目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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81.泡沫の夢は露と消ゆ。溢れる涙は誰のものか

「優緋。お風呂の準備をしてくれる? こっちがまだかかりそうなの。」

 

「わかったよ、母さん。」

 

 しばらくして母さんから話しかけられた。

 炊事の方が忙しいから、風呂の準備をしてほしいと。

 その言葉に小さく笑い返しながら頷けば、母さんは穏やかな笑みを浮かべた。

 

 ……この暖かい家庭を無惨は壊したんだよな。

 しかも、襲った理由は太陽を克服する鬼を作るためだった。

 

 なんでここを選んだのやら……と疑問を抱いてしまう。

 もしかして風の噂みたいなので、こっちの方に日の呼吸が残ってるとでも聞いたのだろうか?

 それともたまたまやってきた?

 

 ……どちらもあり得そうだな。

 まぁ、どちらでもないとしても、この暖かい環境をぶっ壊した上、炭治郎たちを鬼に変えた事実は変わらないし、容赦なくぶっ飛ばしますけどね。

 

 なんて考えながら水を汲むための道具を手に取る。

 原作ではここで禰豆子が入ってる箱が出てくるんだが、私はあえて夢に従っているだけであり、ちゃんとこれが記憶から作られたものであることを理解しているからか、箱が見えることはなかった。

 

 手にした道具を持って川の方へと移動する。

 そこを流れてる水を汲めば、この話しは一旦終わるはずだが……

 

「ん?」

 

 そんなことを思いながら川の水を覗き込むと、妙なものが見えた。

 原作のような炭治郎の本能からの警告ではない。

 何か景色のようなものだった。

 

「………。」

 

 不思議に思いながら、私は川の水に手を浸ける。

 こんだけ雪が降っているのであれば、水は凍てつく程の冷たさを感じるはずだが、夢と気づいているせいで冷たさを感じない。

 だが、何かに触れたような感触があった。

 何に触れたのか首を傾げながら手を水から出してみる。

 すると、そこには一枚の桜の花びらがあった。

 

「……なんで桜の花びらが?」

 

 春じゃないし、桜が咲いてるはずはないのに……。

 よくわからないなと思いながら、私はゆっくりとその場から立ち去る。

 ああ、水はちゃんと汲んでたりする。

 

「……ふむ、原作の方では炭治郎が本能の声により夢と気づくが、血鬼術の方が強くてなかなか夢から抜け出せなかったよな? でも、私は最初から夢であることに気づいている。というと、だ。炭治郎が若干覚醒したところまで自分で進めなきゃ行けないのか。」

 

 ちょっとだけめんどくさい。

 パッと行く?とかスキップしますか?的なコマンドが欲しい。

 けど、これが私の選んだ道なんだよなぁ……。

 

「やれやれ……」

 

 溜息を吐きながら来た道を帰る。

 いったいどれくらいのタイミングで次のシーンに行くのやら……。

 

 

 

 ……なんて考えたところから少しして。

 風呂の準備を行ってるうちに物語は先に進んでいたらしい。

 戻ってみたら、炭治郎と禰豆子以外の竈門家が揃って食卓を囲み座っていた。

 母さんから座るように促され、とりあえず食卓につけば、準備ができた人から食べるように言われた。

 

「優姉ちゃん、たくあんくれよ!」

 

「だめだってば! やめなさいよ! 何でそんなに優お姉ちゃんから食べもの取るのよ!」

 

「何だよ!」

 

「さっきおかわりしたでしょ!?」

 

「あー……こらこら騒ぐな。たくあんなら食べていいから落ち着けって。」

 

 ようやくここまで進んだのかと少しだけ疲れる。

 何で夢の中で疲れてんだろうね、私。

 まぁ、これ鬼の血鬼術だけど。

 

(いや、今はそれよりあの桜だよ桜。なんで桜の花びらが夢の中に現れたんだ? 何か私に関係してるのか?)

 

 目の前で行われている喧嘩を仲裁しながらも、私は先程の桜の花びらについて考え込む。

 あれはいったい何を意味するものだったのか……。

 

 うーん……と考えながら首を傾げていると、チリチリと赤い火の粉が発生し、瞬く間に巨大な炎となって私の体を包み込んだ。

 

「おっとぉ?」

 

「優お姉ちゃん!?」

 

「どうしよう、火が!!」

 

 呑気な声で驚きながら、自分の体を見つめる。

 すると、先程まで着物と羽織という格好だって私の服装がみるみるうちに隊服と羽織に変わっていった。

 

「はは……起こし方が雑というか容赦ないねぇ、あの子。」

 

 苦笑いをしながら炎がおさまるのを見つめる。

 冷静な私に反して、竹雄たちは大パニックを起こしているが、これ、鬼だけを燃やす炎だから、私には効かないんだよね。

 

「………さて、あまり長居するのは良くないね。」

 

 炎が消え、二本の刀の存在も確認できた。

 泡沫の夢はこれでおしまい。

 魘夢には少しだけ感謝しよう。

 記憶だけの温もりを、短い間とはいえ直接感じさせてくれたから。

 

 ……この子にとっての大切な宝物。

 私は必ず守り抜こう。

 もうすでに、この体の本来の意識は完全に私と混ざって、二度と目を覚ますことがないみたいだから。

 

 ……少しだけ、考えていたんだけどね。

 ひょっとしたら、本当の意識が現れるかもしれないって。

 累の時に怒鳴ったあの子が家族に再会できるんじゃないかって。

 でも、あの子は出てこなかった。

 ずっと私の客観視のまま。

 物語を見つめる読者としての私のままだった。

 命を落としてしまったこの子の家族と再会しても、涙が出てこなかった。

 作られた夢に閉じ込められたな……そんな感覚しかなかったのだ。

 

 この子の意識はどこへいってしまったのだろう?

 この子の意識は何時ごろまで存在していたのだろう?

 いくつかの疑問が頭をよぎる。

 でも、その疑問に答えるものは誰一人として存在しておらず、私自身も答えを出せない。

 

「……悪いな、竹雄。花子。茂。そろそろ私たちは行かなきゃならないみたいだ。」

 

 それなら答えは出なくていい。

 消えてしまったのか、それとも眠ってしまったのか……どちらかなんてわからないけど、立場を奪ってしまった私がやることはただ一つ。

 多くの人を少しでも救い、彼女が大切にしている宝物である二人の家族を元に戻してあげて、平和な世界を暮らせるように、元凶と鬼を倒すまで。

 

 大丈夫、私は一人じゃない。

 この子たちを守りたいと願い続けている、今は知覚できない彼女と一緒に戦い続ける。

 君の記憶には、きっとこれからも助けられると思う。

 だから、これからも記憶で助けてね、優緋。

 

 誰に向けるでもなく……いや、強いていうならば、優緋という本来の女の子に対しての笑みを浮かべた私は、夢として現れた竈門家の家を飛び出す。

 どこか彼らの見えないところで、目を覚ますための条件を満たさなくてはならないから。

 

「お姉ちゃん?」

 

「そんなに急いでどうしたんだ、姉ちゃん?」

 

「!」

 

 しかし、少しだけ走って向かった先で、新たな人物に呼び止められた。

 足を止めて声の方を見れば、禰豆子と炭治郎の姿があった。

 二人の手元には山菜が入ったザルが握られている。

 

「あ、そうだ! 見て、お姉ちゃん! 今日はいっぱい山菜が採れたんだよ。お兄ちゃんと一緒に採ってたから山盛りになっちゃった。」

 

「でも、これならみんな腹一杯に食べることができるから、いつもはみんなに譲りっぱなしの姉ちゃんもいっぱい食べることができると思うんだ!」

 

「……………。」

 

 笑顔を見せながら、山菜を見せてくる炭治郎と禰豆子の姿に無言になる。

 鬼がやってこなかったら、今もきっと見れていた光景だ。

 夜だけしか行動が取れないなんて制限などかからず、暖かい笑顔で家を満たして……私は私で……いや、優緋は優緋で家事とか炭売りとかしながら生活できたはずだった。

 

 ……この生活を壊してしまったのはいったい誰なんだろうな?

 襲撃した無惨か?

 それとも、憑依してしまった私か?

 もしかしたら両方かもしれないな。

 

「姉ちゃんが急に飛び出して……あ、姉ちゃん!!」

 

 考え込むように前を向いていたら、背後から声が聞こえてきた。

 複数の足音も聞こえてきて、私のすぐ近くに止まる。

 

「優緋。大丈夫だったの? 竹雄たちが、お姉ちゃんから火が出たって聞いたけど……。それに、その格好は……?」

 

「…………。」

 

 ………もしも、私も奪った側だというのなら、それはかなりの罪となるだろう。

 でも、起こってしまった過去は変えることなどできないし、奪ってしまった事実も変えられない。

 それなら………

 

「………守ること、戦うことを贖罪として続けよう。私にも罪があるのだとしたら。」

 

「優緋?」

 

 小さな呟きを聞いた母さん……葵枝さんが不思議そうに声をかけてくる。

 私は、小さく笑みを浮かべて、彼女の方を振り向いた。

 

「進まなくてはならないから。戻りたくても戻れないみたいだ。だから、代わりに言わせて欲しい。ありがとう、優緋(わたし)を育ててくれて。ありがとう、優緋(わたし)を愛してくれて。そしてごめんなさい。私は優緋(彼女)と一緒に、この世界を出ていきます。見方によっては置いて行くから、この言葉は間違っているのかもしれないけど、行ってきます、と言わせてください。大丈夫。優緋(わたし)はみんなを忘れない。優緋(わたし)はずっと、母さんたちを想ってます。」

 

 上手く笑顔が作れているかはわからないけれど、精一杯の笑みを浮かべて葵枝さんと、この子の大切な家族に言葉を紡ぐ。

 この子本人じゃない私が、こんなこと言うのは烏滸がましいけど、なんとなくこの子から感じ取れた気がする感情を、言葉にしなくてはいけないと思ったから。

 

 少しだけ視界が歪んでる。

 これはこの子の感情のカケラなんだろうか?

 わからない……わからないけど……無意識のうちに両目に溜まる涙を止めることができなかった。

 

「!! 優姉ちゃん置いて行かないで!!」

 

「…………。」

 

 何かを察した六太が、懇願するように叫んだ。

 でも、私はその声を振り切るように、その場から走り出す。

 彼らの目が届かないところで、夢の中の私を目覚めるための条件として殺さなくてはならないから。

 

 

 

 

 

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