目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

89 / 117
89.終局、無限列車。運命は覆り、未来は変わる。

「逃げられてしまったか……! だが、深追いはしない方がいいな……! かなり限界が近づいていた……!」

 

 わずかな息切れを起こしながら言葉を紡ぐ煉獄さん。

 あれ、斬ろうと思えば斬れたんだけどな……と思いながらも、私は彼の腕から離れる。

 

「む? 竈門少女! どこに行くんだ!」

 

「ちょっと個人的な用があるので……」

 

「では俺も……」

 

「いや、あまり人に知られたくないので一人で済ませてきます。」

 

「しかし……」

 

「女には女の理由があるんですよっと……」

 

 かなりフラフラになりながらも、私はある場所に近寄る。

 そこには、猗窩座と戦っていた際に何回か斬り飛ばした腕のうちの一本の元。

 陽光には当たっていないため、まだ塵になっていない。

 

「………これ程ちょうどいい機会はないからね…………。原作より早く、薬が作られるといいんだけど。」

 

 愈史郎が作った採血用の短刀を懐から出して、その切っ先を腕の皮膚に突き刺す。

 その瞬間、短刀は血液を吸引し、短刀に備わっている血液の保管場所へと溜まった。

 

「にゃー」

 

「……やぁ、茶々丸。珠世さんに、これ頼むよ。」

 

 同時にすぐ側に一匹の三毛猫が現れる。

 珠世さんの猫である茶々丸だ。

 

 現れた茶々丸に採血の短刀を預ければ、再び鳴いて姿を消す。

 珠世さんの元に向かうのだろう。

 

「優緋ちゃん!!」

 

「優緋!!」

 

 茶々丸を見送っていると、善逸と伊之助が私の名前を呼び走り寄ってきた。

 

「テメェどうやってあんなに強くなったんだ!? テメェだけずるいぞ!!」

 

「よ゛か゛っ゛た゛ぁーーーー!! 優緋ちゃん!! 俺を守ってくれてありがとう〜〜〜〜!!」

 

「女に守られて恥ずかしくないのか善逸……。」

 

 伊之助からはどうやったんだと詰め寄られ、善逸にはギャン泣きされる。

 二人の様子に苦笑いをしながらも、一旦二人には黙ってもらい、私は煉獄さんの元へと向かう。

 

「………煉獄さん。なんとか……生きて朝日を見ることができましたね………。」

 

「うむ。よもや上弦の参が出てくるとはな。今回ばかりはかなり骨が折れたものだ! ……竈門少女。君がいてくれて助かったぞ! 君が一緒に戦ってくれたおかげで、俺はこうしてこの場に立っていられる! 悔しくはあるが、きっと、俺一人では猗窩座の攻撃を全て耐えきることはできなかっただろう。ありがとう! 猗窩座を取り逃してしまったことだけは残念だったが、多少なりとも疲弊していたゆえ仕方ない! だが、上弦と遭遇して命を落とすどころか、怪我もすることなく撃退することができたのは鬼殺隊の長い歴史の中、初めてといってもおかしくはないだろう! ならば、此度のこの争いは、我らの勝利といっても過言ではない! いや、勝利としか言えないだろう!!」

 

 確かに……それは言えているかも知れない。

 戦国時代に呼吸を使う人間を鬼にしてみたいという無惨の知的好奇心を満たす際、たまたま縁壱さんの兄である巌勝さんに白羽の矢が当たり、手のつけられない鬼が生まれたことはあったけど、江戸の世を生きていた狛治さんこと猗窩座を鬼にした際に十二体程強い鬼を作りたいと言った無惨の言葉から考えて、少なくとも江戸辺りまでは十二鬼月は存在していなかったはずだから。

 

 うん……それなら、初めてのことというのも強ち間違いではないな。

 

「そうですね……。うん……誰一人欠けなくて……よか……った……」

 

「竈門少女?」

 

 視界が霞む。

 ああ、思った以上に限界が来ていたみたいだ。

 また意識を失ったのか……って……しのぶさんに怒られそうだな……。

 

 右手から刀が滑り落ちる感覚。

 あたりにカランと無機質な音が響き渡る。

 同時に私の膝からは力が抜け、視界がハレーションを起こしたようにチカチカする。

 意識は朦朧としてきて、これ以上話すのも立っているのも無理だと悟る。

 

 フラリと体が傾き、地面が近づいてくる。

 透き通る世界は使っていないのに、何もかもスローモーションに見えた。

 

「竈門少女!!」

 

 だが、私の体が地面に叩きつけられる前に、私の体は逞しく温かい腕により抱き止められる。

 鼓膜を揺らしたのは、私が死の運命を変えたいと願った彼の、名前を呼ぶ声。

 鼻腔を擽るのは彼の匂い。

 

(………ああ……柱合会議で私の体を抱き止めてくれたのは…)

 

 あの時は多くの人の匂いがあった上、すでに意識がほとんどなかったから、ちゃんと匂いを嗅ぎ取ることができなかったけど……この腕の温もりは覚えてる……。

 

(………煉獄さん……だったんだな。)

 

 意識が朦朧とする中、柱合会議の時に体を抱き止めてくれた人が誰だったのか、同じように抱き止められてようやく理解する。

 

「竈門少女!! 竈門少女!! しっかりしろ!!」

 

「すみ……ませ……予想、以上に……無理が、祟った……みたいです……。」

 

 必死に私の名前を呼ぶ煉獄さんの顔を小さく笑いながら見上げる。

 

「ちょ……と……眠れば、治ると……思うので……」

 

 そんな顔しなくても大丈夫ですよ、という言葉が喉から出る前に、私は意識を完全に手放す。

 

 フィルターがかかったかのように、くぐもった声が最後まで聞こえていたが、次第にそれも聞こえなくなるだろう。

 ただ、体が触れている温もりだけは、どれくらい経ってもなくならない。

 

 ああ……なんとか、一区切りをつけることができたんだな……。

 煉獄さんの運命は、ちゃんと覆ってくれたんだ。

 

 これからどんなイレギュラーがやってくるかはわからない。

 でも、今は一つの目的を果たすことができたことを喜ぼう。

 

 安堵のままに笑みを浮かべ、私は最後の思考を閉じる。

 次に目を開けた時、これが夢の露と消えないように願いながら。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。