目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
二人もの強者と出会い、戦闘することに歓喜していた猗窩座。
しかし、今の彼には喜びより焦りの方が強かった。
(何なんだ、この女は………っ!!)
つい先刻までは確かに把握することができた闘気。
そのこともあり、煉獄と優緋の両方を相手することができていた。
だが、今猗窩座が感じ取れている闘気は煉獄のもののみであり、優緋のものを感じ取ることができなくなっていた。
そのためかいつの間にか背後や側面からの攻撃により傷をつけられていることがある。
(赤子であっても、わずかながらに闘気はあった……!! なのに、なぜこの女の闘気を感じ取ることができない……!?)
自身の血鬼術により作られた羅針は正確に闘気を捉え、予測不能なできごとであっても、すぐに対応できるものだ。
強力な攻撃をしてこようが、予想外の攻撃をしてこようが取り逃すことはない。
確かに、闘気を感じ取れなくては対応することなど不可能ではあるが、その心配は一つとしてなかった。
弱くても生き物は必ず闘気を纏うために。
(傷の治りも遅い……!!)
猗窩座が焦燥する理由は他にもあった。
それは、回復阻害。
優緋に斬りつけられた場所の回復速度が異常なまでに遅いのだ。
治らないというわけではないが、時間がかかる。
先程斬り飛ばされた腕はなんとか今は生やすことができたが、ずっとチリチリと焼けるような痛みが続いていた。
猗窩座の焦りとは裏腹に、優緋と煉獄の二人は今もなお攻撃をしてくる。
狙えるならば頚を狙ってきており、いつ斬られてしまうかもわからない。
唯一の救いは、優緋が未だに頚を狙ってこないということだった。
なぜ頚を狙ってこないのか……これ程の力があれば狙ってきてもおかしくはないのに。
一瞬よぎった疑問。
それはすぐに理解できた。
煉獄の攻撃の合間を縫い攻撃してくる優緋の表情には多少の疲労が見えていた。
つまり、優緋には疲労が溜まっており、頚を斬るまでの力が残っていないということだ。
上弦の頚は、下弦の比にならない程の硬さがある。
これまでみてきた柱たちの中にはもちろん頚を狙い、的確に刃を叩き込んでくる者はいた。
だが、誰一人として刃を頚の最後まで通すことができなかった。
それ程までに鬼の頚は硬いのだ。
優緋が頚を狙わない理由も頷ける。
なぜ、頚が硬いということを知ってるのかまでは、理解できないが。
しかし、それがわかったからといって猗窩座から焦りが消えることもなかった。
理由は簡単。
煉獄だ。
優緋という剣士の献身的な支援により、目の前の煉獄という剣士は頚を斬る余力がある。
女と男の差もあるのだろうが、煉獄に攻撃をしようとしたら、いつの間にか優緋の斬撃により防がれてしまうのである。
まるで、煉獄の影のように行動する優緋が、煉獄の力を後押ししているのだ。
(分が悪すぎる……!!)
武闘家として背を見せることはできない。
だが、上手い具合に行動が噛み合っている影のような優緋と影を確かな糧として斬り込んでくる煉獄との戦闘は、あまりにも不利だった。
しかも、この二人は猗窩座の攻撃の中に遠距離から放つものがあることをすでに知ってしまっており、確実に張り付いてきては、攻撃の範囲の大きさで有利に戦ってくる。
(ここまで梃子摺るとは………!!)
苦虫を潰したような表情をする猗窩座。
この場をどうやって乗り切るべきか、なんとか彼は頭を働かせるのだった。
一方その頃。
とある屋敷の一室に、バサバサと大きな物音が響き渡る。
その部屋にいたのはひとりの少年。
彼は顔を青くして、口元を押さえていた。
湧き上がるのは底知れぬ恐怖。
凍える程の寒気。
生命線である心臓の鼓動は速くなり、煩い音を奏で続ける。
脳内に響くのは警告の声。
逃げなくてはならないという叫び声。
「ア……アア……ア゛ア゛…………!!」
ぶわりと嫌な汗が体中から滝のように溢れ出る。
異常なまでに体は震え、少年……いや、少年の姿を持つことにより身を隠していた鬼の首魁、鬼舞辻無惨は、頭を抱え、呻き声のような声をあげる。
猗窩座の目を通して彼が見たものは、あまりにも恐ろしいものだった。
赫刀を手に持ち、独特な痣を発現させ、忌々しい焔のような音を立てながら刀を振るう髪を結ったひとりの女剣士……その姿にある人物が重なる。
それは、かつて己を追い詰めたひとりの剣士……日の呼吸を使う、忌々しく、悍ましく、化け物という言葉が相応しいと思える力を持った青年の姿。
「なぜ……だ……なぜ……お前が……お前が生きている!!」
あまりにも衝撃的で強いフラッシュバック。
それにより無惨が吐き出した言葉は、死んだはずの剣士に対してのもの。
「なぜ………!!」
逃げなくては……無惨の脳裏にはその言葉だけがよぎる。
焼きついた記憶に惑わされ、無意識の内に言葉を紡ぐ。
「鳴女……!! 私を早く戻せ鳴女……っ!!」
底冷えする恐怖のまま、配下の鬼の一人の名を呼ぶ。
その瞬間、あたりに響くのは琵琶の音。
「俊國? すごい物音が聞こえた気がするけど……あら……?」
そんな中、ひとりの女性がやってくる。
だが、彼女が部屋に入った時にはすでに少年の姿はなく、床に散らばった本のみが残されていた。
再び場所は戻り、無限列車横転現場。
そこでは優緋と煉獄による猛攻がまだ続いていた。
猗窩座はすでに防戦のみに徹しており、二人に対する攻撃は一つもできていない。
そんな中、遠い東の空が、わずかながらに白くなり始める。
「!?」
(夜が明ける!! ここは陽光が差す……!! 逃げなければ……逃げなければ!!)
それに気づいた猗窩座は、なんとかしてこの場から離れるため、二人の剣士が前に来るのを見計らい、ある技を繰り出す。
“破壊殺 脚式 冠先割!!”
「!!」
「うわ!?」
脚が振り上げられる動作に気づいた煉獄は咄嗟に優緋の体を抱え上げ、攻撃範囲から勢いよく離脱する。
猗窩座の脚を斬ろうとしていたが空ぶってしまった優緋は驚いて声を上げた。
「っ…………!!」
せめて一矢は報いたかった……一瞬そう思った猗窩座だが、優緋と煉獄を見据えながら後退し、森に入ったのち踵を返してその場から離脱した。