目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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07.狭霧山到着。始まりの試練。

 しばらく走っていると、前を走っていた鱗滝さんが足を止めた。

 それに続くように足を止めると、そこには一軒の小さな家が。

 間違いなく鱗滝さんのご自宅だ。

 炭治郎と禰豆子が、二年間過ごした場所。

 

(ふぅ……なんとかなったな……。ちょっと呼吸を長く使ったから、少しばかり疲労が……。)

 

 まぁ、原作の炭治郎ほど呼吸は乱れていないけど、やっぱりきついものはきつい。

 これは……鱗滝さんに水の呼吸を教わりながら、ヒノカミ神楽の呼吸こと始まりの呼吸、日の呼吸もしっかりと修行する必要があるな。

 少しでも無惨に対抗できるようにした方が、死傷者も最小限に抑えることができるだろうし。

 っていうか、日の呼吸もしっかりと使えるようになっとかないと魘夢からの猗窩座戦で煉獄さん失っちゃうし。

 ……猗窩座に止めを刺すまではいかないかもしれないけど、撃退くらいはしないとね。

 

「……これで認めてもらえる……雰囲気ではなさそうですね。」

 

「……ああ。ひとまずはお前の弟と妹を儂の家に入れろ。試すのはそれからだ。」

 

「わかりましたっと。」

 

 鱗滝さんの指示に従って、炭治郎と禰豆子を彼の自宅へと入れて、籠の布を外す。

 

「う?」

 

「む?」

 

 すると、二人はひょっこりと顔を出しては、初めてケージの中から家の中に入った犬猫のように、辺りをきょろきょろと見渡した。

 

「炭治郎。禰豆子。姉ちゃんな。少しばかり用事ができたから、しばらくはこの家でお留守番しておいてくれ。大丈夫。鱗滝さんっていうおじいさんも一緒にいるからな。ゆっくりと休んでいい。姉ちゃんも、夕方にはちゃんと戻ってくるから、いい子にしていてくれるか?」

 

 そんな二人に私は穏やかな声音で話しかけ、修行をするという言葉は使わず、用事ができたことだけを告げて、いい子でお留守番をしていてほしいことを伝える。

 

「む!!」

 

「んー………。」

 

 すると、禰豆子は元気よく返事を返してきた。

 しかし、炭治郎はどことなく不安と心配の匂いを纏う。

 私がなにをしようとしているのか、なんとなく匂いでわかってるんだろう。

 

「炭治郎。禰豆子をよろしく頼むよ。……無理はしないようにするからさ。姉ちゃんの代わりに、可愛い妹の側にいてやってくれ。」

 

 思わず苦笑いを溢してしまう。

 だけど、これだけはどうしてもやらなきゃいけないことだから、炭治郎に無理はしないからと約束を取り付けて笑顔を見せる。

 

「……ん。」

 

 少しだけ不満そうな様子を見せてはいたが、炭治郎はちゃんと聞き分けてくれた。

 うん、流石は長男だ。

 えらいえらい。

 

 二人の頭を優しく撫でて、私は静かにその場を離れる。

 向かったのはもちろん、鱗滝さんの元である。

 

「準備はできたな。」

 

「はい。」

 

「よし、ならば今からお前を試す。まずは一旦狭霧山に登るぞ。」

 

「わかりました。」

 

 いざ、最初の修行と参ろうか……なんてね。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ……鱗滝さんに続くようにして狭霧山を登っていくこと数十分。

 空はすでに青から茜色へ。

 茜色から濃紺へと変化してしまった。

 

 ……標高がかなり高くなったから、少しばかり息苦しい。

 ここから罠だらけの狭霧山を夜明けまでに駆け下りて、山の麓の家まで行かなくてはならないのかと思うと少しだけ気分が落ち込んだ。

 さて……どこまで私の呼吸が持つのか……。

 

 多分だけど、良くて二時間。

 悪くて一時間くらいしか持たないような気がする。

 

「優緋。」

 

 自分の限界がどれくらいで訪れるだろうかと思案していたら、鱗滝さんが振り返り、私の名前を静かに呼んだ。

 その声に応じるように顔を上げると、天狗の面の目と目が合う。

 

「ここから山の麓の家まで夜明けまでに下りてくること……これが果たされたならば、お前を認めよう。だが、間に合わなかったらそこまでだ。大人しくこの場を去れ。」

 

「わかりました。」

 

 静かな声音で告げられた試練。

 それを承諾するように返事を返せば、鱗滝さんは深い霧の中へと姿を消していった。

 

「鱗滝さんの匂いはわかる。けど、罠の匂いがわかりづらいな……。」

 

 罠になるべく当たらないようにするためには、全集中の呼吸をうまく活用し、同時に自身の嗅覚を最大限まで使用しなくてはならない。

 思った以上に厳しい内容に一瞬表情をしかめてしまう。

 だが、すぐに頭を切り替えては、私は静かに目を閉じる。

 一旦は五感のほとんどを閉じて、嗅覚を使うことに専念しないと始まらない。

 

「……わずかにだけど、人工的に作られたものの匂いがわかった。まぁ、だからといって全部を発動させないように動くのは無理があるからな……。少しずつ罠を作動させて、飛んできたものをギリギリで回避する方が無難かもしれない。できるかわからないが、試してみる価値はある。あ、落とし穴だけは避けないとな……。それはかなりのタイムロスになる。」

 

 少し集中してみれば、すぐに罠の匂いを嗅ぎ分けることができた。

 次に考えたのは罠の回避方法。

 多少無茶苦茶な内容ではあるけれど、最善はこれだと判断する。

 

「そんじゃ、始めますか。」

 

 呼吸を使うのは罠の回避時のみにして、それ以外では呼吸を制限する。

 うん、童磨戦みたいだな。

 あれは呼吸を最小限にした上、散布される氷結の血鬼術を吸わないようにするためのもので、真逆な気もするが。

 

 なんて、くだらないことを考えながらも私は地面を蹴り上げた。

 下り坂のため軽く蹴っただけでもかなりのスピードが出てしまい、罠を発動させる際に使われる縄に一瞬足を引っかけそうになったが、ギリギリで飛び越えた。

 勢い余って宙返りしちゃったけど、なんとか着地する。

 先に落とし穴があったから、それは軽く飛び越えた。

 落とし穴付近には糸があったため、踏んづけてしまうが、すぐに呼吸を利用して、飛んできた丸太を回避する。

 

「……この体怖っ。なんで意外とできちゃうんだよ、こんな超人技。」

 

 いや……この世界じゃこの程度は超人技じゃなかったな。

 当たり前のように鬼殺隊がやってるっつの。

 向こうの世界でなら超人技だろう。

 SA○KEもトップ狙えたかも。

 

「……やっべ……少しだけ呼吸を使っただけでもちょっと息切れしてきた。空気が薄すぎるだろここ。」

 

 でも、文句は言ってられない。

 とにかく罠は回避しまくって、少しでも時間を短縮しないとな。

 

「よっしゃ。やってやろうじゃないの!!」

 

 改めて気合を入れて狭霧山を駆け下りる。

 怪我なんかしたら炭治郎たちに怒られるから、無傷のまま頑張って。

 まだ罠は単調だ。

 変な捻りもなく、変な配置もない。

 まさに初心者向けのコースといったところだろう。

 これならまだなんとか無傷で終わらせることができる。

 特に頭を悩ますことなく。

 

 その優しさに少しだけ感謝しながらも、時には木の枝に飛び乗り、フリーランニングの要領で飛び移りながら、枝に仕掛けられた罠を見つけたら地面に降り立ち下を走る。

 しばらくそれを続けていれば、狭霧山の麓の家までたどり着くことができた。

 

「ハァ……ハァ……ッ」

 

 少しだけ肺を酷使したけどなんとかなった……軽くふらつきながらも、鱗滝さんの家の戸に手をかけて、静かに開ける。

 

「……戻りました。」

 

「まさか、こんなに早く戻ってくるとは思わなかった。だが、課した内容は果たされた。お前を認める。竈門優緋。」

 

 息を切らしながら戻ったことを鱗滝さんに伝えれば、少しだけ彼は驚きながらも、認めると一言言ってくれた。

 その言葉に小さく笑みを浮かべる。

 修行の一段階目は、始めてくれそうだ。

 

 

 

 


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