目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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53.怒り心頭、斬り裂く刃

「!! ちょっ、ちょっと待って!!」

 

 互いに互いを庇い合い、怪我がないようにした私たちを見て、驚愕の表情をした上で欲しいと口にした累に、繭鬼が慌てて声をかける。

 

「待ってよお願い!! 私が姉さんよ!? 姉さんを捨てないで!!」

 

「うるさい黙れ!!」

 

 すると、懇願するように声をかけてきた彼女に対して、累は怒鳴りつけながら手を横に凪ぐ。

 同時に放たれた無数の糸は、繭鬼の頸を容易く斬り裂き、彼女の背後にあった木々もまとめて斬り刻む。

 

「うっわ……随分とすごい威力だなありゃ……。炭治郎。禰豆子。十分に警戒を。あの子の糸は凄まじい。鬼である以上、余程のことがない限り二人が命を落とすことがないことは理解しているが、あんな威力の攻撃を喰らったらただじゃ済まない。二人が私に怪我をして欲しくないと望んでいるように、私も二人には怪我をしてほしくないからな。行動は考えてくれよ。」

 

「「う!!」」

 

 それを見た私はすぐに炭治郎たちに気をつけるようにと忠告をする。

 この子たちは良い子らだから、すぐに頷いては、臨戦態勢を見せる。

 うん、できることなら臨戦態勢じゃなく撤退態勢を見せてほしかったんだが、どうやら二人は戦うつもり満々のご様子である。

 正直言ってやめてほしいが……どうしたものか……。

 

「結局お前たちは自分の役割もこなせなかった。いつも…どんな時も。」

 

 累の殺意が私ではなく、繭鬼へと向けられる。

 

「ま、待って…。ちゃんと私は姉さんだったでしょ? 挽回させてよ……。」

 

 繭鬼は顔を青くして、今にもぼろぼろに泣き出してしまいそうな様子で、挽回のチャンスを累に請う。

 

「……だったら今、山の中をチョロチョロする奴らを殺して来い。そうしたら、さっきのこと(・・・・・・)も許してやる。」

 

 他の鬼とは違い、ある程度はうまくやってきていた繭鬼相手だからか、累は無言の間を少しだけ作りながら、挽回するためのチャンスとして、山の中を走り回る人……応援として駆けつけた鬼殺隊の柱たちのことを始末するように命じる。

 

「……わ、わかった……殺してくるわ。」

 

 累の指示を聞いた繭鬼は、彼の言葉に了承の言葉を口にしたあと、斬り落とされていた首を腕に抱えてその場から立ち去る。

 一瞬、デュラハンかな……?と思ってしまったのだが、うん、呑気なことを言ってる場合じゃないから頭を切り替えるとしよう。

 

「……少し話をしよう。」

 

 そんなことを考えながら、繭鬼が立ち去っていった方向を見つめていると、累から静かに話しかけられた。

 彼に視線を向けてみると、敵意が僅かに和らいでいる。

 が、佇まいに隙は一つもなく、斬りかかったところで厄介なことになることはいやでも理解できる。

 ここは、一旦話に応じよう。

 まぁ、どうせ彼のことだ……炭治郎と禰豆子をくれとでも言うのだろうが。

 

「話?」

 

「そう、話。」

 

 静かに彼の言葉を繰り返し口にすれば、累は小さく頷いたあと口を開いた。

 

「僕はね、感動したんだよ。君たちの“絆”を見て、体が震えた。この感動を表す言葉は、きっとこの世にないと思う。」

 

 無言で累を見つめていれば、彼は次々と言葉を紡いだ。

 

「でも、君たちは僕に殺されるしかない。悲しいよね。そんなことになったら。だけど、回避する方法が一つだけある。」

 

 次の瞬間、私はどうしようもない怒りに駆られることになった。

 物語を知っているとはいえ……例え、イレギュラーを引き起こして炭治郎と禰豆子の姉になったとはいえ、この体に刻まれている記憶、この体の私という存在が、どれだけ炭治郎たちを愛し、大切にしているのかをよく理解しているがために。

 

「君の弟と妹を僕に頂戴。大人しく渡せば命だけは助けてあげる。」

 

 ブツン……と何かが切れる音がした。

 私の聴覚は、あたりに響き渡る強風のような音を捉えている。

 体が熱い。

 ああ……長持ちはしないかもしれないけれど……。

 

「……君は、何を言ってるのかな? 言葉の意味を教えてもらえるかい?」

 

 自分自身でも聞いたことがないほどの低い声が出た。

 だが、それを上書きするように、私が聞き取っているのは……ゴォオという、強風のような音。

 

「君の弟と妹には、僕の家族になってもらう。今日から。」

 

「………は……ははは……。」

 

「!?」

 

 自分の口から漏れたのは笑い声。

 愉快というような笑い声ではない。

 嘲笑うような笑い声だ。

 

 刀を持つ手に力が加わる。

 軽く軋むような音が聞こえてきたが、それは些末なことだ。

 

「……ふざけるのも大概にしろよ、クソガキ。どうせテメェのことだ。“家族の絆”だなんだと言って、恐怖で繋ぎ止めるつもりだろ?」

 

「………っ!?」

 

 言葉を紡ぐと同時に殺気を向けると、累の表情に変化が現れる。匂いも変わった。困惑、恐怖、焦り……それらが混ざっているような匂いだ。

 鬼の匂いに混ざりまくって、反吐が出るくらい気分が悪い。

 

「黙って聞いてりゃ人の家族をまるで道具のような扱いをして、本人たちの意思はガン無視か? ははは!! 笑わせてくれる。この子らはちゃんとした命なんだよ!! 渇きを潤すためだけの道具なんかじゃねぇ!! 竈門炭治郎と竈門禰豆子という立派な人なんだよ!! テメェのその言葉は侮辱ってやつだ!! (ヒト)の大切な家族(モン)に手ェ出そうとすんじゃねぇ!!」

 

 一度怒鳴ってしまえば自分の口は止まらない。

 この子たちが侮辱されたこと、それは何よりも耐えがたい。

 向こうの私にも家族はいた。

 だが、今の家族は紛れもなく炭治郎と禰豆子であり、私は完全にあっちの私とは違う自分になっている。

 ならば私はこの場で吠えよう。

 間違いばかりを口にする目の前の子供に、ハッキリと自分の意見を言ってやる。

 

「恐怖で縛り付けテメェの思い通りにしようとするもんは家族の“絆”とは程遠い!! ただの主従支配だ!! 根本的に違うんだよ何もかも!! そんなもんと家族を一緒にされるなんざ反吐が出る!! そんなんじゃテメェのほしいもんは永遠に手に入ることはない!! この子たちは絶対に渡さない!!」

 

 最後まで言い切った私は、自身の日輪刀を握りしめる。

 

「っ……いいよ、別に。殺して奪るから!!」

 

 一瞬の怯みを見せたが、累はすぐに言い返してきた。

 自身の戦意が削がれていることに気づいていないのかもしれない。

 

「殺せるって言うならやってみろよ。その前にテメェの頸を斬り飛ばしてやらぁ!!」

 

 “ヒノカミ神楽 日暈の龍 頭舞い!!”

 

 暈の名の通り、幾つもの円を繋いで龍を象るように戦場を駆け抜けて振るう、水の呼吸の流流舞いに近似した、災厄の影を瞬く間に祓う技。

 気のせいか、いつも以上に日輪のような炎とも光とも取れる軌跡が見える。

 

「!!?」

 

 こちらの技を咄嗟に躱す累。

 だが、私は彼を逃すつもりはない。

 

 “ヒノカミ神楽 斜陽転身!!”

 

 頭舞いの最後に地面に着く足を軸にして飛び上がり、宙で身体の天地を入れ替えながら水平に刀を振るう。

 が、咄嗟の判断力がそれなりに高いのか、再び累に攻撃を躱されてしまう。

 

 “ヒノカミ神楽 輝輝恩光!!”

 

 それなら型を繋げるまで。

 そう判断して私が使用したのはヒノカミ神楽の玖ノ型。

 刀を両腕で握り、体ごと渦巻くように回転しながら跳躍……あるいは前方に突進する“ねじれ渦”や“渦桃”に類似した技。

 

 “ヒノカミ神楽 火車!!”

 

 それがダメなら再び型を繋げて技を放つ。

 あまりにも連続で攻撃されているからか、累は防戦一方だ。

 

 張り巡らされた糸を火車で斬り裂く。

 だが、すぐに新たな糸が張り巡らされる。

 このままでは当たってしまう。

 炭治郎と禰豆子に心配をかけてしまう。

 

 “ヒノカミ神楽 幻日光!!”

 

 それならば、と私は火車を放っていた体勢を宙での高速の捻りと回転による回避技を使用し、その場に残像だけを残してそれを躱す。

 

「!?」

 

 累が攻撃したのは私の残像。

 本体である私は、すでに彼の背後に回っている。

 

 “ヒノカミ神楽 炎舞!!”

 

 彼が動揺をしている隙に、拾弐ノ型である炎舞を使用する。

 

 “血鬼術 刻糸輪転!!”

 

 背後に回っていた私に気づいた累が、自身の大技である刻糸輪転を使用してきた。

 隙間の一つもない糸の壁。

 触れたものを全て斬り刻まんとするそれは、触れた瞬間肉も骨も断たれてしまうだろう。

 

 それならば、体が断たれる前に斬り壊してしまえばいい。

 

 累の糸より、私の炎舞の方がスピードは優っていた。

 両腕で握りしめた刀を振り下ろし、素早く斬り上げることで、糸は脆く崩れ去る。

 私の体を刻むことなく、その場でハラハラと消えていく。

 

「な!?」

 

 まさかの事態に累が驚く。

 だが、すぐに再び血鬼術を使おうと両腕を前に構えた。

 

「遅い。」

 

 “ヒノカミ神楽 円舞!!”

 

 ヒノカミ神楽の拾弐ノ型まで使用したのち、ヒノカミ神楽をループさせるために戻る壱ノ型。

 累が血鬼術を放つ前に使用する。

 

 素早く振るった私の日輪刀は、彼が自身の糸で頸を斬る前に、その細い頸に吸い込まれて斬り裂いた。

 確かな手応えを片手に残して。

 

 勢いよく刎ねられた累の頸。

 驚愕という表情だけが浮かび上がっている彼の瞳には、彼をまっすぐと見据えている痣を発現した自分自身の姿が映り込んでいた。

 

 

 

 

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