目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件 作:時長凜祢@二次創作主力垢
「これからのことも考えて、優緋にいくつか質問がしたいのだけど、構わないかな?」
不意に、お館様からいくつか質問がしたいと告げられる。
「質問……ですか?」
首を傾げながら問い返せば、お館様は小さく頷く。
彼曰く、無惨との決戦に向けて、無惨についての情報を僅かながらに得るためと、何が必要なのかを整理するのと、痣について知っておきたいとのことだった。
「わかりました。話せることは話しましょう。」
確かにそれは必要なことだ。
そう判断した私は、小さく頷いて承諾する。
「まず、無惨が持っている能力について聞きたい。教えてくれるかい?」
「……普段は人間と変わらない姿をして、人の中に紛れ込んで隠れてます。それくらい、高度な擬態、変化能力を持ってます。次に、私が物語上で見た戦闘方法ですが、素手による強力な攻撃や、大量の口がついてる管状の肉塊を目で追うことすら難しい速さで繰り出す攻撃など、鬼として極限までに高めた身体能力によるものでした。しかも、攻撃の中には適応することができなければ確実に命を落とす即死級の猛毒とも言える自身の血を混ぜてきます。一撃食らえば、死ぬか鬼になるかのどちらかでしょう。あとは、凄まじい吸引力がある風の渦を生じさせ、動きに制限をかけ、大振りな回避行動を誘発させることで管状の肉塊を当ててきたり、建物や地面を軽々と抉る空気弾を使ってきます。他にも、衝撃波により、損傷を与えると同時に神経の動きを狂わせ、剣士の生命線でもある呼吸を阻害する技を使ってきます。この衝撃波は恐らく血鬼術の一種で、食らった際、体に日輪刀を刺すことにより解除することができます。」
私が物語で知る限りの無惨の攻撃方法を口にする。
お館様とあまねさんは、そんな能力があったのかと目を丸くする。
だが、すぐに表情を真剣なものへと戻し、私の話を聞いていた。
「他には?」
「体の場所など関係なしに口を生成することが可能ですね。物語上では、この能力を利用することで鬼殺隊の剣士を攻撃し、同時に捕食する行動を取っていました。あとは、驚異的な回復能力……ですね。無惨は自身の肉体に心臓を七つ、そして、脳を五つ保有することによりこれを可能としています。そのため、頚を斬っても死ぬことはなく、瞬時に回復して反撃してきます。それと、追い詰められた無惨は自身の細胞を分裂させて逃走を図ったり、巨大な肉の鎧を身に纏うことで防御に徹することがあります。」
……多分、これで無惨の戦闘方法については明かすことができた……と、思う。
他にもあったかもしれないけど、重要と取れるのは今あげたものくらいのはずだ。
「無惨の能力はそれなんだね。では、次の質問だ。優緋が知る物語で、無惨との決着はついていたかい?」
「はい。最後は無惨を陽光に晒すことで終わらせることができました。」
「では、その状況に至るまで、必要なものがあれば教えてほしい。」
「必要なもの……」
自身の記憶から、無惨を追い詰めるまでに至った際、必要だったものを探し出す。
「……鬼を人間に戻す薬、老化の薬、分裂阻害、細胞破壊……この四種の薬が合わさった特殊な薬は必要でしたね。あとは、無惨の血の侵食を止めるための特殊な薬も。それと、痣を発現させることができる者も複数必要になりますし、その先の領域に行ける者も必要になると思います。」
「? 痣の発現のその先の領域……?」
「はい。“透き通る世界”と呼ばれる、全集中の呼吸を極めることができた者が行き着く世界です。」
不思議そうな表情をしているお館様に、“透き通る世界”について説明する。
この“透き通る世界”は、自分の父親も到達していた世界であり、“型”の動きを何度も何度も繰り返し修練する中で、形を覚えた後に無駄な動きを削ぎ落とし、『正しい呼吸』と『正しい動き』で身体の中の血管一つ一つまで認識していくことにより、通常ならば困難な動作も一瞬で行なうことができるようになるということ。
最小限の動作で最大限の力を引き出すことで、頭の中も不要な思考が削がれ、だんだん透明になっていき、そうすると『透き通る世界』が見えるということ。
この修練の先で覚醒した者は他者の身体の中が透けて見える(或いは存在を感じ取れる)ようになり、それによって相手の骨格・筋肉・内臓の働きさえも手に取るように分かるようになることなどを全て。
お館様はかなり戸惑っている様子だった。
そのようなことが可能なのかと、混乱しているようだ。
「……まぁ、今は“透き通る世界”は後回しにしたほうがいいでしょう。流石にそこまで入れるとなると、かなり厳しいと思います。まだ、上弦の鬼は六体全ていますし、上弦以外の鬼も活発なのでちゃんとした休息も必要になると思うので。そうですね……鬼殺隊の強化を図るのであれば、今の私が言えることはただ一つ。痣の発現させるための基盤だけは早めに用意しておいた方がいいということだけです。私が痣を出すまでやっていたのは全集中の呼吸を行いながら、全身訓練、精神統一、それと、自分が使う呼吸の型の修練などを行っていただけなので鬼殺の合間を縫い、一定時間それを行えば、可能性は出てくると思います。時間はかなりかかると思いますが、今から始めておけば、痣を発現させることができる柱や隊士を、私が知る物語以上の人数に増やせるかと。」
それならと、今現在言えることは痣を発現させるための下準備を少しでも進めることだと伝える。
……お館様なら、痣者の代償のことも知っているだろうから、タイミングを見計らってみんなに教えてくれるはず。
「優緋。教えてくれてありがとう。その話のおかげで、長年の戦いに終止符をつけるための一歩が踏み出せた。」
「お役に立てたなら良かったです。……あの、お館様。」
「なんだい?」
一応、私がこの世界が綴られている物語の記憶の保持者であることは黙ってもらうように頼んでおこう。
「私の……記憶のことや、状態のことなのですが……」
「安心して良いよ、優緋。そのことはちゃんと黙っておくよ。明かしたらきっと、皆混乱してしまう。焦ってしまう可能性もある。だから、このことは誰にも話さない。」
「………ありがとうございます。」
どうやら、お館様とあまねさんの胸の内に秘めてくれるらしい。
そのことに安堵の息を吐く。
「長々と話してしまったね。病み上がりだったから疲れただろう? ゆっくり休むと良い。」
「……はい。わかりました。」
お館様が穏やかな笑みを浮かべて、ベッド横の椅子からあまねさんの手を借りて立ち上がり、ゆっくりと診療室から立ち去っていく。
「そうだ。元気になった後は気をつけて。きっと、賑やかになるだろうから。」
「へ?」
去り際にお館様が紡いだ言葉に首を傾げながら、私は二人の背中を見送った。
彼が残した言葉の意味を理解したのは、翌日になってのことだった。