目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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46.到着、那田蜘蛛山

 歩き続けること数時間。

 空はすっかり夜の帳が降りてしまい、真っ暗闇となってしまった。

 一応、月明かりはあるから完全な暗闇ではないけど、この状態で山の中での戦闘は、なかなか難しいかもしれない。

 見えないことはないけれど。

 

「待ってくれ!! ちょっと待ってくれないか!? 怖いんだ!! 目的地が近づいてきてとても怖い!!」

 

「……なに座ってんだこいつ。気持ち悪い奴だな。」

 

「お前に言われたくねーよ猪頭!!」

 

 那田蜘蛛山に近づくにつれて、善逸の足が遅くなり、とうとう座り込んでしまう。

 それにドン引きする伊之助に対して、ギャンギャン善逸は吠えている。

 ……この時、炭治郎は黙って二人の側で呆れたようにたたずんでいたが、私は二人を無視して行動に移していた。

 一人くらいは助けてもいいだろう。

 そう思いながら、那田蜘蛛山の入口へと一人走っていく。

 

 背後から善逸が待ってとか言ってるけど気にしない。

 早くしないと、一人また死んでしまう。

 

「いた。」

 

「!! たす……」

 

 少しだけ走れば、入口付近で倒れている鬼殺隊の隊員がいた。

 彼は、私を視界に入れた瞬間、大きな声で助けてという言葉を紡ごうとする。

 が、それでは操り鬼にバレてしまうため、すかさず静かに、のジェスチャーをした。

 私のジェスチャーの意図に気づいた彼は、すぐに口をつぐみ、ゆっくりと頷く。

 

 それを確認した私は、急いで彼に近寄っては、月光により軽く光っている糸を日輪刀で斬り裂き、急いで那田蜘蛛山近辺から離脱する。

 

「大丈夫だったか?」

 

「あ、ああ!! ありがとう!! 助かったよ!!」

 

 ある程度離れた場所にまで連れていき、話しかけてみれば、彼は目に涙を溜めながら助かったと感謝を述べてきた。

 

「ゆ、優緋ちゃん!! どうしたのその人!?」

 

「あ? 随分とボロボロだなこいつ。」

 

「那田蜘蛛山の入口付近にぶっ倒れてた。情報を聞くために助けて連れてきたんだよ。……なにがあったか、話を聞いても?」

 

「ああ……!!」

 

 少しして善逸と伊之助が合流したため、私は連れてきた隊員になにが合ったか説明してほしいことを告げれば、彼はポツリポツリと話し始めた。

 

「鴉からの指令を聞いて、何人かの隊員が那田蜘蛛山に足を運んだんだ。それで、鬼を倒そうと山の中に入ってしばらく歩いて……。そしたら、急に隊員同士が斬り合いになったんだ……!! 最初は混乱した……。だけど、よく見たら糸みたいなものが斬りかかってきた隊員には繋がっていた!! 間違いなくあれが原因だ……!! 君が糸を斬ってくれなかったら、きっと俺も……今頃……!!」

 

 わずかに体を震わせながら、状況を説明してくれた隊員。

 

「教えてくれてありがとう。少しでも情報を知ることができたから、多少なりとも対策が取れる。……あんたは、すぐにこの場から撤退を。あとは任せて。」

 

「ああ……気をつけてくれ!!」

 

 そんな彼に感謝の言葉を伝えれば、隊員は気をつけてと一言口にして、その場から立ち去っていく。

 

「……じゃあ、行こうか。確かに怖いし、不安はあるけど、今動けるのは私たちなんだから。」

 

「うう……本当に行くの……?」

 

「ああ。」

 

「おっしゃあ!! じゃあ、この伊之助様についてこい!!」

 

「はいはい。……善逸、行こう。」

 

「……ゆ、優緋ちゃんが行くなら、わかったよ。」

 

 それを確認した私たちはすぐに那田蜘蛛山の入口から山道の方へと足を運ぶ。

 鬼を狩る剣士として戦うために。

 

 

 

 ……しばらくして、山の中に入った私たちは辺りを見渡す。

 出入口付近の戦禍は、今のところ落ち着いているらしい。

 

「……うっ……すごい匂いがする。かなりの刺激臭だ……。」

 

「だ、大丈夫?」

 

 少しだけ嗅覚を使えば、つんとくるような匂いを感じ取れた。

 善逸から心配げな目を向けられ、炭治郎はすぐにでも外に出ようとしているのか、箱をカリカリと引っ掻いてる。

 

(なんとも言えないこの匂い……あの毒蜘蛛鬼だよな……。)

 

「……善逸。君に今から酷なことを頼む。」

 

「え……!?」

 

「悪いけど、こっちの方角からとんでもない刺激臭がするんだ。多分私じゃ手に負えない。かなり離れてはいるけど、それであっても辛いとなると、こっちの鬼に挑んだところで、私は足手纏いにしかならない。」

 

 善逸から絶望と恐怖の匂いがする。

 そりゃそうだ。

 鬼と戦うことが怖いと公に言っているはずなのに、一人で強い鬼と戦えなんて言われたら誰だってそうなる。

 

「……ま、まじで…………?」

 

 泣きそうな声。

 だけどこればかりは彼に頼まなくてはならない。

 それだけ、風に乗って流れてくる匂いはかなりきついのだから。

 

「頼む……善逸にしかお願いできないんだ。」

 

「う……わ、わかったよ……。女の子のお願いは断れないし……。」

 

 善逸に毒蜘蛛鬼を倒してきて欲しいことを口にすれば、彼は渋々といった雰囲気で、毒蜘蛛鬼の討伐を引き受けてくれた。

 うん、助かった。

 

「ありがとう、善逸。お礼としちゃなんだけど、今度の休みの時に一緒にどっかに出かけよう。適当に町とかぶらついたり、茶屋にいってお茶したりしないか?」

 

「え、ほんと!? よっしゃやる気出てきた!! 絶対に倒してくるから待っててね!! 絶対!! 絶対だからね!?」

 

「あーはいはい、わかってるって……」

 

「本当に絶対の約束だからね!? 行ってくる!!」

 

 それなら多少なりともご褒美になるものを、と思って口にした言葉は善逸に効果抜群だったらしい……。

 私が指差した方向へと勢いよく走っていった。

 まぁ……彼のことだから鬼と対峙した瞬間、一気に感情が変化するんだろうけど……。

 というか、善逸、扱いやすいな。

 逆に心配になってきたわ……。

 

「急に走り出してなんなんだあいつ。意味わかんねー……。」

 

「まぁまぁ……。とりあえず、私たちも行こう。刺激臭のせいで、どこに鬼がいるか特定しづらいんだ。複数の鬼の匂いが混ざってるから、複数体この山には潜んでるのは確定してるんだけど……。」

 

「ふぅん? まぁいいか。紋逸は放っといてさっさと行くぞ優緋。」

 

「善逸。善逸だから。彼の名前は善逸だから。」

 

「なんだっていいっつのそんなの。」

 

 よくねーよ……。

 

 

 

 

 


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