目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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83.下弦の壱との邂逅は、厄除の面と共に

 車両から外に出た瞬間、かなりのきつい匂いを感じる。

 だが、すぐに慣れた私は、汽車の屋根の上へと乗って、懐からある物を取り出す。

 

 それは、鱗滝さんからもらった厄除の面にチリンチリンという音を立てながら揺れる鈴を取り付けた物。

 少しだけ面を見つめた私は、そっとそれで顔を覆う。

 

「やっぱり動いてる汽車の上は風が強いな。鈴がめちゃくちゃチリチリ鳴る……まぁ、今は一旦我慢だな。」

 

 一番は耳栓だったんだけど、残念ながら作る時間がなかった。

 何回か作ってみたけど失敗した。

 だから声は音で相殺することにした結果、鈴付き厄除の面である。

 

「! あれぇ、起きたの? おはよう。」

 

 しばらく走っていると、先頭車両の方へと出ることができた。

 そこには魘夢の姿があり、彼は気が抜ける程穏やかな声音で挨拶をしてきた。

 まぁ、だからと言って本当に気が抜けるわけじゃないけど。

 だって敵意めちゃくちゃ刺さるし。

 

「まだ寝てて良かったのに。せっかく良い夢を見せてや(・・・・)っていた(・・・・)でしょう? お前の家族みんな惨殺する夢を見せることもできたんだよ?」

 

 ………見せてやっていた……ね。

 まるで自分は良いことしてあげたとか、優しくしてあげたとか言ってるようだ。

 喰うための下ごしらえの間違いだろうが。

 どこが良いことなんだよ。

 

「今度は父親が生き返った夢を見せてやろうか?」

 

 人の心に土足で踏み入りズカズカと踏み躙っていくような言葉の羅列に吐き気がする。

 

「人の心の中に土足で踏み入り、あまつさえめちゃくちゃにしてやろうって魂胆が見え見えだな。ふざけんのも大概にしろ。人間はお前らのおもちゃじゃないんだよ。」

 

 刀を鞘から抜きながら吐き捨てるように人間はおもちゃなんかじゃないと告げる。

 魘夢は私の姿をじっと見つめたかと思えば、急にニヤリと笑みを浮かべて、左手の甲をこちらに見せる。

 

 “血鬼術 強制昏倒催眠の囁き”

 

 魘夢が放つ血鬼術。

 あれば、囁きとついているだけあり声を聞いただけで眠りに落ちてしまう。

 だからこそ私は厄除の面に鈴をつけた。

 

 思惑は当たっていた。

 耳元で鈴が鳴り響く中、日の呼吸の常中を使い、魘夢との距離を詰めていけば、眠りに落ちることがなかった。

 日輪刀にも鈴をつけたらもっと効果的だったかもしれない。

 そんなことを思いながら走り続ける。

 

 こちらに向けてきている魘夢の左手が口を何度も動かしているが、残念ながらその声は聞こえない。

 

 魘夢が驚いたような表情を見せる。

 あまりにも私が眠らないからか、かなり戸惑っているようだ。

 まぁ、おそらく今までこんなイレギュラーは無かったんだろうし、無理もないのかもしれないな。

 まぁ、今はどうでもいいか。

 

 “日の呼吸 壱ノ型 円舞!!”

 

 私がやることはただ一つ。

 目の前の鬼を狩るだけだ。

 

 ヒノカミ神楽……日の呼吸の壱ノ型を使い、私は魘夢の頸に、手にしていた刃を叩き込む。

 だが、斬ったはずの手応えは殆ど無い。

 

 まぁ、わざと眠っていたもんな。

 そりゃ、ちゃんと融合は済ませてますわ。

 

「……あの方が(・・・・)、“柱”に加えて“耳飾りの君”を殺せって言った気持ち、すごくわかったよ。存在が癪に触るというか……このまま君を野放しにしたら、確実に危険だからだったんだ。だから、弱いうちに始末しろってことだったんだね。」

 

「…………。」

 

 炭治郎の時とは全然違う言葉を言われた。

 癪に触るよりは危険だから……弱いうちに殺せ……ね。

 ひょっとして私かなり弱く見られてる?

 いや、わからなくもないよ?

 縁壱さん程の力は今はまだ持ち合わせていないから。

 だから弱いと言われてもおかしくない。

 

 でも、それはあえて力を抑えているだけであり、実際はすぐにでも目の前の魘夢の頸を刎ねることだってできる。

 あえて力を出していない理由は、余裕ぶってるその綺麗な顔を逆に青ざめさせてやるつもりだからだ。

 

 罠にハマった理由は、優緋という一人の少女が知ってる温もりを少しだけ知りたかったのと、夢の中に入ってきた人を、少しでも楽にするため……ではあったが、わざと実力を隠すためでもあった。

 他人の心につけ入って、希望の後に絶望を突きつける奴に、逆に絶望を送るために。

 

「ねぇ、不思議でしょう?頚を斬っても死なないんだから。絶望するでしょう?どうして死なないのか、気になるでしょう?」

 

「………ハッ」

 

「………!」

 

 気持ち悪い肉塊の先についてる頚をゆらゆらと揺らしながら、笑みを浮かべて話しかけてくる魘夢を鼻で笑い飛ばす。

 同時に厄除の面の下で自身の痣を発現させて、顔につけていたこれを外す。

 

「それくらいわかってるが? だって十二鬼月の頸は異常なほどに硬いのに、お前のそれは手応えがなかった。それはつまり、その人形はすでに本体じゃ無くて、ただの抜け殻という結論が出る。」

 

 口元に笑みを浮かべながら、今の魘夢の状態を口にすれば、魘夢は目を見開いて固まった。

 

「ついでにその気色悪い肉塊の上でゆらゆら揺れて言葉を話しているのも本体じゃない。そこから割り出せる答えはただ一つ。今乗ってるこの汽車そのものが本体だろ?」

 

「なん……で………!!」

 

 次々と種明かしして行けば、魘夢が顔を青くする。

 今まで絶望を与えてきた側が、絶望を逆に与えられた瞬間だ。

 

「なかなか厄介なことをしてくれたが、所詮は搦手しかできないだけの鬼……さて、お前が人を喰らうが先か、私が頸を刎ね飛ばすのが先か……試してみるとしようか。」

 

 そんな魘夢に言葉をかけながら、私は一旦炭治郎たちを待たせてる車両へ移動する。

 一瞬、こちらの行動に焦りを見せた魘夢が映った。

 

「禰豆子。煉獄さんたちの切符を燃やせ。私ら三人で対処するのは無理だ。私は前方に行くから、そこの寝坊助たちをさっさと叩き起こしてくれ。炭治郎は、ヒノカミ神楽を使いながら、この車両とこの車両の後方一車両の対処をしてくれ。大丈夫。私らならやり抜ける!!」

 

「うん!!」

 

「ムー!!」

 

 車両に戻った私は、炭治郎と禰豆子に今して欲しいことを手短に説明して、前方にある車両へ向かう。

 切符を燃やせばすぐに覚醒することは知っていたから、安心して背後を頼めるだろう。

 とりあえず三両、今は守り抜く。

 周りが合流できるまで。

 

 

 

 


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