目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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64.蝶屋敷での生活。しのぶが抱えていたもの

 再び時は流れ、蝶屋敷に担ぎ込まれた日から一ヶ月。

 訓練を重ねたことにより、しのぶさんにかなり本気を出させることが可能になった頃のこと。

 

「善逸君も合流したみたいですね。」

 

「そうみたいですね。」

 

「優緋さんもかなり私に追いつけるようになってきましたし、訓練した甲斐がありました。このまま私の継子になりませんか?」

 

「継子……? ああ……確か、柱が直接育てる隊士のことですよね。相当の才能と優秀さがかなり必要だから少なそうですけど。」

 

「はい。私、優緋さんなら十分継子になれると思ってるんですよ。だから考えてみませんか?」

 

「あ、はは……まぁ、検討だけはさせてもらいます。(なるとは言ってないけれど。)」

 

 いつものようにしのぶさんと全集中・常中を使用した本気の鬼ごっこをしていたら、訓練場に善逸が入ってきた。

 なんだかちょっぴりガタガタ震えているような気がする。

 まぁ、毎回訓練のあと、伊之助がげっそりした様子で病室に帰っていくの見ていたし、仕方ないと言えば仕方ないかもしれない。

 

「少しだけ、善逸のとこに行っても?」

 

「構いませんよ。では、少しだけ休憩をしましょう。休憩したらまた全身訓練の再開、及び、反射訓練への移行を行います。」

 

「ありがとうございます。」

 

 それはそれとして、病室から退院したのち、しのぶさんから与えられた部屋で過ごすことが多くなっていたこともあり、久々に善逸の顔を見たので、少しだけ彼と話そうと思い、しのぶさんに声をかければ、快く許可してくれた。

 感謝の言葉を述べた私は、走るのをやめて善逸に歩み寄る。

 

「よ、善逸。」

 

「ああ! 優緋ちゃぁあぁあん!! 久しぶりだねェーーーーーー!!」

 

 声をかけながら彼に近寄れば、ものっそい笑顔で名前を呼ばれ、ブンブンと手を振られる。

 

「ああ。久しぶりだな。どう? そっちの治療は。順調か?」

 

「うん、もう絶好調!! 優緋ちゃんに会えたから元気もいっぱいだよ!!」

 

「そいつは何より。ちゃんと薬は忘れずに飲んでるか?」

 

「もっちろんだよ!! 優緋ちゃんが教えてくれた、薬を飲んだ時にすぐ飲んだことを何かに記録する方法をやるようになってから忘れずに飲んでるよ!! だから優緋ちゃん、俺が元気になったら山で言ってた二人で遊びに行く約束を実行しようねぇ!!」

 

「はいはい。まぁ、一緒に出かける前に、しっかりと体調を良くしてもらわなきゃ困るけどな。」

 

「わかってるよ! 優緋ちゃんとお出かけするのに体調不良なんて俺も嫌だし、しっかりと元気になるからねぇ!!」

 

 ……うん、相変わらずの饒舌っぷりというか、女に対しての賑やかっぷりだな。

 まぁ、元気じゃないよりかはマシか。

 

「優緋さん。そろそろ休憩を終わりますよ。ふむ……三人に増えてしまってるとちょっと訓練場が狭くなっちゃいますね……。もう一つ広い部屋がありますので、私たちはそちらに移動しましょう。その方が優緋さんもしっかりと訓練に打ち込めるでしょうからね。」

 

「わかりました。」

 

 なんて考えていたら、しのぶさんから部屋の移動を提案される。

 すぐに頷き返せば、彼女は一度笑顔を見せたあと、今いる訓練場から立ち去る。

 

「優緋ちゃぁん!! たまには病室に会いに来てねぇ!!」

 

 それに続いて私も訓練場を出ようとしたら、善逸から大声でそう言われた。

 やかましいな……と内心思いながらも、小さな営業スマイルを作って手を振りかえせば、彼は顔を真っ赤にして、こう言いたくはないけど、少々汚い高音の悲鳴をあげてはごろごろと床を転がり始めた。

 ……匂いで判断する必要はないな、うん。

 あれは紛れもなく喜んでいる。

 

「優緋さん。行きますよ?」

 

「はい。」

 

 軽くそれに引いていると、ひょこっと顔を出したしのぶさんに声をかけられる。

 返事を返した私は、すぐにその場から立ち去り、しのぶさんの元まで歩み寄った。

 

「今から行く場所は、普段はあまり使わない第二訓練場です。あちらよりかは多少狭くはなりますが、十分範囲があるので問題なく訓練を行うことができますからね。」

 

「……蝶屋敷って、とても広いんですね。」

 

「そうですね。こちらは鬼殺隊のいわば診療所というか、病院のようなものなので、それなりの広さを有しています。相手取る鬼によっては、多くの隊士の皆さんが怪我をしてやってきますから、結構必要なんですよ。逆に怪我人が少なかったら、少々広すぎるかもしれませんが、そこはそれ。それだけ被害が小さかったということなので、特に気になりません。」

 

 穏やかな会話が続く中、私の嗅覚は、どことなく怒りの匂いを感じ取っていた。

 匂いの発生元は、目の前のしのぶさんだ。

 

「………あの、いきなり変なことを聞きますが、しのぶさん、なんだか怒ってます?」

 

「え?」

 

「その……笑ってはいるのにどことなく怒ってるような匂いがいつもしていて、どうしてかなって。すみません、やっぱり変なことを言ってますよね。」

 

 しん……と辺りに静寂が降りる。

 うーん……聞くタイミング、間違ったかな?

 やっぱり原作通りのタイミングで……いや、でもなぁ……原作を知ってるとは言え、やっぱり気になるもんは気になるし……。

 

「……そう……そうですね。私は、いつも怒っているのかもしれない。」

 

 ちょっと気まずいなと思いながら考え込んでいると、しのぶさんがポツリと肯定の言葉を紡ぐ。

 そのことに気づいた私は、すぐに無言で彼女の話を聞いた。

 

「過去に、私は鬼に最愛の姉を殺されてしまったんです。あの日からずっと、鬼に大切な人を奪われた人々の涙を見る度に、絶望の叫びを聞く度に、私の中には怒りが蓄積され続け、膨らんでいく。体の一番深いところに、どうしようもない嫌悪感がある。他の柱たちもきっと似たようなものです。」

 

「……そうなんですね。それなら、炭治郎たちに対しての反応も当然のものだ。」

 

「はい。まぁ、ですが、彼らの前で、炭治郎さんたちが人を喰わないことを証明していますし、あの場で炭治郎さんたちを見た柱たちもお二人の気配を覚えた上、お館様の意向もあるので、誰も手出しをすることはないと思いますが。」

 

 再び無言が訪れ、辺りには鳥の声が響き渡る。

 

「………私の姉は、とても優しい人だった。鬼に同情していた。自分が死ぬ間際ですら、鬼を哀れんでいました。私はそんなふうに思えなかった。人を殺しておいて可哀想? そんな馬鹿な話はないです。でも、鬼とも仲良くできたらいいのに……という、姉の優しい想い……それが姉の望みであり、大切な想いだったなら、私が継がなければ……哀れな鬼を斬らなくても済む方法があるなら考え続けなければ。姉が好きだと言ってくれた笑顔を絶やすことなく……私は、そう考えてます。」

 

 でも……と静かに言葉が繋げられる。

 

「少し……疲れました。鬼は嘘ばかりを言う。自分の保身のため。理性も無くし、剥き出しの本能のまま人を殺す。」

 

 怒りの匂いと悲しみの匂いが混ざっている。

 いろいろと抱えすぎた結果だろう。

 

「……優緋さん。あなたは、鬼と人は仲良くなれると思いますか?」

 

 冷静に分析していたら、静かな声音でしのぶさんに、鬼と人は仲良くなれると思うかどうかを聞いてきた。

 

「……そうですね。みんながみんな、仲良くできるか疑問は残るところではありますが……」

 

 脳裏に一瞬、響凱のことを思い浮かべる。

 私は、彼と少しだけ会話をした。

 最初は確かに襲われたけど、殺されそうになったけど、彼と穏やかに話すことはできた。

 人を殺していなければ、多分、私は彼と仲良くなろうとしていたと思う。

 

「中には、仲良くなれる鬼もいると思います。私の弟である炭治郎や妹である禰豆子のように。」

 

 “あの屋敷にいた、名無しでありがらも素晴らしい作家であり、同時に素晴らしい奏者であった響凱のように。”

 

 内心でそう思いながら、私は小さく笑みを浮かべる。

 

「今はまだ、無理に全員と仲良くなる必要はないと思います。そうですね……まずは近くにいるあの子たちから仲良くしてみましょうよ。ひょっとしたら、いずれあの子たち以外の鬼と仲良くなる手立ても見つかるかもしれませんし。」

 

「………!」

 

 私の言葉にしのぶさんが驚いたような表情をする。

 しかし、すぐに小さく笑ったあと、頷いた。

 

「まぁ、もし辛かったらいつでも言ってください。その時は私が、しのぶさんの代わりにその想いを背負っていきます。いつでも重荷を押しつけてきて構いませんから、心労だけには気をつけてください。心労って、思った以上に心体全てに負荷を与えてきますからね。それに潰される前に、抱えたものを誰かに持ってもらうことも大事ですよ。」

 

 そんな彼女に、私は辛くなったらいつでもこちらに預けてくれて構わないことを伝えれば、しのぶさんはくすくすと笑い始める。

 

「あ、やっと笑いましたね。心の底から。」

 

 その瞬間、私の嗅覚が感じ取ったのは、しのぶさんが心の底から笑っていることを知らせる匂いだった。

 そのことに安堵しながら笑い返せば、しのぶさんははい、と返事を返す。

 

「久しぶりに、心の底から笑った気がします。ありがとうございます、優緋さん。もし、私が抱えることに疲れたら、全てあなたに託しますね。」

 

「なんなら、今からでも構いませんよ?」

 

「では、半分抱えていてください。今はもう少しだけ、私も姉の想いを抱えてみたいと思っているので。」

 

 しのぶさんと笑い合いながら言葉を交わして歩いていると、彼女が言っていた訓練場にたどり着いた。

 

「ふぅ……話しただけで、少しすっきりしました。さぁ、始めましょうか、優緋さんの訓練を。」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

 先程より明らかに晴れやかな匂いをまとうしのぶさんに、頭を下げて告げれば、彼女からも明るい返事が聞こえてきた。

 

 しのぶさんと少し仲良くなることはできたかね?

 そんなことを考えながら、私はしのぶさんの稽古にのぞ……

 

「お前謝れよ!! 毎日毎日天国いたのに地獄にいたような顔で帰ってきやがってぇええええ!!」

 

「ハァ!? いきなり何逆ギレしてんだテメェ!!」

 

「女の子と毎日キャッキャッキャッキャッしてたんだろ!!? 何をやつれた顔してみせたんだよ!! 土下座して謝れよ!! 切腹しろ!!」

 

「んだとテメェ!! 意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇ!!」

 

「お前の方が意味分かんねぇよ!! 女の子に触れるんだぞ!? 体揉んでもらえて!! 湯呑みで遊んでる時は手を!! 鬼ごっこの時は体触れるだろうがアア!! 女の子一人につきおっぱい二つ!! お尻二つ!! ふともも二つついてんだよ!! すれ違えばいい匂いするし、見てるだけでも楽しいじゃろがい!! 幸せ!! うわあああ幸せ!!」

 

 …………うーん……これは……。

 

「……しのぶさん…………。」

 

「……善逸君にはちょっときついお仕置きが必要ですかね?」

 

 ……修行に臨みたいところでそのシーン挟まるとかどういうことよ。

 めっちゃ聞こえてんだけど……?

 うっへぇ……と表情を歪めながら、しのぶさんに声をかければ、彼女は笑顔でごきごきと指を鳴らす。

 うん、私も擁護しないので、どうぞ少しだけセクハラ君にはお灸を据えてやってください。

 

 

 

 


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