目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
しのぶさんに言われた通り、日中は運動を中心に、夜は瞑想などの運動とは違う訓練方法を行うことで、自分の全集中の呼吸を鍛え続けて数日。
カナヲと一緒に瓢箪を吹いて破裂させる訓練を行っていたら、訓練場が賑やかになる。
「ん?」
バカンッという大きな音と共に、現在のカナヲの限界であるサイズの瓢箪よりちょっとデカく硬い瓢箪を破裂させた私は、訓練場の中に目を向ける。
そこには伊之助がいた。
「よ、伊之助。」
「おう、優緋じゃねぇか!! お前こんなとこにいやがったのか!!」
「ああ。体調もだいぶ良くなったこともあり、しのぶさんから別の部屋を貸してもらって過ごしながら、ここで日々訓練してた。」
「訓練?」
「そ。体を元の調子に戻すのと、力をある程度伸ばすための訓練。伊之助は今日から機能回復訓練か。」
「おう!! 今に見てろよ!! 絶対ェお前より強くなってやるからな!!」
「はは。まぁ、頑張れよ。ちょっと厳しいかもだけどね。」
「はぁん!? 俺にはできねぇって言いたいのかコラァ!!?」
「なんでそうなる。」
訓練を開始したあの日から見ていなかった伊之助と会話をしていれば、訓練場にしのぶさんが入ってきた。
「あ、こんにちは、しのぶさん。」
「はい、こんにちは、優緋さん。調子はどうですか?」
「かなりいいですよ。先程、あれも終わらせました。」
「そうでしたか。どうでした?」
「そうですね……時間にして約五分位で終わりました。」
「あらあら。では、また難易度を上げないといけませんかね?」
「あ……はは……マジっすか……。」
この会話は瓢箪についてである。
カナヲが吹いていた瓢箪より大きな瓢箪……それを五分で破裂させたことを今伝えた。
するとしのぶさんは笑顔で難易度を上げると返してきた。
この人……でかい瓢箪を五分で破裂させるようになるたびにさらにでかいの持ってくるんだよな。
普通秒で割れるようになってから変えるのでは?と一回聞いたことがあるけど、笑顔で五分で割れるならば次の瓢箪をギリ割れますと返された。
「なんの話してんだ?」
苦笑いをしながらしのぶさんと会話していると、伊之助が不思議そうに声をかけてくる。
顔は猪頭のせいで見えないけど、匂いから私としのぶさんの会話内容がわからないことが判断できる。
「訓練関係のちょっとした話だよ。まぁ、伊之助もいずれやることになるだろうし、それまでのお楽しみだな。」
だから私は、訓練に関しての話であることや、いずれ伊之助もやることになるということを告げたのち、一旦訓練場の縁側へと移動する。
バラバラになった瓢箪の破片を片付けるために。
しのぶさんは、伊之助に機能回復訓練についての説明を行っているのか、初日に聞いた内容と全く同じ言葉が聞こえてくる。
まぁ、訓練相手の中にしのぶさんの名前が含まれていないことを除けば、だが。
(やっぱ、しのぶさんが相手に含まれるのは、私だけなんだな……)
まぁ、好都合ではあるけど……。
「いっっっでぇえぇえぇええ!!」
「あ……始まったな……。」
なんで考えていたら、伊之助の悲鳴が辺りにこだました。
瓢箪の破片を全部集めてゴミ袋に入れたあと、訓練場に目を向けてみると、そこでは伊之助が三人娘に力づくで体をほぐされている姿が見えた。
猪頭越しでも顔が青くなっている様子が窺える。
………頑張れとしか言えないな。
「さぁ、優緋さん。今日の訓練を始めますよ。」
「わかりました。……今回もしのぶさん単体を相手に?」
「はい。今のあなたにはアオイもカナヲもすぐに負けてしまうでしょう。カナヲの成長も早くはありますが、優緋さんの成長はそれ以上であると、この数日でわかりましたから。今のカナヲたちでは逆に優緋さんに遊ばれて終わってしまう。それは良くないでしょう?」
「はぁ……まぁ、否定はできませんが……」
しのぶさんの質問に素直な返事を返せば、彼女はにこりと笑う。
「では、まずは全身訓練から始めましょう。制限時間は二時間です。」
「はい。」
返事をすると、しのぶさんが一時的に目を閉じる。
この数日でわかったことだけど、これは彼女が始める前に必ず行うと精神統一だ。
それにならうように、私も一時的に目を閉じて精神統一をする。
しばらくの間、伊之助の悲鳴だけがこだまする。
だが、私としのぶさんは同時に目を開けた瞬間、その場には悲鳴ではなく、私としのぶさんの足音がこだまするようになる。
彼女は逃げ回り、私は追いかけ回す。
もう何回も繰り返してきたこの訓練に、だいぶ慣れてきてしまった。
まぁ、慣れたからと言って彼女を捕まえられるようになるのとはイコールでもなんでもないのだけど。
相変わらずしのぶさんはひらひらと舞う蝶のように身軽な動きで躱してしまう。
数日間やってもなかなかこの人の羽織にすら指一本触れることができない。
ていうか、この人、少しずつ少しずつ本気を出してくるようになってきたんだけど。
多分、初日くらいの手加減であれば私も手を届かせることができたと思う。
余裕を少しずつ削り、本気を引き摺り出すことができているということなんだろうか。
そんなことを考えながらも、私は常中を続けてしのぶさんを追いかけ回す。
「す、すっげぇ!! どうなってんだ優緋の奴!! なんであんなに早く動け……いっでぇぇえぇえぇええ!!」
「動いちゃ駄目です!」
「まだまだほぐせてないから駄目です!」
「もうちょっと大人しくしてないと駄目です!」
……なんか、伊之助が興奮気味に声を上げていたけど気にしない。
こっちに集中しないとな。
「おっとっと。」
「……チッ」
「女の子が舌打ちなんてしたら駄目ですよ?」
「すみませんね! つい勢いで!!」
そう思って手を伸ばしたが、やはりひらりと躱された。
舌打ちが出るのも仕方ない。
この人は毎回ギリギリのところで躱してくるから。
うん、まだ余裕綽綽なんだな!!
遊ぶ暇あるんだから!!
彼女に遊ばれていることに少しだけイラっとしながらも、追い続ける。
視界の端に、体をしっかりとほぐされたらしい伊之助が今にも猪突猛進に突っ込んできそうな雰囲気を醸し出していたが、無視だ無視!!
「そこまでです!!」
「あ!? くっそー……また時間切れかぁ!!」
「あらあら。今日も残念でしたね。」
集中してしのぶさんを追いかけ続けていたら、当たりにアオイの声が辺りに響き渡る。
それが終了の合図であることをすぐに理解できた私は、思わず肩を落としてしまった。
しのぶさんはくすくすと笑いながら、追いつけなかった私に残念でしたと声をかけてくる。
……余裕しか見せていない彼女をジト目で睨んでしまったのは仕方ないことだと思う。
だって明らかに私は遊ばれていたんだからな。
全力を出して追っかけても。
「はぁ……柱との差が大きすぎる……」
「そうですねぇ。でも、前よりかは喰らいつけるようになったのではないでしょうか?」
「……まぁ、はい。それは否定しませんが。」
でも、確かに前に比べたら身体能力、及び体力の向上はできている。
しのぶさんが徐々に本気を出してきているのが何よりの証拠だ。
「もう少し頑張ってみましょうね。訓練が終わった頃には、かなりの剣士になってる可能性大ですから。」
「……わかりました。」
しのぶさんの言葉に頷けば、彼女はにこりと笑ったあと、視線を私から外す。
彼女の目線の先には、反射訓練を始めている伊之助の姿がある。
その近くには薬湯入りの湯呑みが並べられた別の机があった。
「アオイたちがもう一つ反射訓練の場を用意してくれたみたいですね。では、優緋さんも反射訓練に入りましょう。」
「はい。」
まぁ、どうせまた私はぶっかけられる側なんだろうな……なんて考えながらも、私はしのぶさんと一緒に反射訓練の机に移動する。
さて、今日はどれくらい粘れるのだろうか……。