目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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75.新たな物語はすぐそこに

やってやったぞゴラ゛ァ!!

 

俺は誰よりも応援された男!!

 

「………ようやくか。」

 

 “透き通る世界”が見えるようになり、新たなステップに足を踏み入れた日から四日後のこと。

 “透き通る世界”が一度見えたあの日から、“透き通る世界”の維持の時間をだいぶ延ばせるようになった私の耳に、やかましい声が届いた。

 

「どうしたの……?」

 

「善逸と伊之助が強くなったことがわかっただけだよ。炭治郎。少し動きに無駄がある。そこはこうだよ。」

 

「ありがとう、ねえちゃん。」

 

 私の呟きに不思議そうな反応をしてきた炭治郎に対して、小さく笑いながら気にする必要はないと返した私は、すぐに彼の頭を優しく撫でて、善逸たちが強くなっただけだと返しながら、動きに無駄があることを指摘して、彼の手足に自分の手を添えここはそうだと教えると、炭治郎は笑顔でお礼を言ってきた。

 軽く笑い返しながら再び炭治郎のヒノカミ訓練を行う。

 

「オイ、優緋。弟ノ訓練中ニ悪イガ、知ラセダ。」

 

「ん?」

 

 しかし、不意に聞こえてきた天王寺の声に、私は一旦訓練を中断して天王寺の方に目を向ける。

 

「刃コボレノ修繕完了シタ優緋ノ刀ト、オ前ノ弟、竈門炭治郎専用ノ刀ガ今日届クソウダ。シカシ、オ前モナカナカ無謀ナコトヲ企ムナ。タダデサエ鬼ヲ引キ連レタ鬼狩リナンテ例外過ギル鬼狩リダト言ウノニ、更ニ鬼ニ鬼殺ノ刀ヲ持タセルナンテサ。前代未聞過ギルニモ程ガアルダロ。」

 

「……うるさいな。お館様から許可は頂いてるんだから文句言うなよ。」

 

「俺ガ言ッテルノハ文句ジャネェ。ヨクヤルナッテ呆レノ言葉ダ。ドウ考エテモ目ヲツケラレル行動シカ取レナイノカッテイウナ。」

 

「む……」

 

 ぐぅ……カラスに正論言われて言い返せない……。

 でも、炭治郎が望んでいるし、彼の意思なんだから尊重してあげたいじゃんか……。

 

「マァ、別ニイイガ、コレカラマタ厄介ゴトニナルカモシレナイカラ気ヲツケロヨ、相棒。」

 

「………ああ。」

 

 ……天王寺の相棒呼びにちょっとキュンとした。

 なんで無駄にイケメンなこと言うんだよこいつ。

 

「炭治郎。今日、あんたの刀が届くみたいだから、鬼狩りの指令が入った時、試しに炭治郎も戦ってみよう。大丈夫。もし危なかったら姉ちゃんが守ってやるからな。」

 

「うん。わかった。でも、ねえちゃんもむりはだめだからな。」

 

「わかってるよ。炭治郎も心配性だな……。」

 

 うん、この子本当にいい子すぎる。

 こんな弟持っていた、体の持ち主が羨ましいよ。

 まぁ、今は私が彼の姉になっちゃってるけど……。

 そういやぁ……この体の元々の意識はどこにいったんだ?

 私が宿るようになってから、記憶は得ることができたけど……。

 ひょっとして、累に怒鳴ってたあれがもう一人の……?

 無意識のうちに口にしていたが、冷静に考えるとなんなんだ?

 うーん……よくわからないなこれ。

 考えるのはやめよう。

 

 なんて、少しだけ思考を巡らせながら、私は炭治郎の頭を撫でる。

 彼は嬉しげに笑った。

 

 ……時間は経ち夕方。

 蝶屋敷の正門前で待っていると、チリンチリンと風鈴の音が聞こえてきた。

 

「………お久しぶりです、鋼鐵塚さん。」

 

 近づいてきた音に顔を上げ、小さく笑いながら話しかければ、ひょっとこ面の風鈴男……鋼鐵塚蛍の姿があった。

 

「刀は修繕した。新しい刀もな。何のために新しい刀を欲したのかはわからないが、産屋敷から玉鋼が送られて来たし、作ってはおいたが。」

 

 別に刀を折ったわけではなく、刃こぼれの修繕を頼んだからか、鋼鐵塚さんは至極穏やかだ。

 

「まぁ、ちょっとした訳ありでして。詳しくは話せないけど、秘密の剣士に渡すんです。皆を守るために戦いたいと望む、あの子の意思を尊重してね。」

 

 鋼鐵塚さんの問いかけに、濁す形で新しい刀の注文の理由を告げれば、彼は考え込むように腕を組む。

 

「まぁ、よくわからんが追求はしない。事情を追求するのは野暮だからな。俺はお前らの刀を打つ。お前らは俺が打った刀で戦う。それでいい。深く踏み込む必要もない。……が、その新しい刀を持った奴にはこう言っとけ。もし俺の刀を折りやがったらその時は覚悟しとけってな。俺の刀を折る奴は許さない。末代まで呪ってやるから覚えてろ。」

 

「ははは……肝に銘じときますわ……。」

 

 が、すぐに考えても無駄だと思ったのか、事情を持っている私に深く踏み込まない方がいいと判断したのか……まぁ、鋼鐵塚さんのことだから前者な気がするが、追求しないと言ってくれた。

 しかし、刀は絶対に折るんじゃないと、新しい刀を手にする奴に伝えておけと念を押してきた。

 脅し文句とも取れる言葉と一緒に。

 

 思わず苦笑いが溢れてしまった。

 でも、原作を知ってるからこそ、鋼鐵塚さんの不器用なところや、刀を折った時にあんだけブチ切れていた理由もわかってるからこそ、これが彼なりの気遣いであることが理解できる。

 素直に頷いて見せれば、鋼鐵塚さんは私をじっと見たあと、急にぐしゃぐしゃと強く頭を撫でてきた。

 

「うわ!? ちょ、何するんですか!?」

 

 髪が!! 髪がボサボサになる!!

 訴えるように怒鳴れば手が離れた。

 

「……絶対に折るんじゃないぞ。」

 

 静かな声音で言葉を紡ぐなり、鋼鐵塚さんはこの場から立ち去っていく。

 何なんだよ……とその背中を見送った私は、蝶屋敷の中へと戻った。

 髪を手櫛で直しながら。

 

「ねえちゃん!」

 

 部屋に戻ると炭治郎が声をかけてきた。

 

「ただいま、炭治郎。ほら。あんたの刀が届いたよ。」

 

 近寄ってきた炭治郎に、真新しい日輪刀を手渡せば、彼は目を丸くして固まった。

 しかし、すぐにパァッと明るい顔をしては、その刀を手に取る。

 

「鞘から刀を抜こう。こうやって抜くんだけど……」

 

「こう?」

 

「そう。で、完全に抜いたら、柄の部分をしっかりと握って……」

 

「うん!」

 

「素質がちゃんとあるなら刃の色は変化する。私の場合はこんな感じに真っ黒になる。炭治郎は?」

 

「くろくなったよ。」

 

「はは。じゃあ私たちは同じだな。」

 

「うん!」

 

 にこにこと笑う炭治郎の頭を優しく撫でれば、気持ち良さげな顔をして擦り寄ってくる。

 癒される笑顔にホッとしながらも、私は考え込む。

 

 刀が届いたということは、もう、目の前に無限列車の話が近づいてきている証拠だ。

 流れから行くと、多分、手が空いている私たちに無限列車攻略のための話が入ってくるだろう。

 いつ頃入ってくるかはわからないけど、話がかかるまでもう少し力をつけるとしよう。

 ああ、あと……ちょっとした細工を厄除の面にしないとね。

 その細工ができれば、格段に魘夢戦が楽になるはずだから。

 

 これからやることを脳裏に描きながら、炭治郎に刀の納め方と、鋼鐵塚さんから言われた刀を折るなという忠告を伝えるのだった。

 

 

 

 


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