目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
55.義勇との再会。蟲柱との邂逅。
「……もう少し早く会ってりゃ、多少は違う結末を迎えることができたのかね?」
「うー……。」
「む?」
涙を流しながら消えていった累。
彼がいた場所には彼が着ていた服と灰のような匂いのみが存在している。
そんな中小さく呟くと、炭治郎はわからないと言わんばかりの表情をしている。
禰豆子はよくわかっていないようで、首をコテンと傾げていた。
「お前は……」
「あ。」
気にしなくていいよ、と言うように、禰豆子の頭を撫でていると、櫻井ボイスが耳に届く。
声の方へと目を向けてみると、驚いた様子の義勇の姿が。
「確か……優緋、だったな。」
「ちゃんと名前覚えててくれたんだ。ありがとう。」
「俺は、名前を忘れるような奴じゃない。」
軽く拗ねたような声音でそう告げた義勇が、ゆっくりと歩いては、近くに落ちていた累の着物に近寄る。
「……お前がやったのか?」
「うん。」
「そうか。怪我は?」
「ない。」
「……そうか。」
義勇の質問に短く答えれば、一瞬驚いたような表情をされる。
まさか、私が無傷で鬼を滅殺しているとは思わなかったのだろう。
「……まさか、お前がそこまで成長してるとは思わなかった。」
「……いや、だって無傷で何とかしないと、炭治郎たちからお小言をもらいそうなんだよ。この子ら、私が怪我することに関して絶対に許してくれないし。だから、なんとか無傷で倒した。おかげで結構疲労困憊だよこっちは……。」
成長速度に対して、これほどまでとは思わなかったと告げてきた義勇に、私は怪我をしたら炭治郎たちが黙っちゃいないことを教えたのち、累の頭を撫でるためにしていたしゃがんだ体勢から立ち上がろうと足に力を入れる。
「!」
「うわ!?」
「「うー!?」」
が、何かに気づいたらしい義勇に肩を押された挙句、そのまま倒されてしまったため思わず声を上げる。
炭治郎と禰豆子もまさかの事態に驚いたような声を出す。
しかし、すぐに義勇が私に危害を加えたと判断して体勢を変えた。
「待て!! 炭治郎!! 禰豆子!! 伏せろ!!」
「「!?」」
一瞬義勇に押し倒されたことに固まっていたが、すぐに彼がした行動の理由を理解できたため、慌てて二人に伏せるように声をかける。
義勇に対する臨戦体勢を取った炭治郎たちは、私の声に一度目を丸くしたが、すぐに指示に従いその場でしゃがみ込んだ。
同時に響く刃物同士がぶつかる音。
私の視界が捉えていたのは、蝶の羽のような羽織を靡かせながら、攻撃を受け流された女性の姿。
「あら? どうして邪魔をするんです、冨岡さん。」
その女性は、羽織を翻しながら静かに着地して、手にしていた刀を構えながらこちらを……いや、義勇に目を向ける。
「鬼とは仲良くできないって言ってたくせに、なんなんでしょうか。そんなだからみんなに嫌われるんですよ。」
蝶の羽のような羽織の女性……胡蝶しのぶが静かな声で言葉を紡ぐ中、義勇は私たちのことを守る体勢をやめることはない。
それを確認した私は、炭治郎と禰豆子を手招きする。
二人は一瞬互いの顔を見合わせたが、すぐにこちらに近寄ってきた。
「さぁ冨岡さん。どいてくださいね。」
しのぶさんが義勇に刀を向け、退くように声をかける。
私は、その間にその場で起き上がり、炭治郎と禰豆子を後ろ手に庇う体勢を取る。
かなり疲労してはいるけど、二人のことは絶対に守らなければならない。
「……俺は嫌われてない。」
「……………。」
そんな中紡がれた言葉に、思わずそっち? と考えてしまったが、何とか堪える。
このシーンでそっち?とか言うのは正直お門違いだと思われる。
「あぁそれ…すみません。嫌われている自覚が無かったんですね。余計なことを言ってしまって申し訳ないです。」
「…………。」
……なんでこの時の二人の会話はかなりズレているのだろうか。
軽くドン引きしながら考えていると、不意にしのぶさんから視線を向けられる。
「お嬢さん。お嬢さんが庇っているのは鬼ですよ? 危ないですから離れてください。」
彼女は私の目と自分の目が合わさった瞬間、ヒソヒソ声で炭治郎と禰豆子は鬼だから危ないので離れてと言ってくる。
「知ってますよ。でも、この子たちは私の大切な家族……大切な弟と妹なんです。大切な弟たちを、鬼だからと庇わない姉はいませんよね?」
私はすぐに冷静な声音でしのぶさんの指示を拒絶する。
後ろ手に抱きしめながら、まっすぐと彼女の目を見つめ返しながら。
「まぁ、そうなのですか? 可哀想に……。では……苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね。」
しのぶさんからわずかに漏れる殺気。
だが、私は怯まない。
大切な家族を易々殺させるわけにはいかない。
「うわ!?」
いざという時は攻撃も辞さない。
日輪刀に手をかけてそう考えていると、急に体が浮かび上がり、同時に背中と膝裏に温もりを感じ取る。
驚いて顔を上げると、炭治郎が私のことを横抱きにして走り出していた。
まさか、弟に姫抱きされるとは思わなかったんだけど。
「う!」
「ん!!」
「いつのまに……」
軽く困惑していると、禰豆子が普段は自分たちが隠れている箱を手にして走ってきては、炭治郎の横に並んで移動する。
炭治郎に抱き抱えられながらも義勇の方に目を向けると、彼は私たちを少しだけ見たあと、しのぶさんへと目を向けた。
どうやら、しのぶの動きを止めてくれるようだ。
「! 炭治郎!!」
「む!!」
しかし、そのことに安堵できるのはほんの一瞬。
すぐに視界に入った存在に気づいた私は、自分を抱えて走り続けている炭治郎に声をかけると、彼は一瞬だけ背後に目を向けたあと、軽く跳躍して、背後から放たれた斬撃を躱す。
「!!」
炭治郎に斬りかかった存在……栗花落カナヲが、驚いたような表情を見せる。
だが、すぐに自分のやることを全うするために、再び炭治郎たちへの攻撃態勢を取った。
「伝令!! 伝令!!」
しかし、不意に聞こえてきた鎹鴉の声に気づいては、ぴたりと攻撃の手を止めた。
「……まぁ、そうなるよな。」
「む?」
「何でもないよ。炭治郎。禰豆子。止まっていい。それと、軽く忠告しておく。多分、少しだけ痛い思いをすることになるだろう。だが、何があっても人だけは襲ったらダメだ。いいね?」
小さな呟きに反応を示した炭治郎に、何でもないと返した私は、止まっていいことを告げる。
少しの忠告も口にしながら。
二人はよくわからないと言ったような反応を見せるが、すぐに小さく頷いて、その場で足を止めた。
「優緋・炭治郎・禰豆子三名ヲ拘束!! 本部ヘ連レ帰ルベシ!! 優緋・鬼ノ炭治郎及ビ鬼ノ禰豆子!! 拘束シ本部へ連レ帰レ!! 優緋!! 耳飾リヲツケテイル!! 額ニ傷アリ鬼炭治郎!! 竹ヲ噛ンダ鬼禰豆子!!」
頭上を通過していく鎹鴉を見送って、炭治郎の手から降りる。
と、少しだけフラついてしまった。
……痣を出してからこの状態が続いてるな……まだ、あれを出しても疲労しない程の体はできていなかったようだ。
「「う!?」」
私のフラつきに気づいた炭治郎たちが慌てて私を支えてくる。
苦笑いをしながら大丈夫だと伝えるように二人の頭を撫でる。
……普段なら擦り寄るのに、今回ばかりは擦り寄ることなくかなりの不満顔を向けられてしまった。
誤魔化されないからなと言いたいのだろうか……。
「………あなたが優緋で、その子が炭治郎……それで……彼女が禰豆子?」
カナヲが近づいてきて、首を傾げながら聞いてくる。
その反応は可愛らしいが、炭治郎に斬りかかったのはちょっと許せない。
まぁ、私ら鬼殺隊はそれが仕事だから言い返すことはできないが。
「そうだよ。見ての通り、カラスたちが口にしている特徴と一致してるだろう?」
そう思いながら素直に答えれば、カナヲは何度か私たちを順番に見つめたあと、小さく頷いた。
「攻撃に関しては流石にこちらも抵抗せざるを得ないけど、連行に関しては文句を言う資格がない。鬼を連れてる鬼狩りなんて、本来ならばあってはならないだろうから。だから、連れて行かれることに抵抗はしない。」
それを見て攻撃の手はなくなったことを理解した私は、攻撃には抵抗するが、連行に関しては抵抗するつもりはないことを告げ、臨戦体勢をやめる。
カナヲは私の言葉に一瞬キョトンとするが、すぐに指令を執行するために縄をどこからか取り出した。
「あ、ちょいまち。」
「?」
「この二人、まずは箱に入れていい? そろそろ朝日が昇るだろうから、避難させないと。」
「箱?」
「ああ。」
拘束に関しては仕方ない。
だが、その前に炭治郎たちを日の光から守らなくてはならないため、箱の中に避難させたいことを告げる。
最初カナヲは首を傾げたが、私が炭治郎たちに目を向けた瞬間、二人が体を縮めて箱の中に入る様子を見て納得する。
「……ところで、子供くらいの大きさとは言え、それなりに二人が合わさった重さはあるわけだが……運べる人いる?」
「………多分。」
「ならいいや。えっと、手は後ろに回したらいい?」
「うん。」
「そう。わかったよ。」
両腕を後ろに回して見せれば、カナヲがすぐに近寄ってきて、私の腕を縄で拘束する。
……意外とキツい縛り方だな、まぁいいけど。
「……本当に、抵抗しないんだ。」
攻撃に対しては全力で抵抗していたのに、こっちに関しては本当に抵抗しないためか、カナヲが若干驚き気味だ。
「大切な弟たちの命が危ぶまれたんだ。奪われたくない側が抵抗するのは当然の摂理さ。でも、捕まることに関してはこちらにも非はあるし、仕方ないと思ってる。二人が無事なら、こちらも行動を起こす理由がない。」
私は、すぐに命を危ぶまれるのとそうじゃないのとでは行動も変わってくることをカナヲに告げた。
カナヲは、よくわかっていないのか首を傾げる。
だが、すぐに隠の人間が現れたので頭を切り替え、隠の人に指示を出した。