしろと怒鳴ってきた。

 もう少しこのほっこりする景色を眺めていたかったが、すごい顔をしてるのが一名いるからな。

 

「炭治郎。禰豆子。こっちにおいで。姉ちゃんちょっと寂しいなぁ?」

 

「「!!」」

 

 二人のことを呼び寄せ……いやいやいやいや速すぎるわ二人して!!

 

「おっふ……」

 

 なんとなくおふざけで口にした言葉なんだが、二人は本気にしちゃったようで、竈門兄妹のサンドイッチになる私であった……。

 嬉しいし美味しいシチュエーションだけどね、竈門兄妹サンド。

 

「はは。ありがとうな。」

 

 まぁいいや。

 二人がギュッとしてくれるなら受け入れよう。

 役得だし。

 ぬっくいなぁ……。

 

「あの……優緋さん……。そのお二人は……。」

 

「ん?」

 

 竈門兄妹サンドにホクホクしていたら、珠世さんが不思議そうに声をかけてきた。

 ふむ……これは……どうして二人は自分たちの頭を撫でたり、抱きしめたりしたのかという質問がしたいのかな?

 

「ああ……多分、炭治郎と禰豆子は珠世さんと愈史郎さんが、家族の誰かに見えてるんだと思いますよ。」

 

 原作でも同じ質問をしてきたし、きっとこれが答えだろうと思いながら、抱きついてきている炭治郎と禰豆子の頭を優しく撫でる。

 すると二人はシュルシュルと幼子サイズになり、私に両手を伸ばしてきた。

 禰豆子の前にしゃがめば、彼女は私の背中にすぐに乗る。

 落とさないようにしっかりと支えて中腰になり炭治郎を引き寄せれば、彼は私の首のうしろに手を回してきた。

 

「落ちるなよ、二人とも。……よっこいしょ……っと。」

 

 それを確認して炭治郎を持ち上げれば、おんぶと抱っこで二人の子供の面倒を見るお母さんスタイルの出来上がりだ。

 

「……しかし、炭治郎さんと禰豆子さんにかかってる暗示は、人間が家族に見えるものでは? 私たちは鬼ですが……。」

 

 私が竈門兄妹を抱き上げているのを見届けた珠世さんが静かに口を開き、もっともな質問を口にした。

 

「そうですね。それは否定しません。しかし、炭治郎と禰豆子は二人を人間と判断していました。私の指示ももちろんありますが、二人の意思もしっかりとあったと思います。暗示という言葉に、多少なりとも抵抗があって、少しばかりどうなのか……と思ったりもしましたが、今回のことで確信できました。二人にはちゃんと本人の意思も宿っている。安心しましたよ。」

 

 穏やかな笑みと穏やかな声音で、珠世さんにそう伝えれば、彼女は綺麗な両眼からポロポロと涙をこぼし、その場に蹲ってしまった。

 ふと、言葉を発しない愈史郎に目を向ける。

 彼は、どことなく物思いにふけている。

 自分の過去を……珠世さんから伝えられたであろう言葉を思い出しているのだろうか。

 

 

 しばらくして……。

 

「私たちはこの土地を去ります。鬼舞辻に近づきすぎました。早く身を隠さなければ、危険な状態です。それに……うまく隠しているつもりでも、医者として人と関わりを持てば、鬼だと気づかれる時がある。特に子供や年配の方は鋭いです。」

 

 だいぶ落ち着いた様子の珠世さんが、自分たちのこれからを話してくれた。

 確かに、私を追ってきていた様子だったとはいえ、あの二体は間違いなく鬼舞辻から指示を受けて私を殺しにきていた。

 自分たちが標的ではなかったにせよ、今回の騒ぎで無惨が珠世さんに気がついていないと言い切れると問われたら、わからないとしか答えれない。

 かなり危険であるのは間違いないだろう。

 

「そうですね。それがよろしいかと思います。初対面であるはずなのに、私の特徴を知っていた時点で、軽く鬼舞辻と接触してしまった私のことを彼は記憶したということになりますから。」

 

 珠世さんの判断は正しい。

 そう思いながら同意の言葉を紡げば、彼女は私の名前を呼んできた。

 

「炭治郎さんと禰豆子さんは、私たちがお預かりしましょうか?」

 

 首を傾げながら珠世さんに目を向けてみると、彼女は炭治郎と禰豆子を自分たちが預かろうかと口にしてきた。

 ……愈史郎がすごい形相をしているのが視界に入るけど、うん、無視しておこう。

 

「絶対に安全とは言いきれませんが、戦いの場に連れて行くよりは危険が少ないかと。」

 

「…………。」

 

 珠世さんの言葉に黙り込む。

 彼女の判断は、きっと正しいものだと思う。

 戦いの場に出る私と一緒にいれば、必然的にあらゆる危険に晒されてしまう。

 場合によっては、一緒に行動を取る鬼殺隊の隊士に狙われる可能性もある。

 けど……

 

「ありがとうございます、そう言ってくださって。ですが、私は二人と一緒に行きます。大切な宝物……大切な家族を、もう二度と手放したくないし、離れ離れにもなりたくないので。」

 

 私は二人を連れて行く。

 原作の炭治郎もそうしたからじゃない。

 大切な家族を手放したくないから。

 それに……

 

「それに、この子たち、年齢とは裏腹にすっごく甘えん坊で、多少でも長い間私と離れ離れになっていると、かなり不安になってしまうようなんですよ。最終戦別の時も、眠ってる二人を師の元に預けて七日間離れていたのですが、戻ってみたら炭治郎がかなり泣いてしまっていて……。大切な家族の心労を少しでも減らすためにも、悲しませないためにも、私は二人を連れて行きます。」

 

 苦笑いをしながら珠世さんにそう伝えると、彼女はクスクスと小さく笑った。

 つられて私も笑っていると、炭治郎と禰豆子が二人して私に擦り寄ってきた。

 どことなく上機嫌だけど、落ちないようにと私に回してる腕は、離れないでという感情が感じ取れるものだった。

 

「……わかりました。では、武運長久を祈ります。」

 

「……じゃあな、俺たちは痕跡を消してから行く。お前らももう行け。」

 

 珠世さんが穏やかに、愈史郎がどことなく素っ気なく言葉を紡ぐ。

 

「ええ。もちろんそのつもりですよ。日が差しているので、二人を守るための箱を持ち次第すぐにでも。」

 

 私も二人には穏やかな声音で言葉を返し、二人を入れるための箱を取りに行くため行動を取ろうとする。

 

「優緋。」

 

 が、不意に聞こえてきた愈史郎の声に反応して彼をみてみると、愈史郎は背中を向けたまま

 

「昨夜の発言は撤回する。お前の妹は美人だよ。」

 

 呟くように、昨夜の発言の撤回を口にした。

 

「……当然ですよ。まぁ、珠世さんには及ばないと思いますがね。」

 

 だったらと彼に珠世さんには劣るだろうと返してやれば、愈史郎は小さく鼻を鳴らし

 

「当然だ。珠世様は誰よりもお美しい方なのだから。」

 

 大胆にも、本人の前で美しいという言葉を口にした。

 まぁ、すぐにハッとしては顔を真っ赤にして、あたふたと照れ始めたけどね。

 

 

 

 


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