目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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35.一旦落ち着かせて鬼の住処へ

「多少は落ち着いたか?」

 

「う、うん……ごめん……。」

 

 とりあえず善逸を黙らせるために物理で軽く殴ったら、ようやく彼は落ち着きを取り戻した。

 呆れたような目を向けるとごめんなさい……と謝罪するくらいにはなったのでひとまず安心か。

 

「全く。男ならもうちょっとシャキッとしなよ。なんであんな取り乱すかな……。」

 

「だって……俺すごく弱いから……。鬼となんて戦ってもすぐに死んじゃうに決まってるんだ。」

 

「最終選別越えてんのに?」

 

「むしろ最終選別で死ねると思ってたくらいだよ!! なのに運良く生き残るから恐怖ばかりの生き地獄に逆戻りだよ!! 女に騙されて借金したあげく借金を肩代わりしてくれた“育手”から地獄の鍛錬でしごかれただけでもいっぱいいっぱいだったし恐怖しかなかったのにさらに追い討ちでこの始末だよ!!」

 

 ギャーンッて効果音が聞こえてきそうなほどに発狂してる善逸に苦笑いをする。

 原作やアニメからすげぇ奴だなとは思っていたけど、リアルで見るとさらに凄まじいな……。

 

「ほらほら落ち着けって、な? あ、おにぎりあるけど食べる? なんか腹に入れたら多少は気が楽になるだろうし、な?」

 

「………食べる……。」

 

 あー……これからこいつのお守りもしないといけないのか……と少しだけ遠い目をしながらも、私は自身の荷物にある昼飯用のおにぎりを善逸に差し出した。

 

 善逸は包まれていたおにぎりを二つほど手に取り、むぐむぐとハムスターの如く頬張り始める。

 うん、多めに作っておいてよかった。

 

「そういや、名前言ってなかったね。私は竈門優緋。あんたは?」

 

「我妻善逸……。えっと……優緋ちゃんって呼んでいい?」

 

「もちろん。私もあんたのことを善逸って呼ぶから。」

 

 おにぎりで発狂が治まった善逸を見た私は、すぐにその場から南南東へと足を運ぶ。

 

「あ、待って待って待って待って!! 俺を置いて行かないで!?」

 

 すると善逸はすぐに私を追いかけてきて隣に並ぶ。

 

「そうは言われてもな。指令が入ってるから足を止めるわけにもいかないんだよ。少しでも鬼の被害を少なくするためにも大切なことだしな。もう、私みたいに鬼によって家族を失うなんて目に遭う人を出したくないし。」

 

 横に並んできた善逸に対し、私は一秒一秒が惜しいことを告げ、そのまま軽く早足で移動する。

 善逸は慌てて私のあとを追ってきていた。

 

 

 

 ……しばらくして。

 

「天王寺。ここであってるのか?」

 

「アア。指令ニヨルト ココニ鬼ガ巣食ッテルッテ 話シダ。」

 

「ふぅん……随分とご立派なご自宅に住み着いてることで。まぁ、確かに血の匂いもあるし、複数の鬼の匂いと、あまり嗅いだことない不思議な匂いも……」

 

「なんで平然と優緋ちゃんカラスと話してるの? っていうか匂い? 何か匂いする? それより何か音しない? ところで俺たち、やっぱり共同で仕事するの?」

 

「………質問多いな。仕方ないだろ。同じ場所にきたんだから。てか音って何?」

 

 互いに質問合戦をその場で行う。

 側から見たら緊張感のカケラもないような様子に見えなくもないかもしれない。

 実際は結構警戒してるし、善逸は震えてるけどな。

 

「ん?」

 

「「!!」」

 

 なんて考えていると、不意に二人分の人の匂いかしてきた。

 匂いの方へと目を向けてみると、そこには小さな男の子と女の子の姿が。

 確か……てる子と正一だったかな。

 

「……やぁ、こんにちは。」

 

「「こ……こんにちは……。」」

 

 登場人物の名前を思い浮かべながら、私は極力穏やかな声と笑みで二人に話しかける。

 二人はすぐにこちらの挨拶に言葉を返してくれた。

 

「フフ……ちゃんと挨拶できて偉いな。……私たちより先にここにいたみたいだね。少しだけ、何があったか話を聞いても? ああ、もし辛いようであれば、無理に話す必要はない。君らの思うように。」

 

 これは、手乗り雀をしなくても話をしてくれるかもな?と思いながら、極力緊張がほぐれるようにと穏やかな声音で言葉を紡いでいく。

 すると、二人は顔を見合わせたあと私の方を向き、その瞳からボロボロと涙をこぼし始めた。

 嗅ぎとれた匂いは安堵と恐怖と悲しみ。

 安堵はおそらく私に対して。

 恐怖は鬼、悲しみは兄に対してだろう。

 

「……この家は君らの家かい?」

 

 そんなことを思いながら、私は二人に質問する。

 二人はすぐに首を左右に振り、自分たちの家ではないと否定する。

 

「それじゃあ、誰の家かな?」

 

「……化け物の……家……です……!! 兄ちゃんが連れてかれた…!! 夜道を歩いてたら、俺たちには、目もくれないで、兄ちゃんだけ……!!」

 

 震えながら正一は、てる子を抱きしめつつも誰の家であるかを口にした。

 うん、勇気のある子だ。

 

「二人であとをつけてきたのか? 勇気ある子らだね。君らがいなかったら多分、私たちは気づけなかったよ。」

 

「………うう……兄ちゃんの……血の痕を辿ったんだ……。怪我してたから……っ」

 

 本格的に泣きそうになっている正一の頭を優しく撫でながら、私は大きな屋敷に目を向ける。

 だが、すぐに二人に視線を戻して、小さく笑いかけながら、

 

「大丈夫。私が……私たちが悪い奴を倒して、二人の兄ちゃんを助けるよ。」

 

 二人の兄貴を助けてくると言葉にした。

 

「ほんと? ほんとに……?」

 

「ああ。私は嘘は苦手でね。本当のことしか言わないよ。」

 

 てる子の問いかけに素直に頷いた私は、二人を同時に抱きしめて、ゆるゆるとその頭を撫でる。

 

「ねぇ、優緋ちゃん。」

 

 そんな中、善逸から声をかけられる。

 視線だけそっちに向けてみると、善逸は片耳を押さえて屋敷を見つめていた。

 

「この音、何なんだ? 気持ち悪い音……ずっと聞こえる。鼓か? これ…」

 

 混乱したように紡がれた言葉。

 善逸の表情はどことなく青い。

 不安が表に浮かんでる。

 

「音? 私には音なんて聞こえないけど……!!」

 

 そこまで言って、私は不意に感じ取れた近づいてくる血の匂いに気づき、慌てて正一とてる子の視界と聴覚を遮るように頭を抱き寄せる。

 同時に鼓の音が辺りに大きく一つだけ響き渡り、屋敷の中から一人の男性が血だらけで飛ばされてきた。

 

 ドシャリと地面に落下する音。

 あまり聞いていていい音じゃない。

 

「お、姉ちゃん?」

 

「どうかしたの? 何も聞こえないよ?」

 

「……君らが聞く必要も、見る必要もないものだよ。いいか? 私が大丈夫だと言うまで決して目を開けたら駄目だ。耳もしっかりと塞いでくれ。」

 

「「う……うん……。」」

 

 正一とてる子が混乱したように声をかけてきたため、私はすぐに二人は見る必要も聞く必要もないものだとごまかして、一旦耳を塞ぎ、しっかりと目を閉じるようにと声をかける。

 こちらの声音から何かを察したらしい正一とてる子は、小さく頷きながら、私の言う通りの行動をとった。

 それに少しだけ安心しながら、私は二人から離れる。

 念のために自分が上に羽織っていた羽織を、二人の頭からかぶせて。

 

「大丈夫……ではなさそうだな。何があったか話せるか? 話せないようなら口を開かなくていい。すぐに手当てを……」

 

「出ら…せっ…かく…」

 

「!」

 

 魂が抜けてしまったかのように固まる善逸のことは無視して、血だらけの青年に声をかければ、途切れ度切れに言葉を紡ぐ。

 

「あ…あ…出られ…たの…に…。外に…出ら…れた…のに……死…ぬ…のか…? 俺…死ぬ…の…か……?」

 

「っ………」

 

 その言葉にすぐに手当てをしようと、荷物から道具を取り出す。

 だが……取り出したところで、目の前の青年は目を閉じてしまう。

 イレギュラーが起きていてくれと願いながら心臓と脈に手を当てるが、鼓動は一つも感じれなかった……。

 

「………。」

 

 思わず拳に力が籠る。

 私が入ったところで、物語上で命を落としていく人たちはやはり死んでいく……。

 それが悔しくて、同時に不安に襲われて……。

 

 ……私は……本当に人を……助けることができるのか…………?

 

「………善逸。この人を、埋葬してやってくれ。私は、あの子らに話を聞いてくる。あの子らの兄貴がどんな特徴をしているのか……それがわからなければ、助けることはできない。」

 

 ぐるぐると不安がよぎる中、私は、善逸に目の前で命を落としてしまった青年の埋葬を頼む。

 善逸は私に心配そうな目を向けてきたが、最優先事項があるから、彼に目を向けることができない。

 

「……もう大丈夫だよ。ごめんな、急に目を閉じろなんて言って。……君らのお兄さんの特徴を教えてもらえるかな? 助けるためにも必要だから。」

 

「うん。兄ちゃんは、柿色の着物を着てる……。」

 

「柿色……そうか。わかったよ。」

 

 善逸が青年を正一たちの視界に入らないようにと移動させてくれたのを確認した私は、不安を押し殺しながらも、二人に兄貴の特徴を問う。

 すると、正一がすぐに兄貴の特徴を教えてくれる。

 私は小さく笑いかけて、二人のすぐ側に炭治郎と禰豆子が隠れている箱を置く。

 

「もしもの時のために、この箱を置いていく。何があっても二人を守ってくれるから。」

 

 そして、二人に炭治郎たちの詳細は話すことなく、もしもの時は守ってくれるからと伝えてから屋敷の方へと歩みを進める。

 

「ま、待ってよ優緋ちゃん!! 女の子を一人で行かせるわけには行かないから俺もいくよ!!」

 

 すると、それを追うように善逸がついてきた。

 彼に目を向けてみると、恐怖を感じている時に感じ取れる匂いがした。

 だけど、私についてくる意思もしっかりと感じ取れる。

 

「……ありがとさん。」

 

 小さく笑いながら感謝の言葉を述べると、善逸も小さく笑った。

 先程まで感じていた私に対する心配の匂いはまだしているけど、多少なりとも薄れているようだった。

 

 

 

 


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