目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
玄弥と別れてしばらく経った頃。
アオイに挨拶を済ませた私は、一人庭の方へと歩いていた。
「お。見つけた。」
向かった先はカナヲの元。
彼女は自室の縁側に座って、一人庭を眺めていた。
「こんにちは、カナヲ。」
「!」
話しかければカナヲは一瞬目を丸くして私を見てきた。
そんな彼女に微笑みながら、私はゆっくり歩み寄る。
「次の指令が入ったから、もうすぐ私たちは出発するんだ。だからその前に挨拶をと思ってね。いろいろと世話になったよ、ありがとう。」
「………。」
いつもの調子で話しかけると、カナヲはニコッと笑顔を見せる。
けど、それ以外はなんのアクションも見せず、ひたすらにニコニコと笑っていた。
「………カナヲってさ。あんまり自分から話さないよな。どうしてだ?」
「…………。」
私の指摘にカナヲが目を丸くする。
しかし、すぐに考え込むような様子を見せた後、服から一枚のコインを取り出し、それを上空へと指で弾き飛ばした。
ピンッという音を立てながら空へと飛んでいったコインはくるくると何回か回転し、カナヲの元に落下する。
カナヲは落下したコインを手でキャッチして、そっと片手を退けた。
そこには裏という文字が記された面が上を向いているコインがあった。
「……指示されてないことは、これを投げて決めてるの。」
どうやら、裏になればこちらの質問に答えるという条件でコインを弾いたらしい。
しかし、それ以外は話すつもりないのか黙り込んでしまう。
その姿にうーん……と考え込む。
この子にも理由があるのは知識で知っているが、自分の行動をほとんどコインに決めてもらうというのはいかがなものか……。
「うーん……自分で決めたいとは思わない感じか? 自分自身はどうしたいかとかは無い感じ?」
どうしたものかと考えながら、自分のやりたいと思うことはないのかと問う。
「どうでもいいの。全部どうでもいいから自分で決められないの。」
カナヲはすぐにどうでもいいから自分では決められないのだと答えてきた。
何も知らなかったらそうなのかとなりそうなくらいざっくりと。
でも、私は彼女にもちゃんとした意志があることを知っている。
彼女が鬼殺隊に入った際に、しっかりとそれがあったことを。
「なるほど、よくわかった。カナヲは心の声が小さいんだな。」
紡いだ言葉は、炭治郎と同じ言葉。
しかし、これは私が彼の立場にいるからと口にした言葉じゃない。
彼女にもしっかりとした意志があることを知ってるからこそ、自分の意志で動いて欲しいからである。
「じゃあこうしよう。カナヲ。それちょっと貸してくれるか?」
「え、うん……あっ……」
かなりの戸惑いを見せるカナヲが頷いたことを確認した私は、カナヲの手からコインを取り、庭に出てそれを親指の上に乗せる。
「今から私がこれを投げる。そうだな……よし、表にしようか。表が出たら、これからカナヲは自分の心の声をよく聞いて、自分の心のままに生きるんだ。裏が出たなら今まで通りに。」
そして、彼女に笑いかけながら、親指でコインを弾き飛ばす。
「おっと……ちょっと力いっぱいに弾きすぎた。高く飛んだな〜……。」
思った以上に高く飛んでしまった。
陽の光のせいで小さいコインが見えにくい。
けど、まぁ、キャッチできないわけではない。
「ほっ」
目視することができたコインをキャッチする。
力強く手を叩き過ぎてちょっと痛い。
「うっし。取ることができた。さてさて結果はなんじゃろなっと。」
「…………。」
痛みに軽く苦笑いをしながら、手の甲にあるコインがどちらを向いているのかを確かめるために、押さえていた手を退かす。
カナヲが息を呑んだ。
彼女もどちらが上を向いているのか気になるようだ。
「……結果は表だな。」
「………。」
カナヲが目を丸くして私を見つめてきた。
信じられないといった感じなのかもしれない。
「カナヲ。貸してくれてありがとさん。そして、今日から心のままに生きていこう。カナヲの人生はカナヲだけのものなんだ。何もかもこれに決めてもらう生なんて、いずれつまんなくなると思うよ。ああ、もちろん、指令に従って行動するのも有りだ。それは否定しない。でも、悔いなく最高な人生を生きるためには、自分の意志も必要さ。だから、少しずつ自分の意志で歩んでみようよ。わからなくなったら私も協力するからさ。」
ね?と笑顔を見せてみれば、カナヲから驚いた匂いがした。
「今までそれで物事を決めていたならすぐに大きなことを自分の意志で動いてこなすことは難しいだろうから、まずは小さなことから自分の意志で始めてみよう。そうすればいずれ大きなことも自分の意志でこなせるようになるくらい、心の声が大きくなるはずだからさ。もし、非番が重なったりしたら、一緒に街まで遊びに行ってみようよ。楽しいことを自分の意志でこなせるようになると、きっと最高の人生になる。じゃあな、カナヲ。生きていたらまた会おう。」
そんなカナヲにまずは自分の意志で小さいことから始めてみて、徐々に心の声を大きくしていき、最終的には大きなことをこなせるようになろうと伝える。
そして、カナヲに背中を向けた私は、蝶屋敷の正門の方へと足を進める。
「待って!」
「ん?」
するとカナヲから引き止める声がかけられた。
振り返ってみると、彼女はどことなく困惑と疑問が混ざった表情をしながら私を見つめていた。
「な、何で表を出せたの……?」
紡がれたのは、どうしてコインの表を出せたのかという疑問だった。
「……小細工してると思ったのなら否定するよ。あんな高さまで飛んじゃったら、そんなもんできやしないし、手を退ける時はカナヲを見ていたから奇術師じゃない私は何もできない。全てただの偶然さ。まぁ、どっちみち裏が出たら表になるまで投げ続けていたよ。だって、カナヲには自分の意志で動くという楽しさも少しくらい経験して欲しかったからね。」
私はすぐに笑いながら、小細工なんてしてないとカナヲに伝える。
カナヲは呆気に取られたような表情をしながら私のことを見つめていた。
「じゃあね、カナヲ。お元気で。」
そんな彼女に私は小さな笑みを向けて、挨拶をした後外に出る。
次のステージはもう目の前だ。