目覚めたらまさかの竈門一家の一人で禰豆子となぜか炭治郎が鬼化していた件   作:時長凜祢@二次創作主力垢

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 個人的見解、意見が含まれ、かなりオリジナル要素が強くなっておりますので、ご注意ください。


99.燃え尽きた心に炎(ほむら)をともせ

 千寿郎君の案内により、煉獄家の庭にある井戸にまで足を運んだ私は、そこで大量の水を手桶にたくさん汲み、殴り合い真っ盛りの煉獄親子の元へと戻る。

 相変わらず鈍い音を立てながら殴られてるし、殴ってるな……。けしかけたのは私自身だからあれこれ言えないけど、ちょっとは話ししなよ……。

 会話が全くない殴り合いって怖っ。いや、煉獄さんは話そうとしてるのか……?

 まぁ、そんなことは今はどうでもいい。

 

「ぬお!?」

 

「うお!?」

 

「え……ええ………?」

 

 喧嘩の飛び火が来ないが、そこそこ近い位置まで足を運び、手桶の持ち方を変える。

 そのあとは勢いよく桶の中身をぶっかける。文字通り頭を冷やしてもらうために。

 バッシャーンッという音を立てながら、空から煉獄親子の頭上に滝のように降り注ぐ井戸水。

 それにより濡れ鼠になった煉獄親子は、混乱したかのように動きを止め、目を白黒とさせていた。

 対する千寿郎君は、まさか、私が師範である煉獄さんと、煉獄家の大黒柱である槇寿郎さんに容赦なく井戸水をぶっかけたことに驚いたのか、ドン引きしたような声音で呟いた。

 まぁ、確かに引きたくなるよな。まさか、男共が本気の殴り合いをしている最中、井戸水をかける女がいるなんて思わないだろうし。

 

「よもや!!誰かと思えば優緋だったか!!」

 

「な!?誰だお前は!?なぜ勝手に敷居を跨いで……!?」

 

 槇寿郎さんが私の姿を視界に入れ、不法侵入に対しての文句を言ってきたが、最後までそれが紡がれることはなかった。

 表情を伺うと、目を見開いて固まっている。匂いから感じ取れるのは、驚き、および、嫌悪、それと怒り……だろうか?プラスの匂いは感じ取ることができず、マイナスの匂いだけが鼻をつく。

 わずかながらに、悲しみに分類する匂いも混ざっているが……。

 おそらく……いや、確実に嫌悪と怒りは私の耳飾りと、額の痣のせいだろう。

 過去の炎柱が書き残した手記……それに記されていた始まりの呼吸、“日の呼吸”を使用する剣士の特徴と、私の特徴は一致しているのだから。

 悲しみの方は、瑠火さんを失った時のもの……それの延長線のものだろう。

 

「あまりにも遅かったので、迎えにきました。確かに粘れと言いましたし、喧嘩も試しにしてみたら……とも言いましたが、少し、長くはありませんか?」

 

「すまん!だが、父上がせっかく顔を見せてくれたからな!粘れるところまで粘ろうと思ったんだ!今までは会うことも難しかったからな!まぁ、そしたら殴られてしまったのだが!」

 

 現状を冷静に分析しながらも、煉獄さんに声をかければ明るい声と、豪快な笑い声が返された。

 少しばかり呆れてしまう。だけど、まぁ、うん。今回は私の言い方にも非はあったし、あまり強くは言うまいと、溜め息も我慢して肩をすくめた。

 そして、すぐに思考を切り替えて、未だにマイナスな感情の匂いを纏う槇寿郎さんに目を向ける。一応、初対面だから自己紹介を……と思っているんだが、どうも話を聞いてくれそうな雰囲気じゃないな。

 

「……お前……そうか、お前……!!」

 

 どうしたものかと見つめていると、槇寿郎さんの方から口を開いた。先程までの驚愕と言った感情の匂いは感じ取れない。

 わかるのは怒りと、強い嫌悪感、それと、消えることがない悲しみの匂い。

 

「“日の呼吸”の使い手だな!?そうだろう!?」

 

「“日の呼吸”……ね……。多分、ヒノカミ神楽のことですかね。だとしたら、そうだと肯定しましょう。」

 

 槇寿郎さんの問いに対して、誤魔化すことなく肯定する。すると、槇寿郎さんが目を見開いて、こちらの方に殴りかかる素振りを見せた。

 

「父上!!」

 

 いち早く動いたのは、槇寿郎さんの側にいた煉獄さんだった。こちらに突っかかるどころか、明らかに暴力を振るおうとしていたため、止めるために動いたのだろう。

 

「俺ならともかく、彼女を殴るのは人として見逃すわけには……!!」

 

「離せ!!あいつは俺たちを馬鹿にしにきたんだ!!」

 

 完全に頭に血が上っているのか、かなり支離滅裂なことを口走っている。

 馬鹿にしにきたわけじゃない。ただ、私は師範を迎えにきただけ。だというのに、やはり手記のせいだろうか……。

 自身の無能さを痛感し、心を叩き折られてしまってる彼にとって、私という存在は忌々しいにも程があるのだろう。

 

「どうしてそうなるんですか。あまりにも支離滅裂すぎてよくわかりません。言いがかりです。」

 

 本当は炭治郎のように怒鳴りたい。でも、この彼は師範の父親で言わずもがな年上だ。

 あまり失礼のないようにしなくてはならない。正直、こちらからも殴ってやりたいけどね。

 

「お前が“日の呼吸”の使い手だからだ!!その耳飾りを!!痣を!!俺は知ってる!!書いてあった(・・・・・・)!!」

 

「なぜ“日の呼吸”の使い手というだけでそのように言われてしまう必要があるんですか。何か理由を話していただけないとこちらも納得できないのですが……。」

 

 少しの苛立ちを飲み込みながら、日の呼吸の使い手に対して当たりが強い理由を問う。

 原作を読んでいるから、私には必要ないことだけど、今、ヒノカミ神楽が日の呼吸であることを知った炭治郎は、槇寿郎さんが日の呼吸に対しての当たりが強い理由を知らない。

 実際、自分たちが使うヒノカミ神楽……家に代々伝わるこれに対して当たりが強い槇寿郎さんに対して、少しだけ怒っているしね。

 理由もわからず当たり散らされているのが少し嫌なようだ。

 

「お前が使う“日の呼吸”は……!!あれは!!始まりの呼吸(・・・・・・)!!一番始めに生まれた最強の御技!!そして!!全ての呼吸は“日の呼吸”の派生!!全ての呼吸が“日の呼吸”の後追いに過ぎない!!“日の呼吸”を猿真似した劣化した呼吸だ!!炎も!!水も!!風も!!全てが!!」

 

「「「!?」」」

 

「…………。」

 

 怒鳴るように紡がれた言葉に、煉獄さんと、炭治郎と、千寿郎君が目を見開く。

 対する私は無言。槇寿郎さんの言葉をただひたすらに聞いている。

 まぁ、内容は、私がよく知っているものだけど。

 

「人間の能力は生まれた時から決まってる!!才能のある者は極一部……あとは有象無象!!なんの価値もない塵芥に過ぎない!!才覚に恵まれ!!“日の呼吸”を継承しているお前に!!大した才能も、力も持ち合わせていない俺たちの何がわかる!!始まりの呼吸が使えるからと言って調子に乗るなよこ……」

 

 そこまで言われた瞬間、私の体は無意識のうちに動いていた。辺りに響くのは乾いた音。自身の手のひらは痛く、煉獄さんと千寿郎君、炭治郎や禰豆子も、こちらに言葉を紡いでいた槇寿郎さんも目を見開いて固まっている。

 

「………ゆ、優緋?」

 

 乾いた音の後に訪れたのは静寂。しかし、それを破るように、煉獄さんが私の名前を呼んだため、その静寂は、ほんのわずかな者だった。

 

「……失礼。理由を話せと言ったのは私ですので、平手打ちで黙らせるなど、自分勝手にも程があると自覚してます。ですが、あまりにも目に余るというか、少しカチンときたので、つい、手が出てしまいました。すみません。ですが、いくつか言い返したくもあるので、こればかりはご容赦を。ちなみに、煉獄さ……いえ、ここには煉獄の名前が三人いましたね。なので、区別をつけるために少しだけ呼び方を変えます。……杏寿郎さん。この方は貴方の父君でしたね。先程、父上とお呼びしていましたし。」

 

「あ、ああ。」

 

 こちらの静かな問いに答えた煉獄さん。そうですか、と相槌を打った私は、真っ直ぐと槇寿郎さんを見つめながら、再び静かに口を開く。

 

「では、屋敷内で話してくださった、元炎柱の煉獄槇寿郎さんで合ってるんですね。ありがとうございます。確認ができましたし、ここからは少し言い返させてもらいます。」

 

 ……私がこんな風に口を出したらいけないのかもしれない。余計なお世話なのかもしれない。これが正しい選択なのかはわからない。

 うまくいかない可能性だってある。余計に拗らせてしまう可能性だってある。でも、だからと言って黙っておくのは私の性に合わなかった。

 物語を見ていた時に思っていたこと。それを今、ここで吐き出させてもらおう。

 

「なんとなくですが、急に貴方がこのようになった理由がわかりました。“日の呼吸”を、なんらかのもので知ることになり、それを調べていくにつれて、心が打ち拉がれてしまったんですね。その上で、とても悲しく、辛いことが追い討ちの如く降りかかった。貴方から感じ取れる匂いからして、そう判断できます。まぁ、だからと言って同情をするつもりはありませんがね。だって、私は、貴方でありませんので、その感情を理解などできませんから。辛いという感情や、苦しいという感情。他にもいろいろありますが、自分の感情の重さというものは、当の本人にしかわかりません。だから、同情が逆に相手の重荷になったり、情けないという感情の誘発になったり、怒りの元になることもある。」

 

 淡々と言葉を紡ぐ。槇寿郎さんは無反応だ。いや……一応、私の方は見ているな。何が起こったとばかりに固まって、混乱から動けなくなっているけど。

 

「なので、慰めだのなんだのと言った言葉は口にしません。しかし、貴方にいくつかの指摘をさせていただきます。」

 

 そう思いながらも、私は静かに言葉を紡ぐ。私のようなひよっこに、小娘如きに、このようなことを言われるのも迷惑だろうし、生意気を言うなと怒鳴られ、殴られる可能性だってあるけど、言いたいことを言わずに後悔するよりは、言いたいことをハッキリと言って、殴られて後悔する方が、私自身スッキリすると思うから。

 所詮はただの自己満足。だけど、それでも別に構わない。自己満足であろうとも、多少なりとも何かのきっかけになりうる可能性があるのであれば。

 

「いつだったか、私と杏寿郎さんは同じ任務につき、そこで、下弦の壱と、上弦の参と対峙することがありました。最初は、その任務って、十二鬼月一体の大規模討伐のはずだったんですけどね。どういう巡り合わせか、下弦の壱を倒し、なんとかその場も落ち着きを取り戻そうとしていたはずだったのに、上弦の参に襲撃されてしまったんですよ。」

 

「………!!」

 

 こちらが静かに呟いた言葉に、槇寿郎さんが目を見開く。まさか、私と煉獄さんが、上弦の参と接触しているとは思わなかったのだろう。

 原作の無惨の発言から、上弦の鬼はこれまで長らく面子が変わらなく保たれているというのはわかっているから、柱であっても命を奪われた、または、接触することができず、空振りに終わっていた可能性の方が高かった。

 そんな上弦と、私と煉獄さんは接触し、交戦した。まぁ、その場には善逸たちもいたから、私と煉獄さんだけが接触したわけじゃないけど、今はそれは置いとくとして……だ。

 

「その上弦の鬼は、なんとか撃退することはできました。でも、私と、杏寿郎さんの力では頚を斬るにまでは至らなかった。下弦の壱との交戦後の疲労も、一つの要因でしょうが、それ以上に、どちらの力も、あの上弦に届くほどのものではなかった。あと一歩、何かが足りなかったんだと思います。何が足りなかったのかは、これから杏寿郎さんと話しながら見つけていくしかないと思っていますが。」

 

 目を見開いたまま、動きを止めている槇寿郎さんに、その時の現状を説明すると、煉獄さんが少しだけ悔しげな表情を見せた。

 やっぱり、彼自身も、あの時、猗窩座に最後まで剣を届かせることができなかったことを、それなりに気にしていたようだ。

 

「……ここから本題とします。もし、貴方が言った通り、私が使っている始まりの呼吸というものが、本当に最強の御技であると言うのなら、私は、私たちは、上弦の参を取り逃がすことなく、滅殺することができたはずです。だというのに、私たちの刀はその頚に届かせることができなかった……。本当に、それだけ強い力であるならば、起こり得るはずないことですよね?まぁ、その、つまりですね。何が言いたいのかというと……私は、決して調子に乗ることなどできない剣士に過ぎないんです。撃退したあと、私、ぶっ倒れてしまいましたしね。それに比べ、杏寿郎さんはちゃんと立っていました。結局、私は、杏寿郎さんに助けられて、なんとか今もこうしていられるんですよ。だから、決して杏寿郎さんは、貴方が言うような才覚も力もない存在ではありません。」

 

 もちろん、これは、煉獄さんだけじゃない。柱だった槇寿郎さんにも、今はまだ、眠っている才能を持ち合わせ、どのような未来へも歩みを進めることができるであろう少年である千寿郎君にも言えることだ。

 

「それは、きっと貴方にも言えることだと思います。小娘如きが生意気なと思われるでしょうが、こればかりは言わせてください。決して、貴方は価値のない塵芥でもなく、力を持ち合わせていない無能でもありません。だって、貴方はかつて、柱に至るまでの力をその身に宿し、多くの人々の命を救ったはずですから。貴方がいたからこそ、今を生きることができる人々だっているし、貴方がいたからこそ、鬼に立ち向かえるようになった鬼殺隊の隊士だっているとは思いませんか?」

 

 そう思いながら、私は自身の中にあった言葉をぶつける。この言葉がどのような結果に転ぶかはわからない。目を覚ますきっかけになるかもしれないし、余計に拗れてしまうきっかけになるかもしれない。

 少しでも彼の心に響いてくれたらと、わずかな願いを抱きながら、私は、槇寿郎さんの姿を真っ直ぐと見据えるのだった。

 


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