目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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69.まさかの事態発生

 善逸と伊之助の退路を断ってしばらくした頃。

 

「ええ!? 全集中の呼吸を四六時中!?」

 

「ああ。私に水の呼吸を教えてくれた元柱の恩師がやっていてね。こっそりと真似していたんだ。おかげでしのぶさんに追いつけるようになった。」

 

「うそ……柱の人と鬼ごっこして追いつけるなんて……!! 俺たちカナヲちゃんにすら追いつけないのに!?」

 

「ちなみに、優緋さんの手にかかればカナヲも数分で捕まっちゃいますよ?」

 

「マジかよ……!!」

 

 逃げようとするたびに即行で私が阻止していたからか、逃げることを諦めたらしい善逸と伊之助の二人に、私はしのぶさんと何をしていたのかを教え、同時にどのような成長を果たすことができたのかを告げる。

 二人は驚いて固まってしまった。

 

「しのぶさんから教えてもらったんだけど、私が会得したのは全集中・常中と呼ばれるものらしくてね。上位の鬼殺隊の隊士なら当たり前のように会得している基礎的なものなんだとさ。常中ができれば基礎体力が飛躍的に上がるみたいでね。体力が尽きない限りは身体能力も底上げすることもできるから、基本的に鬼殺の剣士はみんな使用するんだってさ。カナヲも使えるらしいな。」

 

「はい。常中はいわば基本の技というか、初歩的な技術なので出来て当然のものです。会得するには相当な努力が必要ですけどね。」

 

 にっこにこと笑顔を浮かべながら言葉を紡ぐしのぶさんに少しだけ苦笑い。

 物語の展開をよく知っているから仕方ない、多分。

 

「まぁ、できて当然(・・・・・)ですけれども。仕方ないですできないなら。しょうがないしょうがない。」

 

「はははー………。」

 

 伊之助の肩をぽんぽん叩きながら言葉を紡ぐしのぶさんの姿に乾いた笑い声が漏れる。

 まぁ、伊之助を奮起させるには、煽るのは結構効果的だからなぁ。

 つか、しのぶさん、この短期間で伊之助の特性を見抜いたのか。

 すごいな……流石は柱。

 

はあ゛ーーーーーん!? できてやるっつーの当然に!! 舐めんじゃねぇよ乳もぎ取るぞコラ!!

 

 うん、大奮起。

 でも最後の台詞はいかがなものか……いや、まぁ、しのぶさんもちょっと言い過ぎな気もするけどね。

 

「頑張ってください、善逸君。一番(・・)応援してますよ。」

 

!?ハイッ

 

 なんて考えていたら、しのぶさんは次に善逸の手を握り、笑顔で一番応援していることを告げる。

 至近距離で綺麗な彼女の笑顔を見た上、一番なんて言葉を告げられた善逸は大喜びでやる気を出す。

 

 何というか……単純だなぁ……と思ってしまった。

 苦笑いをこぼしながらも、奮起した二人の姿を見つめる。

 

「では、早速始めましょうか。そうですね……この訓練で優緋さんと同じくらいになれとまでは言いません。彼女程の能力にまで成長するためにはこの療養期間は短すぎます。ですが、会得することはまだ可能です。なので、お二人には常中会得を目指してもらいます。」

 

 しのぶさんは、燃えている二人に目標を伝える。

 

「やってやらぁ!!」

 

「もちろんやり遂げてみせますともぉーーーー!!」

 

 賑やかだなぁ……と思いながら、私は訓練場から立ち去る。

 あれだけ奮起していれば、サボるなんて真似はきっとしないだろう。

 

「ん?」

 

 しばらくして自分に割り当ててもらっている部屋に戻ると、炭治郎が動いている気配を感じ取る。

 日中に箱から出てるなんて珍しい。

 

「炭治郎? 珍しいな、箱から出てるなんて。」

 

「う!」

 

 声をかけながら部屋に入れば、元気よく彼は返事を返してきた。

 日の光が入りにくい部屋だから活動しやすいのかもな……。

 ……禰豆子はまだ眠ってるみたいだな。

 まぁ、あの子は私たち以上に怪我していたもんな……。

 

 ……いや、禰豆子がひどい怪我を負っていたのは、あの時二人を差し出した私のせい……だな。

 

 二人の潔白を証明するためとは言え、自ら二人を差し出す行為は、本来ならばやるべきことじゃないのに、私はそれをしたんだ。

 読者としての視点が抜けておらず、結局のところ、肉体や記憶だけを持ち合わせてるに過ぎない紛い物であり、異物であることは変わらない……。

 

 きっと……本来のこの子ならば、差し出すなんて真似はしないだろう。

 

「……うー。」

 

「ん? どうした?」

 

 溜息を吐きそうになっていると、炭治郎が心配そうな目を向けてきた。

 疲れているように見えたのか……それとも、若干の違和感を覚えているのか……。

 わからないな。

 心配という匂いしか感じ取れない。

 

「う!」

 

「おっと。」

 

 炭治郎を見つめていると、彼は私の手を取り、そのまま自身の頭の上に乗せた。

 どうやら撫でろと言いたいらしい。

 

「はいはい。」

 

 少しだけ苦笑いをしながら炭治郎の頭を撫でてやれば、彼は上機嫌に笑う。

 だが、少しすると、自身の口元にある竹を手で外して、私のことをじっと見る。

 

「ねえ、ちゃ。だいじょうぶ。だいじょうぶ。」

 

「………へ?」

 

「ねえ、ちゃん、なら、だいじょうぶ……!!」

 

 まさかの事態に目を見開く。

 ウソだろ……なんで今……。

 炭治郎が……喋った?

 

「炭治郎……あんた……話せて……。」

 

 混乱して声をかければ、炭治郎はにこりと笑顔を見せた。

 その姿に思わず涙が流れた。

 

「ねえ、ちゃ。なかない、で。」

 

 少年にしては多少ゴツゴツとした手で頬に触れられ、思わず彼を抱きしめた。

 この行動は私の意思……?

 それとも、私が宿る体の意思……?

 いや、今は考えている場合じゃない……っ

 

「ごめん……ごめんな、炭治郎……!! いっぱい痛い思いもしただろう? 禰豆子たちを守っていた時も……! 鬼にされてしまった時も……!! 数ヶ月前のあの時も!!」

 

 溢れ出てくる感情のままに、私は炭治郎に謝罪する。

 どちらの意思かなんてわからない。

 何もかもごちゃ混ぜの状態だ。

 でも、ごめんという言葉しか紡げなくて、嗚咽を漏らすことしかできなかった。

 

 泣きながら謝罪する私を、炭治郎はずっと抱きしめて、優しく頭を撫でていた。

 彼から感じ取れた匂いは、しょうがないなという呆れの匂いと、誰よりも優しい匂いだった。

 

 

 

 


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