目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
「ギャァアアアアアッ!!」
「!」
空気中にある匂いを嗅ぎ分けながら那田蜘蛛山を移動していると、悲鳴とも断末魔とも取れるような耳を劈く声が聞こえてきた。
足を止めて声の方へと目を向けてみると、そこには繭鬼と少年鬼……累の姿があった。
「……何見てるの? 見せ物じゃないんだけど。」
無言で二人を見つめていると、累が静かに言葉を紡ぐ。
彼の近くにいる繭鬼の指の隙間からは斬りつけられたことにより顔にできた裂傷が治る様子が窺える。
「……取り込み中悪かったな。だが、あえて邪魔は続けさせてもらおうか。何してんの、こんなとこで? 君ら、仲間じゃないのか?」
それを見た私は、いつもの調子で累に話しかけながら、何をしてるんだと問いかける。
まぁ、原作のこともあるから、お仕置きのようなものであることは理解しているが……これだけ恐怖、憎悪、嫌悪の匂いが混ざり合っていると、流石に止めざるを得ない。
無視することもできたけど、な。
「仲間? そんな薄っぺらなものと同じにするな。僕たちは家族だ。強い絆で結ばれているんだ。それに、これは僕と姉さんの問題だよ。余計な口出しするなら刻むから。」
軽い敵意を累から感じる。
だからと言ってこの場から去るつもりは毛頭もない。
炭治郎のポジションだからじゃない。
累には、早く、本当の家族の暖かさってのを思い出して欲しいから。
とはいえ、彼が話を聞いてくれるとは思えない。
炭治郎や禰豆子、珠世さんや愈史郎、そして響凱のように、言葉を交わせる鬼なんてものは、きっと例外だ。
特に、下弦とはいえ十二鬼月となると衝突は避けられない。
「それならあえて口を挟もうか。攻撃してくるのならご勝手に。それ相応の対応をするだけだ。……家族や仲間ってのは強い絆で結ばれてりゃそれだけで等しく尊いものさ。血の繋がりがなけりゃ薄っぺらいなんてことはない。それと、強い絆で結ばれてる相手同士ってのは信頼の匂いがハッキリとするし、見てるだけでも暖かくなるもんなんだよ。でも、君らからは恐怖と憎悪と嫌悪の匂いしかしない。どんな間違い方をすればそこまでひねくり曲がった関係を絆と言えるのか知りたいね。まぁ、つまり、ハッキリ言うとだな。君らのそれは絆とは言えない。暖かくもならない薄寒い偽物だよ。」
本当は、平和的解決をしたいけど……話が通じるとは思えないから、私は彼と敵対する選択を取る。
ああ、でも炭治郎か禰豆子が怪我をしたらどうするか……。
いや、そうなる前に守ればいいのか?
禰豆子が血鬼術使えるかどうかの確認……はしなくていいか。
大丈夫だとなんとなくだが感じている。
「お、丁度いい鬼がいるじゃねぇか。こんなガキの鬼なら俺でも殺れるぜ。」
「…………あ。」
そんじゃま、臨戦態勢をとりますか……って考えていたら、茂みから一人の剣士が姿を現す。
それが誰かなんて考えるまでもない。
一話だけにしか出てこなかったやられ役なのに、あれほど印象的な存在はいないのだから。
「えっと……」
「お前はひっこんでろ。俺は安全に出世したいんだよ。出世すりゃ上から支給される金も多くなるからな。隊は全滅状態だが、とりあえず俺はそこそこの鬼一匹倒して下山するぜ。」
「いや、別に聞いてない……じゃなくて、あんたじゃその鬼は倒せな……ったく、先輩なら考えて行動を取れ、よ!!」
現れた剣士が累に突っ込む。
が、私はすぐにその剣士と累が放った糸の間に挟むように斬撃を放つ。
“ヒノカミ神楽 火車”
水の呼吸の弐ノ型である水車に近い斬撃でありながらも陽炎を纏ったそれは水車とは比にならない威力を叩き出す。
おかげで累が放った糸は目の前の剣士、通称サイコロステーキ先輩と呼ばれるモブに当たる前に斬り裂くことができた。
まぁ、あえて一部の糸は残しておいたから、背後にあった木をバラバラに斬り刻んだが……。
「………は……?」
サイコロステーキ先輩が背後の木を見て顔を青くする。
「私が咄嗟に技の威力分散してなかったら、今頃あんた死んでたぞ。背後の木みたいにバラバラになってな。ほら、さっさと帰った帰った。この鬼はあんたにゃ荷が重すぎるっての。」
呆れながらサイコロステーキ先輩に声をかければ、彼は間抜けな悲鳴を上げてその場から逃げ去っていった。
……咄嗟に防いだけどよかったんだろうか?
まぁいいか。
どうせもう会わないだろうし。
これを機に欲望塗れで突っ込むことを反省して人助けをするようになってくれりゃそれでいいや。
それだけ多くの人間が助かるだろうし。
……十二鬼月に会わなければ、だけどな。
「……ねぇ、何て言ったの?」
蜘蛛の子を散らすように……いや、一人だから尻尾巻いてか?
なんであれ力の差を理解して真っ先に逃げ出したサイコロステーキ先輩を見送っていると、辺りの空気がビリビリとしたものへと変化する。
「ん?」
視線を累の方へと向けてみると、彼は明らかな殺気を身に纏いながらこちらを睨みつけていた。
……美少年顔による殺気増し増しの表情は結構凄みがあるな。
「お前、いま何て言ったの?」
累に視線を向けて見つめ返していると、先程の言葉と全く同じ言葉を彼は口にした。
こちらの否定意見にキレたご様子で。
空気がやたら重っ苦しくなったわ。
「……何度でも言ってあげるよ。君が絆と思ってるそれは、まごうことなき偽物さ。薄寒くなるほどの、ね。」
これが強い殺気って奴かと思いながらも、私は累が絆だと信じているものは偽物であることを再び指摘する。
戦いの火蓋は、いま切られた。