目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
(右肩が右回転、左肩が左回転。右脚が前回転で、左脚が後ろ回転。そんで腹の鼓は裂傷攻撃っと……よかった。原作通りだな。)
連続的にあらゆる攻撃や回転が発生する中、冷静さを欠くことなく鼓と規則的に連動するものを分析して、その全てを躱していく。
かなりのスピードがあるため、すごく酔いそうになりながらも。
全ては清たちを助けるため。
炭治郎と禰豆子に心配をかけないようにするため。
さて、どのようにしてこの状況を打破すればいいのか……。
回転も斬撃も慣れてきたけど、技を打つタイミングがちょっと難しい。
ちょうどいいタイミングがあればいいんだけど……。
そう思っていると、回転と斬撃が速くなってきている気がした。
いや、気がするじゃない。
マジで速くなってるし、爪の攻撃も激しさを増している。
鼓の音には苛立ちが含まれているようだ。
自身のストレスをぶつけるように、自身の苛立ちを少しでも紛らわせたいというように……まるで八つ当たりのようだった。
(そういや、響凱は元々小説を書いていたんだっけ? でも、つまらないとか塵とかボロクソに言われた挙句、文を書くのはやめた方がいいと言われた。さらには、この屋敷に閉じこもって趣味の鼓でも叩いとけば、とか言われて、その腕も人に教えることなんて到底できるほどのものじゃないと告げられた。努力して書いたものも踏みつけられて……それで……。)
ふと、原作の知識を思い起こす。
この時に響凱がどのような状況だったのか脳裏に描きながら、回避ばかりを続ける。
よくよく考えたら、現代で言うある種のパワハラだ。
「消えろ虫けら共!!」
“尚速 鼓打ち”
怒鳴り声と共に、かなりの速さで連続して鳴り響く鼓の音。
その音に合わせるように、何がなんだかわからなくなるほどの超スピード回転する部屋と、三本から五本へと増えたことにより、範囲が大きくなる裂傷攻撃。
少しだけ無理をしながらも、私はなんとかそれを耐え切る。
そんな中、ひらりと机から、数枚の原稿用紙が落下する。
「あ。」
回転がある程度落ち着き、畳の上に着地しようとする中、それが見えた私はすぐに原稿用紙を踏みつけないように、その場に静かに降り立った。
「!!」
一瞬の動揺が響凱に走る中、私はその原稿用紙を拾い上げる。
綺麗な文字で綴られている物語だ。
どんな内容なんだろうか?
そんなことを思いながら文字を見つめる。
鼓の音は響かない。
「………なるほど、これ恋愛物語か。こっちは……うーん……推理ものっぽいな。」
それをいいことに、私はその原稿用紙をただひたすらに見つめて目を通す。
恋愛はベタな展開だけど、だからこそ読みやすくもある。
推理ものの方は、なかなかトリックが考えられていて、結構のめり込みそうだ。
「……これ、全部あんたが書いたのか?」
「……ああ……。」
「ふぅん。なるほどねぇ……。」
しばらくの間無言になる。
私は原稿用紙に記されている内容を読み続け、響凱は戦闘を放棄してまで小説を読み漁る私に呆気にとられたような状態で。
「……なかなか面白いじゃん。王道展開の物語も、ひねりにひねった物語も。私は結構好きだな。まぁ、仮に面白くなくても、小説なんか書くこともできない私がどうこう言えるものじゃないけど。」
「………!」
そんな中、小説を読んでみた感想を素直に口にしてみれば、響凱は目を丸くして驚いた。
だが、すぐに表情を戻しては、ゆっくりと私に近寄ってくる。
彼からは敵意の匂いが消えていた。
「小生の書いたものは……面白かったか……?」
「ああ。まぁ、小説とかに詳しい奴らから見たらどうかはわかんないけど、少なくとも物語を読むだけの側からしたら、おもしろいと思えるよ。まぁ、私だけかもしれないけど。にしてもすごいな、あんた。だって、一つの物語だけじゃなくて、いろんな種類の話を書いていたんだろ? 書けない側からしたら尊敬できるね。いろんな種類の話を考えるのって、かなり難しいはずだから。」
「そうか……。」
素直に面白かったことを告げれば、響凱は隣にどすんと座る。
「小生の鼓はどうだった?」
「鼓? 血鬼術のこと?」
「……ああ。それも含めて………。」
「そうだなぁ……。」
彼が口にしたのは、鼓や血鬼術の評価はどうだったかと言うものだった。
ふむ……正直な評価を言っていいんだよな?
「血鬼術も凄かったし、鼓をあそこまで速く叩けるのもすごいと思った。それぞれの鼓と連動する攻撃をしっかりと把握して、あらゆる特性を組み合わせながら高速で使うなんて、並大抵の奴じゃできないと思う。まぁ、人を殺していると言う事実だけは、鬼狩りとしても、人としても許せないと思ってるけど……それ以外はすごいとか、凄まじくて驚くと同時に感心したと言えるかな。」
それならと、素直な感想を口にしてみれば、再びそうか、という小さな呟きが聞こえてきた。
随分と穏やかだったなと思い、響凱の方へと目を向けると、彼は穏やかな笑みと、安堵したような雰囲気を纏ってこちらを見つめていた。
「それが聞けてよかった……。小生の書いた物は、少なくともお前にとっては踏み付けにするような物ではなく、おもしろい物だった。小生の鼓も、血鬼術も……お前がすごいと認める物だった。ああ、それだけがわかれば、小生も悔いはない……。ありがとう……。」
「………そうか。ああ、その通りだよ。少なくとも私の心には響くものだった。でも、人を殺しているのだけは許せないものだ。」
「ああ。それはわかっている。」
響凱が静かに目を閉じる。
頸を斬られることに抵抗はしないと教えるように。
……原作知識があったからこそ、出てきた行動だったんだが、そうであっても、響凱の悔いや心を多少なりとも救うことはできたようだ。
「……あんたの来世はいつになるかわからない。でも、この先罪をしっかりと精算して、新たな命として生まれ落ちた時、もしも、この時代でのあんたのように物語を書くという趣味ができた時、少しでも多くの人に、あんたの物語は面白いものだと言ってもらえるように願ってるよ。」
それなら、彼にはこの型による最期で構わないだろう。
せいぜい来世では間違った方向にいかないようにと願って放つ。
“水の呼吸 伍ノ型 干天の慈雨”
水の呼吸のみに存在している慈悲の剣。
斬られた対象は殆ど痛みを感じることなく、優しい雨に打たれているような、そんな感覚を感じながら、穏やかに永遠の眠りにつく。
響凱からは感謝の匂いがした。