「はいっ、お薬。ちゃんとごはんを食べた後に飲まなきゃダメだよ?」
「うっさいなー。わかってるよ、こなたねーちゃん」
ううっ……小四のガキのくせに、私より身長高いからって威張るなよなー。
「ほらほら、お姉ちゃんと先生に失礼でしょう? すいません、うちの子ったら……」
「いえいえ、いいんですよ」
オトナの顔をしなくちゃね。冷静に、冷静に。
「みゆきセンセーと違ってペチャパイのくせに」
「ふごっ?!」
き、効いたぜ、今のストレートは……無邪気なだけにザクザク来たよ……
「ああっ、この子ったら何マセてんのっ!」
「べーだっ!」
「ふふふっ。それだけ元気なら、明日は学校に行けそうですね」
今の騒ぎを聞きつけたのか、白衣姿のみゆきさんが診察室から笑いながらやってきた。
「うんっ。みゆきセンセー、明日はちゃんと学校に行くよ!」
「そのためには、家に帰ってしっかり寝てくださいね」
少しかがんで、ガキんちょといっしょの視線で話しかけるみゆきさん。
「はーいっ!」
「この子、高良先生の言うことはよく聞くんですよ。本当、女の先生だと鼻の下伸ばして」
「ちげーよ。みゆき先生だけは特別」
「あらあら」
そう言いながら、ぎゅーとみゆき先生に抱きつくガキんちょ。って、こらっ、胸に顔埋めるな。
でも、そうしたくなるのもわかるかな。みゆきさんの診察は優しいし、同じ目線に立って話してくれるしね。
「それじゃあ先生方、ありがとうございました」
「みゆき先生、ありがとっ! あ、ついでにこなたねーちゃんも」
「はい、お大事に」
「ついでは余計だっつの」
私たちが手を振ると、ガキんちょとそのお母さんは頭を下げてから病院を出て行った。
「ふう……やっぱり、子供相手の受付って疲れるやねー」
受付のソファに体を沈み込ませながら、みゆきさんのことを見上げる。
「そうですか? というより、子供の相手をする事務の人っていうのも珍しいと思いますよ」
そのみゆきさんも、診察してたときの緊張がほぐれたのか、私の向かいに座ってふうっと一息ついた。
「それって、やめたほうがいいのかな?」
「いえ。むしろ、時と場合によってはありかと思います。先ほどの子も、泉さんと話していてとっても楽しそうでしたから」
「子供が好きってわけじゃないけど、なんとなくね」
まあ、小さい頃のゆーちゃんの事とかいろいろあったけどさ。元気づけるにはこういうのがいいかなって。
「同じ波長というのでしょうか。子供は、それを感じ取るのかもしれませんね」
「……みゆきさん、それは私がガキっぽいってこと?」
「いいえ。同じ目線でいられるということは、子供も安心して向かい合えるということですから」
「そういうものなのかねー」
「ええ、そういうものです」
私の言葉にあたふたすることもなく、優しく答えるみゆきさん。そう言われるとそうなんだなーって思えるんだから、なんだか不思議だな。
「早く慣れないと、さっきのガキんちょとかにはやりくるめられそうだー……」
「大丈夫ですよ。さっきのじゃれ合いも、きっと慕われているということでしょうし」
「むしろ、みゆきさんのほうが慕われてなかった? ぎゅーって抱きつかれてたし」
「あ、あれはしょうがないというか……大学病院でもたまにありましたから」
むう、大学病院の頃から……やっぱり、みゆきさんのお母さんっぽいところを感じ取ってるのかね。
「まあ、みゆきさんが子供に慕われる先生なように、私も子供に慕われる事務をやってみますよ」
「お願いしますね、泉さん」
大学を卒業してからぶらぶらしていた私に「いっしょにお仕事しませんか?」と声をかけてくれたみゆきさん。それに応えるためにも、ちゃんとやっていかないと。
次の患者さんがやってくるまでの間、私はみゆきさんといっしょにまったりとした時間を過ごしていた。