目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
……先程とは打って変わって静かな車両の席にて、私は一人物思いにふけていた。
周りにいる人らはすでに眠りに落ちている。
隣にいる煉獄さんも、近くの席にいる善逸と伊之助も。
常中を使えても、痣を発現していない人は容赦なく眠らせる程の術なんだな、と冷静に考える。
私も眠気に襲われてはいる。
でも、その眠気は平然とした状態である程度耐えれていた。
常中はもちろん使っている。
痣も発現してる状態だ。
痣者であるか否かで血鬼術に対する耐性が違うのだと理解する。
いやぁ……本当、痣者ってなんなのかわかんないな……。
「………気配が動いてる。魘夢に加担してる人らのだな、これ。」
誰も動かない車両の中で、わずかに動く数人の気配。
私は誰の気配かを冷静に分析してから目を閉じる。
これは夢へと人を誘導するため。
そして、そこで一人の人を救うため。
とはいえ、私自身が助けると言うわけではない。
あえて夢に誘導して、夢としてプログラミングされた物語を過ごしながら、私の無意識領域の方に、助けたい人を誘導する。
まぁ、これは一つの賭けでもあったりするが……。
私は、読者としての視点が抜けていないところがある。
だから、もしかするとこの世界を第三者として、観測者として客観視することができるのではと思った。
知識と、痣と、この体に宿る私と言う存在が合わさっているために。
まぁ、所詮は可能性の一つに過ぎないため、実際のところはわからない。
だが、ゼロというわけではないと思うんだよな……。
「……少しの間、微睡むとしますか。」
ポツリと小さく呟きながら、ゆっくりと呼吸を繰り返す。
いつでも目を覚ますことができるように、なるべく常中を維持するつもりで。
………少しして私の意識はどこかに引き摺り込まれたことに気づく。
それを確認するために、ゆっくりと閉じていた目を開けてみれば、記憶として焼き付いている景色が辺りいっぱいに広がっていた。
「……竈門家の近くの山の中だなこれ。」
よく見ると格好が変わってる。
隊服と刀は見当たらず、いつも着ている桜の花が咲き誇る羽織と着物の姿だ。
「……鬼殺隊に入る前の私の姿……だな。」
意識がわずかでも覚醒していれば、隊服を身に纏ったままで過ごせていた気がするんだけど……まぁいいか。
「……私の自我はしっかりとある。夢に流されている様子もないな。」
どうやら、良い方の可能性を引き当てることができたらしい。
上手い具合に世界を客観視することが可能みたいだ。
これならなんとかなりそうだ。
「あ、優姉ちゃんおかえり!」
「炭売れた?」
そんなことを考えながら森の中を歩いていると、幼い声が二つ聞こえてくる。
そこにいたのは花子と茂の二人組。
二人で力を合わせて、大量のさつまいもを運んでいたようだ。
……つか、優姉ちゃんって呼んでんのなこの子ら。
いつも炭十郎さんの記憶ばっか見てたから知らなかったわ。
……さつまいもって確か、煉獄さんが好きな食べ物だっけ?
確か、さつまいもの味噌汁だったよな好物。
……迷惑じゃなかったら、ちょっとしたお疲れ様会みたいなの開いて作ってみるか?
この子、すごく料理ができるみたいだし、レシピも一通り持ち合わせてる。
「ああ。ただいま、花子。茂。炭ならしっかりと売れたよ。……沢山のさつまいもがあるな。今日はさつまいもの味噌汁かご飯でも作るのか?」
「うん!」
「後焼き芋も作るんだよ!」
「焼き芋か。それはいいな。体が温まる。」
「優姉ちゃん火傷すんなよ?」
「誰がするか!!」
「とか言って、いつも熱い熱い言ってるの優お姉ちゃんだよ?」
大量のさつまいもを見て煉獄さんの好物がぽっと出た私はなんだかんだ彼のファンだったのかもしれない。
そんなことを思いながら、花子と茂の二人と戯れながら家の中に入る。
「あら、おかえりなさい優緋。」
「おかえり、優姉ちゃん。」
台所に足を運んでみると料理の手伝いをしているらしい竹雄の姿と、料理の下準備中の母さんの姿があった。
炭治郎と禰豆子とはいない。
あと、父さんこと炭十郎さんの姿も。
六太はチラッと見えた部屋の中でスヤスヤと眠っていた。
ふむ……これは炭十郎さんが故人になった後の夢か。
えらくリアルだことで。
まぁ、炭十郎さんがいたら、その時点で夢だって気付かれる可能性もあるから、そこら辺はある程度操作できるって感じか……?
記憶の中にある竈門家の姿や声なんかもしっかりと再現しているし、記憶を読むこともできるのかね?
「ただいま、母さん。竹雄もただいま。」
笑顔を作って荷物を下ろし、家の中へと上がる。
……記憶の影響か特に違和感なく過ごせてる。
客観視すればここってある意味他人の家なんだが、体に染み付いている竈門優緋のおかげで助かるな。
変に気を遣わなくて済む。
「炭治郎と禰豆子は?」
「兄ちゃんたちなら一緒に山菜採りに行ってるよ。」
「はは、なるほど。相変わらず仲がいいんだから。前までは私にべったりだったのに。」
「今でも兄ちゃんたちは優姉ちゃんにべったりだろ。俺たちだって優姉ちゃんと遊びたいのに……」
「あー……まぁ確かにな。特に炭治郎……。あの子はいつも家事で忙しい母さんや、炭売りで忙しい私に気を遣って下の子を見てくれてるよな。だから、頑張りすぎて疲れることがあって、たまに幼児退行する様子がある。ひょっとしたら、少しでも疲れをなくしたいから、たまに甘えたちゃんになっちゃうのかもしれないね。」
「……前から思っていたけど、たまに優姉ちゃん難しいこと言ってくるよな……。」
「はは。褒め言葉として受け取っておくよ。」
褒めてないっつの、と拗ねる竹雄に対してケラケラと笑い返しながら、私は内心でマジかと呟く。
元々竈門優緋という存在は難しいことを言ったり、妙にに小難しい言動をしていたようだ。
変わった子だったんだな……と軽く遠い目をした。
しかし、すぐにそれをやめて、私は庭の方に目を向ける。
(………姿は見えないが、どうやら魘夢に加担してる一人がすでに入り込んでるみたいだな。)
「優お姉ちゃん? どうしたの?」
「うん? いや、なんか猫がいた気がしたから見ていたんだが、気のせいだったみたいだ。」
冷静に分析しながら外を見つめていたら、花子が不思議そうに声をかけてきた。
私はすぐに小さく笑って、ウソを紡ぐ。
野良猫がいたの?白かったの?なんて猫がいた前提で考えを膨らませ始める花子。
私はそんな彼女の頭を優しく撫でる。
質問してきた花子は気持ち良さげに笑いながら、すりっと手のひらに擦り寄ってきた。