目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
「あ、気絶してら……。」
しばらく歩いてお堂付近の森にまで戻ってきた私は、炭治郎と禰豆子の二人をお堂から少し離れた場所にある木に寄りかかるように座らせて、生首の方に近寄る。
崖から体が落下してミンチになったせいか、気を失っていた。
「……さて……どうやって止めを刺すべきか。」
鬼を滅殺する方法は主に二つ。
日輪刀で鬼の頸を切るか、太陽の光であぶるかのどちらか。
だけど、弱っちい鬼であれば、回復するのに時間がかかるから、何度も何度も殴って頭をかち割って、さらにぐしゃぐしゃにしてしまえば日が昇るまで復活しないこともあるし、そのまま絶命させることもできるはずだが……。
うーん……と頭を悩ましながらも、とりあえず滅多刺しにしてみるか?なんてサラッと考えながら短刀を取り出す。
が、それを振りかぶる前に肩に大きな手が触れたため、私は背後を振り返った。
「そんなものでは止めを刺せん。」
そこには、天狗のお面が印象的な、白髪の爺さんが一人いた。
間違いなく、鱗滝左近次だ。
「え? 短刀じゃダメなんです? じゃあどうやって……」
「人に聞くな。自分の頭で考えられないのか。」
うっわやな感じ、とちょっと思いながらも、私は小さくため息を吐く。
そして、短刀を鞘に収めたあと、近くにあったでかい石を拾い上げた。
「……いくら力があると言っても、一撃で頭はかち割れないよな……。何回くらいぶん殴りゃ絶命すんだろこれ?」
けど、何回も殴りつけなきゃ頭は勝ち割れないであろう鬼を見つめながら、私は思案する。
だって殴りつけるたびに悲鳴が聞こえそうだもん。
グリリバボイスの悲鳴なんて滅多に聞けないから貴重ではあるけど、何度も悲鳴をあげられちゃ流石にうるさいだろうし。
一撃で沈めることができればいいのに、細腕の女じゃなぁ……。
ある程度力ある大人で、なおかつ男なら一撃粉砕とかもできるかもしれないけど……。
「……どうした? できないのか?」
「ん? ああ、いや。躊躇ってるわけじゃないですよ。ただ、いくら石でぶん殴るとしても、なかなか死なないだろうし、どうすればうっさい悲鳴を何度も聞かないで済むか思案しているだけなんで。」
「……………。」
なんか、鱗滝さんから物言いたげな視線が向けられる。
そんなことを言ってる場合じゃない、とでも言うんだろうか?
まぁそうでしょうね。
目の前の鬼は動けないから思案できるけど、こんな状態じゃない鬼相手なら、思案してる暇なんてないし。
そうしている間に下手したら自分が殺されるだろうし。
「……方法はなさそうだなぁ。しょうがない。とりあえず殴るか。」
そこまで考えて、私は溜息を吐く。
だって今から悲鳴聴きまくらなきゃならないんだぞ?
溜息くらい吐きたくなる。
けど、やるっきゃない……。
「ギャアアアアアアアア!?」
「うっさい。」
気は乗らないけど、方法がないと判断した私はすかさず手にしていた石をグリリバボイス鬼目掛けて振り下ろす。
当たった瞬間、グリリバボイスの耳をつんざくような悲鳴が響き渡った。
「チッ……手に持ってるせいで妙な感触がある。」
「あ、頭がぁ!!」
同時に感じた手の不快感に舌打ちをした私は、近くにあった太めの木の枝をへし折ってから、服の中に入れていた藁を使って、枝に石を括り付ける。
少しでも不快な感触を少なくしたいからな。
多少の手間は惜しまない。
「よし。」
軽く振って落ちないことを確認した私は、すぐにでかい石つきの木の枝を鬼の生首目掛けて振り下ろす。
……鬼滅の刃の原作は、日本一慈しい鬼退治……が、コンセプトだったけど、あれは炭治郎だからこそ。
炭治郎ではない私は、悲しい生い立ちや苦しみを持ち合わせている鬼には優しくできるかもしれないけれど、完全な敵意しかない鬼相手には優しくなれない。
まぁ、鬼っつー怪物であれ生き物の頭を殴る感触は、正直気持ち悪さしかないが、身を守るためにはこうしなきゃいけない世界で目を覚ましたんだ。
それならその流儀に従うまでだ。
そう思いながら私は、何度も何度も鬼の頭を殴りつける。
だが、なかなか目の前の鬼を絶命するまでには至らない。
うるさい悲鳴は聞こえたまま。
どうすれば聞こえなくなるのか……。
再び舌打ちをしそうになる。
しかし、不意に空が明るくなり始めていることに気づいては、すぐに眠ってる炭治郎と禰豆子を籠の中へと入れて籠を布で巻く。
「ギャアアア!! ギィャアアア!!」
その瞬間聞こえてきたのはグリリバ鬼の断末魔。
そちらの方へと目を向けてみると、日の光に当たったそれは、炎に飲まれて灰塵と化す。
「………危なかったな。」
それを見てホッとする。
炭治郎と禰豆子をあんな目に合わせるわけにはいかないから安堵した。
……っていうか、あんだけの悲鳴が辺りに響いたにも関わらず、炭治郎たちはすやすや寝てるのか。
それだけ体力が消耗されていたんだろうか……。
「……あ。」
……不意に、私の視界に鱗滝さんの姿が映り込む。
私が鬼の頭を殴り付けている間に、お堂にいた人らを埋葬していたらしい。
随分と冷静だな……と少しだけ思いながらも、私は炭治郎と禰豆子を入れた籠を背負い上げて鱗滝さんに近寄った。
「埋葬してくれたんですね。」
「ああ。」
静かに話しかけてみれば、短いながらに返事を返してくれた。
「……儂は鱗滝左近次だ。義勇の紹介はお前で間違いないな?」
続けて鱗滝さんは自分の名前を口にして、義勇からの紹介があったのは間違いないかと聞いてくる。
「ええ。
「優緋。そこの弟妹のどちらかが、または両方が人を喰った時、お前はどうする。」
「!!」
それに応じるように自分の名前と炭治郎たちの名前を教えると、若干内容が変化してはいるけど、原作通りの質問を鱗滝さんはしてきた。
炭治郎はこのセリフにすぐに答えを返すことができなかったけど、私の口は、無意識のうちに言葉を紡いでいた。
「それは鬼を連れていた私の責任だ。その時は心苦しくはあるけど、鬼であった二人の命を自らの手で終わらせたのち、その場で私も腹を切る。もちろん、そうならないように監督するのが私の務めではあるけれど、世の中に絶対大丈夫なんてものはきっと存在しない。もしもの時は、自分自身の命も以って詫びるよ。それくらいで許されないことであろうとも。」
これは、原作知識があるからというアドバンテージも関係しているかもしれない。
でも、それも含めてそれはあってはならないことで、なおかつ責任問題になることは十分に理解している。
だからこそ、私は口にした。
この時代の責任の取り方は、それしかないのだから。
「……お前は…判断が早く、なおかつ覚悟もあるようだ。なにをすべきかをよく理解している。」
鱗滝さんが少しだけ褒めるような言葉を紡いできた。
少しばかり複雑だ。
でも、その感情には蓋をして、鱗滝さんを静かに見上げる。
「……では、これからお前が鬼殺の剣士として相応しいかどうかを試す。弟妹を背負ってついてこい。」
すると、鱗滝さんは私を試すと口にしては、そのまま走り出してしまった。
かなり速い。
原作でもアニメでも見ていたが、どんどん引き離されている。
「……。」
私は少しだけ目を閉じる。
思い出すのは自分たちの父親である竈門炭十郎から伝えられているもの。
正しい呼吸を行えば、疲れることなく動けるという話。
炭治郎がこれを理解したのはまだ先のことだった。
だけど、私は例外として内容を知っている。
どこまで保てるかはわからないけれど、持ち合わせている知識があるならば、それを最大限に活かすとしよう。
そう決めて目を開けた私は、父さんである炭十郎が使っていた呼吸を使う。
どうやら、この体はしっかりと父さんが見せるものを吸収し、自分でも使えるように昇華していたようだったから。
とはいえ、記憶からすると私は最大でも四時間くらいが限度であることも訴えてきているけど。
……まぁ、でも。
それだけできるなら十分だ。
鱗滝さんを追うには十分すぎるほどの時間。
「炭治郎。禰豆子。走るから揺れるぞ。頭と額はしっかり守ってくれ。」
籠の中で目を覚ましたらしい炭治郎と禰豆子に、私はすぐに声をかける。
「「う!!」」
二人はすぐに了承するように返事をしては、ゴソゴソと籠の中で動き、ピタリと止まる。
ちゃんと自分を守るための体勢を取ってくれたようだ。
「ありがとう。」
指示に従ってくれた二人に感謝の言葉を伝えた私は、再び呼吸を行い、今度こそ走り出す。
かなり遠くにまで行ってしまっていた鱗滝さんにはすぐに追いつくことができた。
少しだけ驚かせてやろうと思い、彼の隣に並んで見る。
「!!」
その瞬間、びっくりした時に人が纏う匂いが強くなった。
うん。
驚かすのは成功したらしい。
まぁ、でも、そこはやはり元柱。
すぐに冷静さを取り戻しては、少しだけ走るスピードを上げてきた。
並ぼうと思えば並べるかもしれないけど、それをしたら体力の消耗が激しいかもしれないと判断した私は、そのままのスピードを維持する。
さぁ……狭霧山に向かうとしようか。