まとめておいた資料を、一件ずつホチキスでまとめていく。
裁判所で謄写したその資料は、財産関係っていうこともあってか分厚くて雑多で、とてもまとめづらくなっていた。
「あと何枚だー……? 百枚以上なんてもんじゃないよねー……」
ホームセンターで売ってるようなコピー紙の束よりも、ずっと分厚い束。それを見ているだけで、なんだかうんざりとしてくる。
それよりも、今はもっとやらないといけなさそうなことがあるんだよ……
「……はぁ」
事務所の奥にあるソファに、体を沈み込ませているかがみ。その表情はどこか虚ろで、考えることを放棄しているみたいだった。
でも、しょうがないか。今日の内容はとんでもなかったから……
「かがみー」
その姿にこらえられなくなった私は、かがみの隣に座った。
「どこか、飲みにいかない? 少しは気分転換しないと――」
「いい……今は、そんな気分じゃない」
うーん、ダメか……いつもだったら、飲みに行けばどうにかなってたのに。
かがみは体をちょっと起こすと、私のほうに寄りかかってきて、しばらくそのままじっとしといた。
「家族ってさ……なんなんだろうね」
そして、ゆっくりと口を開く。
「遺産の分与とかで、どうしてあそこまで兄弟が憎しみあったりするのかな」
「かがみ……」
「私のところって、いつも穏やかだったでしょ。だから、全然想像がつかなくて……」
確かに、びっくりしていたっけ。「取り返して欲しい」「あいつは許せない」と連呼していたあの人に。
個人事務所を立ち上げて、遺産関係は初めて受ける種類の案件だったけど……憎しみを剥き出しにするその態度に、どうもかがみはショックを受けたみたいだった。
「はあ……ダメだよね、いろいろ覚悟はしていたのに」
「……もう、かがみってば」
自嘲気味に言うかがみの頭を、ぎゅっと抱きしめる。
「こなた……」
「やっぱり、こういう仕事してるといつかはそういう依頼が来るんだから。そういうものだって割り切るまで時間はかかると思うけど、自分を責めてたら前に進めないよ」
「……まさか、こなたにそんなことを言われるなんて」
「むう、失敬だなー」
あまりのことに、私は抱きしめていた腕をゆるめてかがみを放した。
「高校時代はあんなにぐーたらだったのに……そんなこなたに慰められるなんて、私ってばホントにダメね」
そう呟くかがみの顔には、ちょっとだけだけど笑顔が浮かんでいた。
バカにされてるみたいだけど、これじゃ怒るに怒れないじゃん。
「でも、そうよね……そういう人たちの手助けをする前に折れてたら、何にもならないもの」
「そうだよ、かがみ」
そう言うと、かがみの表情がどんどん明るくなっていく。
うんっ、やっぱりかがみはこうじゃないと。
「どうしてそうなったのかとか、前の事務所の先輩はもういないけど、私だったらいっしょに考えられるかもしれないから」
「こら、あんたはフツーの一事務員でしょ」
あうっ、なんで人差し指でおでこをつつくかなー。
「でも……今日みたいになったら、ちょっとはお願いしようかな」
「くふふっ、やっぱりかがみはそーゆーところがいいやね」
「ツンデレとか言ったら、またつつくからね」
「だってツンデレじゃん。高校時代から寸分たがっ、わっ、ずっ、いっ、いたっ、いたいってばー」
言った瞬間、リズミカルに私のおでこをつついてくるかがみ。抗議の声を上げても、かがみってば面白そうに笑ってるし……まあ、笑ってるならいいか。
「もうっ、あんたもホントに変わらないんだから……まあ、そこがあんたらしいけどさ。よしっ! せっかくのお誘いだし、今日は飲みに行きましょうか。もちろん、あんたのおごりで」
「ちょっ、ま、まだ安月給なんだからおごりは無理だよっ?!」
ぐいっと手を引っ張ってくるかがみに、私は必死に抵抗する。
……でも、今日はかがみも頑張ってたんだから、ちょっとはいいかな。
そう思いながら、私はかがみといっしょに笑い合っていた。