目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
「……………。」
「「…………。」」
善逸が禰豆子を見て固まって数分。
私たちは無言で善逸のことを見つめながら首を傾げる。
「う゛〜………。」
あ、いや、炭治郎だけは違った。
かなり拗ねたような、ちょっと怒っているような、警戒しているような唸り声を上げながら、私と禰豆子のことを抱きしめている。
「ヒィッ!! な、なんだよ……!! なんでそんな警戒されてんの俺ェ!?」
流石に善逸も炭治郎の不機嫌な唸り声や、不満を感じ取ったようで、小さく悲鳴を上げていた。
「あ〜……それは多分あれだ。ずっと私が背負ってた箱の中で善逸の声……というか、私に対する求婚を聞いていたからちょっと怒ってるんだと思う。ついでにいうと、道端であったあの女の子が駄目だったからとすぐに私の方に求婚してきたことも原因かもな。姉ちゃんと禰豆子に近寄るなって感じだと思う。」
「冷静に分析しないでよ!! 大丈夫!! 大丈夫だから!! 俺は別に優緋ちゃんに夜這いをかけようとか思ってないから!! ただ、ちょっと話に来ただけなんだよ信じてくれよォーーーーッ!!」
私の冷静な説明を聞いて、善逸がガタガタと震えながら弁明する。
「…………む。」
すると炭治郎はじーっと善逸を見つめたあと、納得したように頷いた。
「警戒が解かれたな。で、話ってなんだ……って聞かなくてもいいか。どうせ、この子らのことだろうしね。」
炭治郎が警戒するのをやめたのを確認した私は、善逸に話は、炭治郎たちのことだろうと問いかける。
善逸はすぐに小さく頷いては、私の部屋にそろりそろりと入っては、ある程度の距離を置いてちょこんと座る。
「どうして……優緋ちゃんは鬼を二人連れて歩いてるのかなって。えっと……」
「弟の方が炭治郎。妹の方が禰豆子だ。この中じゃ、禰豆子が一番年下で十三歳。炭治郎は私の二つ下の十五歳だよ。」
「そっか。じゃあ、改めて……なんで、優緋ちゃんは、鬼である炭治郎と禰豆子ちゃんを連れて歩いてるの? 鬼は人を喰うって聞くし、危なくないの?」
なんと呼べばいいか戸惑っていた善逸に二人の名前を伝えれば、彼は小さく頷いたあと、改めて炭治郎と禰豆子についての質問をしてくる。
まぁ、別に聞かれても困るものでもないし、話を聞いてもらっている方が楽だから、私は素直に話すことにした。
「実は……」
二年前、自分が自宅を開けている間に鬼に襲撃されてしまい、母親と、四人の兄弟を失ったこと。
唯一炭治郎と禰豆子の二人だけがまだ息があったし、わずかな温もりもあったため、二人を助けるために町に向かったこと。
その際、目を覚ました炭治郎と禰豆子が私を襲ってきたこと。
それにより二人が町の知り合いから話に聞いていた人喰い鬼となっていたことに気づいたこと。
どうすればいいかわからず、炭治郎と禰豆子にひたすら呼びかけていたら、急に二人は涙を流し始め、動きを止めたこと。
ゆっくりと近づいて抱きしめてあげたら、一瞬襲いそうな素振りを見せたけど、それを堪えた上、すぐに縋るように泣きついてきたこと。
その一部始終を見ていたらしい鬼殺隊の隊士から、弟と妹を人に戻す方法は、鬼なら知っているかもしれないから、必然的に鬼と関わることが多くなる鬼殺隊に入るのはどうかという提案を受けたこと。
それならと、その提案にのり、その鬼殺隊隊士の知己である育手の元へ向かい、二年間修行を積んだこと。
そして、最終選別を乗り越えて今、この場所にいること……その全てを包み隠さず。
「と、まぁ、これが私の鬼狩りになるまでの過程だな。」
「そうだったんだ……。じゃあ、二人と一緒にいるのは……」
「そうだなぁ……この二人が私がいなかったらギャン泣きしてしまうってのもあるけど、主な理由として挙げるならば私は炭治郎と禰豆子が大好きで、自分の命よりも大切な宝物だと思ってるからだね。片時も手放したくないんだ。もう、大切な家族を失いたくない。」
小さく笑いながらそう告げれば、善逸が黙り込む。
私はそんな彼を気にすることなく、炭治郎と禰豆子の頭を撫でる。
二人はそれが嬉しかったのか、上機嫌に擦り寄ってきた。
……善逸は、思わず優緋に見惚れてしまう。
穏やかな笑みを浮かべながら、慈愛に満ちた視線を大切な弟と妹に向けて、二人分の頭を優しく撫でる彼女の姿が、あまりにも綺麗だったために。
彼の耳には心地よいほどの優しい音が聞こえている。
それは紛れもなく目の前で弟妹を慈しむ優緋から聞こえてくるものだった。
同時に彼の耳には、穏やかで明るい音が二つ聞こえていた。
鬼でありながらも人のような、心温まるような音。
これは、自分たちを大切にしてくれている大好きな姉に対して、炭治郎と禰豆子が鳴らしてるものだ。
三人の音はとても綺麗だった。
互いに互いを思いやっているからか、一つの音楽を奏でているようだった。
三人が揃わなければきっと聞くことなんてできない、聞き惚れてしまうような音。
聞いているだけで心温まるようなそれは、善逸の心も和ませる。
しかし、そんな中でも善逸はある邪なことを頭の片隅で考えていた。
それは、優緋と禰豆子のどちらを嫁に貰えばいいのかという、彼らしい下心満載の悩みだった。
大人しそうで愛らしく、女の子と言えばこの子!と言えるくらい清楚な少女禰豆子。
姉御肌と言えば良いのか、言葉遣いはどことなく荒々しくもあるが、その内には誰よりも優しい愛と心を持ち合わせている少女優緋。
全くの正反対でありながらも、それに相応しい魅力をその身に宿している二人の少女の登場は、まさに彼にとって喜ばしくも悩ましいできごとだった。
(アアアアアア!! 禰豆子ちゃん可愛い!! おしとやかで女の子らしくて守ってあげたくなるような女の子だ!! この子みたいな女の子と結婚したら絶対に楽しいと思うんだよなぁ!! でもでも、優緋ちゃんみたいな姉さん女房ってのもかなりありだと思うんだよね俺!! たまにちょっと怖いし、怒らせたらきっとひとたまりもないんだろうけど優しいのは変わらないし! こんな女の子がお嫁さんに来てくれたら時には思いきり甘やかされたりするかもなぁ!! ああ、でも逆に甘えられるのも最高では!? これから俺、どっちに告白したらいいんだろう!? どっちも良すぎて悩んじゃうんだけど!!)
「…………う〜……。」
善逸がろくなことを考えていないと思ったのか、炭治郎が小さく唸り声を漏らす。
しかし、今まで経験したこともない状況に自分の世界へハイテンショントリップしている善逸は気付いていないのか、優緋と禰豆子を見ながら顔を真っ赤にして悶えていた。