「――とかいう夢を立て続けに見たんですけど、私はどーしたらいいんでしょうか」
「進路面談ん時に夢診断を持ちかけるアホがどこにいるか。そこに直れ」
はうっ! 黒井先生、やっぱりダメデスカ?!
午前半ドンで始まった進路面談で、私は黒井先生にここ数日立て続けに見ていた夢のことを話してみた。でも、やっぱり夢の話ってことでさっきみたいに突っぱね――
「でも、考えようによっちゃ、それは泉の進路に関する悩みかもしれんな」
「えっ?」
――られたと思ったら、なんか意外な形で受け止められていた。
「泉はいつも進路に関しては『未定』って書いていて心配しとったんやけど」
「だって、実際全然決まってないんですから、しょうがないじゃないですか」
「……お前、それ三年の二学期に胸張って言うセリフやないで」
うー、呆れることないのに。
「まあ、それはそれとして。泉は、いつもその三人といっしょにいたいんやろ? いつも仲良うしてるし、よく休日でも会ってるみたいやし」
「それはほら、大好きな友達ですから」
「素面でそれを言えるって、どんだけ好きやっちゅうねん。まあ、その願望が夢になって出てきたと言ってもええんやないか?」
「願望……」
そう言われると、そうかもしれない。
この先、どんな職についてもみんなでいたいというか……上手く言えないけど、そんな感じ。
「そう。がんばっている柊妹、母性バリバリの高良、どこかさみしそうな柊姉のことを、どこかで手助けしてあげたいとか、そういう風に心のどこかで思ってたとか」
「それは……そう、なんですかね」
先生、ちゃんとみんなのことを見てたんだ……なんだか、ちょっと意外。
「まあ、自覚がなくてもしゃあないか。夢に見るぐらいやし。でもなー、正直難しいんとちゃう?」
「やっぱり、先生もそう思います?」
「去年の夏休みに出かけたときに言っとったけど、柊妹の場合は調理師専門学校が希望やろ。高良は医学部、そして柊姉は法学部。三人いっしょにっていうのは、どう転んでも厳しいな」
「ですよねー……」
自覚はしてないとは言っても、改めてそう言われるとちょっと辛い。
やっぱり、三人ずっといっしょっていうのは都合が良すぎるよね……
「まあ、手がないわけやないけどな」
「へっ?」
苦笑いしていた黒井先生が、ずずいっとこっちに顔を寄せてくる。
「例えばの話や。柊妹が自分の店を持ったり、高良が分院したり、柊妹が独立したら、必ず必要なものがある。それって何やと思う?」
「……パートナーですか?」
「違う違う」
さっきの夢のことを思い出して言ってみたけど、先生は手を横に振った。
「店、医院、事務所。つまりは建物や」
「あー、そりゃ必要は必要ですけど……えっ、それってまさか……」
頭の中に、ぽんっと三階建てのビルが思い浮かぶ。
一階がつかさのお店で、二階がみゆきさんの病院。三階がかがみの事務所で……
「わ、私がそのオーナーってことですか?!」
「おー、ご名答。そうすればオーナーと入居人って関係でよく顔を会わせられるやろ?」
「いやっ、そりゃそうですけど、先立つモノなんて全然――」
「なーに言うてるんや、親御さん譲りの妄想力があるやないか。しかも文章の先生がおるんやし、小説でも書いて一山当てて、ビルをドカーンって建てるのも面白いんとちゃう?」
「でも、私はそんなに国語系は得意ってわけ……ん?」
さすがに無理があるんじゃ……と思ったけど、頭の中でさっきの妄想が進んでいく。
楽しそうにお客さんを料理でもてなすつかさ。優しい眼差しでやってくる患者さんを癒してあげるみゆきさん。そして、真剣なまなざしで案件に取り組むかがみ。
それを、夢の中みたいじゃなくても手助けしてあげられたら……
「まあ、今のは冗談やけどな。そんな簡単に一山あてられたら、世間の小説家は今頃何人も億万長者になってるか。って、聞いてるか? 泉ー?」
もしかしたら、それが私の希望なのかな。
将来進みたいと思っている、私の進路の。
「あの、泉? ま、まあ、とりあえずは大学に進んで色々勉強してから――」
「黒井先生っ!」
「はぁいっ?!」
色々こんがらがってた頭がすっきりして、私は思いっきり先生の手をとった。
「私、がんばってみます! お父さんに習って小説書いて、いつかビルを建ててみんなを支えてあげますっ!」
「ちょっ、おまっ、それはいくらなんでも飛躍しすぎ――」
「いえ、なんだか目標が見つかったような気がするんです。高すぎる目標かもしれないですけど――」
そう言って、私は先生にずずいっと顔を近づけた。
「もし叶ったら、面白そうじゃないですか」
「……ホント、お前は一度突っ走ったら止まりそうもないんやからなぁ」
仕方ない、と言う風に笑う黒井先生。
「よかったら、どうです? 先生も四階あたりで学習塾なんか」
「お前はそこまで妄想してたんかい!」
「ひよりんといっしょで、妄想が止まったら死んじゃいますから」
「進路相談ってことすっかり忘れとるやろ!」
「いーえわかってます! 私たちのバラ色の未来への進路相談ですよね!」
「全然わかっとらんやないかぁっ!!」
「いーじゃないですか。もう、ここまできたら思い浮かんだ夢は全部叶えるしかないでしょ!」
「だーかーらーっ!」
私の襟首をつかんでがしがしと揺さぶってくる黒井先生。だけど、こうなったら突っ走るしかないよねっ!
えっ? お前にそれが叶えられるのかって?
ちっちっちっ、甘い甘い。
絶対、ぜーんぶ叶えてみせるんだから!
【おしまい】