グラブル!~クールボケな団長とゆかいな仲間たち~    作:黒猫館長

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第八話「子供部屋長アンチラ」

 モニカは団の子供部屋に案内された。四人ほどが一部屋に割り振られ共同生活しているようだ。モニカもちょうど余っていた部屋へに入れることになる。

 

アンチラ「こんにちはエウロペさん。どうかしたんですか?」

 

 子供部屋から顔を出したのは猿耳のエルーンの少女だ。かの有名な十二神将が一人猿神宮のアンチラである。

 

エウロペ「ごきげんようアンチラ様。今日は新しく入団された方をお連れしました。アニラさまはいらっしゃいますか?」

 

アンチラ「アニラ姉はクエストに行っているからいませんよ。えーっとその人…たしか、モニカさんですよね?」

 

モニカ「あ、ああ。今日からしばらくの間世話になる。」

 

アンチラ「へー、モニカさんってもっと大人なのかと思ってましたよー。」

 

モニカ「ぎっく!」

 

アンチラ「ぎっく?」

 

モニカ「い、いやなんでもない。よろしくなアンチラ。」

 

アンチラ「はい。よろしく。」

 

エウロペ「ではアニラさまがいらっしゃるまでモニカさまにはここでくつろいでいただければと思います。アンチラ様、しばらくモニカさまをお願いできませんでしょうか?」

 

アンチラ「大丈夫ですよ!今日はオフですからね。」

 

エウロペ「ではよろしくお願いします。モニカさま、また後程。」

 

モニカ「あ、ああ分かった。」

 

 エウロペが出ていくとアンチラとモニカは再び向かい合う。

 

アンチラ「改めまして、僕はこの部屋のリーダーのアンチラと申します。」

 

モニカ「私は仮入団することになったモニカだ。」

 

アンチラ「モニカさんっていくつなんですか?」

 

モニカ「…十四…。」

 

アンチラ「年上ですね。すごーいおっきい。」

 

 視線の方向に気づきモニカはばっと上半身を隠すように背ける。

 

アンチラ「ヒューマンなんですよね?」

 

モニカ「角があればドラフだとよく言われるよ。」

 

 そんなことから雑談が始まった。アンチラはまだ十歳そこらだというのにとてもしっかりした子だった。

この団での生活のノウハウや、施設の使い方、依頼の受け方などとても参考になる。

 

アンチラ「えーっと、あとは団長へのスキンシップの仕方は大事ですよね。まず部屋に入り込んだら…。」

 

モニカ「待て待て待て!」

 

アンチラ「どうかしましたか?」

 

モニカ「なんで団での生活に団長とのスキンシップが大事なんだ!?確かに彼はここの最重要人物だが…。」

 

アンチラ「だってこの団に来る雌の入団理由なんて大体団長目当てじゃないですか。」

 

 アンチラは笑顔でそう返した。モニカは絶句する。

 

アンチラ「モニカさんは違うんですか?」

 

モニカ「いや私は…。」

 

 あくまで団長にリーシャについて聞き…つまり団長が理由だった。

 

モニカ「そうです…。」

 

アンチラ「ですよねー。でも団長って忙しいことが多いですからそれこそゾーイさんやシャレムさんみたいな幹部の人じゃないとなかなか一緒にいれないです。そんな団長と仲良くやるためのノウハウですよ。」

 

モニカ「う、うむ。」

 

アンチラ「今日は団長部屋に監禁されてるみたいですし、試しに実践してみましょうか。」

 

モニカ「実践!?」

 

 

 アンチラに連れられ子供部屋の奥に隠れた謎の扉をくぐった。そして長い薄暗い通路を歩いていく。

 

アンチラ「これはね、子供部屋利用者しか知らない秘密のルートなんだよ。これを使えばどこの部屋にも直接入れるんだ。」

 

 アンチラは誇らしげにそう語る。モニカは唖然とするほかない。

 

モニカ「ほかの団員は知らないのか?」

 

アンチラ「団長以外は知らないと思いますよ。子供部屋のみんなは口が堅いし、団長はどうでもよさそうだったから話してないみたいです。」

 

モニカ「そうか…。」

 

 隠し通路があること自体には大して驚かないが、それを知っているのが子供ばかりというのはおかしな話だ。本当ならば万が一の事態のために極力隠されているべきというのに。

 

モニカ「アンチラが最初に見つけたのか?」

 

アンチラ「はい。僕は結構古参なんですよ。」

 

モニカ「すごいなアンチラは。」

 

アンチラ「えへへ。」

 

 可愛い。

 

アンチラ「そろそろ団長の部屋です。ほかに人もいるかもしれないのでそっと行きますよ。」

 

モニカ「わかった。」

 

 もはや、それこそいたずらして遊んでいる子供の心境で少し楽しくなってきた。アンチラが扉を開けると、その先は暗かった。促されてそれに続いた。服らしきものがたくさんぶら下がっている。

 

アンチラ「よっと。」

 

 さらに扉があり、それを開けると、

 

モニカ「おお!」

 

グラン「ん?」

 

 ベッドで眠りこけるシャレムと、机でペンを走らすグランがいた。どうやらここはクローゼットだったらしい。

 

グラン「アンチラか。」

 

アンチラ「団長来たよー。あとモニカさんも一緒。」

 

グラン「ム?」

 

 グランはこちらを見ると

 

グラン「そうか。」

 

 大して興味のなさそうにまた手元の書類に目を向けた。何とも気まずい気持ちだったのだが…。

 

アンチラ「だんちょー!はい!」

 

 アンチラはためらう様子もなく仕事をするグランに近づくと両手を広げる。

 

グラン「ん。」

 

 するとグランはアンチラを抱き上げ、自らの足に彼女を座らせるとまた仕事を再開した。アンチラはというと団長に抱き着きご満悦だ。私としては状況が理解できずに呆然とするしかない。私の認識していたグランの像とそれはかけ離れていたからだ。別に彼に人としての情がないといいたいわけではない。彼は自らの信念の元人々に救いの手を差し伸べる英雄である。

 

 だが彼は言い方は悪いが、冷徹だ。目的の為ならば手段を択ばず、他人に興味がなく、その戦いぶりを見た人々からは戦場の悪魔とすら言われる男だ。ゾーイやエウロペ、ビィなど愛想のいいほかの団員たちがいなければ彼は全空の脅威と今も誤解されたままだっただろ。その誤解ゆえに昔我々秩序の騎空団と対立したのが彼と私たちの最初の出会いであるわけだ。

 

 そんな彼がこうして年端の行かない子供をやさしく抱きしめている光景は驚きであった。

 

アンチラ「モニカさんどうかしましたか?」

 

モニカ「え、いやなんでもない。」

 

アンチラ「団長はこうして頼めば抱っこしてくれますよ。精神安定に最適ですから、団長が大丈夫そうなときは頼むといいと思います。」

 

モニカ「そ、そうか。」

 

アンチラ「堪能したー。ありがとね団長!」

 

グラン「別に構わん。」

 

 アンチラはグランの膝から降りる。

 

アンチラ「じゃあ先に戻ってますから、用事が終わったら戻ってきてください。そこのシャレムさんに気づかれないように。」

 

 アンチラはベッドの上で寝ているシャレムを指さした。全く気付かなかった。

 

モニカ「わかった。ありがとうアンチラ。」

 

アンチラ「いえいえ。では。」

 

 アンチラはまたタンスに入っていった。なるほど彼女が部屋長になった理由がよくわかった気がした。明朗快活そのうえ機転が利き行動力がある。将来有望な子だ。

 

モニカ「さて…。」

 

グラン「それで、何の用だ?」

 

 グランは手を止めこちらを見る。

 

グラン「子供がいると話しづらいもののようだが。」

 

 どうしてそんなことが分かったのかむしろ気になるが今はいい。大体グランだからで説明がつくレベルである。

 

モニカ「ああ一つ目は…。」

 

グラン「座れ。そこに椅子がある。」

 

モニカ「ああすまん。」

 

 モニカは椅子に座る。

 

モニカ「聞きたいことがある。」

 

グラン「なんだ?」

 

モニカ「リーシャのことだ。リーシャのことを団長はどう思っている?」

 

グラン「そんなことを聞きに来たのか?」

 

モニカ「そうだ。」

 

 グランは少し考えるとその回答を口にした。

 

グラン「あれは青いな。」

 

モニカ「青い?」

 

グラン「ああ。あれは勤勉だ。法を重んじ自他ともに厳しく律する。強い意志を持ち、行動する力がある。団内管理など、あいつがいるととてもやりやすい。才能もあるだろう。だが、余りに潔白が過ぎる。人のよどみをまだ理解していない。」

 

 法を守れば幸せになれるわけではない。個人の損得のために法を侵すものは少なからずいるだろう。時にはやむを得ない事情があることもあるだろう。その時、ただそれを罪として罰すれば、敵を多く作る。人はついていかない。秩序の騎空団として団員を引き連れることはできても、世界の人々を引き連れることはできん。多くの争いを作るだろう。故に、最悪を避けるための柔軟性、そして清濁併せ呑む覚悟を持つ必要があるだろう。それに耐えられるかはわからん。

 

グラン「うちの一団員としてならあのままでも十分助かるのだがな。あれの立場才能を考えれば、やはり穢れを知らねばならんだろう。だからその過程で壊れんように支援できればいいと思っている。」

 

モニカ「…。」

 

グラン「以上だ。」

 

モニカ「そう…か。」

 

 彼は私以上にリーシャのことを考えていたと思う。前から頭が固すぎる、その程度にしか考えていなかった。実力もついてきたし、このまま成長すれば父親の跡を継ぐ立派な人間になれるだろう。そう楽観視していた。だが、彼は今のまま行けば起こりうる危険を理解し、その予防策まで思案していたのだ。むしろ自分が恥ずかしい。

 

モニカ「ならやはり、団長はリーシャを嫌ってなどいないわけだ。」

 

グラン「?理由があるまい。」

 

モニカ「ははっそうだな。」

 

グラン「あれにはさっさと仕事を終わらせてくるよう言ったはずだが、まだ残っているのか?」

 

モニカ「そんなこと言ったのか?」

 

グラン「ああ。仕事があるならさっさと行けとな。先ほども言ったとおり、あれがいると団の管理がとてもはかどるのだ。うちの団員でもあるのだから独占は困る。」

 

モニカ「…なるほど。」

 

グラン「?」

 

 リーシャが言っていたさっさと行けと言われたというはなしはこれか。グランからすれば、さっさと行って仕事を終わらせて帰って来いということだったのだ。そうわかるとリーシャの心配が馬鹿らしくなって笑ってしまう。

 

モニカ「グラン、君は少し言葉が足りなすぎる。」

 

グラン「何の話だ?」

 

モニカ「いやなに、もうすぐ終わるさ。私からも伝えておくよ。さっさと仕事を終わらせてこっちに来いってね。」

 

グラン「ああ。それで、まだ話があるのだろう?」

 

モニカ「ああ。それは…。」

 

 

 全空の脅威「ジータ」とその騎空団についての話だ。


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