目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
痣を出した日から二十五日後。
原作の炭治郎が全集中・常中を会得した頃。
痣を発現させ続けることができるようになった私の体は、完全に痣状態での行動が染み付いていた。
最初の方は調子の良さや体の軽さに戸惑っていたため、少しだけ飛ばしすぎることがいくらかあったけど、今は完全にコントロールできるようになった。
……訓練場の中。
複数人の走る音だけがこだましている。
今まではカナヲたちに捕まりそうになるたびに躱すこともしていたため、しのぶさんに喰いつくのもやっとで、羽織を獲るまでしかできなかったけど、今日は違う。
なぜ違うのかというと、私がカナヲたちを振り切ってしまっているからである。
今日も彼女たちは私を追っていた。
しかし、今の私にはどうやら彼女たちは追いつくことができないようで、完全に傍観に徹する形になってしまっているのだ。
そのため、今は私としのぶさんによる完全な一騎打ち状態となっている。
これまでの訓練では、しのぶさんは余裕の笑みを浮かべて遊ぶように私の相手をしていた。
だが、今のしのぶさんの表情からは笑みが消えており、明らかな真剣モードとなっている。
現柱でさえ真剣な表情になる……そこまで私は成長していたのかと驚いた。
同時に安堵も抱いていた。
これなら、きっと煉獄さんのサポートも上手くこなせるし、猗窩座と戦闘しても即死することはないだろう。
まぁ、即死しないだけであり、死なないとは言っていない。
煉獄さんの救済も今の状態では絶対にできないだろう。
……彼を救済するための鍵になる“透き通る世界”に、私はまだ足を踏み入れてないのだから。
……“透き通る世界”を使用した状態でなくては、彼の必中攻撃の鍵となる闘気に反応する羅針盤を欺くことはできない。
あれを欺かなくては、軽傷のみの勝利・撃退は難しい。
少しだけそんなことを考えながら、私は一気にしのぶさんに距離を詰める。
「あ……!?」
しのぶさんから上がる驚きの声。
私の手がとらえたのは、彼女の腕だった。
「……私の勝ち、ですね。しのぶさん。」
小さく笑いながらしのぶさんに声をかければ、彼女は一度目を閉じたあと、口元に緩やかな笑みを浮かべて視線を向けてきた。
「はい、私の負けです。まさかこれ程までとは思いませんでした。下弦の伍とはいえ十二鬼月を倒しているので、能力や才能はかなりのものだと予測はしていましたが、それを凌駕していましたから。柱としてちょっと悔しいです。柱になるまで、かなりの時間がかかった私に、数ヶ月しか鬼狩りをしていない新人さんが並んだんですから。まぁ、他の柱の皆さんにはまだ並べないでしょうけど。」
「あはは……。」
ちょっと棘のある言葉を言ってきたしのぶさんに対して思わず苦笑いをしてしまう。
相当悔しかったらしい。
拗ねているような、怒っているような、羨望するような……イライラしているような匂いがする。
「ですが、優緋さんの力はかなりのものです。その実力ならば、自然と柱の皆さんもあなたを認めてくださるでしょう。もちろん、鬼に対しての懸念はなかなか消えないでしょうけど、強く当たられることだけは無いと断言できます。まぁ、もし何かあれば、遠慮なく相談してくださいね? 継子も歓迎しますよ。」
「最後まで継子になれ……なんですね……。」
「ええ。気が向いたらいつでも申し出てください。」
けど、その匂いもすぐに霧散して、普段の優しい匂いが鼻腔をくすぐる。
それが少し嬉しくて、くすくすと小さく笑い声を漏らした。
「どうかしましたか?」
「……なんでもないですよ。まぁ、強いていうなら、しのぶさんからとても楽しげな匂いと、穏やかで優しい匂いが最近はいっぱい感じ取れるなと思ったんです。気持ちが楽になった証拠でしょうかね。」
「……そうですね。はい。それは肯定しましょう。私が抱えていたものを、無理して一人で抱えなくてもいい……潰されてしまいそうならば、いつでもその重荷を代わりに抱えようと言ってくださった友人が、目の前にいるので。もう、偽る生活をする必要がなくなりましたから。」
「それはそれは……少しでもしのぶさんの笑顔に貢献できたようで何よりです。」
互いを見つめながら笑い合う。
とても心地よく感じれる程、穏やかな空気が辺りを漂う。
うん、まさしくホワホワする、だな。
でも、そのホワホワ空間はすぐに霧散することになった。
訓練場の出入口付近から、カタンという物音が聞こえてきたために。
「ん?」
「あら?」
「「あ………」」
物音の方に目を向けてみると、そこには善逸と伊之助の姿が。
しのぶさんから怒りの匂いがした。
「……あらあら、随分と長い長い休憩でしたね、善逸君に伊之助君? 私、てっきりもう二度と戻ってこないのかと思いましたよ?」
笑顔だけど怒りの匂いが半端ないです。
「「……………。」」
「まぁ、十分休息を取ったようですし、前以上にきつめの訓練をしても問題はないですよね? だっていっぱい休んだのですから。体調もきっと万全なのでしょう?」
「「………………。」」
素晴らしいくらいのブラックスマイルを浮かべながら、穏やかな声音で話しかけてくるしのぶさんの姿に、善逸と伊之助の二人はダラダラと冷や汗を流し始める。
よく見るといつでも逃げることができるように、腰を引いた体勢だ。
このままではまた二人が逃げそうだな……。
そう判断した私は、素早く二人の背後に回っては、訓練場の中へと押し込む。
「うわ!?」
「ぬお!?」
こちらの行動により、訓練場に強制的に放り込まれた善逸と伊之助がドテンと転ぶ中、私は訓練場の戸を閉めて戸の前に腰を下ろすことで二人の退路を断つ。
「ちょ、優緋ちゃぁあぁあん!?」
「おいこら優緋!! 何しやがるんだ!? 邪魔だぞそこ!! 部屋から出られねぇじゃねぇか!?」
「まぁ……部屋から出ると……? 伊之助君は部屋から出て何をしようとしていたんですか?」
「……………。」
顔を青くして助けを求めるような視線をこちらに向けてくる二人に、口パクだけでばーか、と告げる。
結果的には自分の強化に繋がったからいいけど、サボられたあの日は二人に対して結構ムカっとしたからな。
だって、二人がサボらなかったら難易度が一気に上がった鬼ごっこをしなくてもよかったんだから。
まぁ、一人でも多くの人を救うための大きな一歩を踏み出せたことは感謝してる。
だから、二人にはお礼の品という名の常中訓練を贈るとしようか。
自分の身を守ることができるようになること程、鬼狩りにとって嬉しいことはないだろうからね。
ちょっとした憂さ晴らしもこれでできると小さく笑う。
無限列車まで、あと少し。