目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
「ははは……こいつぁ、またとんでもない能力だことで……」
一部屋をぐるりと回す……そんなギミック、やってたRPGにあったな、なんて考えながらも、私はてる子を抱きしめる。
この次の展開を知っているから、少しでも彼女に痛い思いをさせないためにも、しっかりと守ってやらなくては……。
そう思いながら一時的に目を閉じて、五感を嗅覚に少しでも集中させる。
かなりの勢いで近づいてくる第三者の匂いがある。
鬼のものでもなく、善逸のものでもない。
もちろん、正一のものでもない。
来る!
そう考えた瞬間、聞こえてきた。
「猪突猛進!! 猪突猛進!!」
猪の頭を身につける、彼の代名詞である言葉が。
「さァ化け物!! 屍を晒して俺が強くなるため!! より高く行くための踏み台となれェ!!」
勢いよく姿を見せた彼は、目の前にいる響凱に向かってつっこんでいく。
刃が欠けた二刀を構えて。
「腹立たしい。腹立たしい……」
しかしすぐに響凱が鼓を叩いて部屋を回転させたため、彼の攻撃は届かない。
「いって!?」
ついでにいうと私は蹴られた。
おかしいな、私てる子の側にいたからその蹴りは入らないはずなんだけど……赤くなってないよな?
かなりの強さで蹴り飛ばされたけど……。
青痣になったらヤバいんだけど。
いや、私は別に大丈夫だけどさ、青痣に気づいた炭治郎と禰豆子が彼に……嘴平伊之助に襲いかかりかねない……。
「腹立たしい……!! 小生の家で騒ぐ虫共……!!」
青痣になった際の炭治郎と禰豆子のお怒り様を脳裏に描いていると、連続で鼓が叩かれる。
その度に部屋はぐるぐると周り、少しばかり酔いそうになる。
が、てる子だけはしっかりと抱きしめながら、回転する部屋に合わせて移動しているから、この子が怪我を負うことはない。
「大丈夫か、てる子ちゃん?」
「うん……でもお姉ちゃん……腕……。」
「ああ……大丈夫だよ。確かにあの猪頭に蹴り飛ばされたけど、問題はないから。」
少しだけ泣きそうになってるてる子の頭を優しく撫でながら大丈夫であることを伝える。
安堵している様子ではあるが、燻る心配の匂いは消えない。
「アハハハハハハハハハハ!! 部屋がぐるぐる回ったぞ!! 面白いぜ!! 面白いぜェ!!」
「めちゃくちゃだなこいつ……。」
心配かけちゃったな、と少しだけ反省しながらも、私は伊之助と響凱の様子を見つめる。
彼はこっちに目もくれず、何度も何度も響凱に襲い掛かる。
「虫め。消えろ。死ね!!」
「ほっ。」
が、不意に血鬼術の独特な匂いが近づいてきていることに気づいたため、すぐにその場で後退するように飛ぶ。
同時に私がいた場所には、三本の爪痕のような裂傷が発生した。
……血鬼術の匂いを感じ取ることができるこの体質、やっぱりすごいな。
「いいねいいね!! アハハハ!!」
……相変わらず楽しそうだな。
呆れを抱きながら伊之助を見つめていれば、再び彼の足元に裂傷が走る。
まぁ、伊之助は躱したけど。
と、思いながら次の展開に備えててる子を抱きしめる。
再び発生する部屋を回転させる鼓の音。
注意深く響凱を見つめていれば、回転と鼓にある規則性がわかる。
「虫め……虫けら共め……!!」
その規則性に合わせてあたりを飛び回れば、背中を打つことなく着地することができる。
私もてる子もノーダメージで全てをやり過ごせる。
さて……そろそろまた移動すると思うんだけど……。
そう思った矢先に、複数回の鼓の音が辺りに響いた。
その音に合わせて部屋が次々に変わっていき、とある一室で変化が止まる。
部屋の中央には机と一人分の座布団が。
「……ようやく止まったな。」
「お姉ちゃん……」
「大丈夫。私がついてるから。」
不安そうに話しかけてくるてる子に、何度めかわからない大丈夫を伝え、部屋を移動……する前に、一応先程伊之助に蹴り飛ばされた腕を確かめるために隊服の袖を託し上げる。
「………よかった、赤くもなってないし痛みもない…。それがあったら間違いなく炭治郎と禰豆子に怒られていたし、伊之助が危なかったかもしれない……。」
そこには痛みもなく、赤くもなっていない無傷の腕があった。
少しだけ安堵する。
炭治郎と禰豆子は怒ったら怖いからな……。
「腕に問題はなしっと。それじゃあ、一旦移動しよう。てる子ちゃん。私の後ろにいてくれ。私が先行して、問題はないから確かめてから動くから。」
「うん!」
そう思いながらてる子に声をかければ、彼女は笑顔で頷いた。
何があろうとも、私がしっかりと守ってくれると判断しているのか、安心しているようにも見える。
そう思ってくれているとわかると、結構気分が違うもんだ。
まぁ、同時にこの子をしっかりと守らなきゃいけないけどね。
「じゃあ行こうか。」
移動するために立ち上がり、近くにあった襖に手をかける。
が、血の匂いには気づいているので、まずは私だけが廊下に顔を出した。
そこにはまぁありましたよ。
喰い散らかされている人の遺体が。
「お姉ちゃん?」
「……悪い奴はいないみたいだから部屋を出よう。ああ、廊下に出たら振り返らずに、真っ直ぐに前を向いて移動するよ。」
溜息を吐きたくなる中、不思議そうに声をかけてきたてる子に対して、優しく声をかけながら廊下に出た私は、すぐに振り返っても私しか視界に入らないようにと背後で彼女を守りながら歩いた。
……少しして、廊下を歩いて回っていると、独特な匂いが感じ取れた。
匂いの強さからして、血の量は少ない。
そこまで理解した私は、てる子に目を向けて静かにするようにジェスチャーで伝える。
てる子はすぐに頷いてくれた。
うん、いい子だ。
そう思いながら頭を優しく撫でる。
そして、すぐに血の匂いがする襖に手をかけ、勢いよくそれを開くと、柿色の着物を着ている鼓を持った少年と目があった。
少年が慌てて鼓を叩こうとする。
「清兄ちゃん!!」
「!!」
が、てる子の声に反応しては、その手を慌てて止める。
「お兄ちゃん!! お兄ちゃん!!」
「てる子……!!」
自分の兄であることに気づいた妹と、自分の妹であることに気づいた兄。
てる子が兄である清に抱きつく様子を見ながら、私は小さく笑みを浮かべるのだった。