目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
「オイ優緋!! 何だあの生き物は!?」
蝶屋敷から離れて街の方に出てきた私たち鬼殺隊。
無限列車に乗るための駅にたどり着いた頃、伊之助が大声で話しかけてきた。
彼の視線の先にあるのは乗客が次々と乗っていく大きな汽車。
おそらく猪頭の下では目をキラキラと輝かしているであろう伊之助を想像しながら口を開く。
「ああ。あれは汽車って言ってな。人を乗せて遠くまで運んでくれる運び屋だよ。別に話したり鳴いたりしないし、人を襲ったりしないから、伊之助、攻撃すんじゃないよ。攻撃したら汽車は乗せてくれないし、どこか知らないところに置いていかれるから。ああ、大声出すのも禁止だからな。もし騒いだりしたらまた金的喰らわせるからそのつもりで。」
汽車のことを伊之助に伝えて、騒いだりしたらわかってるな?と脅し文句を口ずさめば、彼はビシッと石のように固まる。
しかし、少ししたら自身の股間を両手で押さえて、首がもげるんじゃないかって勢いで頷き返してきた。
いやぁ……女の身って楽だねぇ……。
平然と金的かますからって口にすることができるし、実行することも可能だから。
男を大人しくさせるのが楽だ。
「優緋ちゃんって容赦ないよな……。金的っつー一撃必殺を平然とかますんだから。」
「だって男の弱点じゃん。動き封じるのに楽なんだよこれ。まぁ、無差別に金的はしないけどな。ただ、ちょーっと大人しくしてもらいたい時とか? きつーいお灸を据える時には遠慮なくかますよ。」
善逸から引いた様子でツッコミをいれられたが、金的程便利な男の抑制方法はないだろと笑顔で返す。
怖って言葉が聞こえてきた。
ついでにそんな刺々しいところもちょっと好きとも。
「そんな呑気なこと言ってないで、さっさと切符を買うぞ。まぁ、その前に刀が目立つから背中に隠さなきゃだが。」
「なんで刀隠すんだよ。」
善逸の告白を軽くスルーして、刀を隠そうと口にすると、伊之助が不思議そうに聞いてきた。
「当然だよ。俺たち鬼殺隊は政府公認の組織じゃないんだ。刀なんてもの、堂々と持ち歩けないんだから。鬼がどうのこうの言ってもなかなか信じてもらえないし、混乱するだけだからな。」
その質問に答えたのは善逸。
彼は冷静な声音で鬼殺隊という組織は政府に認められていないということを伊之助に伝える。
「むしろ刀なんて持ってたらすぐに警察にしょっ引かれるからな。背中に隠そう。伊之助はこれを羽織ってくれ。念のために持ってきていた布。本当は羽織くらい作ってやりたかったんだが、残念ながら材料と時間がなかったから作れなかった。だからとりあえずこれをこうして……」
それに次いで刀を持っていることがバレた場合のめんどくささを私が伝えて、荷物の中から一枚の布を取り出す。
そして、布の端と端を彼の首元で綺麗に結び、マントのように羽織らせる。
「おお!? かっけぇ!!」
「はいはい。喜んでくれて何よりですっと。ほら、刀をこれで束ねて背負いな。」
「おう、わかった!!」
どうやらマントは気に入ってくれたようで、上機嫌な伊之助を適当に褒めながら紐で刀を束ねさせ、その背中に背負わせる。
「伊之助の扱いに慣れてるね。」
「まぁ、それなりに一緒にいるからな。ほら、切符買いに行こう。」
一部始終を見ていた善逸から感心する声が上がる。
一緒に過ごしている期間がそれなりにあるからと説明を返した私は、小さく笑いながら切符を買おうと善逸に告げた。
善逸はすぐに提案に頷き、切符売り場の方へと足を運ぶ。
伊之助を一人にするわけにもいかないから、彼のことを引き連れて、私も切符売り場へと向かうのだった。
……少しして。
切符を買った私たちは、それを持って汽車に乗車する。
見たことない景色に伊之助がうずうずしていたけど、騒ぐことはなかった。
金的するぞ発言がちゃんと効いていたらしい。
「確か、柱の人も一緒なんだよね?」
「そ。炎柱の煉獄杏寿郎さんって人がこの汽車に乗ってるらしいんだ。だから、合流して一緒に鬼退治だってさ。」
「なるほど……。で、その煉獄杏寿郎さん……って柱は優緋ちゃんわかるの?」
「うん。派手な髪色が印象的だったし、匂いも覚えてるからわかる。多分、そろそろ合流すると思うよ。だいぶ匂いが近づいてるから。」
車両の中を善逸とゆっくりと話しながら、次の車両へと移動するためのドアに手をかけて開く。
「うまい!」
「うわ!?」
「うお!?」
「ぎゃっ!? 何!?何があったの!?敵襲!?」
その瞬間ずがんといった感じで鼓膜を突き抜ける大きな声が辺りに響いた。
思わず驚いた声を上げてしまう。
原作の方を知っていたから驚かないだろうと鷹を括っていたが、そうでもなかったらしい……。
「うまい! うまい! うまい!」
「……………。」
……めちゃくちゃうまいうまい言ってる。
同じ車両の人もおっかなびっくりで固まってる。
中にはドン引きしてる人もいる。
「うまい! うまい! うまい!」
なのに煉獄さんは気にしてないのか、それとも周りが見えていないのか……ひたすらに駅弁を食べ続けながら、大きな声でうまいの連呼。
柱なのかと疑いたくなる気持ちもわからなくもない。
「ねぇ、優緋ちゃん。」
「何だ善逸。」
「本当にあの人が炎柱? ただの食いしん坊じゃなくて?」
「……言いたいことはわからなくもないが、彼が炎柱の煉獄杏寿郎さんだよ。」
苦笑いをこぼしながら煉獄さんで間違いないことを伝えると、マジで?といった表情を返される。
これが現実なんだから、私を見るんじゃない。
「あの、すみません、煉獄さん……」
「うまい!!」
「いや、それはもうわかった……つか飯食いながら話すんじゃない!!」
口の中に入ってるもんが飛んできたらどうすんだこの野郎!!