目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
再び歩いていると、人の匂いがした。
匂いの方を向いていれば、そこには村田がいた。
「すみません。」
「!!?」
私が静かに声をかければ、村田はびくりと体を震わせ、警戒するような姿勢を見せる。
が、鬼殺隊の剣士であることがわかったのか、多少なりとも落ち着いた様子だった。
「応援として呼ばれました。鬼殺隊階級癸、竈門優緋です。」
警戒が薄れた様子を見計らって、自身の階級と名前を口にする。
その瞬間、村田から絶望や、怒りと言ったマイナスの感情の匂いがした。
「言わんとしていることはわかります。一番下の階級がいくら集まってもこの状況は打破できない……でしょ?」
「な!?」
次に降ってくる言葉がなんなのかは原作で知っている。
匂いからもよくわかる。
だから私は彼が言葉を発する前に言葉を紡ぐことで彼からの罵倒を遮り、同時に冷静さを取り戻させるための言葉を口にする。
「確か、鬼殺隊には柱と呼ばれる者がいるんですよね? 呼吸を教えてくださった恩師から聞いています。甲以上の剣士であり、なおかつ強い鬼も弱い鬼も多く狩っているのだとか……。そんな強い剣士が来てくれたら、こんなことにはならないのに……とあなたは言いたいのでしょう? 気持ちは分からなくもありません。ですが、この状況が伝わるのに時間がかかるとしたら?」
「…………。」
「私が言おうとしていること、わかりますか?」
「…………ああ。すまない。お前らに当たるところだった。そうだよな……状況が伝わるまでに時間がかかる可能性を考えてなかった。ありがとう。多少冷静になれたよ。」
静かに嘘を織り交ぜながら言葉にすれば、ようやく村田が落ち着いた様子を見せた。
その姿に小さく笑う。
とりあえず村田が殴られることはなくなったな。
「話は、なんとか那田蜘蛛山から脱出した隊員の人から聞いています。山にやってきた十人ほどの隊員が、山の中に入ってしばらくしたら斬り合いになったそうですね。彼曰く、糸が斬りかかってきた剣士についていたとのことです。その糸はきっと鬼の血鬼術です。どうやって取り付けているのかはまだ判断しかねますが。」
そう思いながら、私は状況はすでに把握していることや、何が原因でその状況に陥ってるのかを説明しては、ある方向へと目を向ける。
そこにはゆらりゆらりとこちらに近づいてきている人影があった。
「えっと、あなたの名前は?」
「え、あ、む、村田……。」
「そうですか。では、村田さん。剣を構えてください。操り人形にされてる人が近づいてきていますので。」
「は!? ど、どこから……」
「こっちからですね。」
「っ!!」
それを村田に伝えれば、すぐに彼は刀を構えて立ち上がる。
「伊之助。あんたは、鬼の位置を探れるような力は持ってる?」
「あん? まぁ、ないこともないがそれがなんだよ。」
「じゃあ、今から伊之助にしか頼めないことをお願いする。私じゃどうにもできないから、伊之助だけが頼りなんだ。お願いできる?」
「……フンッ、まぁ聞いてやらなくもねえよ。お前がどうしてもってんならな!!」
「ありがとう。……お願い、伊之助。鬼の位置を探って!!」
それを確認した私は、すぐに伊之助にしかどうしても頼めないことがあると口にしては、彼に鬼の位置を探って欲しいことを告げる。
「よっしゃ。子分のためならしかたねぇ!!やってやるよ!! 邪魔だけはすんなよ!!」
「わかってる。ついでに邪魔をしそうなのがいたらそいつを倒しとくよ。」
「それでこそ子分だな!」
“獣の呼吸 漆ノ型 空間識覚!!!”
自身の二刀を地面に突き刺し、集中する伊之助に一度目を向けた私は、早めに見つけることができると軽く安堵しながらも、すぐに村田に目を向けた。
「村田さん!! 基本的に操られている人の背中には糸があります!! それを斬ることができれば、しばらくは多分動きません!! 人一人を操るためにはそれなりに多めの糸が必要になるはずだから、糸をつけるのに数秒間の時間の間があると思います!!」
「わかった!! 背中だな!!」
糸を使って操られているのであれば、糸をまずは斬り続けることが必須事項であることを村田に伝えれば、彼はすぐに襲ってきた隊員の背中に回り込み、背中の糸を斬る。
すると、隊員はすぐにその場に崩れ落ち、動かなくなった。
私はというと、集中している伊之助に攻撃をしようとしてくる隊員の糸を片っ端から斬っていく。
「本当に君は癸の隊員なのか!? 明らかに俺より動きが速いんだが!?」
「癸ですよ。まだなったばかりの鬼狩りです。」
「こ、今年は随分と実力のある隊員が入ったんだな……。俺の時は冨岡がそうだったけど……。」
「義勇さんの妹弟子ですよ一応。」
「そりゃ強いわ!! ああクソッ!! なんで当たり散らそうとしたんだよ俺!! 時間戻せるなら当たり散らそうとした自分ぶん殴りてぇ!!」
「あ、そうそう。ここら辺うろついている小さい蜘蛛にご用心。糸の取り付け係みたいなので。」
「サラッと言うなよ!! 助かったけど!!」
くだらない会話をしながらも辺りにいる操り人形にされている人の糸のみを斬っていく。
しかし、不意に上空に気配を感じ取ることができたため、私は操られていた人の糸を斬り、その体を思いきり蹴り飛ばした。
死体蹴りになったのは申し訳ない。
そんなことを考えながら上空を見上げてみれば、そこには小学生後半から中学生くらいの少年がおり、私たちを見下ろしている。
「僕たち家族の静かな暮らしを邪魔するな。……お前らなんてすぐに、母さんが殺すから。」
私と目があった少年鬼、累が静かな声音でそう告げる。
「オラァ!!」
そんな累を見つめていると、伊之助が急に累目掛けて跳躍し、日輪刀を手にして斬りかかった。
しかし、その攻撃は届くことなく、伊之助はすぐに落下してくる。
「くっそォ!! どこ行きやがるテメェ!! 勝負しろ勝負!! 何のために出てきてんだうっ!!」
「……あんな高いところに届くわけないっての。」
地面に背中を思いきり打ち付けた伊之助に、呆れながら声をかけ、すぐに彼の元へと駆け寄ると、急にガバッと起き上がった。
「お前が言ってた別の鬼は見つけたぞ!! あっちにい……って、なに固まってんだ? 変な奴だな。」
「あんたが急に起き上がったからびっくりしたんだよ。」
キョトンとした顔で私に声をかけてきた伊之助にツッコミを入れながらも、私は軽く息を吐く。
「村田さん。」
「言わなくてもいい。ここは俺が引き受ける!! 糸を斬ればいいことがわかったし、ここで操られている者たちの動きは単純だ。蜘蛛にも気をつける。これなら、俺一人でも何とかなると思う!! だから、君は猪と一緒に本元へ向かってくれ!! 鬼の近くにはもっと強力に操られている者がいるはずだ!」
「………ありがとうございます。ご武運を。伊之助。」
「ああ。行くぞ優緋! 親分についてこい!」
静かに村田の名前を呼べば、彼はすぐに私と伊之助だけで本元に行くようにと告げてきた。
それに感謝の言葉を述べた私は、伊之助の案内を基に、操り鬼の元へと急ぐのだった。