やさしいせかいになりますように【完結】   作:草陰

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2話 政庁ライフとはなんだったのか

 

 

 

 総督としてなにより求められるのは、優れた統治能力です。

 政治にも軍事にもうとい私にとって唯一の希望は、ゼロという日本人にとってのカリスマにおもねる事でした。基本はユフィ姉様(「いつかやらかすと思っていました」※モザイク付き)の平和路線を踏襲しつつ。私の庇護欲をそそる(らしい)見た目で、健気なこといっておけばゼロだって心も動くんじゃないかと思っていましたが、さすがに甘すぎたのでしょう。

 一度ユフィ姉様の甘言に騙された以上警戒はしているだろうし、ゼロが心を許さないのは当然の帰結でした。

 

 いっそ色仕掛けでも仕掛けていれば……ハァ(自分の体を触ってため息をつく)。

 実際に自分の体を見たことはないけど、触ってみてロクに凹凸が感じられないあたりから、女としての魅力のなさは理解しています。幸いにして顔は良いらしいので、ゼロが特殊な性癖を持っていれば或いはいけたかもしれませんね。体を差し出して総督としての地位が確約されるのであれば安い物なのかもしれません。お兄様なら汚れてしまった私でもきっと受け入れて――って、何を考えているんですか、私は! 少しおかしなことを考えてしまいましたが、こんなことを考えてしまうほど今の私は追い詰められているのです。

 

 ――総督としての実権を、シュナイゼル兄様にとられてしまいました。

 

 件の「1万人のゼロ」の頃からなにかと口出しするようになってきていましたが。

 超合集国の成立以降、ついに立場が完全に逆転してしまったのです。

 

 シュナイゼル兄様が出張ってきたのは、主に軍事的な理由です。超合集国の成立により、ユーラシア大陸における多くの国々が協力体制を敷いたこと。また地政学的な観点と、組織の中枢を占めるのが日本人であることから、遠からず日本が戦場になるだろうと言うのが大勢の見方でした。こうなれば私のような素人に任せてはおられず、実力者であるシュナイゼル兄様が本格的に出張ってくるのは本国と総督府の意向でもありました。

 1万人のゼロでの失敗の負い目があり、実力の無さも重々承知していた私に、これに反論する術はなく……。今の私は完全にお飾りであり、政庁の一室に軟禁状態で、あまつさえ一部の付き人以外との接触すら許されない始末。

 出来ることはなく、流されるままの自分に焦る毎日。

 とりあえずスザクさんが捕虜にしたらしいカレンさんを適当な話し相手に据えてはみたものの、あまり楽しいものでもありません。並行して政治の勉強は続けてはいますが、果たしてそれを生かせる未来があるのかも怪しくなってきました。

 

 次に日本が戦場になれば、今度は大きな動乱になるでしょう。それこそブラックリベリオンのような。スザクさんを信じるのであれば、今のお兄様の立場は非常に際どいところにあります。それこそ、総督である私と会えないほどに(再会してからのスザクさんの態度を思うと、むしろスザクさんが会うことを妨害しているって線も疑っているのですが……それは置いときましょう)。

 だからこそ総督としての地盤を固め、お兄様を守れるだけの立場になってからお迎えにあがるつもりでしたのが、今となってはそれも叶いません。今度こそ戦火に呑まれてお兄様は死んでしまうかもしれないし、或いはドサクサ紛れに暗殺されてしまうかもしれません。それどころか、ブラックリベリオンの前例から考えれば私自身の安全の保障だってありません。

 

 一世一代の博打は失敗。お兄様と今後会える可能性は低い――。

 お先は真っ暗――いえ、元から真っ暗でしたね。

 そう、絶望ならとっくにしているのです。母を失い、足を失い、視界を失い、父に日本へ捨てられた、あの時に。だからお兄様が生きている限りは、せめて会える可能性に賭けようと思います。たとえわずかでも……、ね?

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 ――色々あってシュナイゼル兄様に助けられました。

 東京が戦場になったり、フレイヤとかいう新型爆弾で焦土になったりしましたが、当然ながら私の関与できる余地はありませんでした。

 とにもかくにも、お兄様がご無事であればいいのですが……。

 

 …………あれ? そういえば。

 

「あの、シュナイゼル兄様、ローマイヤさんは?」

「……残念ながら、彼女はフレイヤに巻き込まれて死んでしまったよ」

 

 マ ジ で す か !

 思わぬ吉報に飛び跳ねたい気分でしたが、足が悪いことを思い出して断念しました。

 この時ほど私の足を撃ちぬいたテロリストを憎んだことはありません。

 

 そんな悲喜劇を内面で繰り広げている私を尻目に、シュナイゼル兄様は話を続けます。

 実はゼロがお兄様だそうで……え?

 

「ショックだったようだね。無理もない」

 

 呆然としている私を見て、シュナイゼル兄様はそう言います。

 確かにショックは受けていますが、恐らくこの人が考えているのとは違います。

 

(あの忌々しいゼロが、お兄様だっただなんて……!)

 

 ショックです。果てしなくショックです。

 ですがそう考えると、あの人をおちょくっていたとしか思えない行動も辻褄があってしまうのです。あの拉致未遂も、1万人のゼロも、私と鉾を交えたくなかったからあんな迂遠なことをやったのではないか――自意識過剰? お兄様と私の絆を考えれば妥当な考え方だと思いますね(キリッ

 

 でも、案外正鵠を射ていると思うのですよ。

 お兄様は遅かれ早かれブリタニアへ反逆の狼煙を上げたでしょう。

 しかし本来であればもっと上手く、慎重に狡猾に組織を作り、信頼を築きあげ。

 黒の騎士団の裏切りのような憂き目に合うことはなかったハズです。

 

 なのに、ここまで事を焦ってしまったのは何故か?

 常に私と言うハンデを背負い、お兄様の心は知らず摩耗していったのだと思います。だから事を焦り、先の見えない未来を一刻でも早く切り開こうと考えたのではないでしょうか。それだというのに私ときたらお父様やスザクさんに良いように利用されて……。あまりにも情けないです。

 

 ……ただ、あまりにも事が性急に過ぎるのと、少しばかり運が良すぎるようにも思えます。いえ、お兄様の溢れんばかりのカリスマを思えば、日本どころか世界、いえ天上の神々ですら平伏するだろうと私は信じて疑っておりません。

 

 ですが……と、疑問を抱く私に、シュナイゼル兄様は言いました。

 

「ナナリー、これを聞いて欲しい」

 

 カチリと音が鳴ったと思うと、そこから流れてきた会話を前に、私は言葉を失いました。

 

「ショックかもしれない。けれど、これがゼロの、一連の出来事の真実だ」

 

 スザクさんはお兄様がゼロであると知っていたこと。

 ユフィ姉様の件でスザクさんとお兄様との間に確執があったと言うこと。

 全てを理解していた上で、スザクさんが私を謀っていたと言う事実。

 お兄様と電話した際の不自然な態度のワケもようやく理解できました。

 よくも平気で私の近くにいれたものですね、スザクさんっ……!

 

 ……まあ、それはさておき。"ギアス"、ですか……。

 シュナイゼル兄様の補足によれば、なんでも"催眠術のようなもの"らしいですが。確かにそのようなものがあれば、あの異様なまでの勢いも納得でき……いやごめんなさい。やっぱり無理です。無理。

 と言うより、いい年した殿方が揃いも揃ってこれを信じてると言う事が私は恐ろしいです。明らかにユフィ姉様の凶行をお兄様が無茶な言い訳してかばってるだけじゃないですか、これは。こうして人は都合の良い方向に物事を解釈していくのですね……(ホロリ)。もはや兄様などと敬称を付けるのもおこがましい。これからはシュナイゼルと呼ばせていただきます。

 

 常識で考えてそんな便利な力があるわけないでしょう……。

 あるとすれば黒の騎士団の塵埃共があんなあっけなく裏切るわけがありません。

 私なら間違いなく「何があっても決して逆らうな。と言うか奴隷になれ」と命令しておきますもの。聡明なお兄様がそれをしないとは考えられません。

 そして「敵に捕まったら舌を噛んで死ね」と言い含めておきます。どんな拷問で自白を迫られるか分かったものではないのですから。

 ですが捕虜となったカレンさんと会話した限り、普通に自分の意思で受け答えしていましたし。そんな気配は微塵もありませんでした。

 

 それでもあると言うのなら。黒の騎士団が裏切ったことをもっと訝しむべきです。

 いつでも背中から刺せる状況じゃないですか。

 

 ……或いは。

 優しいお兄様のことですから、「仲間にギアスはかけられない」と情けをかけたのかもしれません。だとすれば、ますます許すまじ黒の騎士団……!

 

 もっとも前提がおかしい以上、何をか言わんやですが。

 よしんば、よしんばですよ。

 ギアスと言うものが存在したとしても、どうせ何か特定の条件があるのでしょう。

 例えば「効果には制限時間がある」とか、「一人一回のみ」とか、「目を見た相手にのみ有効」とか、「生命に関わる命令はかけられない」とか、そんなところでしょうか。

 少なくとも決して万能な能力でないことだけは分かります。万能であればシュナイゼルが今こうしていること自体おかしいのです。

 私ならクロヴィス兄様を足がかりに、片っ端から皇族にギアスをかけ、ブリタニアを内部から骨抜きにしていきますもの。

 

 ユフィ姉様にその「ギアス」をかけて日本人を殺させたって言うのも私からすればありえません。認めたくないところですが、お兄様は本当にユフィ姉様のことを大事にされていましたから。

 仮にかけたとしても、意図的にではなく、何かトラブルが起きて「かかってしまった」と考えるのが妥当です。たとえば冗談で「日本人を殺せ」と言ったら、うっかりギアスを使ってしまったとか、そんな感じでしょう。

 お兄様は昔からおっちょこちょいなところがありますし……。それがまた普段とギャップを感じさせていいんですけどね☆

 

 結局のところ、お兄様がどうしてあれほどの勢いであれだけの事を成し得たのかは分かりません。確かに「ギアス」があれば何もかも説明が付きますが、いささか荒唐無稽にすぎます。いっそ「奇跡が起こった」で括った方がよほど信憑性はあります。

 

 ただ一つだけハッキリしているのは、あれだけ大切にしていたユフィ姉様を撃ち殺さなければならなかったお兄様の心痛は、察するに余りあると言う事だけです。筆舌に尽くせない。そんな言葉だけではとても語り尽せぬ苦悩に苛まれたであろうことは想像に難しくありません。

 

 何もかも私のために……と言うのは、お兄様に対する侮辱でしょう。

 お兄様はお兄様なりの覚悟を持って戦い抜き、それはきっと常に安全圏にいた私には、決して分かりえないものです。けれど、その道を選んだ理由には間違いなく私の存在があって、選ばせてしまった責任は確かにあるのです。

 

 私は必死に考えます。

 ここでシュナイゼルが動いた意味を。ここでこの話を、ゼロの正体を私に明かした意味を。東京での決戦から間を置かず、未だゴタゴタが続いているであろう中、直々に出向いた理由を。

 

 "好意から"と言う線はまず無いでしょう。

 だとすれば、あまりにも気配が冷たすぎます。

 これに限らず、シュナイゼルからはおよそ他者へ対する「情」と言ったものを感じたことはありません。これは皇族復帰後、何度か会話を重ね、私自身が身を持って実感したこと。

 衝撃的な事実だから、少しでもショックを和らげる為に時間を割いてくれたと言うのも、先の考えからありえません。

 

 あくまでも"必要だからやっている"……。そう、この人の基本スタンスはこれです。事務的……、とも違います。いつも通り冷めている一方で、薄らと私に期待しているような気配がありますし。今のこの人の根底にあるのは、もっとこう、目的のためなら手段を選ばないよ、うな……っ。脳裏に、さっき聴かされた録音データが過ぎりました。あれは、確か、スザクさんの言葉。

 

 ――人間じゃない! 君にとっては、シャーリーもユフィも、野望のための"駒"にすぎないのか!

 

 "駒"……、そう、"駒"です。

 恐らくシュナイゼルは、私を何らかの駆け引きの"駒"として使うつもりなのでしょう。総督の地位を途中で解任させられ、何の実績も後ろ盾も持たず。まして皇族の中でも爪弾き者であるヴィ家の私が"駒"として役立つ相手がいるとすれば、それはお兄様以外にありえません。

 

 だとすれば、シュナイゼルは私にどのような反応を求めているか。

 答えは簡単です。

 "いつもの私"であれば、この話を聞いた時、こう反応するでしょう。

 

「人の心を操るギアス……。そんなもので、ユフィ姉様を……?」

 

 騙され続けた事へのショック。非道な手段をとったお兄様への怒り。それでもやはり、お兄様を信じたいという想い。いくつもの感情がない混ぜになった、そんな反応。刹那、シュナイゼルの気配がにわかに緩んだのを感じました。

 

「そう、ルルーシュは人の心を操り、利用してきた。これは許されざることだ」

 

 いつも通り冷め切った気配から発せられる、欠片も思っていないはずの言葉。

 ですがこの言葉は"いつもの私"の混迷した感情をさらにかき混ぜることでしょう。

 シュナイゼルの思い通り、私はますます葛藤するそぶりを見せます。

 すべては一つの目的の為に。

 

 ――私は、お兄様にこれ以上の苦しみを背負って欲しくありません。

 ユフィ姉様を失い。友人を失い。私を失い。黒の騎士団を失い。居場所を失ったお兄様が次に取る行動は、きっと――

 

 だから、覚悟を決めます。

 そのためならば、私は喜んで道化を演じると。

 

 さあ、シュナイゼル兄様。化かし合いをしましょう。

 私の仮面とシュナイゼル兄様の仮面、一体どちらの仮面が先に剥がれるでしょう?

 

 

 

 

 

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