目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
夕飯を食べ終わった私は、今日分の自分の鍛錬を行っていた。
とはいえ、やってることはヒノカミ神楽を剣舞の要領でそれなりに速いスピードで舞い続けているだけなんだけど。
なぜ、ヒノカミ神楽を舞い続けているのかというと、父さんの真似をしているといった感じである。
父さんもヒノカミ神楽を若い頃からずっと舞い続けていたことにより、型を全て覚え、尚且つスムーズに舞い続け、同時に“透明な世界”へと至っていた。
多分、本来ならば何年、何十年と続けることによりマスターできることなんだろうけど、今の私はそんなことを言ってる場合じゃない。
無限列車の物語に行くまで、すでに一週間を切っているんだ。
できることなら、“透き通る世界”に一瞬でも入りたい時期である。
まぁ、だからといって、焦っていたら駄目であることもわかってる。
むしろ、焦りのままに鍛錬していたら成果を得ることなく終わってしまうだろう。
それこそ、過去の鬼殺隊で起きた、痣の発現の話を聞いた隊士たちが思い詰め、焦った結果、至ることができなかったように。
なんかの漫画でも言ってたしな。
焦りは最大のトラ……いや、これはちょっと違うか。
ともかく、焦らず時間をかけるしかないのだけは確かだ。
(今の私にある無駄な動き……それを少しずつ削ぎ落としていくか……)
確か、父さんこと炭十郎は、祖父に神楽を教えてもらった時、最初のうちは動きや感覚を拾わなくてはならなかったこともあり、無駄な動きがかなりあったと言っていた。
五感を開き、自分の体の形を血管の一つ一つまで認識するのに精一杯で、とても苦しくて踠き続けて、それでも先が行き詰まっているとしか思えなかったとも。
その後、何千、何万とヒノカミ神楽を舞い続けることによって、たくさんのことを覚え、吸収した後は、必要でないものを削ぎ落としていき、動きに必要なものだけを残して全て閉じるのだと言った。
そして、やがて体中の血管や筋肉の開く閉じるを瞬きするように速く簡単にこなせるようになり、その時に光明が差すと。
そこまでできると頭の中が透明になり、“透き通る世界”と呼ばれる極界が見え始めるのだと。
しかし、それは力の限り踠き、苦しんだからこそ至れる“領域”だと。
で、弛まぬ努力をし続け、諦めることなく、考え続けることで私や炭治郎も同じ世界が見えるようになるし、どんな壁もいつか打ち破ることもできるようになるとしめた。
この体の記憶にもその話をしていた父さん……炭十郎さんの姿があった。
冬の寒空の下、とても大きなクマを斧一本で倒して見せた、あの見取り稽古の時の記憶も。
そこまで思い出した私は、ゆっくりと閉じていた目を開ける。
ヒノカミ神楽を舞い続けて、余計な動きを削っていく。
これで至れるかどうかはわからない。
でも、わからなくてもやらなくてはならない。
少しでも多くを助けるために。
悲劇を少しでも無くすために。
……どれくらい舞い続けたのかわからない。
夜はすでに更けており、月だけが静かに世界を照らしている。
辺りに響くのは神楽を舞うことにより発生する物音のみ。
とはいえ、庭で舞い続けていることもあり、すでに眠っているであろう蝶屋敷の人々は目を覚ます様子はない。
鬼を狩りに行っているしのぶさんたちが戻るわけもなく、のびのびと舞い続けることができる。
……舞って、舞って、舞い続けて、数えるのも億劫な程になった頃。
それは唐突に発生した。
「!?」
思わず手元から木刀が落下する。
カランという乾いた音が辺りに響く。
だが、それは今は些末なことで、私はただ一人驚いていた。
私の視界は確かに捉えていた。
自身の体が透けて、ハッキリと筋肉や血管、血流の流れが見えていた。
しかし、それは木刀を地面に落とした際に消えてしまった。
「…………はい……れた……?」
少しだけ混乱する。
漫画で見ていた以上に驚いてしまった。
「…………。」
地面に転がり落ちる木刀を静かに拾い上げ、再度ヒノカミ神楽を舞う。
先程の自身の集中力や、動きと感覚を思い出しながら。
それにより再び何もかもが透けて見え始める。
「ねえちゃん?」
不意に聞こえてきた声は、炭治郎のものだ。
ヒノカミ神楽を舞いながら、彼の様子を見てみると、彼の筋肉や血管、脳や心臓や骨といった、本来ならば見えないはずのものがハッキリ視界に映り込む。
……この状態だとそれなりに体力が削られる。
まだ完全な状態ではないということだろう。
でも、短い間でも維持することは可能なようだ。
(はは……完全に私、人から離れていってるな……。)
思わず苦笑いをしてしまう。
まさか、本当にこの蝶屋敷生活の内に“透き通る世界”に入れるなんて思いもよらなかった。
だが、またこれで一歩……いや、一歩の半分だろうから半歩か。
わずかではあるけど、煉獄さんと一緒に猗窩座を追い返すために歩みを進めることができた。
となると、だ。
明日から私がやらなきゃいけないのは、“透き通る世界”を出来るだけ長く維持しながら、ヒノカミ神楽を舞うことか。
最終的には数時間は維持できるようにしたいところだ。
多分、猗窩座との戦闘はそれなりに長く“透き通る世界”に入っておかなくてはならないはずだから。
あとは、猗窩座が攻撃のしるべとして使用している羅針盤……あれを狂わせるために闘気を抑えること……いや、抑える……っていうよりは消失させた状態での戦闘ができるようにしなくてはならない。
やれやれ……少し進んだらすぐに新たな壁がやってくる。
かなりめんどくさいことで。
でも、ここまで行ったんだから、最後までやり遂げてやるさ。
「起こしちゃったか、炭治郎。」
「ううん……さいしょから、おれ、ねてなかったから。ねえちゃんが、なかなか、もどってこないのが、しんぱいになったんだ。なにして、いたの?」
「……見ての通り、自分自身の鍛錬さ。いくつか私には目的があるからね。とはいえ、今日はもう遅いし、目的に必要なものの手がかりに触れることができたからここまでにするがな。」
「そうなのか? だったら、あんしん、だな。それじゃあ、ねえちゃん。へやにもどろう?」
「ああ。」
こちらに手を伸ばす炭治郎に返事を返して、木刀を片手に彼に近寄る。
すると炭治郎は近づいてきた私の手を掴み、ぐいぐいと軽く引っ張ってきた。
ちゃんと戻るからと苦笑いをしながら、蝶屋敷に上がる。
明日から、また修行レベルをアップしないとなんて、内心で思いながら。