目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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解ける確執。穏やかな日々。
97.炎柱の悩み事


 それはある日の炎柱邸でのこと。

 今日は訓練はお休みとのことなので、炎柱邸にて家事などをしていた時だった。

 

「……………むぅ……!」

 

「ん?」

 

 そういや今日は煉獄さん、あまり部屋から出てこないな……と思いながら歩いていると、机を向きながら頭を悩ませる姿が目に入った。

 なんだなんだと思いながら、部屋の中を覗き込んでみると、煉獄さんの視線の先に一枚の手紙があった。

 

「どうしたんですか、煉獄さん?」

 

「ん? ああ、優緋か! いや、実はな。俺の生家にいる父上と弟の千寿郎に週に一回は文を送っているのだが、返ってくるのは毎回弟からの物のみなんだ! どうやら父上は読まずに捨てたり、放置したりしているようでな……。」

 

「はぁ…….。なるほど……。」

 

 ……どうやら、煉獄家へ送った手紙の返事が弟からしか返ってこないことに頭を悩ませていたようだ。

 まぁ、煉獄家の確執やらなんやら考えるとな……なんとなく予想できなくもない。

 

「お父様とうまくいってないんですか?」

 

 とりあえず、話を聞いてみることにした。

 知識はあるけど、この体は煉獄家について聞くのは初めてだし、妥当の問いかけだと思う。

 あわよくば、内容を聞いて彼の背中を押し、煉獄家の和解につなげることができればいいな、なんて下心を隠しながら。

 

「うまくいっていない……そうだな……前に比べたらうまくいってないと言えるだろう! 話をしたくても、なかなか話せなくてな! いざ話そうと向かえば追い返されるばかりだ!」

 

「……そうですか。……もし、大丈夫なら話を聞いても? 悩んでるようですし。まぁ、解決できるかはわかりませんが、悩みを口にすることで、多少気持ちが楽になることもありますから。」

 

 首を傾げながら、煉獄家についての話を聞いていいか質問してみれば、煉獄さんはすぐに頷いた。

 “俺だけでは解決できんからな! 第三者からの助言はありがたく受け取りたい!”なんて言いながら。

 

 解決できるかわからないって言ったのにこの男、助言を聞く気満々である。

 まぁ、別にいいけどな。

 

 ……煉獄さんは丁寧に話してくれた。

 自分の前の炎柱は自分の父親である煉獄槇寿郎だったこと。

 かつては誰よりも心を燃やし、刀を振るう情熱を持った人であったこと。

 しかし、ある日突然、その情熱は完全に消え失せてしまい、刀も握らなくなってしまったこと。

 鬼殺隊としての仕事もいい加減に済ませたり、当時の柱合会議にすら向かわないこともあったこと。

 その度に自分が父の代わりに会合に出ていたこと。

 最終的には、父が気分で嬲ったのち、取り逃してしまった鬼が下弦になり暴れていることを知り、その鬼を倒したことで柱となる条件を満たし、炎柱となったことを。

 

「何かきっかけがあったに違いない! そう俺は思っているのだが、なかなか話が聞けなくてな。」

 

 何か良い方法はないだろうか!?なんて言ってくる煉獄さん。

 真っ直ぐと見てくるその瞳は、私の助言、または提案を待っているようだった。

 

「………煉獄さんは、親子喧嘩ってしたことあります?」

 

「親子喧嘩……?」

 

「はい。本気の親子喧嘩。」

 

 どうしたものかと考えた私は、ふと、煉獄さんは父親と本気の親子喧嘩をしたことあるのだろうか、と思い、親子喧嘩はしたことあるかと彼に聞いた。

 煉獄さんはキョトンとした表情で首を傾げては、考え込むような様子を見せる。

 

 ……これ、ひょっとしなくともやったことないパターン?

 

「言われてみればあまりしたことないな!」

 

「ならやってきたらどうです?」

 

「…………は?」

 

 予想通り本気の親子喧嘩はやったことがないみたいだ。

 ならば、方法は決まったかもしれない。

 上手くいくかはわからないけど。

 

「かなり野蛮な方法ですが、喧嘩することで引きずり出せる本音もあるし、自分の想いや本音をぶつけることもできるかと。親子なんだし、一回くらい本気で喧嘩してもバチは当たらないと思いますよ。」

 

 喧嘩をしながら拳と拳で語り合う。

 たまーに熱血漫画やゲームなんかで発生することがあるイベントだ。

 互いに本音をぶつけ合い、相手を理解する……うん、暑苦しい。

 

「……親子喧嘩か。それは考えたことがなかったな!」

 

「でしょうね。まぁ、でも、まずは粘り強く話すための機会を設けたのち、自身の思いの丈、本音などを伝えるのがいいでしょうね。腹を割って話すことが、一番の正攻法ですから。親子喧嘩は最終手段にするとして。」

 

「なるほどな!」

 

 納得したように頷く煉獄さん。

 ……腹を割って話すこと……煉獄さんなら何度もトライしていそうだけど……何を納得したのだろうか……?

 

「親子喧嘩に関しては考えてなかったな! そのような手があったとは!」

 

 ……まさかの親子喧嘩という手段に対する納得だった。

 話ができないと判断したら身を引いていたということだろうか。

 

「……いきなり喧嘩をふっかけたら駄目ですよ?」

 

「それはわかってる! いきなり殴りかかるような真似はしない!」

 

「ええ、それが一番です。大怪我にだけは気をつけてくださいね。本音を言うということは、遅かれ早かれ喧嘩に発展します。相手によっては本当に殴りかかってきますから。」

 

「ああ! まぁ、父上が殴りかかってきたらその時はその時だ! 俺もそれなりの対応をする! にしても、やはり相談して正解だったな! 時には喧嘩しても良いと言われて気が楽になった! ちょうど良い機会故、俺が今まで考えていたことをぶつけてくるとしよう! 父上に恨み言はないが、どのような思いを抱いていたかくらいは告げてくる!」

 

 煉獄さんが納得した理由に首を傾げていると、ちょうど良い機会だからと思いを伝えてくると口にして、善は急げだ!と言ってその場で部屋着として着ていた服を脱ぎ始める。

 ……ってぇ!?

 

「ちょ、煉獄さん!? 何で急に服脱ぎ始めたんです!?」

 

「父上に本音をぶつけてくる故着替える!部屋着では外に出れんからな!」

 

「だからって女の前で脱ぐな!! ちょっと待ってください! すぐに部屋から出ますんで!!」

 

 怒鳴りながら慌てて部屋から出て、勢いよく襖を閉める。

 どうしたんだ優緋!とか聞こえてくるが、応えることなくその場から立ち去った。

 

(き、鍛えられた体が目に焼き付いている……っ!!)

 

 彼氏いない歴イコール年齢な私にとって、何とも衝撃が強すぎるイベントだった。

 

「あー……顔が熱い……」

 

 きっと赤くなっているだろう顔を冷ますべく、私はこの炎柱邸にて割り当てられている自身の部屋に戻り、パタパタと手で顔を仰ぐ。

 全く……変に意識させないでよね。

 

「優緋!」

 

「あ、はい。」

 

 ……顔の熱も落ち着いた頃、煉獄さんが私の部屋にやってきた。

 名前を呼ばれたので素直に返事を返しつつ振り返るが、服の下に隠れている先程の鍛えられた肉体の映像が頭をよぎり熱が振り返しそうになる。

 そんな私のことなど気にも止めていないであろう煉獄さんは、満面の笑みを見せてきた。

 ……少しだけドキッとしたのは気のせいだと思いたい。

 

「晩までには戻る!」

 

「わかりました。夕餉を作ってお待ちしております。あ、一応、何が食べたいか伺っても?」

 

 いつ頃には戻るかを口にする煉獄さん。

 振り返しそうになる変な意識を私は何とか抑え込み、平常心を取り繕いながら小さく頷き、夕餉を作って待っていると煉獄さんに伝える。

 

「む! 優緋が作る飯はどれもうまいからな……。いざ問われたら難しいところだが……ああ、そうだ! ならばさつまいもの味噌汁を作ってはくれないだろうか! 一度優緋が作ったものを食べてみたくてな! 希望があるとするとそれだけだ!」

 

 念のために食べたいものはあるか聞いてみれば、煉獄さんは笑顔でさつまいもの味噌汁を作ってほしいと私に言ってきた。

 ……そういえば一度も作ってなかったな、と思い出す。

 

「さつまいもの味噌汁ですね。了解しました。」

 

 大好物を頼んできた煉獄さんのリクエストを承諾すれば、再び無邪気な笑顔が向けられた。

 しかし、すぐにその表情は普段の目力の強い物へと変化する。

 

「では行ってくる!」

 

「行ってらっしゃいませ。良い結果になることを願っています。」

 

「ああ!」

 

 挨拶を交わして頭を下げれば、煉獄さんは颯爽とその場から立ち去って行った。

 その背中を見送った私は、よし、と小さく呟く。

 どんな結果になろうとも、元気づけることや、祝うことができるくらい美味しいさつまいもの味噌汁を作るとしよう。

 

(……原作では、煉獄さんが最期に自身の生家である煉獄家に行けば、ヒノカミ神楽が何か少しわかるかもしれないことを炭治郎に告げ、もし、煉獄家に向かうことがあれば伝えてほしいと、弟の千寿郎くんと父親の槇寿郎さんへの最後の伝言を託していた。でも、この世界では煉獄さんは生きており、私はヒノカミ神楽が何かを理解している。だから、自分の口で思いの丈をぶつけてこいと背中を押したわけだけど……さて……うまくいくといいんだけど……。)

 

 煉獄さんが立ち去ったあと、何とか意識するのを耐え切ることができた自身に安堵の息を吐きながら、原作とは違う展開に持っていった物語の成功を望む。

 少しでも、蟠りが溶けてくれると嬉しいんだけどね……。

 

 

 

 

 


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