目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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73.ヒノカミ稽古の合間にて

 ヒノカミ稽古五日目。

 最近は炭治郎もだいぶ日の呼吸を使えるようになってきた。

 初日の時に比べたらかなり鋭い一撃を加えてくるようになってきたからな。

 少しずつこちらも本気を出さざるを得ない状況になり始めていた。

 

「すごいな炭治郎。五日間でここまで行けたか。私は結構時間かけてここまで来ていたから驚いてるよ。」

 

「おれ、つよくなれてる?」

 

「ああ。すごく強くなれてる。この調子なら、禰豆子を炭治郎に任せて単独で鬼を倒すことも可能かもしれないな。」

 

「むりはだめだからな、ねえちゃん。」

 

「わかってるよ。」

 

 小さく笑いながら炭治郎の忠告に頷けば、彼は満足げに笑う。

 だが、すぐに木刀を構えては、再び日の呼吸を使ってきた。

 同じく日の呼吸を使いそれを受け流すと、すぐに別の日の呼吸を繋げてくる。

 ふむ、なかなかやってくるなこの子。

 流石は主人公なだけある。

 

「優緋さん……また、炭治郎君に訓練をつけてるんですね。」

 

 そんなことを考えながら炭治郎との鍛錬に集中していたら、しのぶさんが声をかけてきた。

 

「あ、しのぶさん。」

 

 彼女の声に反応を返し、視線をそちらに向けてみれば、しのぶさんは穏やかな笑みを浮かべたまま私たちを見つめていた。

 怒りの匂いは感じない。

 感じるのは懐かしいという感情だった。

 

 ひょっとしなくてもあれか?

 私と炭治郎に、過去の自分と、失ってしまった姉、カナエさんを重ねているのか?

 

「夕飯の準備ができたので呼びに来ました。」

 

「ああ、ありがとうございます。よっと。」

 

「あ………!?」

 

 しのぶさんから感じ取れる懐かしいという感情から、今の彼女の状況を分析しながら、炭治郎の木刀を思い切り背後に飛ばす。

 こちらの一撃が当たったことにより手元から木刀が消えてしまった炭治郎は、目を丸くして固まっている。

 

「今日はここまでだな。」

 

 へらりと笑って炭治郎に声をかければ、彼は表情にも匂いにも拗ねという感情を滲み出しては、私のことをペムペム叩き始めた。

 

「イタタタタタ! ちょ、炭治郎ペムペム叩くなって!!」

 

「あらあら……。」

 

 負けたのが悔しいのか、鍛錬が終了するのが嫌なのか……どちらかはわからない。

 けど、子供っぽいこの姿はちょっと可愛いと思ってしまった。

 しのぶさんは穏やかに笑って私たちを見つめている。

 

 しかし、不意にその匂いは少しだけ薄れ、彼女から真剣な目を向けられる。

 

「……優緋さん。炭治郎君に呼吸を教え、それを使った戦い方の訓練をつけているようですが……炭治郎君に、刀を持たせるんですか?」

 

「……………。」

 

 しのぶさんの問いかけに無言になる。

 

「ねえちゃん?」

 

 すると、炭治郎はきょとんとした表情をしながら首を傾げて見つめてきた。

 そんな彼の頭を優しく撫でてやれば、ふにゃりと可愛らしい笑顔を見せた。

 

「……本当は、持たせたくないです。でも、炭治郎が望みました。私の手助けや、禰豆子を守るために強くなりたいと。私が使ってる呼吸の一つであるヒノカミ神楽なら、きっと自分も使えるようになるはずだからと。……炭治郎の確かな意思……それを尊重したいと思い、彼に技術を教えています。」

 

 その笑顔を見つめながら、小さく笑い、しのぶさんの問いに答えた。

 

「……お館様には伝えているんですか?」

 

「はい。手紙の方でお伝えしました。お館様からは許可を頂いてます。」

 

「……そうですか。それならば私は何も言いません。ですが、鬼に日輪刀を持たせるなど前代未聞ですし、何か言われてしまうこともあるでしょう。それだけは、しっかりと覚えておかなくてはなりませんよ?」

 

「………はい。」

 

 しのぶさんの忠告に素直に頷けば、彼女は小さく笑う。

 

「さ、夕飯にしましょう、優緋さん。」

 

 そして、夕飯を食べようと誘ってきた。

 

「そうですね。炭治郎。屋敷に戻るよ。修行はまた明日だ。いいね?」

 

「……わかった。」

 

 その言葉に頷きながら炭治郎に声をかければ、彼は小さく頷いたあと、地面に転がっている木刀を拾い上げる。

 

「……前より話すの上手くなってますね、炭治郎君。」

 

 拗ねてる匂いがする……と苦笑いをしていると、話す炭治郎を見たしのぶさんが驚いたように呟いた。

 最初、彼が話せるようになったことに関しても驚いていたけど、だいぶ慣れてきたところで数日前以上に滑らかに話すからさらにびっくりしたようだ。

 

「私も驚いてます。いったい、この子の身に何が起きているのやら……。でも、前以上に私や禰豆子以外とも意思疎通ができているようですから、少しだけ安心してなくもないわけでして。この子となら、しのぶさんも仲良くなれるのではないかと思ったり。」

 

 小さく笑いながら、自分も同じ気持ちであることを伝えた私は、鬼でありながらも人を襲うという本能を自制することができ、意思疎通もしっかりと行える炭治郎となら、しのぶさんも仲良くなれるのではと告げる。

 

「そう……ですね……。可能性はあるかもしれません。不思議と、そう思います。」

 

 しのぶさんはすぐにそれは可能かもしれないと返してきた。

 匂いからも本心であることが嗅ぎ取れるため、少しだけほっとする。

 

「そう言っていただけて安心しました。すぐに仲良くして欲しいとか、無理強いなどはしません。ですが、時間がある時に、少しだけ歩み寄ってみてください。」

 

「はい。そうしてみますね。」

 

 笑顔でゆっくりでいいので炭治郎と仲良くして欲しいと伝えれば、しのぶさんは穏やかな笑みを浮かべたまま頷いた。

 そのことを嬉しく思いながら、側にいる炭治郎の頭を撫でる。

 

 この子や、禰豆子が少しでも早く鬼殺隊の人に認められ、ゆっくりと歩み寄る未来を願って。

 

 

 


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