目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
累の頸が地面に転がる中、私は地面に膝をつく。
ダメージを受けたからじゃない。
一気に疲労が襲ってきたためだ。
「「むー!!?」」
炭治郎と禰豆子が、私の様子に驚いたのか、慌てたように駆け寄ってきた。
二人からは心配と喜びの匂いを感じる。
「……はは……ちょっと疲労が出てきたみたいだ。でも、大丈夫だよ。動けないほどじゃない……。そう心配そうな顔をすんなって。」
二人の慌てように苦笑いしながら大丈夫であることを伝え、刀を収めて頭を撫でる。
すると、二人は私の体にぎゅっと抱きつきながら、甘えるようにすりすりとすり寄ってくる。
……灰のような匂い。
ちゃんと、私は累の頸を斬ることができたようだ。
……なんか、義勇の出番を完全に奪ってしまったな。
「うー……。」
「……ああ、そうだな。」
そんなことを考えていると、炭治郎が何かを訴えるかのような目を向けてくる。
瞳の中にあるのは、累に対しての心配と、間違いを正すことはできないのかという疑問。
「……多分、残りわずかだろうが、消える前にお前に問いたい。」
「問い……?」
「そう。問い。」
軽くふらつきながらも立ち上がれば、炭治郎と禰豆子が私の体を支えてきた。
そのおかげか、多少動きやすい。
二人に支えてもらいながら累に歩み寄る。
「お前が口にしていた弟たちを寄越せという発言。それは許すことができない言葉だ。だから許すつもりはない。だが、気になることも言ってたな。本物の“絆”だ、欲しいと。まるで水を得た魚のように生き生きとした表情で。それが気になってね……。お前は……何を求めて家族の“絆”を渇望した? 家族に固執する理由はなんだ? 何か……思い出せたかな?」
静かな声音で問いかけてみれば、累が目を見開く。
だが、すぐにその表情は消えた。
敵意の色は感じない。
完全なる敗北を嫌でも理解し、しかし、それなら相打ちに持っていき、目の前の鬼狩りだけでも殺そうとした累。
だが、不意に彼女から問われた家族に固執した理由や、本物の“絆”を求めた理由、何か思い出せないのかという言葉に、無言になる。
鬼狩り、優緋の言葉に、累は少しだけ考え込む。
いつの時か、母親役にしていた女鬼が、何がしたいのかと聞いてきたことがあった。
しかし、その時の累にすでに人間の記憶はなく、答えを出すことができなかった。
だが、家族を欲しいと望んでいることは理解していた。
だから、本物の家族の絆に触れることができれば記憶は戻り、本当の自分の欲しいものがわかるのではないかと考えていた。
それは当たっていた。
現に累の脳裏には、かつての人間だったころの記憶が甦った。
累は生まれつき体が弱く、外ではしゃぐ子供たちのように、自由に走り回ることなどできなかった。
それどころか歩くことすらも苦しくままならなかった。
そんな中現れたのが鬼舞辻無惨だった。
無惨は幼い累に、体が弱いのであれば、自分が救ってやると告げたのだ。
累は藁にもすがる思いで、無惨の提案に乗った。
だが、両親は喜んではくれなかった。
強い体を手に入れることと引き換えるように、日の光に当たれず、人を喰わねばならない体へとなってしまったがために。
『なんてことをしたんだ、累…!!』
過去の記憶にいる父親の声。
泣きじゃくる母親の声。
人の命を奪い、一つの部屋で佇む自分自身の姿。
走馬灯のように駆け巡る記憶の中、過去の自分が考えていたことを思い出す。
累は、自身の家の中で過ごし続けていた時、素晴らしい話を聞いたことがあった。
それは、川で溺れた我が子を助けるために死んだ親がいたという話。
その話を聞いた累は、感動した。
“何という親の愛。そして絆だ”と。
その話の親に当たる存在は、例え自分が命を落とそうと、子を守る“親の役目”を果たしたのだから。
それなのに……と、累は考える。
疑問を脳裏に浮かべる。
なぜ、自分の親は、子である自分を殺そうとしているのかと。
なぜ、母親は泣くばかりで、殺されそうになっている我が子を庇ってくれないのだと。
思わざるを得なかった。
自分たちの絆は偽物だったのだと。
きっと、本物ではなかったのだろうと。
記憶はまだ続いて流れる。
殺されそうになって、自分の身を守るために、防衛本能からによる攻撃により血溜まりに沈んだ母親の側で、累は一人月が浮かぶ夜空を見上げていた。
すると、彼の側にある血溜まりに倒れる母親が何かを呟いていることに気づいた。
─────……何か言ってる。まだ生きてるのか。
しかし、時期に命は潰えるだろうと特に気にすることなく過ごそうとした。
が、その際に聞いた言葉を、彼は思い出したのだ。
『丈夫な体に……産んであげられなくて……こめんね…………。』
それを最期に母親は事切れた。
完全に命を落とし、この世から立ち去った。
同時に思い出した言葉は、自分の父親の言葉だった。
『大丈夫だ累。一緒に死んでやるから……!!』
殺されそうになった怒りの影響で何を言っているのか理解できない言葉だった。
自分の父親は人を殺した自分の罪を共に背負って死のうとしてくれていたということを累はこの時理解した。
それはつまり、最期まで自分の両親は、親としての務めを果たそうとしていたということ。
だが、累はそれを理解する前に、自らの手で本物の絆を断ち切ってしまった。
項垂れる自分に、無惨は強くなった累を受け入れなかった親が悪いのだから累は悪くないことを告げ、強さを誇るべきであると伝えた。
そのため累はそう思うほかなくなってしまった。
自分が引き起こしてしまった悲劇、それに耐え切るために。
例え自分が悪かったのだとしても。
だが、家族に対する固執、渇望は消えることはなかった。
偽りの家族を作り、その渇望を少しでも満たそうとしても、渇き切ったまま、虚しいまま。
守ってもらいたかったとしても、累が一番強いせいもあり、一人も守ってくれはしない。
強くなればなるほど、人間だった頃の記憶はなくなり、自分がしたかったことも忘れていくばかり。
自身の過ちを思い出して、いろんな感情が溢れ出る。
どうやっても二度と手にすることができない絆を求めて必死に手を伸ばしても、彼の手は決してそれに届くことはない。
「……随分と悲しい匂いがする。小さい体で、いろいろな悲しさを抱えていたんだね。」
不意に、累の耳に静かな声が届いた。
声の方へと目を向けてみれば、呆れたような、しかし、労るような笑みを浮かべる鬼狩りの姿がある。
鬼狩りは累に手を伸ばし、未だに形が残る彼の頭に優しく手を乗せ、その頭を優しく撫でる。
「思い出せたかな。自分のやりたかったこと。」
穏やかな声音と陽の光のような温もりがある優しい手。
その温もりを感じた累は、はっきりと自分がしたかったことを思い出した。
謝りたかったのだ。
本当の家族に。
本当の母親と父親に。
自分が悪かったことを。
だが………
「………でも……山ほど人を殺した僕は…地獄に行くよね………。父さんと母さんと…同じところへは…行けないよね……」
鬼となり命を奪った者が、穏やかなあの世に行けるとは思えない。
地獄に堕ちて罪を償わなくてはならない。
「はは……馬鹿じゃないの? 親ってのは、例え我が子が地獄へ行こうが、ちゃんと迎えに来てくれるもんなんだよ。自分たちにも苦しみが訪れようが、ちゃんとやってくる。もし、仮に私の弟たちが人を殺してしまい、お前のように多くを奪う側となり、その果てに命を落として地獄に行きそうになっても、絶対に私は自分がいた場所を蹴ってまでも二人に寄り添うしな。だから、お前の両親もきっと迎えにきてくれるよ。」
そんな呟きに対して、鬼狩りの女は小さく笑いながらそう告げる。
穏やかな笑みを浮かべながら、まるで確信しているかのように。
そんなことはあり得ない、何を言ってるんだこの鬼狩りは。
そう考えながら目を閉じる。
だが、次の瞬間彼の目に映ったのは、真っ白な世界と、自分の両親の姿だった。
驚いて二人に目を向けると、変わらない穏やかな笑みを浮かべている顔と目があった。
『一緒に行くよ、地獄でも。』
『父さんと母さんは、累と同じところに行くよ。』
穏やかな声音でそう告げられ、累は両目から涙をこぼし、勢いよく二人に抱きついた。
鬼だった時の彼の姿は消え、かつての人間だった頃の自分の姿に変わっていく。
「全部僕が悪かったよう!! ごめんなさい……ごめんなさい……!! ごめんなさい!!」
累は何度も謝罪の言葉を紡ぐ。
彼の両親は、謝罪の言葉を紡ぐ大切な我が子を優しく抱きしめながら、穏やかな笑みを浮かべていた。
直に三人の姿は炎に包まれる。
しかし、三人のそこには絶望などなく、穏やかな温もりだけが存在していた。