目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
しのぶさんから、今日の訓練から十回負けたら強制的に継子発言をされて数時間後。
私、しのぶさん、カナヲ、アオイ、すみ、きよ、なほの七人は訓練場内で一斉に鬼ごっこをしていた。
相変わらず私はしのぶさんを追って、カナヲたちに追われての高難易度訓練を強いられているが、痣を発現してから体の調子が異常と感じてしまうくらいに良く、カナヲたちに捕まることもないまま、しのぶさんとかなり距離を縮めている。
手を伸ばせばすぐにでも掴めてしまいそうな距離……だが、おそらくこの場で手を伸ばしたところで、いつものように虫網をひらりと躱す蝶の如く、軽々と躱されてしまうだろう。
「おっと。」
「……予想はできた。」
まぁ、だからと言って手を伸ばさなくては捕まえれないのも事実のため、手を伸ばしたが。
「うーん……ひょっとしなくとも優緋さん。今日、調子がすごく良かったりします?」
「ですね。昨日に比べたら、明らかに変化してると思います。」
軽くしのぶさんと言葉を交わしたのち、再び彼女に向かって手を伸ばす。
……ギリギリで躱された。
「今のはちょっと危なかったかもしれませんねぇ……」
けど、しのぶさんが若干驚きと焦りに苛まれているような匂いはする。
さっきのは本当に危なかったようだ。
「よっと。」
「あ……!!」
そう思いながら、私は軽く跳んでバク宙を行う。
宙返りにより視界に一瞬入ったのはカナヲの姿だった。
「残念でした。」
「……次こそは…!」
カナヲから少しだけ闘争心の匂いがする。
同期でありながらも、差が出てきている私に対して、少しだけ感情が引き摺り出されたのかもしれない。
これはいい傾向なのだろうか……?
まぁ、今はいいや。
とりあえず今日分の訓練を終わらせよう。
そう思いながら、カナヲとアオイの手をひょいひょいと躱しながら、私はとにかくしのぶさんを捕まえるために手を伸ばし続ける。
相変わらず躱されまくるけど……。
でも、痣を発現していない状態での訓練に比べたら、かなり彼女の動きを目で捉えることができるようになっている。
自身の体も軽いため、躱されたら瞬時に体勢を立て直して追うこともできるようになっている。
これなら、ある程度様子を見れば隙を見つけ出すことも可能かもしれない。
柱だから簡単に隙を見せたりしないことは理解できるけど、きっと、粘り続ければわずかな穴を見つけ出すことも可能なはずだ。
……その予想は当たっていた。
何回目かの攻防で、彼女の動きに若干の隙を見つけることができた。
そこにつけ入れば、羽織くらいは掴めるはず!!
ひらひらと翻る蝶の羽のようなしのぶさんの羽織。
回避された瞬間に体を反転させて思い切り手を伸ばす。
すると、その羽織の布を掴むことができた。
「!?」
しのぶさんが一瞬驚いた様子を見せる。
だが、すぐに彼女は頭を切り替えたのか、素早く羽織から自身の腕を抜き、慌ててこちらから距離を取る。
私の手元には、その際に残されたその羽織だけが握り締められていた。
「…………予想はしていたけど、やっぱり柱を捕まえるにはまだまだ修行が足りないか……。指を掠めるだけだったこれを奪ることができたことは嬉しいけど、ちょっと違うよな……。」
ほんのりと藤の香りがする羽織を見つめながら呟く。
うーん……彼女を捕まえるまで、ちょっと時間がかかるかもしれないな。
「…………。」
しのぶが羽織っていた羽織をその手に掴み、納得いかないと言った表情をしながら考え込む優緋。
そんな彼女を見つめながら、訓練をつけていた蟲柱、胡蝶しのぶは驚愕しながらその場で固まる。
鼓動がかなり速い。
誤魔化しきれない焦燥に苛まれる。
(まさか……羽織を奪られてしまうなんて……)
目の前にいる優緋は、まだ鬼殺隊に入ってそこまで長い時間過ごしていない一般隊士のはず。
だのにその実力はすでに柱に近づきつつあると言う現状は、優緋より先に鬼殺隊として行動していたしのぶからすると、あまり見たことがない光景だった。
柱の中には二ヶ月という短い期間で柱にまでのし上がってきた少年が一人いる。
そんな彼と並ぶほどの成長速度を、今、目の前の剣士は見せている。
才能を持ち合わせている霞柱の少年と並ぶ程の成長速度でここまで成長してきた剣士の姿を側で見ていたしのぶは、動揺するしかなかった。
ぐるぐると脳裏に疑問を浮かべながら、しのぶは優緋に歩み寄る。
「あの、優緋さん?」
「ん? ああ、すみません。羽織、持ったままでしたね。お返しします。」
「え、ええ……。」
確かに羽織も返して欲しかったが、それ以前に、どうしてそこまで成長が速いのか理由が聞きたかった。
しかし、その問いかけの言葉はしのぶの喉から出てくることはなく、返却された羽織を受け取るだけしかできなかった。
(……この速さは、いったいなんなんでしょうか……? いったい、この子は……?)
どことなく底冷えするような感覚を覚えながらも、しのぶは返却された羽織を再び身につける。
(そういえば……痣を出していなかった昨日までの優緋さんと、痣を出している今日の優緋さんで……動き方が一気に変化……しましたよね……?)
そんな中ふと、昨日までの優緋と、今日の優緋の違いを思い出すしのぶ。
未だに考え込んでいる様子の優緋に、そっと視線を向ける。
彼女の額には、打ち身にしては明らかに不思議な形をしている痣が浮かび上がっており、かなりの存在感を放っている。
(………まさか……ね……。)
一瞬、その痣が何かしら関係しているのかと考えたが、痣の有無程度で能力に変化など発生するのだろうか?という疑問と、そんな話聞いたことなどないし、確証もないという解答にいきつき、考えを捨てるように軽く首を左右に振る。
「どうしました、しのぶさん?」
急に首を左右に振ったしのぶに気づいた優緋が、疑問の声を上げる。
「いえ、なんでもないですよ。」
しのぶはすぐに笑顔でなんでもないことを彼女に伝えて、一度手を叩く。
「どうやら時間が来てしまったようですし、今日はここまでです。今回のこの結果は……そうですね……。私の羽織を奪れたことは評価できますが、完全に捕まえたわけではないですからね……引き分けということで。」
「……やっぱり、賭けはするんです?」
「はい、もちろんです。」
「は……はは……素晴らしい笑顔、ありがとうございます……。」
頭を切り替えるために紡いだ言葉に、優緋が苦笑いをする。
……いつもと変わらない表情や態度。
だが、それを見てもしのぶからは底冷えするような感覚は抜けきれておらず、少しだけ表情を歪める。
これは……一応、お館様に伝えた方がいいかもしれない……。
そんなことを考えながら、今日のところは解散することを告げるのだった。